【源頼光】攻城戦
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
「はは……! ははは……!! 凄え、凄えええ――――おろろろろろろ……」
「ああもう、吐くなら海に吐いてくねえっスかね。甲板の掃除をするのだりっすから」
「……悪い悪い。にしても呪砲は凄えな。やっぱり爆発には浪漫が――ヴォエッ」
「だーかーらー!! 興奮してんのは分かったから、せめて下向いて吐け!!」
母禮率いる蝦夷水軍の最新鋭艦『最上』に初めて取り付けられた新兵器に大興奮の火乃兎は、吐しゃ物を巻き散らかしながらも船のへりに体を預けた。
船酔いで真っ青ながらも嬉しそうな顔でながめていたが、次第にその顔が微妙なものに変わっていく。
「何か問題でも見つかった? 実戦投入に向けて気になったことがあるなら、何でも言って」
モップを手にやって来たコロポックルが、テンションの下がっていった火乃兎に尋ねると、率直な意見を述べる。
「いやな? 打ち出した時は凄えわけじゃん? グワーン! ってでっけえ音を立てて周りを震わせて、そこはいいんだよ。でもよ、せっかくなら当たったところで爆発した方が気持ちよくね――――おろろろろろ」
「なるほどね。面白い意見だけど、今は砲の動作確認だし弾の改良はその後だよね。てか、いっそキミが作ったら? 馬にも乗れない、船にも乗れないじゃ肩身が狭いでしょ」
「コロ助お前、火乃兎は徒歩なら羅刹でも最強格だぞ。そんな言い方ねえだろ」
「そうらしいね。でもそれを1番評価してないのも他ならぬ羅刹だろ? 水軍は呪砲を取り入れたり、近づく前に船ごと沈めちゃおうって流れなのに、徒歩での戦闘しかできない羅刹を水軍に回すあたり、全く期待されてないじゃん」
「ぬ」
「悪いな氷沙瑪。チビ助の言ってることは正しいぜ。しかし今更職替えとなるとな……うぷ」
甲板に撒き散らされた汚物を拭きながら語り掛けるコロポックルの言葉に、火乃兎は真剣に考えこむ。邪魔だから出て行けというわけではなく、生き辛い場所で過ごすくらいなら、新天地を求めた方が良いのではという優しい響きが込められているのを感じ取ったからだ。
「もともと手先は器用だし、そこに情熱が乗っかるなら職人として大成する道はあるんじゃない? 土蜘蛛には師匠から口添えしてもらえると思うし、爆発する弾が出来るなら水軍としても助かるし」
「でもなーもったいねえよなあ……騎馬偏重の文化だけはマジで納得いかねっスわ」
力を持ちながらそれを生かせる環境がないことに、氷沙瑪は渋い顔をする。
それをよそにしばらく考え込んでいた火乃兎は、その日の夜に母禮と面談すると、当時の土蜘蛛に師事するため陸奥を去って行った。
*
「んー……あの手に持ってるのは何だろうね。持ちづらそうだし、何より丸いから突いたり切ったりってものでもないし……防衛のために持ってきたと思うんだけど」
「あれはまさか……」
「ん? 知ってるの氷沙瑪。もしかして異国の武器とか?」
「いや、初めて見るな。ただまあ、何となくろくでもないもんだと思っただけだよ」
「そう。私の勘もそう言ってるわ」
実際さっきの万里起雲煙だって、ひと目見ただけじゃ武器っぽくないからね。何よりここは職人さんたちの総本山。アッと驚くようなものの可能性だって――――。
「うおおおおおおおおおおお!!!! 吶ッ喊ーーーーーーー!!」
そう叫ぶや片腕の鬼が、それを大事そうに抱えて壁から飛び降りた!
「おお!? まさかの行動!」
「待て頼光! あたいの事引っ張って離れてくれ! 他のヤツらもだ!!」
! 迎撃しようと思ったけど、まずは様子見ってこと?
