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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
序章 パラレル平安時代の誕生
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手詰まりの打開と気になる書物

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/1/02 修正

 ・混沌のキャラクター性変更

 ・視点の変更 混沌視点→第3者視点

 食事の準備を終えた混沌は、金色の雲海を泳いでその下にある岩に腰を掛けていた。


 そこは天界の端の端、腰をかけながら唯一下界を見渡せる場所として知られる場所で、肉まんを頬張りながら混沌は1つため息を吐く。


「やれやれ……長い目で見てくれとは言ったものだけど、それでも手詰まり感がどうしても拭えないのだよねえ」


 未来をシミュレートする術。創造主たる女媧じょかに使えず、同じ術のみが扱えるはずの混沌には使える理由は睡眠をとることで初めて使用できるからだった。


 女媧は何もせずとも常に最善のコンディションを維持できる故に睡眠などとることはない。だが混沌は、人間よりははるかに活動時間を維持できるものの、定期的に寝ることで記憶の定着などが必要だった。


 そして初めて睡眠をとった時、体が眠っている時にのみ発動するこの術の存在に気が付いた。そのことを女媧に伝えても、けんもほろろに扱われた結果、混沌は女媧に理解してもらうことを諦めた。


 女媧に理解されようとされまいと、己が生み出された意義を考え、ずっとシミュレーションを繰り返してきたが、何百万にも及ぶ結果は全て惨憺たるものだった。


 人間を万物の霊長として君臨させるのは難しいことではない。だがそうなるや否や、途端に壮絶な内ゲバをはじめて勝手に衰退していく。


 もちろんそれだけでなく、あまりにも頭の痛い問題がもう1つあるわけだが――――。


「おや混沌じゃないか。どうしたんだい難しい顔をして」


窮奇きゅうきか」


 もやもやしている時に声をかけられた混沌が顔を上げると、そこには窮奇が心配そうな顔で見下ろしていた。


 身長は190cmを超える人型で、清潔感のある金髪と目尻がやや下がった大きな目に輝く青い瞳が特徴のイケメン。


 何より平和そのものの天界においては不要と思える絢爛な鎧を身にまとい、背中には赤い直垂をなびかせる姿は、裸こそ自然体であるという他の神々とは一線を画している。


 それというのも混沌の術を信じて話を聞いてくれているからであり、今窮奇が纏っている鎧も混沌が生み出したものだった。たまに手料理をふるまったりと混沌にとっては、天界における唯一と言っていい良き理解者であり、その登場に混沌が纏っていたピリピリした空気が霧散する。


 苦手な2柱から解放されたことでほっとしたのか、うっすらと混沌の目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭った窮奇は心配そうに混沌に声をかける。


「本当にどうしたんだい混沌? 困っていることがあるなら何でも相談してくれ。話を聞くぞ?」


「なあに。さっきまで女媧様からお説教を賜っていたものでねえ、少しげんなりしてただけさ」


「ああ、例の仮想の未来を生み出して観測する術についてかい? 私からも事実であることは女媧様にお伝えしてはしているのだけど、なかなか耳を貸していただけなくてな。力足らずで済まない」


「ははは、窮奇には感謝しているよ。ただ主上が分からずやなだけさ。ほんと、少しでも耳を貸してもらえるなら、例の人類確定滅亡イベントの対策もできそうなものなのにねえ」


 人類確定滅亡イベント。すなわち地球外生命体による地球侵攻こそ、混沌が頭を抱える最大の理由だった。


 何の冗談だと笑い飛ばそうにも、すべてのシミュレーションにおいて同年同月同日同時刻、エイリアンは必ず侵攻してくるのだった。


「空の彼方からの侵略者に攻めこまれて全滅だったか? 人間たちすべてを隠してやり過ごさせるとかではうまくいかないのか?」


「お手上げさ。地下深くに眠る資源が目的でね、空飛ぶ船から何かを地表に打ち込んで持っていくって感じなんだよ。その時の衝撃が引き起こす地震やら気候変動やらで全滅しちゃうんだよね。そんなわけだから既にすべての生物が滅んだ未来でさえも、奴らはしっかりやって来て資源を持っていくわけさ」


「ふうむ……。具体的な内容まで聞くのは初めてだったがそういう理由だったのか。それなら先にその資源とやらを掘り出してしまえばいいんじゃないか?」


「それは当然考えたさ。とはいえ、いかんせん何を掘り出してるのかわからないからねえ。仮に何かは分かったとしても掘り出せるかは不明だし、掘り起こすことで侵略が前倒しになって、もっと早く滅ぶかも知れない」


