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【源頼光】占領

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 砦の中に招かれた私たちは、中央にある大きな屋敷の庭に集まった。


 ほとんどの土蜘蛛たちは警戒を緩めず、私たちに応対する数人の仲間を遠巻きに見守っている状況だ。そんな中、少しおどけた様子で鬼が頭を抱える。


「あー納得いかんわ。いつから倭人やまとびとどもはこんなにも強うなっとったんじゃ。火産ほむすびの実戦による性能試験もろくに出来んとはのぉ」


「不思議だね。自爆したはずなのにピンピンしてる」


「いや、生きててくれるのは大歓迎だから」


 鬼だから丈夫なのか、爆風に乗って空に投げ出されたおっちゃんが、こうして無事でいてくれたことでホッとしてる。


 お互い怪我で済んで死人が出てないことで、緊張した空気はあるけど殺伐とはしてない。それもひとえにこのおっちゃんが生きてた上に、積極的に私たちと関係を持とうとしてくれてるからよね。


 職人さんと、茨木ちゃんの言う親方とやらが長なんだろうけど、その2人がいない時はこの鬼が仕切ってる感じなのかしら。隻腕のおっちゃんはにこやかに菡芝仙かんしせんの疑問に答えた。


「そりゃこの防火服のおかげよ。火で燃えないばかりか、衝撃まで吸収する土蜘蛛われらが誇る自信作よ」


 そう自慢げに見せつけて来るのは、全員が着込んでいた銀色に光る服。触らせてもらうとどこかで覚えがあるようなないような……。


「って、私の履いてる履物の裏地じゃん」


「何? 見してもらえるか」


 左足の履物を脱いで手渡すと、おっちゃんは興味深そうにそれを観察する。しばらく眺めると納得したように何度も小さく頷いた。


「間違いないな。これをどこで手に入れた?」


「あははー、だからそっちの頭領と知り合いだって言ったでしょ。特注してもらったんだよー」


「火と衝撃に強いか。底の緋緋色金ヒヒイロカネを爆発させると考えると、助かる心使いだわ。こうやって見えないところも手を抜かないのが、さすが職人さんたちの長って感じよね」


「いや、頭領の仕事は動物の革に緋緋色金をくっつける技術的なところじゃの。素材選びまで頭を回すような人じゃねえ。爆発するとなると、親方の仕事かのぉ。性能確認はド派手にやる御方じゃが、物作りは繊細なんじゃよな。まさに頭領と親方の合作と言ったところか……」


 私たちの話を横目に聞きながらも、履物から目を離さずにぶつぶつ言う鬼。ふいに顔を上げたかと思ったら距離を取る仲間たちに向かって「間違いなく頭領の知り合いだから安心しろ」と叫んだ。


 その声にようやく安心した顔の他の人たちが近寄って来たかと思うと、私の履物を囲んだ。


「緋緋色金か。ある時期から頭領がやたら仕入れて来ると思ったが、こいつらと取引したからかの?」


「これを作ったのは? 半年前? なるほど間違いなさそうじゃの。親方が装備を整える前じゃから、試作品といったところじゃろ」


「しかしよう出来とるな。かなり滑りそうに見えるが、細かく溝が刻んであるわ。九一七式改二以外にもあの二人の合作があったとは知らなんだが」


「……それより緋緋色金の加工技術を公表して欲しいわ。貴重品じゃし、滅多に手に入るもんじゃないのは分かるが、オレもいじってみたいわ」


「なにを情けないことを。テメエも職人を名乗るなら技術は目で盗め」


 さすがは職人の集団だけあって、興味のあるものを囲んでは喧々諤々の議論を始めた。


「あんたは混ざらないでいいの?」


「技術の議論は興味がないよ。他人の発明品や、自分の作りたいものの切っ掛けになりそうな話なら興味があるけどね。火産そっちに興味があるからいじりたいとは思うけど」


「だよな! オレも興味あるぞ!! なあおっさん! これってオレにも使えるのか!?」


「ああ、この先端を地面に叩きつけるだけで爆発するぞ。20mほどの高さから落とせば、先端が勝手に下を向いて爆発するんじゃが、この辺りの高さじゃ自分で抱えて跳ぶしかないがの」


