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【源頼光】羅城門の鬼

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「がるるー! Burn them all! Burn them all!!」


「いやいや、羅城門燃やすのは洒落にならないから! 絶対めちゃくちゃ怒られるヤツだから!」


「あははー、怒られるだけで済むわけないんだよなー。とはいえ貞光さー? ここは確認してなかったわけ?」


「ええ、すいやせん。京の中の捜索ということでしたので、境である城壁は盲点でありやした」


「そうお願いしたのは私だし、気にすることないわ。さて、中はどうなって――――……」


 騒ぐ火車を抑えながら城楼の扉を開ける。するとそこには虎熊の身長を少し超える高さまで、遺体が重ねられた山が出来てる。


「あらあらまあまあ」


「……これはさすがに燃やした方がよくないか?」


Well said(良く言った)! 酒呑もたまにはいいこと言う、デス!」


「でも茨木ちゃんの家を燃やしたとき、炎に包まれながらも出て来たじゃない。一斉に動き出したら大変よ」


 入り口まで溢れてるせいで中が確認できないんだけど、ひと山15人くらいの遺体の山が、部屋全体にあるとするなら……これ1000を超えるんじゃ……?


「然り。そも古の昔、大内裏の応天門が紅蓮の焔に包まれし折、数多の悪辣なる者が大逆罪として他国へ流されり。それに倣うは愚の骨頂」


「あははー、それも罪を一等許されてだからねー。死罪もあるよー」


「……とにかくこのまま燃やすのはダメってことね。それじゃ私がひとつずつ外に出すから、都度処理してもらって……いや、動き出す前に首を落とすなら私でもできるかな?」


「それで吐かれても迷惑だから、外に出すだけにしとけ」


 まあ、迷惑がかかるのは向こうだし、従うしかないか。


 にしても、どれくらいの衝撃で化けウナギが目覚めるのか分からないから、なるべく丁寧にやらないといけないわね。


「とりあえず正面に掘り進めて道を作って、荷車で運び出すか。出してもらえる?」


「Of course」


 ヘロヘロだったはずの火車だけど、この状況にはやる気が溢れてるようで、気力が充実してるのが分かるわ。


 とはいえ、中に入って力仕事するよりかは外に出したものを処理してもらった方がいいか。死体だけなら、特殊な火で燃やせるけど、化けウナギが中で巣食ってる状況は直火で焼かないとダメってのが面倒なのよね。


「ニャーたちも手伝うニャ」


「ありがと、助かるわ」


 とりあえず1番手前にある山の上から、遺体を持ち上げると、その腕がだらりと下に下がる。


「あれ……これもしかして……」


「硬直、解けてる、デスね」


 ちょっと待って。1番手前にあるのでもってことは……当然これより奥のはさらに古いものってことよね? となると、なおさら作業は慎重にやららないと――――。


「いいから投げろ頼光。タラタラやってたら夜が明けちまう」


「え~……。まあ、これだけ揃ってれば大丈夫か」


 虎熊が大丈夫ということで、ぽいぽい投げ飛ばすと、地面に叩きつけられた衝撃で「GASYAA!」ってな感じの化けウナギの叫び声と、戦いの音が聞こえて始める。


 戦いというよりかは投げられた遺体が目を覚ます前に、頭を潰すような感じでやってるみたいだけど。


 後ろを見たらまた戻しかねないし、とにかく前を見ながら荷車が通る道を作る様に、どんどん遺体を投げ続けると、後ろから聞こえる音も少しずつ楽しそうなものに変わってく。


「ちょっと待った頼光ッ! 速すぎて処理が追いつかない! 普通に強くてこれ以上増やされるのはヤバい!」


「やれやれ、泣き言ですかい。頼光様の期待に応えられずして、何するものぞ」


「いや、貞光。これは私が悪かったわ。それにしてもこの数、京周辺で集めたのかしら? 12天将の目が光る中、どうやって運び込めたのかも分からないし、本当に謎ばかりね」


 とりあえず扉をくぐって正面に進み、部屋の奥までの遺体を運び終えた。


 左右にはまだ数百ずつの遺体の山が残ってるし、ここでするべきことは、まだまだ序盤も序盤。


 ただ、少し速度を落として投げた遺体が立ち上がる前に、首を落としてを繰り返してるから危険はないかな。


「おい頼光! つまんねえぞー。俺様の分は別に投げろや」


「もー、あっちを立てれば虎熊こっちが立たずね。どれもこれも硬直解けてるんだから、雑に扱って一斉に動き出したらヤバいって分かるでしょ? って、うわ。これなんてまだ温か――……」


 向かって右側の山を崩していき、下の方にあった体の腋の下に手を突っ込むと、その両手に伝わる確かな体温。


 まるで生きてる体を持ち上げた気分に、なんとなくその顔をまじまじと見ると、生傷だらけの赤い顔に青いボサボサの髪。おでこの右側には黒光りした角が弧を描く様に伸びて、左側は根元で砕かれてる見覚えのある顔。


 生気のない赤い目が私の目とばっちりあったと思ったら、気まずそうに視線を横に逸らした。


「いたあああああああああああああああ!!!??」


「どうしやした! お怪我でも!?」


「噛まれでもしたか? もう今日はこれ以上、火車に治療を頼めねえんだから怪我には注意しろよ」


「……というより部屋の中でその大声、まずくない?」


 色々私の事だったり状況だったりを心配する声が飛ぶけど、それどころじゃないって!


「そうじゃなくて、いたの!! ほら! 丑御前!!」


「はあ!? マジじゃねえか! なんつう場所に隠れてやがんだテメエはよお!!」


「いやそれよりも丑御前、あなた体は大丈夫なの!? 化けウナギに入られてない!?」


 そう問いかけても何も言わない丑御前。でも逸らしてる目の端からは涙がポロポロ零れ落ちて、下唇をきゅっと噛む様子を見る限りは多分化けウナギの心配はなさそう。


「頼光!! いいからまずは部屋を出ろ!! 大声のせいで周りの死体が動き出してる!!」


 ――ッ! 予想外の出来事でも、さすがに迂闊すぎでしょ私!!


 慌てた様子の綱の声に辺りを見渡すと、部屋に置かれた遺体がゆっくりとその身体を起こし始めてた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【羅城門】――平安京の南門。実際はフランスの凱旋門みたいに門だけが置かれてる感じだったが、この世界では穢物対策で城壁で囲まれているため、ちゃんと門としての機能がある。

【大内裏】――平安京にて天皇陛下のおわします場所。行政施設や祭事を行う殿舎がある。

【応天門】――大内裏にあった門のひとつで焼失した。その理由が放火であるとされ、伴大納言とそのその親族らが連座で各地に流刑になった。


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