 ためしに何度かそれをやらせようとしたものの、そこは信じられないほど硬く、掘り出すどころか数㎝の穴を掘ることさえできなかった。


「やれやれ。こうやってうまく行かないことばかりだと、なんとかして鬱屈した思いを発散しないとどうにかなってしまいそうだよ」


「それはいけない。何か気晴らしになることはないかな?」


「そうだねえ。娯楽というものは未来のものを知っていると、今のものでは満足できないし、普段なら絶対つけない条件をつけての人間観察なんて面白いかもしれないねえ」


 混沌がシミュレーションでつける条件はいつもであれば狩猟や文字の使用を早める程度だが、それではそれほど面白くはならない。


 時々、ほんの軽い気持ちで行った変更でとんでもない変化が起こることもあるが、そんなサプライズを期待するよりも漫画やゲームにでてくる【スキル】だの【チートアイテム】だのを人間に渡してみたり、魔王やモンスターのような人類の敵を配置してみるのも面白いかもしれない。今の混沌の気持ちはとにかく派手なことをしたいというものだった。


「あくまで仮想の世界でなら色々試してみてもいいんじゃないか? 現実でやるとなったら止めるかも知れないが」


 混沌の言葉に同意する窮奇―――混沌・饕餮とうてつ檮杌とうこつと共に同じタイミングで女媧に生み出された彼の役割は、4柱のリーダーとしての統率の他に生態系の頂点に人間が来るように世界のバランスを調整するというものがある。


 好き勝手な条件を付けて遊ぼうにも、現実の窮奇が認めないものはシミュレーションの中の窮奇も認めないことを混沌は知っている。


「ふぅん? ならキミの許可できる範囲が知りたいねえ―――そうだ、例えばこんなのはどうだろう?」


 術で目の前の空間を自室に繋いで本棚から1冊の本を取り寄せ窮奇に渡す。未来から実物を持ってくることはできないため、覚えていた情報から全文を書き出したものだ。


「【封神演義】か。題名は読めるが、ところどころ読めない文字が混じるな……。それに絵と文字の配列が複雑で読みづらい」


「俗に日本語と呼ばれる東の島国に住む神々の言語だからねえ。それはそれとして、その中に出てくる【宝貝ぱおぺえ】ってのを作ってばらまいてみたいのだけど、どうだろう?」


 2つ目の肉まんに手を伸ばしつつ、パラパラとページを捲る窮奇の様子を見守る混沌。


 生態系に人間よりも上位の存在を配置するわけでもなし、将来的にさらに強大な核兵器などがある以上、道具については許容範囲広いはずと混沌は読んだ。引っかかるとしたら、人間自身が発明するか神が与えるかの違いくらいだ。


「未来の書物なのは分かったが、この書の内容を実行しようと思い立ったのはなにか理由があるのか? おそらく他にも書はあるのだろう?」


「それが私も本の中に出てきてねえ。もっとも作中では【鴻鈞道人こうきんどうじん】と呼ばれているわけだが、その私の役割が――……」


「【宝貝】とやらを作って配ること、か」


「そういうことさ。ついでに言うなら、挿絵のない小説版に限ればすべての未来の中で作られているから気になっているというのもある」


 それこそ何を間違えたのか、人間が文字を覚える前に滅んだ世界でも、洞窟の中に書かれているのを観測できた正真正銘のホラー作品だったりする。


 普段ならわざわざこんな危険物を踏みに行こうとは思わない慎重な混沌だが、この時はストレスと成り行きを見守るだけという慢心もあり、軽い気持ちで提案してみたのだった。

【人物紹介】

【混沌】――女媧に生み出された神の1柱。政治担当。人々の繁栄を目指すのが仕事。未来をシミュレートする術をはじめ様々な術が使える。現代知識も豊富。

【女媧】――中国における人間を生み出した最高神。

【窮奇】――女媧に生み出された神の1柱。統率担当のイケメン。人間中心の世界を作るためのバランス調整が仕事。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【仮想未来】――混沌の未来シミュレーションによって作られるパラレルワールド。

【封神演義】――中国の小説。殷の時代の末期、人と仙人と妖怪が入り混じった異能力バトルもの。

【宝貝】――仙人や道士が持つ不思議アイテム。

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