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【源頼光】船岡山の戦い その1

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「すいません、晴明さん。援軍を出していただいた上、部屋まで貸していただけるなんて」


「いえ、本来なら屋敷の方を使っていただこうと思ったのですが、なにぶん新しい鬼が屋敷に出入りしてると思われるのは避けたく……。船岡山の空き部屋になってしまい申し訳なく思います」


「あはは、そんなこと言ったら、ウチの屋敷もすぐ近くなのに、丑御前を連れて入れないこっちの都合の方が問題なんで」


 疲れ果ててたのか、私の背中で寝息を立てる丑御前の髪を、横から優しく撫でる橋姫さま。


 羅城門に遺体があったことで、他にも抜けがあった場合、大枝山の拠点に帰ったら危険かもしれないと考えた晴明さんの提案を受けて、私たちは一条戻橋から船岡山に続く地下通路を進む。


「それにしても大裳たいもは大丈夫ですか? 羅城門に置かれてた遺体は全て硬直が解けてましたけど」


「はい、偵察だけに留め、交戦はしないようにと厳命しておりますので。羅城門が死体の集積所となっているというなら、急いで延平門と延興門も確認する必要がありますからね」


 長い通路を抜け扉を開けて中に入ると、そこにはうつらうつらと揺れる貴人さんの姿があった。そんなに眠いなら寝てればいいのにと思わなくもないけど、そこは母親。晴明さんのことが心配だったのね。


 晴明さんの姿を見つけると、眠気を覚ますように素早く首を振って近寄って来た。


「帰って来たのね。……って、あら? 他の者たちは?」


「ただいま戻りました母上。予定の場所の攻略後、他にも警戒すべき場所が見つかったため、12天将の方々にはそちらの警戒に当たって頂いてます。私だけ先に戻ったのは、こちらの源頼光殿たちにお休みいただく場所を案内に――――――……」


「なるほどなるほど。予想はしておりましたが、やはりあなたが全知神の邪魔をするのですね、源頼光。邪神の手足となり、世界を混沌に導こうとする愚か者」


「――ッ!?」


 いきなり声をかけられて振り向くと、そこには坊主頭で、おでこにハチマキのように紫の布を巻いた男が、一条戻り橋に通じる通路を塞ぐように立ってた。


 一瞬、12天将で唯一、まだ会ったことがない勾陳こうちんさんかと思ったけど、晴明さんと貴人さんが明らかに警戒してる。そうなると、その線はないわね。


 というより、思い切り全知神が云々言ってるんだし、今回の事件に関係してる可能性がめちゃくちゃ高い。


「晴明さん」


「ええ、気をつけてください」


 状況から考えて、あの通路を後ろから付けられてたとしか思えない。


 でもそんなことある? あの地下通路は曲がり角も、隠れる場所もない一本道。私にも晴明さんにも気づかれないなんて出来るのかしら? 逆に言えば、それを出来るということは、あまり強そうに見えない目の前の男は、見た目じゃ測れないほどに警戒すべき相手ってこと。


 晴明さんに声をかけて、彼女も私と同じ認識だと確認し合ったところで、貴人さんが金切り声をあげた。


「この曲者め! ここがどういう場所か分かってるわけ!? どこの誰だか知らないけど、ここで無礼な真似をしたら、けちょんけちょんにされてポイよ!」


「それは恐ろしい。ですが、かつて紂王陛下に登用され、あなた様にもお目通りしたことのある身としては、覚えられていないのは少し寂しいですな、蘇妲己そだっき様」


「――――な!? なんでその名前を知っているのよ!?」


 あの言い分だと貴人さんと知り合いなのかな……? それでも言葉とは裏腹に、その響きからは親しみを感じないどころか、馬鹿にしたような印象を受ける。


 背負ってた丑御前を橋姫さまに預けて、腰に帯びた血吸ちすいに手を伸ばしたところで、貴人さんの方を向いてた男の顔がこちらに向かい、ばっちりと目が合った。


 すると一瞬目が大きく見開いたと思ったあと、何かを察したような顔つきになって首を横に振る。


「……なるほど、そういうことでしたか。名を変えてまで全知神の邪魔を続けようとする、あなたの執念には頭が下がる思いですよ余化。汜水関においてこの手で始末したつもりでしたが、道士という者は実にしぶとい」


「またその名前? そんなことより、全知神がどうのこうのってさ、京中に置かれてた化けウナギが棲み着いた遺体はあなたが関わってるように聞こえるんだけど? それで合ってる?」


 余化……ってのは例の朱雀さんが可愛がってたっていう孫弟子よね。師匠筋の朱雀さんと青竜に間違えれられてる時点で相当似てるんだろうけど、今度は殺したとか言うのが出てきてびっくりするわ。


 私が今回の事件について尋ねると、悪びれもせずに男が答える。


「その通り、私が全て手配しました。全知神を貶める邪神が、あなたという使徒を放って人間界に本格介入しようとするのを見て、人を守るため全知神が重い腰を上げてくださったのです。しかし、全知神を憎むあまりに邪神にかしずくとは、あなたの執念には本当に恐れ入る」


 んん……? なんか賢ぶってるけど、正直何言ってるのか分からないわね。その名前とは裏腹に、大陰さんからクソ馬鹿とまで言われた全知神。それを信仰してる人も似た者同士なのかもしれない。


「まあいいわ。あなたが首謀者というなら、のこのこ姿を現してくれてほんとに助かるわ」


「頼光殿、この者には聞きたいことがたくさんある。殺さずに捕縛したい」


「ええ、最初からそのつもり――――です!」


「なに!? 速――――」


 化けウナギと違って、完全に生きてる人間。殺す必要がないってだけで、ものすごくやりやすい!


 通路から逃げられたらかなわないから、壁を蹴って後ろに回り込んで退路を塞ぎつつ、血吸を峰打ちに薙ぎ払うと、直撃を受けた男は壁に向かって吹き飛んだ。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。

【貴人】――12天将の1柱。天1位。千年狐狸精。殷では蘇妲己を名乗った安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【船岡山】――平安京の北に位置する標高112mほどの低山。地下に大空洞があり12天将と呼ばれる式神たちが拠点としている。安倍晴明の屋敷にほど近い一条戻橋と地下通路でつながっている。

*【羅城門】――平安京の南門。実際はフランスの凱旋門みたいに門だけが置かれてる感じだったが、この世界では穢物対策で城壁で囲まれているため、ちゃんと門としての機能がある。

*【延平門】――京の城壁の西にある、作中にのみ存在する架空の門。史実の平安京は南の羅城門のところにだけちょこっとあるだけで、城壁に覆われていない。

*【延興門】――京の城壁の東にある、作中にのみ存在する架空の門。六条大路で延平門と繋がっている。

*【血吸】――頼光の愛刀。3明の剣の1振り顕明連。

*【汜水関】――封神演義の中に登場する殷の防衛拠点の1つ、青竜関と佳夢関という2つの出城を持つ。現実の汜水関(=虎牢関)は春秋時代に作られたもので、殷の時代にはない。


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