【源頼光】葛城山の戦い その2
200話目。
キリが良いので今年はこれで最後として、
毎週火曜日に上る分を2026/1/1/0:00に予約投稿いたします。
来年もお付き合いいただければ幸いです。
良いお年を。
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
橋姫さまに支えられて砦の中央にある屋敷にくると、そこは不気味なほど静まり返っていた。
夜明け前なんだから当たり前と言えば当たり前だけど、寝床に向かったにしてはあまりにものな状況。
遅くまで語り合ったんだと思うけど、何かの図面が敷かれた木片だけじゃなく、貴重な紙に書かれたものさえも出しっぱなし。ずぼらな性格のひと言じゃ片付けられないのは、紙に付いた土足の足跡でも分かる。
「どうやら……虎熊の言ってたことは見当違いね。そうなるとどこに行ったのかだけど……」
「大丈夫? 頼光ちゃん」
やっば……頭痛も寒気もどんどんひどくなってくる。大変なことが起きてるのに、どうにも頭が働かないわ……。
「雷光の姫君よ。姫君の心を苛める不穏なる影は、霊山より来たりし金色の瞳を宿す仙人の言葉が取り除かん」
「季武、あんたは無事なのね。菡芝仙の言葉って? 今探してるんだけど……」
「くくく……。闇に誘われ小屋にいなかったのが僥倖。我はともかくまずは御身に打ち込まれし病魔を祓わんが先決。参りましょう、あらゆる病を祓う奇跡の腕を持つものの下へ」
言われるがままに季武の後に続いて廊下を進む。たしかこの先って厠しかなかったはずだけど……。
季武は厠を素通りすると、突き当りの壁をこんこんと叩いた。そして軽く頷くとその端を体ごと押す。すると、真ん中を中心に壁がくるりと回った。
「あらあらまあまあ」
「こんな絡繰りがあったなんて。自然に手を加えられてると目立つけど、屋敷の仕掛けって気づかないものね」
さすがは職人さん方の屋敷と言ったところかな。中に入るとまずはその温かさに驚いた。
こんな仕掛けがしてあるのに完全に隔絶されてたのか、廊下とこっちの部屋じゃまるで温度が違う。あんまり広い部屋じゃないけど、部屋の隅には芦屋で初めて会った時の丑御前の氷を溶かした呪道具が置かれてる。
他にもいろいろ呪道具っぽいものはあるんだけど、部屋の奥。淡い灯りを放つ呪道具の置かれた文机に、多分女性と思われる人が突っ伏していた。
「目覚めよ奇跡の腕を持つ者よ。我が姫君の体内に救う悪辣なる病魔を取り除けるは汝のみ」
「……ふが?」
細長い紙に何かを書いてた途中なんだろうけど、右手に持つ筆についた墨は既に乾いてる。どうやら作業の途中で眠っちゃったのね。こっちを向いた目の下に出来た隈からして寝不足なのは間違いなさそう。
「ん……? 大きな目に、真ん中分けの髪。それに不満気に突き出された唇。どこかで会ったことがあるような……」
あれはどこだったか……も何も、土蜘蛛の関係者なんだから――――。
「もしかして、甘美娘先生?」
「ひゅ――――――」
そうだ。病魔を祓うと言われて渡された、甘美娘先生の似顔絵! あれに似てるんだ。絵より後ろ髪が短い気がするけど、特徴はとらえてる。
あれから茨木ちゃんに勧められて読んでみたけど、作品も面白いのよね。いつも茨木ちゃんが作者の事を先生とつけて呼んでるから、つい出ちゃったその言葉に、目の前の少女はビクンと肩を震わせて……私の足に縋りついて来た。
「寝てまぜん! 寝てまぜんから! 寝てまぜんけど……!! あと1日……いや2日……いっそのこと1週でも2週でも締め切りを伸ばじでぐだざいいいいいいいい!!!!
「え、え……? いや、一読者としては出来ればすぐ続き読みたいって気持ちはありますけど……まずは先生の体調が一番なんで、無理しないでください」
「……一読者? なんだ、編集じゃないのか。困るのよねー、いくら私のファンだからってこんなとこまで押しかけられると」
「それはごめんなさい。それより……ここで病が治るって聞いて来たんですけど……」
「む、本業の方か。どれまずは熱を――――」
そう言って近くに座る様に指示されて近づくと、私の顔をまじまじと見つめた。それから季武、橋姫さま、もう1度季武と見まわして再び私に視線が戻る。
目玉の前についた透明な板を外して目をこすると、再びそれをつけて細めた目を私に向けて来る。
「……ええと? 初めて見る顔ね。どこの集団に属してるのかしら……? 土蜘蛛の間じゃ見ない打ち刀を持ってるみたいだけど」
「集団……? 摂津源氏、と名乗ればいいのかしら。土蜘蛛じゃなくて京から来たのよ」
「ひゅ――――――」
甘美娘先生は喉を鳴らしたかと思うと、一瞬で顔色が真っ青になって、冷や汗噴き出した。
もしや私の病気がうつったかとおでこに手を伸ばそうとすると、それを避けるように土下座した。
「命ばかりはああああああああ!!!! 命ばかりはお助けをおおおおおおおおおおお!!!!」
「いやいやいやいや!? 別にどうこうしようとするつもりありませんから!? さっき広間で話した通り、土蜘蛛とはうまいこと商売出来たらいいなとしか思ってないので!」
「ん~、こちらの方は先程のお食事の時はいらっしゃいませんでしたね~」
なるほど。つまり戦になると砦に連れてこられた状態だと。
泣いて命乞いする甘美娘先生を落ち着かせようと膝立ちになると、それを支えられずお尻から床についた。ダメだ……大声出すのもきつい。
そんな私の姿を跪きながら確認した甘美娘先生は、恐る恐るといった形で頭を上げると私のおでこに手を置いた。
「………………なるほど。体調が悪いってのは事実みたいね。……治した途端、ズバーっとかしない?」
「しないしない。凄く感謝するし、出来る限りのお礼もする」
「そう」
ふーっと大きく息を吐くと、甘美娘先生の目が座った。色々と態度が変わる姿はなかなか面白い。こういう人だからこそ、斬新な絵巻物もかけるのかしら。
真剣な表情の甘美娘先生は、火車に通じるものがある。だから私は信頼してこの身を任せた。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。
【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。
【甘美娘】――土蜘蛛のひとり。甘美絵の作者。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
*【呪道具】――一品物である宝貝を再現しようとして作られた歴史を持つ。宝貝は仙道士にしか扱えないが、一般人でも扱えるように魔力を込めた呪符を差し込み動かすことを想定している。呪いの道具ではなく、呪い=魔法の道具。




