表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/175

【源頼光】饕餮対策 その4

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「そうっすねー、この中で饕餮とうてつの思考回路を理解できるとしたら、天空と火車くらいっすかね。他の人たちからしたら、正直マジで意味分かんないんじゃないっすか?」


「What? どういう意味、デス? ……! まさか、主の教えが間違ってるとか、言うつもり、デス? その身体にじっくりと、教え込む必要ある、デス?」


「はいはい、期待通りの反応ありがとうございます。火車の神様が間違ってるか間違ってないかは関係なくて、『たとえ間違ってても、それを認めない。神は絶対正しい』ってのが饕餮っす」


「いやでも、今を生きる人が猿とは違うって見れば分かりますよね? なのに絶対正しいって……」


「そこが哀れというかなんというか……」


 そう言うと大陰さんは肩をすくめて1度言葉を切った。


「先輩の談なんすけど、知力担当だけはある意味可哀そうって言ってたっす。神と同じ知識を与えられ、もう新しい知識を入れるのも不可能なくらい脳みそ使ってるって。それなのに世界は常に変化して、知識を更新しなきゃいけないのに、どれが変わったのかを理解する余裕もないとか。武力担当は伸びしろはあったし、統率と政治に至っては、そもそも天界が神と神獣合わせて100に満たないから、最高神自身が統率力も政治力もそれほど要求されないせいで皆無だとか」


「ふーん……聞くだけだと、ある意味1番神に大切にされてるとか思いそうな立場だねー。同僚は無能で自分は有能。だからこそ自分の拠り所である、神と同等の知識が間違ってるとは絶対に認められないって感じかー」


「愚かな話だ。その地域の最高神とて自分が絶対の存在であるとは思っておらぬだろうに。この世に絶対があるとすれば、それはルチャのみよ!」


「あぁ……なんて謙虚な……騰虵とうしゃお姉さまこそ絶対の存在だというのに、それを否定なさるなんて……。あまりにもかっこ良すぎて鼻血が止まりませんわー」


 これも主の否定に繋がりそうなのに、火車が怒りそうなのにその気配がない。さっきから騰虵さんには判定甘いのよねー。


「ちなみに大陰殿。その饕餮には信者のようなものはいないのか? 猿を相手にするつもりで陽動などの作戦を立てるものか? いやそれ以前に、聞く限りではその者が生み出された時は、まだ戦争というものが無い時代。つまりは戦術も無いだろう」


「それに関しちゃはっきりしないすけど、先輩が言うにはよっぽどの事がない限りは、自分で動くことはないんじゃないかと。あと陽動とかは考えてないと思うっすよ。空いてる小屋に押し込んで、万全の状態になるまで待ってるだけ。『死体に憑りつかせたら、これくらいの動きができる』って基準があって、その状態にならないと気持ち悪い程度だと思うっす」


「さっきから出て来る先輩って誰? 気になるんだけど」


「貴人は知らないんじゃないすかね。殷に王者が誕生したのを祝うために、生み出されて派遣されたから天界にいた期間も短いし。私の本来の目的を手伝ってもらってる方で、うっかり4凶に目を付けられたら危険なので秘密っす」


 しぃーっと口の前に人差し指を立てる大陰さん。味方だっていうならしかるべきときに紹介するだろうから今は秘密でいいんじゃないかな。


 そんなことより急ぎではあるけど、若干余裕が出て来た化けウナギの退治を始めないと。


「今の話だと、動きが万全になったのを逐次暴れさせるというよりは、全体の硬直が解けるまで待って、一斉に行動を開始するのかも。1番最近殺された遺体の硬直が解けるまでが期限かしら」


「そうじゃのう。だが注意も必要じゃ、逆に動き出してはいないものの、すでに硬直が解けてる可能性もあるからの」


「はっはっは! それはそれでよし!」


 もう1度皆で地図を覗き込む。結構ばらばらに離れてる印に、誰がどこに行くか話し合おうというとき、何かに気づいたように大裳が「むむ!?」と声を上げる。


「ご主人、こいつぁ……間違いねえ! この印がついてる場所は、全部左大臣の派閥に属する連中の屋敷や別荘だぜ! 玄武が言ってるみてぇに、左大臣の派閥の人間で、その饕餮って奴を信奉するヤツがいるんじゃねえか!?」


「………………いえ、さすがに動きがあからさますぎるので、罪を擦り付けようとしているのではないでしょうか。初めに体を乗っ取られた播磨権守・源経房は、右大臣・道長殿の側室である高松殿の実弟ですからね。……頼光殿は左大臣派閥だったはずですが、何か噂で聞いたりは?」


「いや~……正直、道満さまの下についてるだけで、派閥に入った気は~……その道満さまなんですけど……」


「ん~、頼光ちゃんたちが出かけてすぐに、あの大きな公時ちゃんという方を連れて出かけてしまったわね~」


 ……そうなのよね~。だから色々物騒な空気を感じる中、橋姫さまを1柱大枝山に残すことができないからこうして一緒に行動してるわけで。


 大陰さんの話のせいで、普通だったら謀略だろって疑うとこも、この相手ならやりかねないって思っちゃうのよね。


「正直左大臣派閥の方々の動向は分かりません。でも1つだけ、これだけは自信を持って言えることがあるんですけど、道満さまが関わってる可能性だけはあり得ません。私はそう信じてます」