とにかく氷沙瑪の襟首をつかんで一足飛びに距離を取ると、周りにいたみんなも一斉に散った。
そしてみんなが離れた後、例の楕円状の物体が地面に触れた瞬間――辺りが白い光に包まれたと思ったら、激しい風と音が私の体にぶつかって来た。
「きゃあああああああ!!」
「茨木ちゃん!?」
悲鳴が聞こえてきた方を見ると、例の大裳(藁)に乗った橋姫さまが右手で茨木ちゃんを抱き寄せながらも、左手で心配いらないと手を振ってた。
良かった、びっくりしただけで――――……。
「って! 橋姫さま! 燃えてる燃えてる、大裳(藁)のお尻!!」
「あらあらまあまあ」
バシバシ藁人形の尻を叩いて消そうとする橋姫さまから、視線を外して見渡すと他のみんなも難なく攻撃をかわしたみたい。ただ舐めきってあまり距離を取らなかった虎熊が、音にやられたのかしかめっ面で両耳を人差し指で塞いでるわね。何をやってるのやら……。
「あははー、判断が早いなー。格上と見るや、初手から命がけの自爆攻撃かー」
「……え? 自爆? え? え?」
見るとさっきまで私がいたところに例の鬼がおらず、風邪に吹き飛ばされたのか、はるか上空にその身を投げ出してる。
「オラオラ続け続け!! 一人一殺の精神でどんどん続け!!」
「ダメだ、壁から離れてこれじゃ上をとれねえ!」
「ならコイツの出番よ! くたばれ倭人野郎!!」
今度は壁の上から轟音が上がった。それと同時壁の上に設置されてる金属の筒から、丸い金属の弾がはじき出されて高速で迫って来る。
切り払おうと血吸に手をかけたところで、また氷沙瑪から声がかかる。
「後ろにゃ誰もいねえし躱せ!」
もう1度氷沙瑪の襟首をつかんで躱すと、横を通り抜けた弾が後ろで弾けて土を抉った。
「ちぃッ! しっかり改良してあるっスね」
「やっぱり知ってるんじゃないの」
「さっきのは初見! こっちは呪動船にも積んでる呪砲っスよ! ただ、呪動船に積んでる方は鉄の塊を打ち出すだけで爆発はしない!」
「なるほど……グズグズしてらんないわ――ね!」
「は? ぶッ!?」
途中で貞光に氷沙瑪を投げ渡しつつ、呪砲とやらに張り付ていた男の懐に飛び込むと、掌底で顎を撃ち抜いた。
本当は軽い降伏勧告と、応じなかった場合の戦力確認だけのつもりだったけど、こんなものポンポン撃たれてたら怪我人が出かねない。ましてや最初の鬼みたいに、死も恐れないで突っ込んでくる可能性すらある。
手柄をひとり占めするみたいで弟くんには悪いけど、一気に攻め落とすしかない。
「呪砲ってのは……あと12!」
壁の上を走り抜けて、扱う人間をひとりひとり気絶させていき、すべてを無力化したところで立ち尽くす相手に向かって叫ぶ。
「色々と誤解させちゃったけど、私たちがあなたたちの頭領と知り合いってのは本当よ! 砲も動かせない、自爆もあんなのんびりしかけて来るようじゃ無駄死にするだけ! 悪いようにはしないから、武器を捨てて門を開いて!」
一瞬で門の上に駆け上がり、頼みの武器が無力をされたことで戦意を失ったのか。防衛にやってきた人たちは項垂れながら次々と武器を床に置いた。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。
【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。
【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。
【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。
【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。
*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。
【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。
【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。
【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。
【菡芝仙】――截教究道派の仙人。朱雀の盟友。
*【油澄ま師】――羅刹の女。本名・火乃兎。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
*【最上】――小型のキャラック船に近い形状の呪動船。日高見と比べて横幅が広いため、安定性が高く外海航行に向いているが船速は遅い。播磨国(道満所有)、摂津国(道満から保昌に贈呈)、津軽、若狭国の町に1隻ずつ、計4隻が現存。
*【羅刹】――鬼と同義。陸奥に住む鬼をそう呼んでいるだけ。
【万里起雲煙】――杖の形をした宝貝。杖先から高熱を発する。
*【大裳(藁)】――橋姫が作ったヒグマサイズの大裳の形をした藁人形。移動に便利。
*【倭人】――大和朝廷から続く、大体畿内に住む日ノ本の支配者層。蝦夷など各地域に土着してた人々から侵略者に近い意味合いで使われる。




