【源頼光】雨中の戦い その1
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
2025/1/04 修正
・一部加筆・修正
・段落の設定
「ようやくこの視界にも慣れてきたわ。……えーと、1人は私より少し小さいくらいの女性で、振り回してるのは鎖でつながった錨。もう1人は身長190㎝弱、目しか見えないくらい布で覆われてるから男か女かもわからない。それで大丈夫よね?」
「あははー、この雨じゃなんか振り回してるなーくらいしか分からないよ。錨って大きさはどれくらい? 受け止められそう?」
「実際持ったことないからなんとも言えないけど……鉄であの大きさなら100kgは下らないんじゃない? 鎖だけでも150kgくらいありそうだし、それを振り回してるとなると相当な怪力ね」
「まじかー……」と呟く綱は口では笑ってるけど、目は座ってる。
両手はすでに膝丸・髭切に伸びてるし臨戦態勢は万全といったところかしら。
しっかし、親父との覇成試合に始まり、ここに来るまでの穢物のとの連戦、酒呑との戦いからの牛の穢物に続いてこれ。今日1日で何回闘うんだろ? 外は危険だからと私をずっと部屋に閉じ込めてた親父の正しさを、少しでも証明してるみたいでなんかムカつくわね。
互いが牽制し合う中、大柄な方の『捕らえろ』の声で小さい影が動いた。
「うおらあぁぁーーーーッ!! もぉーーれぇーーーやっさぁーーーーーッ!!!!」
子供の頃聞き馴染んだ号令とともに投げ出された錨を躱すと、それは丁度さっきまで私と綱が立ってた間に落ちて地面を大きくえぐった。
「おお、さすがにこれくらいは躱せるっすか。それで茨木童子ってのはどっちすかね?」
地面に突き刺さった錨を軸にして、繋がった鎖に掴まり接近してきたよく日焼けした女性。黒い肌から白い歯を覗かせて屈託なく笑う彼女からは、闘志は感じられるものの明確な害意は感じない。
茨木ちゃんの噂を聞いて来たうえで闘志むき出しというなら、ただの腕試し……? 茨木ちゃんがか弱い女の子だと分かればどう反応するかもわからないしここは―――。
「ずいぶん器用な芸当ねー。茨木童子は私よ。こっちも名乗ったわけだし、あなたにも名乗って欲しいんだけど」
「あたいは雄谷氷沙瑪、茨木童子さん想像以上にいい面魂してるっすね。お互い2人ずつってことっすし、尋常に勝負と行こうじゃねっすか!」
「ええ! 尋常に!!」
鞘を左手で支えつつ親指で柄を弾いてそのまま血吸を抜く。相手の着地を待たず捉えたと思ったその一閃は虚しく空を切り、右側頭部から嫌な気配を感て深くしゃがみこみと、回転して後方めがけて右の踵で払う。
「おおッ!?」
後ろから私の頭目掛けて上段蹴りを放った相手の軸足を払い転ばせたと思った相手は、ぱんッ! と音を立てながら振り上げた右足で宙を蹴ると15mほど離れたところに着地する。
宙にいるのにどうやって方向を変えてるのかな? めちゃくちゃ便利だし、ぜひ教えて欲しいんだけど……。雨に混じってパラパラとしたものが頭に降り注ぐ―――って冷たッ!? これ、氷? こんな季節に?
「いやーやるもんすねー。後ろにも目玉くっついてんすか?」
鎖を引き地面に刺さった錨を手元に引き寄せた氷沙瑪は、称賛の声を挙げつつ再び錨を振り回す。
「直感……てやつかな? なんか嫌な予感ってのを感じるのよね。それより蹴りすら当たらないのにそんな重い武器で大丈夫?」
「はっはー! 忠告感謝っす。確かにあたいの技量だけじゃ無理かもしれねっすけど、今は頼れる人がいるもんでねッ! そーれ! もーーーれーーーーやっさーーーーーッ!!!!」
私に届く程度の長さに調節された横薙ぎ。怪力から繰り出されたそれは、ほんとに重量武器かと思うほど速いけど、あくまで重量武器にしてはってだけで問題にも――――。
綱に体当りされ転がったすぐ上を、唸りを上げて通過する錨に冷や汗が背中を伝う。
「何棒立ちしてんだよ頼――――茨木童子ッ! 死ぬ気かッ!」
「いや、足が地面に……!?」
体当たりの衝撃で引き剥がされた足を見ると、これまた季節外れの氷に覆われた履物。これのせいで足が地面に張り付けられた?
「――――いいんすか? そんな水たまりの中に寝転んでて?」
言うが早いか一瞬で水たまりが凍りつき、私に綱が抱きつく感じにまとめて地面に縫い付けられる。
「さっきからなんなのよこれ!?」
「自然現象なわけはないね! この氷沙瑪ってのがお互い2人ずつの戦いって言ったってことは――!!」
一歩も動かず、戦況を遠目に眺める大柄な人影に目を移す。目しか見えないから表情は分からないけど、酒呑の観察する目以上に冷たいものを感じるわね。
「ま、捕らえろと言われてんでこれで気絶って欲しいっす! そーれ! もーれーやっさーーーーーーッ!!」
勝利を確信した言葉が雨粒とともに空から落ちてくる。言葉通り殺す気はないのか、あのめちゃくちゃ重そうな錨は身に着けず拳を振り上げた影が迫る。あの怪力だし素手でも十分すぎるほど命の危険を感じるんだけどね!!
精一杯の力を込めて右腕引き上げ、綱の顔を胸に引き寄せる。
「あんたのこと信じるわ。だからあんたも一切の心配せずに私のこと信じなさい」
私の胸の中で呆れたように笑う綱から無駄な力が抜け、周囲に真っ赤な鮮血が散った。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――源満仲の長女。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――源頼光の配下。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【茨木童子】――大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。
【酒呑童子】――人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。酒が好き。
【芦屋道満】――摂津の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。
*【雄谷氷沙瑪】――芦屋道満の腹心。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。
*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。
【血吸】――頼光の愛刀。




