表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/176

【源頼光】船岡山の戦い その3

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


 全身に伝わる気を失わんばかりの衝撃。


 それでも意識を失わなかったのは、体がバラバラになりそうな痛みと、とっさに頭をかばったこともあるかも。それに何より唯一と言っていい痛くない場所、大岩に沈んだ右足を握る手の感触!


「ほう、これでも死なないとは。いや、汜水関で確実に殺したはずなのに生きているのを考慮すれば、当然と言ったところでしょうか」


 岩の中から響く男の声。汜水関ってどこよって思うけど、どうせまだ余化さんって言う朱雀さんの弟子と勘違いしてるんでしょうね。


 大岩と壁に完全に挟まれた全身から、自分の命が真っ赤な液体になって流れでてるのを感じるけど、どうやらまだ手は動かせる。


 ……だからと言ってこの大岩を動かすのは無理だしどうしたら。


「ふん、まあいいでしょう。最早虫の息ですし、このまま岩に引きずり込めば窒息して死ぬでしょうからね」


 そう言ったかと思うと、右足を大岩の中に引っ張られ、その拍子に左足に始まり腰の下まで大岩に埋まっていくのが分かった。


 これは……マズい!! 必死に手に力を込めて踏ん張ってると、目の前で手にもさっきの文様が浮かび上がって、大岩に沈み始める。


「こんのぉ……!!!! やられて――――たまるかあああああああああああああ!!!!!!」


 大岩の中、深く沈んだ履物に気力を流し込むと、内から爆発した衝撃に大岩が粉々に吹き飛んだ。


「はぁ……はぁ……どうよ」


 弾け飛んだ破片が顔に当たった時は、また意識飛びそうになったけど、中にいた男も衝撃をよけきれなかったのか、私の体を放すと化けウナギも巻き込んで通路の奥へと転がっていった。


「痛ッ――――――――!!」


 体勢を立て直そうと両足で立ち上がっただけでこの痛み……。そりゃそうか、この爆発の反動半端ないからね……。だからこそいつもは急な方向転換とかに使ってるけど、岩の中でやったもんだから反動がもろに体を伝った感じ。


 大岩に埋まってた部分の旗袍ちーぱおもボロボロだし……いや、体の惨状から目をそらしてる場合じゃないわね……。頭から流れる血が目に入ってるのもあるけど、下半身が真っ赤で感覚がない。


 とりあえず今は立て直さないと……でも……。いや、とりあえずやることやらないと。少し離れた所じゃ、男が体を起こして怒りに満ちた顔で震えてる。


 さすがに予想外の反撃だったのか、慎重になるのは分かるけど、化けウナギをけしかけないのは判断が遅い。足に比べて怪我が軽い両手で床を掴むと、脇に見えてる会議場の扉目掛けて体を飛ばす。


 そのまま体当たりの形で部屋に飛び込むと、なんとか扉を閉め、それを背もたれにしてへたり込んだ。


「はぁ……はぁ……こんなの、一時しのぎにすら……ならないだろうけど……」


 改めて見ると広いわねここ。そんな風に部屋の様子を眺めると……思わず乾いた笑いが漏れた。


「はは……深夜だから頭回って……なかったわね。初めからここに誘導しとけばよかったわ」


 普通なら多勢に無勢の場合は狭い場所で戦うのが常套手段だけど、壁を越えてくる相手となれば広さは味方だわ。もちろん下からは来るけど、壁からの奇襲は考える必要がない。


 ……ああそうか、扉を越えて来るのかは分からないけど、横の壁を越えられるのよね。体で扉を塞いでも何の意味もなさないじゃん。とにかく真正面からぶつかったら、今の状況じゃ勝ち目はない。少しでも有利な状況を作らないと――――……。


 今は地の利を得ておかないと。使えそうなものを見繕ってると目に付いたのが、12天将が使ってる机。あの上なら地中からの奇襲にも、少しは対応できそうね。


「痛ッ…………たい……!!」


 こんな亀のようにのそのそとしか動けない状態じゃ、襲ってこないことを祈るしかないわね。もっとも、机に辿り着いたからって、どうにかなるものじゃないかもしれないけどさ。


 今1番怪我がひどいのは右足。比較的マシな左足も、ほんの1歩動かすだけで目の前に火花が散るような痛みが走る。


「ッ!?」


 血が流れるくらい下唇を噛み締めながらの痛みに耐える移動を繰り返してると、突然足元に青い光の波紋が広がった。


 何コレ……って、そうか地中からの攻撃が防がれたのね。あの時も朱雀さんの呼び出した象っていう動物が、白虎さんを踏みつぶそうとしたときも光ってたのを見て、結界を張ってるんだなって思ったじゃん私。


「参ったわ……こんだけ判断を……間違えてたら……そりゃこうなるか」


 地中からの攻撃さえ防げるこの場所は、もはやあの男と戦うのに最高の場所と言える。答えは既にもらってたのに、何やってんだか……。


 絶対的な地の利は得た。でも、すでに体力の方が限界も限界。目の前もぼんやりとしか見えてないっての。それでも富ちゃんとの約束を果たすため、こんなとこで死ぬとかありえない。


 ……考えよう。どうやれば生き残れる? 晴明さんに助けを求めようにも、そうなると橋姫さんや丑御前、貴人さんが危なくなる。皆で生き残れるなら頭を下げて他人に頼むけど、自分が生き残りたいからって他人を死なすのは絶対嫌。


 やっぱりここはもう、羅城門を片付けた12天将が戻って来るのを待つしかないか。戦うにして……も、履物は無事だけどこの足の状態じゃ蹴りどころか走るのも無理。血吸ちすいは……置いてきちゃったか。


「……はは、ヤッバ。なーんも手札がないや」


 なんとか机までたどり着いたところで、後ろの扉が勢いよく開かれた。男と、その後ろには化けウナギに憑りつかれた遺体が8体。


 1度下から襲おうとしたせいか随分と時間がかかったわね。そんで結界に気づかれたなら、戦力の逐次投入はできないと、残り全員でここに入って来てると考えていいかな?