 そう言い切ると、晴明さんは「そうですか」と呟いて納得した様子だったけど、傍にいる大裳の顔はみるみる赤くなっていく。


「あの野郎のどこに信用できる要素があるってんでぇ! あの野郎がご主人に何したか知らねえくせに――!」


「よしなさい大裳。すみません頼光殿、その根拠はございますか?」


「関わってたら絶対、すでに京が大騒ぎになってるはずなので」


「間違いねえな」


 まあ、こそこそ何かやってるんだろうなーとは思うけど、能力面じゃ信用できない要素がない人なんで。実際、姫路もなんかドえらいことになってたし。


 道満さまの事を良く知ってる綱と酒呑が、うんうんと首を縦に振ってるのを見て、渋々といった形で引き下がった大裳を確認して、全員に聞こえるようにひときわ大きな声を出す。


「とにかく、罠とかそういうんじゃないなら、いい加減動きましょ! さっき朱雀さんが良いこと言ってました。巧遅は拙速に如かず、今は早く動かなきゃいけない時なのに、少しのんびりし過ぎです!」


「Yes、今更の言い分、ありがとう、デス。死体が積まれてる、迅速に燃やす、正義、デス」


「それでは、部隊を6つに分けましょう。貞光殿、それぞれの場所の数は覚えておられますか」


「ええ、正確な数ではありやせんが、規模程度でしたら」


 そう言って貞光が地図に付けられた丸の横に、大・中・小という字を書き足した。


「よし。それではわしらは東南にある大規模拠点を潰すとするかのぅ」


「……えーと。そろそろ放していただきたいんですけど……?」


「申し訳ない。私も同行して目を光らせますので、今夜だけは付き合ってやってください」


 朱雀さんが椅子から立ち上がったものの、私を放してくれる気配なし。もう仕方ない、為すがままに任せよう。動き出す前に燃やせれば、ただの火葬だけど、動いてると戦いづらいからあまり戦力になれないし。


 それから話は進んで、綱・貞光・季武で1班。酒呑・虎熊・橋姫さまで1班。騰虵さん・天空さん・火車で1班。大陰さん・白虎さんで1班。晴明さん・大裳で1班、と6班に分けられた。


「ニャー? タマちゃんの名前がどこにも入れられなかったニャ? それよりそろそろ影繍鸞刀それ抜いて欲しいニャ」


「申し訳ありません六合様。六合様は正直邪魔なので、ここで母上と留守番をお願いいたします」


「待って晴明。私も邪魔者って事かしら?」


 貴人さんの問いかけに晴明さんは何も言わずにただニコッと笑うと、地図を囲む皆の方に向き直る。


「それでは皆様方、くれぐれも油断なきようにお願いいたします。各拠点制圧後はここに――……いえ、夜もだいぶ更けております上に、ここには客を泊める設備がありませんからね。摂津源氏の皆様方も襲撃後はお休みになりたいでしょうし、京のどこかで成否の確認だけするとしましょうか」


「ならばわしらの所じゃな。京の端で人目もつきにくいし丁度ええじゃろ」


 こうして襲撃後の集合場所も定まると、それぞれが決められた場所に向けて走り出した。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。

【貴人】――12天将の1柱。天1位。千年狐狸精。殷では蘇妲己を名乗った安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。

【騰虵】――12天将の1柱。前1位。角が生えたマッチョウーマン。

【朱雀】――12天将の1柱。前2位。金霊聖母。余元・聞仲の師匠。截教のNo.2にしての求道派と呼ばれる派閥の長。

【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。

【勾陳】――12天将の1柱。前4位。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の1番弟子で怠惰のドラゴン。

【天后】――12天将の1柱。後1位。天狐。狐耳1尾の麗人。貴人と違い大物感が漂う。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。

【玄武】――12天将の1柱。後3位。聞仲。金霊聖母の2番弟子で元・殷軍最高司令官。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。

【白虎】――12天将の1柱。後5位。元・殷の道士。過去に陸圧道人に1度殺されている。

【天空】――12天将の1柱。後6位。鶏のアクセサリと深紅の羽衣がトレードマーク。騰虵大好き。

【鴻鈞道人】――宝貝を配って戦争を激化させた戦犯。混沌の創り出した観測者のこと。周の武王には感謝されている。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【4凶】――世界をめちゃくちゃにしたとして、指名手配中の大戦犯。鴻鈞道人(混沌)・陸圧道人(アラクシュミ)・スクルド・檮杌の4柱を指す。

*【影繍鸞刀】――王貴人(玉石琵琶精)が西岐軍と戦った時に繍鸞刀を使ったとアラクシュミが複製した封神演義に書かれていたのを、混沌(観測者)がノリと勢いでオリジナルの宝貝として仕上げたもの。影に突き刺すとその持ち主の動きを封じられる。

*【大枝山】――京の城壁を西に出た先にある標高480mの山。中腹に摂津源氏の京に置ける拠点がある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