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【源頼光】砦

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「なんじゃいなんじゃい、この霧は。長いことこの山で暮らしとるが、こんなこと初めてじゃのう。お前ら落ち着け! こん隙を突かれて朝廷軍に蹂躙されたら笑い者じゃぞ」


 何の前ぶりもなく山全体を包んだ霧に、土蜘蛛たちの集まる砦は軽いパニックに陥っていた。羅刹の内の目の利く数柱がそれを収拾しようと歩き回るが、不思議なことに土を覆っていた雪が消えている。


 隻眼隻腕の羅刹は木の階段を上り壁の上に出ると、見張りの羅刹に声をかける。


「どうじゃ朝廷軍の様子は?」


「だーみだ、オラにはなんも見えねえ。ただまあ、爆発も悲鳴も聞こえてこねえし、この霧で足止めされとるんじゃろ」


「ま、そうなるか。しっかし、こんな時に未曾有ことが起こるとは、今まで朝廷軍を撃退してきた歴史が変わる前触れに見えて、何とも嫌な予感がするわ」


「頭領と親方を呼びに行った方がえぐねが?」


 不安を刺激された見張りの人間の提案に、羅刹は首を横に振る。


「こん霧の中を動けるのは、戦力として計算の立つヤツじゃ。それにこんな視界の中だと、うっかり踏みつぶされかねん。罠の発動音でヤツらがキルゾーンに押し込まれたことに気付けば、そん時は勝手に――……」


「……たーのもー」


「ん? 今何か言ったか?」


 深い霧の中から聞こえた声、それもどうやら砦の内側ではなく、外側から聞こえた気がする。こんな状況での謎の声に、気味が悪くなったふたりが顔を見合わせたところで、再び女の声が聞こえた。


「たーのもー! 土蜘蛛さんいるー? いくつか集落とか洞窟見たけど、どこも無人だったんですけどー。ここにみんないる感じですかー?」


「気のせいじゃねえな。戦える奴は着替えた上で火産ほむすび持って壁に登らせろ」


 どうやら西門の方からと理解した羅刹は壁の上を走った。



「うーん、反応がないわね」


「あははー、でもここは他と違ってたくさんの人の気配がするよ。間違いなくいるねー」


「そういうことなら、いちいち待ってるのも面倒くせえな。乗り越えようぜ」


「そうね。ちょっくら先に入って、橋姫さまたちのために門を開けて来るわ」


 山の頂上によくもまあ作ったなという印象だけど、壁の高さは5mないくらい。京を囲む城壁の半分程度だ。


 一応警戒しつつ壁に近づくと、壁の上に大きな影が現れた。なかなか鍛えられた体の鬼だけど、左腕がない。


「お、いたいた。すいませーん、私ここの頭領でいいのかな。職人さんと知り合いなんですけど、入れてもらえますかー?」


「誰が開けるか! 貴様、朝廷のものじゃろが。討伐に来た相手に門を開くアホがどこにおる!! 大体あん口下手な頭領の知り合いっていうのも、怪しさ満点じゃろがい!」


「あははー、すべてがごもっともだねー」


「うーん、これじゃ門を開けて入っても戦闘になるだけね」


「今さら何言うてんねん……。信じられん気持ちは分かるけど、ウチらはほんまに土蜘蛛あんたんとこの頭領と知り合いや。なんなら親方――油澄ま師んことも知っとる。嘘や思うんなら確認とったらええやん!」


 雪を融かしてからしばらく経ったことで、ようやく少しずつ霧も晴れてきた。茨木ちゃんにも見えるようになったきたようで、私の隣に立って門の上の鬼を説得し始める。


 するとドカドカと足音を鳴らしながら、ギラギラとした光を放つ着物を着て、見たことのない1mほどの楕円形の筒を持った住人が集まって来た。


「……頭領と親方の知り合いと言ったのぉ? こん砦に来るまでにたくさんの罠が仕掛けてあったはずじゃが……それはつまり、そん位置を教えられてるほどの仲、そういうことかの?」


「ううん? 別に教えてもらわなくても、あからさまに仕掛けられすぎてて、もう少しうまく設置しておいてもらったら楽しめたのになーって気分になったくらい。山が爆発するって話は聞いたけど、私としたらあの、紐を切ったら迫って来るトゲ付きのこん棒みたいなのが、緊張感があっていいかなと――痛った!?」


 後ろから「分かるのはお前だけだ」とか「どこがあからさまだ」と声がかかる中、突如走ったお尻の痛み。いないはずの道満さまの存在を感じつつ振り返ると、怒った顔の茨木ちゃんが手招きしてるので顔を近づけた。


「アホか! どう考えても本当に職人さんと知り合いなのか、確認取りに来ただけやん! 大人しく「そうです」言うとったら、はいお終い、ちゃんちゃん……やろがい! 何素直に答えとん!? 見てみ、どう見てもヤバいヤツを見る目やんけ!」


「頼光さー。播磨ん時にわざわざ連れてったのも、陸奥守になったとき必要だから、腹芸覚えろって気持ちがあったわけよ? あん時と比べてくっそイージーな状況でこじらせるとか、政治の才能皆無だぞ」


「いやー……とっさに嘘つくのって難しくない? 戦ってる中、相手を騙すような攻撃のそぶりを見せたりはするけどさー」


 茨木ちゃんと氷沙瑪ひさめによるダメ出しの嵐が過ぎ去るのを待ってると、壁の上の騒がしさが増してる。初めに出てきた片腕の鬼も、他の連中と同じ銀色に輝く着物を身につけ、謎の楕円形を手に持ってた。


「よおし火産は持ったな!? ここは文字通り最後の砦、絶対守り抜くぞ!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


「ほらー、めんどくさいことになったやん!」


「いや、ほんとごめんて」


「いつも謝るだけで反省してねえだろ頼光」


 いやーちゃんと毎回反省はしてるのよ? 同じ失敗はしないと心掛けてるけど、別の失敗は仕方なくないって気持ちはある。


 すっかり士気の上がった土蜘蛛たちを見ると、もはや言葉での解決は難しくなったってのは、ちゃんと理解した。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【菡芝仙】――截教究道派の仙人。朱雀の盟友。

【鴻鈞道人】――宝貝を配って戦争を激化させた戦犯。混沌の創り出した観測者のこと。周の武王には感謝されている。

【藤原保昌】――藤原道長配下。摂津守。異国かぶれの異名を持つ。

【源頼信】――源満仲の次男。頼光とは異母姉弟。河内守。

【源頼親】――藤原道長配下。大和守。道長からは殺人上手と重宝されている。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【羅刹】――鬼と同義。陸奥に住む鬼をそう呼んでいるだけ。

【キルゾーン】――敵を殲滅すると設定した場所。

*【火産ほむすび】――爆発するらしいなにか。

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