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【源頼光】饕餮対策 その3

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 突然現れた大陰さんを見て、寝てるとこを起こされて眠かったのか、ずっと舟をこいでた貴人さんが大きな声を上げた。


「大陰! あなたこの前の六合たちの騒動の時に1度姿を見せたそうだけど、何でこっちに顔を見せないわけ? こそこそ、こそこそ報告もしないで何してるのよ!」


「いやいや、大裳と六合送り届けたじゃねっすか。あん時も夜遅かったから、お前が寝てただけで」


「大陰様のおっしゃってることは本当ですよ母上」


「ついでに何してるかって聞かれたら、4凶の捜索に決まってるじゃねえっすか。晴明と大裳は京の治安維持を1番に考えてるけど、私たちの目的は同じはずっすよ? ここから出ないで食っちゃ寝してるポンコツ狐に言われたかないっての」


 やりこめられて口をパクパクさせる貴人さんから目をきると、コツコツと足音の鳴らしながら広げられた地図に使づいてくる大陰さん。そこに朱雀さんが真面目な声で尋ねる。 


「ふむ。その言い方じゃと4凶に関して何か掴んだのか、と聞きたいところじゃが、先ほどの言い方だと今日戻ったのは饕餮とうてつについてかの?」


「そうっすねー。以前注意を促した手前、色々それに絡んだことが起きてるのを見たら手を貸そうかと」


 ふむ。4凶ってのは以前に12天将たちが追ってるって聞いた、悪い奴って話だけど、例の暦にもなってる鴻鈞道人という仙人も含まれてるらしいからややこしそうなのよね。


 変に関わっても迷惑かもしれないから、とりあえず今は饕餮って奴に集中しないと。


「化けウナギについて晴明さんにお話しした時に、名前と『全知』っていう異名は聞いたんですけど、結局どういう奴なんですか? 誰も良く知ってる人がいないせいで、姿がはっきり浮かばないというか」


「ああ。『全知(笑)』って異名に引っ張られてるせいっすね。でも話ってある程度知能が近くないと成立しないっすからね。饕餮の思惑なんて普通の人間に分かるわけねっす」


「俺様たちが馬鹿だって言いてえのか、ムカつくな。敵の肩を持つ意味も分かんねえ」


「全ク同意見ダゼ。イケ好カネエ野郎ノ顔拝ンデ、拳叩キ込ンデヤリテエナ!」


 まあ全て知ってる相手からしたら、私たちが頭悪いのは当然なんだけど、いきり立つ虎熊と外道丸。そんな2柱に向かって大陰さんはあっけらかんとした態度で返した。


「あ、逆っすよ。下の方に知能の差が開いてる奴なんで、賢くて話が通じないわけじゃねっす。はっきり言ってクソ馬鹿っす」


 その発言の意味が飲み込めず部屋の中から会話が消えて、鍾乳石から落ちる水滴の音だけがやたら耳に響いた。


 ……いや、うん。なんか『全知』って言ったとき馬鹿にした響きはあった気はしたのよ?


「それはどういう意味でしょうか? 私は直接対峙したことがあり、心当たりはありすぎるので否定できませんが、それではなぜ、そのような異名があるのか理解ができません」


「うーん、天界にいた時にお世話になった先輩の評なんすけどね。話は女媧サマが自分を補佐する4極柱を生み出した時までさかのぼるっす」


「時間があまりありませんので、簡潔にお願いします」


「そう言うても情報は大事じゃろ。まあ、大陰と知りうてから2000年になるのに、なんで今まで話しておらんかったとは言いたくなるがの」


「いやー、4凶ならともかく、全知(笑)は出てきたらで十分かなって。ぶっちゃけ鴻鈞道人と陸圧道人以外は興味なかったすよね?」


 指摘が正しかったのか朱雀さんが黙るのを見て、大陰さんはコホンと咳払いをして続きを話し出す。


「4極柱――女媧サマ同等の統率力、武力、政治力、知力を持つ神なんすけど、その知力担当が饕餮っす」


「Woops、最高神と同等の知力持ってバカ、デス? 我らが主とは偉い違い、デス」


「まあそれには訳があるんで最後まで聞いて欲しいっす。ほら、騰虵とうしゃは知ってると思うっすけど、人間って元々猿じゃねえっすかー?」


 あらま、良い人だと思ってたのに、いきなり人間を見下すようなこと言ってくるわね……。丑御前を初め鬼の中には人間を甘く見てるのもいたけど、まさか猿呼ばわりされるなんて思ってなかった。