「へえ、そんな低いところから落とすだけで、姿勢が制御できるんだね。落ちるまでほんの数秒なのに凄いな。空を飛べさえすれば、誰でも簡単に使える宝貝ってことだね、便利」


「前提が狂っとるねん」


「確かに仙人様だと空飛ぶ印象あるけど……。そもそも自然落下って、そんなに速さがでないから実用的じゃなくない?」


「この娘は何を言うとるんじゃ?」


「頼光の普通は普通やないから、話半分に聞いたってや」


「わはははは! しょうがねえなもー、オレが実用的な使い方ってやつを見せてやるぞ!」


 いつの間に着せてもらったのか、ダボダボとした防火服とやらに身を包んだ丑御前は高らかに笑うと、隻腕の鬼から火産を受け取る。


 最近塞ぎがちだったけど、やっぱりこの子はこうやって豪快に笑ってる方が似合うわね。


「まぁ、現状有効的に使うにゃ塀の上から敵陣に飛び込むか、敵の攻撃を潜り抜けて敵陣深く切り込む必要があるからの、なかなかうまく使う方法が――――」


「いぃぃぃぃぃやっふっぅうぅぅーーーッ!!」


 まぁ、予想通りというか……丑御前とめちゃくちゃ相性が良い武器よね。地面を蹴るや、あっという間に離れたところで大爆発を起こして、さっきの鬼と同じように空に投げ出される丑御前の姿に、周りの土蜘蛛たちから驚嘆の声が上がった。


 勢い良く着地したいという気持ちから編み出した動きは、この武器の持つ自然落下のせいで速度不足って弱点を補って余りあるわ。それに斧を叩きつけるのに比べて攻撃範囲が段違いで、なかなか完全に避けるってのは難しい。まぁ、攻撃後の隙が大きすぎるのが集団戦じゃ致命的だけど。


「……てか、丑御前も無事だよね?」


Maybe(たぶん)? 普段の頼光、あんな感じ、デス」


「そっかー。はた目から見るとあんな感じなのかー」


 遠くに落ちた丑御前が体を起こして、楽しそうに笑う姿にほっとしてると、虎熊が話しかけて来る。


「威力の方は全然だがな。テメエの場合、爆発はおまけで蹴りが本体だろうがよ。しかし面白そうだな俺様にも一式よこせや」


「使い切りの武器を無駄遣いするんじゃねえよ。わるいな大江山ウチの連中が……」


「いやいや、なかなか愉快な奴らだなアンタら」


 そんなやりとりをしてると、東の方角から爆発音が響いた。


「何? 誰かが触発されて同じことやりだした?」


「いや、霧が晴れたのと、ここで戦闘音みたいのが聞こえたもんだから、東の朝廷軍が動き始めたんじゃろ。ありゃ地面に埋まっとるのが爆発した音じゃ」


「やっば。そういえば私たちだけじゃないのよね。綱、あんたは目印を辿って西に降りて弟くんに戦は終わったって伝えてきて。私は東に行くわ」


「はいはい。1000人も入れる場所ないから側近だけ連れて来いって言ってくるよー。……頼光も気をつけてね?」


「大丈夫大丈夫、目印なんてなくても、罠にかかるような真似しないから。それじゃパパッと行ってくるわね」


 それだけ言い残すと、私は塀を飛び越え音のした方に向かって走った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【菡芝仙】――截教究道派の仙人。朱雀の盟友。

*【油澄ま師】――羅刹の女。本名・火乃兎。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【倭人やまとびと】――大和朝廷から続く、大体畿内に住む日ノ本の支配者層。蝦夷など各地域に土着してた人々から侵略者に近い意味合いで使われる。

*【火産ほむすび】――火乃兎作の爆弾。先端に強い衝撃を与えると爆発する。20mの高さがあれば、落とすだけで爆発する。

*【防火服】――火乃兎作の服。火と衝撃に強い。爆発を自分の体で体感するときのおともに。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

宝貝ぱおぺえ】――仙道が扱う不思議アイテム。

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