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葛城山の戦い その5

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「さあさあ走れ走れ!! 互いに繋がれとるんじゃ、まちごうても転ぶなよ」


「そういうなら……もう少し速度を落として欲しいんスけどねえ!!」


「身体能力は向こうが上だからね。これくらい出さないと追いつかれるよ」


「戦闘力皆無ってわりには余裕かまして……あ! 浮いてるっス! こいつズルしてるっス!!」


 夜が白み始めた山の斜面を、捕虜となっていた土蜘蛛たちが駆け下りていた。


 前後の者どうしが紐で繋がれ、大和国に向かう山中。人が2人並べる程度の細い道に差し掛かった時、まるで示し合わせたかのように縦に伸びていた土蜘蛛たちが、一斉に左手の斜面に身を投じたのだ。


 斜度が40度を超える急な斜面を、まるで猿のように素早く駆け下りる土蜘蛛たち。訓練されたその動きについていくのがやっとな氷沙瑪ひさめの泣き言が山に響く。


「ええから、前のもんに引き離されねえことだけ考えろや」


 初めこそ一斉に跳んだが、大木の乱立する斜面。15人ほどがひと繋ぎの隊列はまるで蛇のようにうねりながら進んでいく。


 それを追う様に200名ほどの大和兵が続くが、平地ならともかく斜面を駆け下りるのには慣れておらず、少しずつではあるが距離が出来ていった。


 命がけの鬼ごっこが続く中、やがて一行は平らな場所に出た。そこはかなりの広さがあるものの、四方を斜面に囲まれたアリ地獄のような地形。そこに所狭しと高さが40m以上ある杉の木が立っている。


 そう。此処こそが土蜘蛛たちの設定するキルゾーン、「倭人ぶっ殺しぞぉん」その場所だった。


「京の娘っ子! 前のヤツに続いて木に登るんじゃ!」


「両手首縛れてるんスけど!?」


「ワシなんぞ片腕しかないわ。情けないこと言うとらんと、登らにゃ追いつかれるぞ!!」


 後ろを振り返れば平地に入ったことで速度を増した大和兵たちが、みるみるうちに距離を詰めて来ている。他人と繋がれている以上、氷沙瑪が登らなければ後ろも登れないし、前を行くものも高くまで進めない。


「やれやれ。世話が焼けるね」


「おお!?」


 すぐ後ろで縛られていた菡芝仙が後ろから氷沙瑪の襟首をつかむと、そのままふわっと前の者との紐が張らないように気を付けながら飛んだ。


 隻腕の羅刹も器用にそれに続き、やがてすべての土蜘蛛が30mほどの高さの枝まで登っていた。


「………………えーと? これって、詰んでねっスかね。ただただ追い込まれただけに見えるんスけど」


 下を見るとすでに広場には大和兵が殺到している。不用意に登っては蹴り落とされかねないからか、登って来るものはいないが、逆に登った方も下りることが出来ない。


 それどころか木を切り倒されようものなら、一網打尽となる姿が見え、氷沙瑪の頬を冷や汗が伝う。


「どっこい、ここは決戦の場よ。見てみい」


 下ばかり見ていた氷沙瑪が隻腕の羅刹に促されて杉の木を見ると、そこには複数の火産ほむすびが括り付けられていた。それもこの木だけではなく、他の木も同様の様子だ。


「なるほど。20mの高さがあれば落とすだけで爆発するんだっけね。楽しみ」


「いやいや! それぞれの木に分散してりゃ隙間なく落とせるだろうけど、紐で繋がれてるせいでせいぜい20本の木に分かれてるだけの状況じゃねっスか!? 明らかに状況悪いって!」


 感情を表情には出していないものの、そわそわする菡芝仙と違い現実を見ている氷沙瑪の反応に、隻腕の羅刹は呆れた様子でため息を吐く。


「いちいちノリの悪いやっちゃのう。まぁとにかく今は親方を待つのみじゃ。根っからの祭り好きで、騒ぎを嗅ぎつけたらすぐ来るはずなんじゃが」


「ああ、それに関しちゃ昔っからっスね――――」


「今もーーーーーーッ!!」


 突如木の先端の方から叫び声が聞こえると、氷沙瑪たちが足場としている枝が大きく揺れた。見るとひとり紐で縛られない影が枝の上に降り立っている。


 じわじわと白み始めている空の下、光り輝く緋緋色金ヒヒイロカネの装備を身に着けた油澄ま師が、それと同じくらいに爛々と瞳を輝かせて空に向かって両手を広げた。


「ありがとう朝廷軍ッ!! あっという間に山を登られて、砦を占領されて。それどころか捕虜が丁寧に扱われてるなんて聞いた時は、振り上げてた拳をどこに落とせばいいもんか迷ってたけども!! ちゃんと! 変わらずに! クズでいてくれてありがとう!!」


「……やっと来やがったか。久々だが……朝っぱらからテンション高えな火乃兎ひのと


「バッカ野郎、当たり前だろ? 昨日は1日中不貞寝してたんだ、朝からお目目ぱっちりよ――って誰だこの倭人」


「誰が倭人か。2度と言うな」


「はッ!」


 氷沙瑪の抗議を鼻で笑い、火乃兎が氷沙瑪の頭をポンポン叩く。


「何だ何だ、それがオレたちの使う蔑称だと知ってんのか賢けえなあ! ま、こいつらと一緒に捕まってるってことは、頭領の言ってた話の通じる方の倭人だろうし当然か。がはは!」


「それはええが親方よ。準備は出来てるんじゃろうな?」


「ったりめえよ。とりあえず全機に火弘槌かぐつちを搭載してらあな」


 火乃兎が指を鳴らすと、先ほど下りてきた木の先端の方から、ガチャガチャと音を鳴らしながら何かが下りて来る。


 それは蜘蛛の形をした大きな絡繰りだった。頭胸部とそこから伸びる8本の足は木製、腹は何かしらの金属素材でできていように見える。


「おお。自律移動してる?」


 興味深そうにまじまじと眺める菡芝仙に、火乃兎は1度自慢げにふふんと鼻を鳴らした。


「ま、実戦投入は今回が初だがな。散々試験を繰り返して来たんだ、お前らも結果を楽しんでくれ。下のヤツらはあれだろ? お前らの政敵ってヤツだろ? みんなオレたちがぶっ殺してやっからな」


 そこで言葉を区切った火乃兎が目を閉じて大きく息を吸う。そしてカッと再び目を見開くと、下の大和軍に向かって叫んだ。


「さあ行け九一七式改!! 戦の形そのものを激変させる、お前らの威力を見せつけてやれや!!」


 号令一下、乱立するすべての木の上から姿を現した数百に及ぶ絡繰りが、一斉に空を走り始めた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

*【雄谷(吉弥侯部)氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【菡芝仙】――截教究道派の仙人。朱雀の盟友。

*【油澄ま師】――羅刹の女。本名・火乃兎。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【倭人やまとびと】――大和朝廷から続く、大体畿内に住む日ノ本の支配者層。蝦夷など各地域に土着してた人々から侵略者に近い意味合いで使われる。

*【羅刹】――鬼と同義。陸奥に住む鬼をそう呼んでいるだけ。

*【火産ほむすび】――火乃兎作の爆弾。先端に強い衝撃を与えると爆発する。20mの高さがあれば、落とすだけで爆発する。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

*【火弘槌かぐつち】――火産と併用するらしいなにか。

*【九一七式改】――大きな蜘蛛の絡繰り。自律移動できる。

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