【源頼光】饕餮対策 その2
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
さて、真面目なお話をしようって時なんだけど……どうしたらいいものやら。
「ん? どうしたかの。何かいて欲しいことがあるなら、何でも私に言うてごらん」
お互い初めましての人がいたから、簡単な挨拶を済ませたところだけど、私は朱雀さんにがっしり抱きかかえられて膝の上に乗せられてる。
「…………本当に申し訳ない。普段はこうではないのだが」
そう思うなら引き剥して欲しいんだけど、玄武さんは口で謝るばかりで何かしようとはしない。たしか私によく似てたっていう孫弟子さんも、絡みがしんどいとか愚痴ってたそうだけど、気持ちは分かる。
てゆうか、完全にうちの親父にやられてたことだわコレ。部屋に閉じ込めるとかよりずっとマシな行動なだけに、どこまでやっていいのやら。
「ハッ! 何が青竜と六合は12天将の面汚し、だ。自分が1番の面汚しと分からねえとか、マジでボケたのかクソばばあ――――うおぉぉぉぉおおお!?」
「ほれ、見てみい。象さんじゃ。見るのは初めてかえ? 可愛いのう」
「いやぁ……あははは……そうですねー……」
「……やってることは全然可愛くねえんだよなぁ」
突然現れた3匹の大きな体につぶらな瞳の動物。どっちかっていうと小動物の方が好きだけど、実際これはこれで可愛い。
……ただ、酒呑の言う通りパオパオ叫びながら、朱雀さんに意見した白虎さん目掛けて踏みつけ攻撃を続ける姿は可愛くないわ。てか何この動き? とんでもない巨体なのに、公時に強化されてた時の熊よりキレッキレなのはさすがにどうなの?
問題なく捌けると思ってそうな虎熊と、純粋に可愛いと思ってそうな橋姫さま以外は、摂津源氏の連中ドン引きなのよね。
大きな足で踏みつけられた地面から青い光が走るだけで、崩れたりしないのは結界でも張ってあるのかしら。今まで見てきた結界は外からの侵入を防ぐものばかりだったから、これは新鮮ね。単純に踏みつけを寸前で止めてる可能性もなくはないけど、響き渡る大きな音がそれを否定してる。
「朱雀様。申し訳ありませんが重要な案件ですので、頼光殿からすぐにでもお話を伺いたいのですが」
! さすがは晴明さん、お弟子さん方が頼りにならない以上、この助け舟はすごく助かります!
「そうですね、それじゃ早速……って何で!? 全然力入れられてないのに、動けない!?」
「ははは、話ならこの状況でもできるじゃろうて。のう?」
「あ、はい」
「本当に、重ね重ね、師が申し訳ない」
玄武さんから何回目から分からない謝罪を受けると、自然と口から諦めのため息が漏れた。
側にいるだけで強さが駄々洩れな騰虵さんと違って、あまりにも自然と溶け込んでるせいで全く強さの全貌が分からない。玄武さん曰く、全ての仙道たちの祖とも言うべき鴻鈞道人という偉い仙人と並び得る仙人って評価が、唯一の強さの指標かな。
今は仙人にも知り合いがいるけど、以前の私でも知ってた暦にもなってる古代の大仙人と同等となればある程度凄さは分かるかな……。うん、今の私じゃ脱出は不可能と考えよう。
「はあ……仕方ない、貞光」
「はッ!」
私の呼びかけに答えた貞光が床に大きく京の地図を広げた。ちなみにさっきまで貞光を呑み込んでた蛇丸は騰虵さんが怖いらしく、貞光を吐き出した後は広間の隅で縮こまってる。
その地図を見ようと席についてた12天将たちが立ち上がって近づいて中、残念ながら朱雀さんの席の目の前に広げた結果、私は今なお膝の上なのがなあ。貞光としては私が座ったままでも見える位置に広げてくれたんだろうけど、あえて遠くで広げてくれればよかったのになあ。
「さて、手前が死体を見つけた場所ですが、こちらにこちら――――と、計6か所となりやす。放置されてる死体の数は合計で3桁にのぼると思われやす」
「Unbelievable。その数の死体、見つけて燃やさない。正気、デス?」
「申し訳ありやせん。丑御前殿の捜索の任を受けておりやしたし、手前にとって京に死体が転がってるのは日常でありやしたので……」
「あははー、これは失態だねー」
「いやいや。私たちだって火車が茨木ちゃんの家を燃やしたからこそ気づけたわけでしょ? それに蛇丸に飲み込まれた状態の貞光じゃ外に干渉できないんだから、見つけてくれたってだけで十分お手柄よ」
貞光を責めようとする綱と火車を窘めると、感謝に頭を下げる貞光を見ながら晴明さんも頭を下げて来る。
「そもそもこれは京の盾たらん私たちがまず気づくべきこと。私たちこそ責められるべき話です」
「ご主人のせいじゃねえや! あっしこそ、ご主人の目となり耳となり鼻となりしなきゃいけねえのに、気づけなかったんだからよ!」
「Shut up。今語る、誰が悪いじゃない、デス。Burn them all、京の死体、全部燃やす算段、たてる、デス」
「火車殿のおっしゃる通りですな。幸い摂津源氏の皆さまも含め、こちらの戦力は十分すぎるほど揃っている。手分けして片付けてしまいましょう」
「急ぐことか? 時間をかければより強くなるというのならば、我としては待ってやろうと思うのだがな!」
「きゃー! さすがは騰虵お姉さま……。下賤な蟲風情にも寛大ですわー!」
「俺様も同意見だな。茨木での戦闘はどうにも不完全燃焼だったからな。完全に死体を操れる状態ってのがどれほどなのか、試してみてえぜ。別に金霊聖母が相手でもいいんだが……なんかやる気削がれちまったしな」
おいこら、そこは闘いたいって言いなさいよ。宇治橋ではあんなに闘いたいって言ってたじゃない! 私を助けると思って!