 私たちだけじゃなく、12天将の中の仙人様たちの空気もピリッとしたのを感じたのか、慌てた大陰さんは両手を前に突き出して振りながら言葉をつなげた。


「人間を馬鹿にするとかそういうんじゃなくて……これは納得してもらうの難しいんすけど、1万年前くらいまでは、マジで人間って猿だったんすよ。いや本当に。こればっかりは、その時代を知らないと信じられねえとは思うっすけど――ねえ、騰虵」


「はっはっは! ま、荒唐無稽だが嘘ではない。猿の中の賢いヤツらに火と文化ルチャを教え込み、それが長い年月をかけて人間へと進化を遂げたものよ!」


「ね? ね? ね? 騰虵もこう言ってるし信じてくださいよ。唐国うちの場合は女媧サマが木に雷が落ちて生じた火を使い始めた猿を見て、なんか気に入ってこのヒトを次代の万物の霊長とするとか言い出したそうっす。ウチの主神ながら、ちょっと何言ってるか分かんねえっすけど、その手伝いをするのに造られたのが4極柱。ここまではいっすか?」


「まあ、とりあえずそう言うものとしておきやすが、わざわざその話をする必要あったんですかい? 人間が多い中でもともと猿だったと言えば、不快に思われるのを分からないわけじゃありやせんでしょうに」


 貞光の言葉に私たち人間と仙人様がうんうん頷くと、大陰さんは真面目な顔で答える。


「いやいや、関係大有りっすよ。この女媧サマの認識が『人間は火を使う猿』っていうときに生み出されたってのが何よりも重要なんすから。つまり、同党の知識を持つ饕餮の認識も同じなんす」


「え、でも1万年前の話でしょ? 自分で言うのもなんだけど、私自身この数カ月で別人ってくらい成長した気がするし、どんな怠け者でも成長しないってことはないわよ? 火を使うこと覚えたなら、それを応用していくのが人間じゃない。そもそも見た目すら今や猿とは似ても似つかないし」


 私だけじゃない、綱も橋姫さまの件で懲りたのか最近は後ろを取られても我慢出来てるし、茨木ちゃんは肝が据わってきてるし皆変わってる。人間に限らず、鬼だってそう。 


 そんな当たり前のことを言っただけなのに、それを否定するように大陰さんは首を横に振った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。

【貴人】――12天将の1柱。天1位。千年狐狸精。殷では蘇妲己を名乗った安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。

【騰虵】――12天将の1柱。前1位。角が生えたマッチョウーマン。

【朱雀】――12天将の1柱。前2位。金霊聖母。余元・聞仲の師匠。截教のNo.2にしての求道派と呼ばれる派閥の長。

【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。

【勾陳】――12天将の1柱。前4位。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の1番弟子で怠惰のドラゴン。

【天后】――12天将の1柱。後1位。天狐。狐耳1尾の麗人。貴人と違い大物感が漂う。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。

【玄武】――12天将の1柱。後3位。聞仲。金霊聖母の2番弟子で元・殷軍最高司令官。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。

【白虎】――12天将の1柱。後5位。元・殷の道士。過去に陸圧道人に1度殺されている。

【天空】――12天将の1柱。後6位。鶏のアクセサリと深紅の羽衣がトレードマーク。騰虵大好き。

【鴻鈞道人】――宝貝を配って戦争を激化させた戦犯。混沌の創り出した観測者のこと。周の武王には感謝されている。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【4凶】――世界をめちゃくちゃにしたとして、指名手配中の大戦犯。鴻鈞道人(混沌)・陸圧道人(アラクシュミ)・スクルド・檮杌の4柱を指す。

*【4極柱】――女媧が生み出した側近というべき神々。統率の窮奇、武力の檮杌、知力の饕餮、政治の混沌。

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