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【源頼光】葛城山の戦い その4

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 東側の城壁を駆け上がって外を見ると、大和兵300はすでに200mほど先まで迫ってた。


 誰もかれも粗末な装備で、弟――確か頼親だったかの姿も、その周りを固めてた側近の姿もない。


 その指揮官のいない軍隊はすぐに襲い掛かってくるわけでもなく、前の人に続いて一歩また一歩とゆっくり歩を進めてる。なんていうか……薄気味悪さすら感じるわね。


「そこで止まりなさい! 大将の頼親に何を命令されて来たのか知らないけど、大人しく帰るなら私は追わない。病気になってると思って来たなら、この通りピンピンしてるしあなたたちに勝ち目はないんだから!」


 脅し半分説得半分。そんな気持ちで叫んでも彼らの歩みは止まらない。うつむいたまま進む姿に季武はすでに雷上動を構えてる。


「しゃあないわね。何人か叩きのめせば驚いて帰るでしょ」


「くくく……しばし熟考暇を作るべしと愚考いたしますよ姫君。迫りくる者たちの手に、あって然るべきものの無きことに、細心なる注意を」


「あって然るべきもの?」


「くくく……然り。夜の帳が開ける前だというに、この獣さえも道を失わん漆黒の中を、誰ひとり灯りを持たず邁進せんは勇気にあらず無謀也」


 灯り……? 言われてみれば確かに。ウチの場合は夜目が利く方が多いけど、保昌殿も河内軍も霧にも夜にも対応できない。


 それでも訓練を積んでるならと思うとこだけど、目の前にいるのは装備からして河内軍の多くと同じ徴収された領民たち。常に訓練をしてるってわけじゃないだろうに。


 すると砦から80mくらいのところまで迫ったかと思うと、そこで先頭を歩く人間が止まり、後ろに続いてた人たちは両横に広がっていく。


「……何? 砦を囲むつもり?」


「病に蝕まれし者に、霊薬を届けんとするを妨げる布陣、かと」


「なるほど。砦の中と外が連絡できないようにか。砦の中で疫病が起こってると知ってるなら、悠長だけど確実な方法ね」


 それも砦の中に薬がないことが前提だけど。それなら今回は私たちにとって都合がいいわね、時間をかけてくれれば、他のみんなの治療も――――……。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 そんなことを思ってると、真ん中の人間が聞きなれた不快な声を発して、横に広がった連中が一斉に壁に向かって走り始めた。


「季武!」


兵破ひょうはッ!!」


 凄まじい速度で走り出した大和兵は、2度壁を蹴るだけで上まで登って来る。それを迎え撃つために、季武は雷上動で射抜き、私は近くまで走って蹴り飛ばして回る。


「ッ! この人たち……!!」


 さすがに私の蹴りなら一撃で沈むけど、兵破の一撃じゃ止まらない。何より厄介なのは迎撃してる私たちの事を完全に無視して砦の中に飛び込んでいく!


「ここまでガン無視されるなんて……! 中央の屋敷の防衛に切り替えるわ。続きなさい季武」


「御意」


 完全に後手に回ったのを挽回するため、すぐさま防衛の指針を組み立て直す。


 そんな中、壁の内側で複数の大和兵を巻き込む形で大爆発が起きた。


「わっははははー!! 待たせたな姐御!!」


 例の防火服とやらを着て、火産ほむすびと一緒に飛んできた丑御前がすっきりした顔で笑う。


「ありがとう丑御前! でも、すでに大勢が砦の中に入り込んだわ。屋敷に戻って!」


「おお?」


 目の前を何人かが飛び降りるも、そのまま無視して進む姿に丑御前が戸惑いの声を上げた。そんな折遠くで火の手が上がる。


「中に入って燃やすのが目的ってわけね……! 先に戻るわ!」


 あちこちで火の手が上がり始め、もともと私たちにあてがわれてた小屋も炎に包まれた。その火を点けた奴を思い切り蹴り飛ばすと、屋敷では虎熊と綱が忙しく動き回って大和兵たちの首を飛ばして回ってる。


「おう、戻ったか。殺すなとか抜かすなよ?」


「あははー、全力でこっちの事殺しに来てるわけだからねー。のんびりやってたらこっちに死人が出るよー」


 思わず口元を抑える私に向かってふたりの声が飛ぶ。その言葉を肯定するでも、止めるでもなくいると綱が足元に転がった頭をこっちに向かって蹴り飛ばした。


 それは人の物じゃない、良く見知った化けウナギの物。


「……もうすぐ丑御前と季武も戻って来るわ。ここは任せる」


「分かった分かった。こんな状況でも敵を殺せねえヤツは邪魔だ。やりづれえだけだからすっこんでな。だがな、手下が死ぬか敵を殺すかって時に、敵を殺せねえってのは長としてあまりにも無責任だぜ」


