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源頼親

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「――――それじゃそういうことだから! 砦は占領したし、土蜘蛛たちは闘う意思がない。あとは、あんたと頼信を交えて話し合ってどうするか決めるにしても、無茶な進軍で味方に被害を出すのを止めなさい」


 兵を捨て駒のようにして進軍していた大和軍を見ただけに、頼光の憤りは強く自然と声が張り上がる。


 そんな頼光の気持ちを宥めるかのように、頼親は恭しく頭を下げた。


「申し訳ありませんでした姉上。みことのりを必ずや成し遂げんと、気持ちが急いてしまったことが、姉上の心に傷をつけてしまったことを心より謝罪申し上げます」


 きつい言葉をぶつける姿に、周りの側近たちが怒りに満ちた目で見つめていたことに気づいた頼光は言葉を詰まらせる。


 朝廷より国司の地位を得た頼親が無官の頼光に頭ごなしに批難される姿は、郎党としても屈辱なこと。頼光としては頼親の配下を慮ったつもりでも、余計なお世話ということだ。


 摂津源氏の面々や大江山の鬼たち、12天将などは付き合いの中で頼光にある程度好意をもったからこそ「大目に見ていた」だけであり、大和の郎党から見た頼光はただの無礼な小娘。その空気に頼光は何とも言えない居心地の悪さを感じた。


「姉上、先に帰すべきは帰した後、砦へは側近と共に参ります。つきましては、道中の罠の位置に目印を付けておいていただけないでしょうか」


「え、うん。分かったわ。…………その、なんかごめん。言い過ぎた」


 そう言い残し山頂へと向かう頼光を笑顔で見送り、視界から完全に頼光が消えたところで、頼親はすぐ隣にいた側近の顔面を殴りつけた。


「相変わらず上から意見をぶつけて来るな、あの女は。霧の中を強行して手柄をかすめ取ったくせに、ご高説をたれるとは、さぞや気持ちのいいことだろうよ」


「全くでありますな。父君が同じとはいえ、殿と違い家柄の大したことがない母系の子。学のない者特有の浅ましさが目に付くばかり」


 笑顔を崩さぬまま平然と部下を殴りつける頼親の姿、加えて鼻骨が折れ顔を真っ赤にした同僚を見向きもしない部下たちの姿。その異常な光景に、此度の戦のため徴兵された者たちは背筋を震わせる。


「しかし殿、あれほど嫌っていた相手です。この場で殺してしまえばよろしかったのでは? 今ならば土蜘蛛に殺されたことにも出来たでしょうに」


「あせるな。あんな女にでも、命を懸ける馬鹿てしたがいる。ここでヤツを殺して、頭が沸き上がった連中に砦に籠られては面倒だろう。その場合でも山に登ることになるし、山は罠の位置だけ把握できれば十分よ」


「ははははは! 罠など兵どもに探させれば十分だというのに。殿はお優しいですな」


「……しかし、殿。例の大蚯蚓の化け物を撃退したという話ではありませんか。部下と合流されては些か面倒では?」


「馬鹿が、人語を解すだけの虫けらと殿を一緒にするでないわ。そもそもあれも安倍晴明を味方につけてのことらしい。全く全方面に媚びを売り、安倍晴明や妖怪たちを誑かすだけの悪女など、殿の一太刀で軽く――――ぶはッ!?」


「人間性の終わった悪女であることは否定せんが、その実力を疑うのは許さん。オレはあの日以来、頼光を殺すことだけを目標に生きてきた。ヤツをつまらん小者と扱うことは、オレに対する侮辱でもある」


「………………はッ、申し訳ございません」


 血を流しながら謝罪する側近から目を離すと、改めて頼親は部下たちに声をかけた。


「オレはヤツが以前吐いていた言葉を聞いたことがある。それは支配者と領民が同じ目線に立ち、誰もが笑って暮らせる国を作るとかそういうものだ。……はッ! 全くお笑いだ」


 同調して笑う部下たちに向かい、握った拳に力を込めた頼親の演説は続く。


「人の世はッ! 朝廷を頂点に、帝に任じられた官が領民の上に立って、正しく治めてこそうまくいく。その体制が崩れれば秩序などすぐに無くなるだろう! 仏に見捨てられた末法の世にあって、朝廷が人々の救いにならんとするのを、あの女は自身の気持ちだけでひっくり返そうというのだ。そのためには妖怪に魂を売り、その脅威を利用することすら厭わん」


 周りを固める部下たちの目が狂気に輝き、遠目に見る兵たちの目は困惑に染まる。


「これは謀反だ。近くは新皇を名乗り坂東で乱を起こした平将門に、瀬戸内から大宰府まで落とした藤原純友。遠くは陸奥の地で暴れまわった阿弖流為アテルイ母禮もれ。これにならばんとする逆賊よ。今までは真っ先に誑かした父・満仲の影に隠れていたが、正気を取り戻された父に家を出された今が好機、ヤツに付き従うものと共に、ここで皆殺しにする!!」


「すばらしい……まさに尽忠報国の臣とは殿の事。しかしそれならばなお、先に大将である頼光を討ち、烏合の衆となった残りを始末してしまった方がよろしかった気がしますが」


「人の軍ならばそれでよかろう。だが、ヤツのあやかしの軍。下手に時間をかけず、油断をさせ一太刀で根絶するのが大事なのよ。姉上、どうぞその目で御覧ごろうじろ。あなたのおかげでオレは、右大臣様より『殺人上手』と呼ばれるほどに、殺しが上手くなりましたぞ?」


 もとは普通の武士だった源頼親。姉への殺意が高じて『人を殺す』という一点に芯が通ったこの男は、冷たい光を灯した瞳で、ニヤリと笑った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【源頼親】――藤原道長配下。大和守。道長からは殺人上手と重宝されている。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【末法の世】――末法。仏の教えが行き届かない世界。

*【末法思想】――仏の教えが行き届かなくなったクソみたいな現実より、来世にワンチャン期待する思想。どうせ解脱なんてできやしないんだから、輪廻転生するぜー的発想。

【坂東】――関東地方。

【尽忠報国】――国に忠義を尽くして、受けた恩に報いるという意味。

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