「……だいぶ……減ってたのね。ただまあ……きっついなあ……」


「ふ、あなたとの因縁、私としてはいい加減断ち切りたいと思っているのですよ余化。あなたがよりかかっている机を墓標にして差し上げますので、どうか永遠に私の前から消えてください」


「お断り……。ってゆうか気安く話しかけて来るあんたは何者なのよ。私は余化さんじゃないから、知らない相手に執着されるの気持ち悪いんだけど」


「私の事を……覚えていないというのか……」


「覚えてない、じゃなくて知らないんだって」


 そう言ってやると、男は眉をしかめながら1度大きく息を吐いて、私の事を睨みつけた。


「なら再びその頭に刻みつけておくといい。私の名は丘引きゅういん。青竜関が総兵、丘引です」


 とりあえず、相手の正体は分かった。分かったんだけど……何も状況は変わらないわね。死ぬ気はないけど、万が一の場合はせめて晴明さんに、京をめちゃくちゃにしようとした下手人の正体だけでも伝えないと。


 私が黙ってると、その反応が気にくわないのか丘引がベラベラと因縁とやらについて話し出した。


「余化。本当に私はあなたの事が気にいらない。私の方が優秀なのに、何故あなたが汜水関の総兵で、私が出城の青竜関の総兵なのか。根城の総兵にはその地方で最も優秀な武官が就くべきだろう」


「…………………………えぇ」


 因縁とかいうから、なんか凄いことだと思ったら、出世競争で負けただけってこと!?


 いや、まぁ。気持ちは分からなくないけど……仕方なくない? そもそも余化さんが上役なら、殺したってことは謀反起こしたわけでしょ? そんな奴が要職に就けないの当たり前じゃん。


 ……でも陸奥守目指すってことはこういう人たちに妬まれる可能性もあるってことね。今後のために頭に入れておいてもいいかも――――。


「ニャーニャー、ぼちぼちタマちゃんの曲が恋しくなってないかニャ? いい加減、影繍鸞刀それ抜いて欲しいニャー」


「――ッ!? 六合りくごう!? あんたまだ動き止められてたの!?」


 いや、貴人さん放っておかないで助けてあげようよ!? ……いや、待てよ?


影繍鸞刀えいしゅうらんとう、だっけ。それってこの結界の張られた場所にも刺さるのね。私にも使える?」


「ニャー? そりゃ相手の影に刺すものだからニャー、影は結界の上に映るから余裕で刺さるニャ。タマちゃんみたいなど素人でも扱える宝貝ぱおぺえだから、多分使えるんじゃねえかニャ?」


 いやど素人って……でも綱にも使えてたんだもんね。


「それじゃ六合。抜いてあげるけど、ひとつお願いしていいかしら?」


「ニャー? 1曲引いて欲しいのかニャ?」


 机の端を掴み腕の力で跳ぶと、なんとか影繍鸞刀の柄に右手を引っ掻けてそのまま引き抜いた。


「ええ、お願い。それも怪我人が痛みを忘れて踊り出しちゃうくらい、激しく、ご機嫌な曲を。1曲と言わずに気が済むまで弾き続けて!!」


「ニャッハー! 最高のお願いニャ! タマちゃんの曲を聞けえええええええーーーーッ!!」


 ベベン! と琵琶の音が部屋全体に響くと、私は影繍鸞刀を手に、驚く丘引たち目掛けて突っ込んだ!

注・本来の汜水関総兵は韓栄で、余化はその配下です


【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。

【貴人】――12天将の1柱。天1位。千年狐狸精。殷では蘇妲己を名乗った安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。

【余化】――余元(青竜)の弟子。殷の武将で、汜水関の総兵。

【丘引】――饕餮を崇める者。殷の武将で、青竜関の総兵。

【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【汜水関】――封神演義の中に登場する殷の防衛拠点の1つ、青竜関と佳夢関という2つの出城を持つ。現実の汜水関(=虎牢関)は春秋時代に作られたもので、殷の時代にはない。

旗袍ちーぱお】――チャイナドレス。本来は満州人の衣装で、中国に入るのは清の時代以降。

*【羅城門】――平安京の南門。実際はフランスの凱旋門みたいに門だけが置かれてる感じだったが、この世界では穢物対策で城壁で囲まれているため、ちゃんと門としての機能がある。

*【血吸】――頼光の愛刀。3明の剣の1振り顕明連。

【総兵】――地方の鎮守に当たる軍の司令官。

【出城】――根城から出して要地に設けた小規模の城。

【根城】――出城に対し、根拠とする本城。

*【影繍鸞刀】――王貴人(玉石琵琶精)が西岐軍と戦った時に繍鸞刀を使ったとアラクシュミが複製した封神演義に書かれていたのを、混沌(観測者)がノリと勢いでオリジナルの宝貝として仕上げたもの。影に突き刺すとその持ち主の動きを封じられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