「……そうね」


 それしか言えず屋敷に入ると、中では摂津源氏ウチの面々の治療はあらかた終わり、弟くんたちの順番になってた。


 真っ青な顔で入って来た私を見て酒呑が声をかけて来る。


「状況は?」


「ヤツら人の事は無視してとにかく家に火を点けまわってるわ。正直手が足りない。それより頼信、アンタこれに見覚えは?」


「はい? って、なんですかコレは!?」


 慌てふためく弟くんの反応は演技のようには見えない。念のため酒呑と目くばせするけど、酒呑から見ても嘘を吐いてるわけじゃなさそう。


「これは……播磨権守に憑りついていた化け物ですな。マドモアゼル、今攻め入ってきている大和軍から出て来たのでありましょうか?」


「ええ。おかげで信じられないくらい動きがいいです」


「どういうことですか保昌様、姉上! これが、大和軍から出て来たとは!?」


「言葉通り。河内国にも京からお達しが行ってない? 生水をそのまま口にすると、こいつに体の中に入られるかもしれないのよ」


「そんな馬鹿な……」


 弟くんは初めて見た衝撃から呆然としてるけど、私たちからしたら見慣れたもの。そんな中火車が声をかけて来る。


Just to(念の) confirm(ため)、外、今死体増えてる、デス。頼光的に、OK、デス?」


「……それはもともとの死体に付けたんじゃなくて、播磨権守みたいに生きたまま操られてるってこと? それを虎熊たちが殺すことで、ちゃんと死んでると」


「Yes」


 これを頼親がやったていう確たる証拠はないものの、火車が頷くのを見て頭がカッと熱くなる。なんとか怒りを抑えつつ火車に応えた。


「ええ……むしろここで終わらせてあげて。火車から何とか神様に死後の世界はまともであるようお願いしてもらえると助かる」


「……I got it(任された)


 とりあえず酒呑と貞光も外に出たし、敵もまずは家屋に火を点けようというのが最優先なせいで、攻撃性は低い。


 そうなると私が取るべき行動は――――……。


「保昌殿、この場の仕切りをお願いできますか? 私は頼親に浚われた土蜘蛛の皆さんを追います」


「ウィ。ご武運を、マドモアゼル」


「いやいやいや!? まずはここを完全に片付けてってよ!」


「戦力は十分なんで、大丈夫ですよ甘美娘アマビコ先生。あと道案内に季武も連れていきます」


「言った傍からさらに戦力を割こうとか!? ああもう! おばさん、さっきの部屋に山の地図あるから持ってきて! 皆がどこにいるか教えるからひとりで行って!!」


「あらあら、ちょっと待っててね~」


「? どこにいるかなんて分かるの?」


 パタパタと複数の巻物を持って戻って来た橋姫さまから、東側と書かれた巻物をひったくるとそれを床に転がして広げる甘美娘先生。


 まだ全部開ききる前に、ある一点を指さす。


「確か紐で繋がれて自分で歩かされてるんでしょ? それなら絶対向かう先はここよ! ここに近づいたら一斉に斜面を駆け下りて集まるはずだわ!」


「……なかなか、物騒な地名ですね」


 弟くんが思わず呟くのも無理がない。甘美娘先生の人差し指の先には、『倭人ぶっ殺しぞぉん』とはっきりと書かれていた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【藤原保昌】――藤原道長配下。摂津守。異国かぶれの異名を持つ。

【源頼親】――藤原道長配下。大和守。道長からは殺人上手と重宝されている。

【源頼信】――源満仲の次男。頼光とは異母姉弟。河内守。

【甘美娘】――土蜘蛛のひとり。甘美絵の作者。その似顔絵を持ってるだけで病気にかからないと言われるほどの名医でもある。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【雷上動】――季武の愛弓。闘気を矢として飛ばす。

*【兵破】――雷上動の基本攻撃。物理的な矢と違いトリッキーな運用が可能。

*【火産ほむすび】――火乃兎作の爆弾。先端に強い衝撃を与えると爆発する。20mの高さがあれば、落とすだけで爆発する。

*【防火服】――火乃兎作の服。火と衝撃に強い。爆発を自分の体で体感するときのおともに。

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