「戦いが好きな方がそう思うのは仕方ありませんが、数は敵の方が圧倒的に多いのに加えて街中なのです。討ち漏らしたり、範囲の広い攻撃で巻き添えを受けるのは、全て京に住む民たち。それをよく考えていただきたい。すでに何人も殺されたうえで饕餮の蟲の依代とされている状況、これ以上の犠牲者は出してはならぬのです」
危ない……虎熊を恨めしく睨む時間が無かったら、うっかり続いて私も同意見だと言うとこだったわ……。そうよね、領民に被害を出すわけにはいかない。晴明さんの言ってることは全面的に正しいし、化けウナギ相手だと止めを刺さないといけないから、私は足手まといになりかねないのに完全体になるまで待つとか言えない……。
そもそも、完全体じゃないと物足りないとか、それは強者の意見であって、普通の人たちからしたら不完全な状態でも十分脅威なんだわ。
「……あれ? そうなると何でわざわざこんなに時間をかけてるのかしら? 100人を超す遺体を集めたって言うなら、さっさと行動に移せばいいのに」
「いやいや、だから硬直が解けるまで4日かかるって話だろうが。話聞いてたのかお前」
「そうじゃなくて、茨木ちゃんの家でも相手が酒呑と虎熊、あとは得意な相手だったから火車も通用した感じじゃない? あんたたちが留守の大江山に現れてても、そこそこ被害出たんじゃないかって思うんだけど?」
「……1理ある。検非違使たちも出るだろうけど、アイツら程度じゃ正直留められないと思うねー」
思い付きで言ったことに場を静寂が包んだ。あれ、私また何か余計なこと言っちゃいました? そんな静寂を破る様に大裳が立ち上がる。
「ヘッ! そんなもん、あっしら12天将にかかりゃイチコロだって分かってるからでえ! ビビってんだよ!」
「12天将のこと知ってるなら、なおさらおかしいでしょ。騰虵さんや朱雀さん、玄武さんに白虎さん。たとえ完全体でも倒せると思えない相手なら、それこそ速度重視よ」
「……倒せる、自信があるということでしょうか?」
「生きた人間に完全に巣食った状態ではそこまでではありませんでしたね。私は朝歌で戦ったことがありますが」
「そう考えると国境沿いに集めてたのもおかしな気がしてきたなー。暴れたところで誰がその情報を知らせるのかね」
「そうでありやすね。城壁まで来てようやく気付くといったところでしょうか」
「そんで内外から暴れるってとこか?」
「万全な状態を作ろうと時間かけるより、ある程度の勝ちの目が見えたらその時点で動いた方がよくない? ほら、兵は神速を貴ぶって言うし」
「んー、賢いのう! まさにお主の言う通りじゃー。巧遅は拙速に如かずと言ったところか、その知力、全知に勝るぞー」
「ま、ばばあは完璧な陣を敷いて戦う巧遅の極みみたいな仙人だけどな――――うおおおお!?」
また余計なことを言った白虎さんが、空飛ぶ剣に襟首を貫かれて、岩の床を引きずり回されてるのを横目に見つつ考える。
私よりもずっと頭がいい人がそろってる状況で、私に指摘されるくらい穴だらけな作戦行動に皆首をかしげる。ましてや相手は全知とかいう大層な異名を持つ相手とのこと。もしかしたらこうやって考えさせるのも作戦の1つとか? うーん分からない。
「おやおや、皆さんお困りっすねー? 全知(笑)が動いたって言うなら協力するっすよー」
皆が頭をひねる中、そう言って入って来たのは大陰さんだった。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。
【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。
【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。
【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。
【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。
【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。
【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。
【貴人】――12天将の1柱。天1位。千年狐狸精。殷では蘇妲己を名乗った安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。
【騰虵】――12天将の1柱。前1位。角が生えたマッチョウーマン。
【朱雀】――12天将の1柱。前2位。金霊聖母。余元・聞仲の師匠。截教のNo.2にしての求道派と呼ばれる派閥の長。
【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。
【勾陳】――12天将の1柱。前4位。
【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の1番弟子で怠惰のドラゴン。
【天后】――12天将の1柱。後1位。天狐。狐耳1尾の麗人。貴人と違い大物感が漂う。
【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。
【玄武】――12天将の1柱。後3位。聞仲。金霊聖母の2番弟子で元・殷軍最高司令官。
【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。
【白虎】――12天将の1柱。後5位。元・殷の道士。過去に陸圧道人に1度殺されている。
【天空】――12天将の1柱。後6位。鶏のアクセサリと深紅の羽衣がトレードマーク。騰虵大好き。
【鴻鈞道人】――宝貝を配って戦争を激化させた戦犯。混沌の創り出した観測者のこと。周の武王には感謝されている。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
【朝歌】――殷の首都。