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【源頼光】解剖 その1

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「あははー、来た来た。どうしたの、意外に遅かったねー」


 西の空が赤く染まり始める中、予定よりだいぶ遅れて芦屋に辿り着いた私たちに向かって、城壁に続く階段を数段飛ばしで綱が下りて来た。


「色々とあったのよ。それより茨木ちゃんを休ませてあげて欲しいんだけど」


「分かりました。すぐに部屋を用意いたしましょう」


 心身ともに疲れ切ってる感じの茨木ちゃんを一瞥して綱に頼むと、その後ろから聞こえる懐かしい声が応える。


「保昌殿。まさかわざわざ出迎えに――――」


「もちろん、ずっとお待ちしておりましたのよ? ただでさえ一日千秋の思いでしたのに、遅れていらっしゃるなんて意地悪な御方」


「げ」


 やば、思わず声が出ちゃった。保昌殿の趣味に合わせて動きやすい異国の装束に身を包んだ和泉式部さんが、保昌殿を追い抜いて駆け下りて来るのが見えると、虎熊を盾にするように身を隠した。


「……何やってんだテメエ? 鬱陶しいことこの上ねえんだが、テメエを殴ればいいのかコイツを殴ればいいのかどっちだ?」


「殴るのダメ! この人保昌殿の奥さん」


 自分を中心にグルグル回ってたのがさすがに頭に来たか、虫けらでも見るかのような目で見下ろしてくる虎熊を宥めると、微笑ましそうに見守ってた保昌殿も奥さんの両肩を掴んで止めてくれた。


「HAHAHA! あまり頼光殿を困らせてはいけないよmon amour(愛しい人)。ともあれ再びお会いできて光栄ですよマドモアゼル」


「こちらこそお久しぶりです保昌殿。お忙しいところを出迎えて頂いたのに、お待たせしてしまい恐縮です」


「なんの。妻がそうしたいと望むなら、全力で応えるのが夫の義務というものですよ、HAHAHA!」


「ええ、ええ。ささ、おもてなしの準備はさせておりますわ。どうぞこちらへ――――」


「あははー、それにしても随分かかったね。1時間は早く着くものだと思ってたよー」


 私の手を引こうとする間に綱に割り込まれ、その後ろから聞こえよがしに大きな舌打ちをした和泉式部さんの表情はまさに鬼の形相。何がヤバいって酒呑と外道丸はおろか、虎熊ですら若干引いてるくらいにヤバい。


 私が外出できるようになったことには、この方の協力が凄く関わってるとは聞いてるから仲良くやりたいとは思うんだけど、初めてあった時の印象が強烈過ぎて、どうにも苦手なのよね……。


「さっきも言ったけど色々あったのよ。綱の意見を聞きたいし、保昌殿にもお話しておきたいと思ってたんですけど――……」


 酒呑が荷車に包んで乗せてた茨木ちゃんのお父さんを降ろして布を開くと、綱をにらみ続けてた和泉式部さんがヒッと小さな悲鳴を上げた。


「ふむ。どうやら長い話になりそうですな。mon amour(愛しい人)、マドモアゼル茨木を連れて部屋で休んでいなさい」


 そりゃそうか。私から見たら相当図太い印象だけど、首なし死体なんて見たらこういう反応よね。


 国衙こくがに招き入れられ茨木ちゃんたちと別れると、私たちは以前道満さまたちと色々作戦会議をした部屋へと通された。


「さてマドモアゼル。事前にムッシュ綱から聞いていたのは、いなくなったプチマドモアゼルの捜索を手伝ってほしいということだったのですが、一体何があったと言うのですかな?」


 板間に車座で座ると、保昌殿に茨木ちゃんの家で何があったのか伝えると、難しい顔でうなりを上げる。


「あははー、それはまた面倒くさい匂いがプンプンするねー。播磨の時の様子だと相当戦闘力が上がる感じだったのに、数10人相手によく無傷だったね。それとも火車に治してもらった感じー?」


「いや、なんか動きがぎこちなかったのよね。今回は肘とか膝が固まってる感じ」


「ふむ、源経房殿は戦闘の途中で例の怪物を呑み込んだという話でしたな。時間が経つとともに使者と同様体が固まっていくのでしょうか」


「うーん……でも播磨権守は廃人のままお兄さんと流刑になったって話でしょ? 化けウナギに頭の中身が食べられて火車でもお手上げだったってだけで、生き続けてたって聞いたような」


「なるほどねー。つまり頼光は生きた人間が飲み込んだと思ってないわけだね。死体は調べたのー?」


「いや、茨木ちゃんの手前まじまじとは……」


 たんなる思い付きで言ったことなんだけど、綱的には何か引っかかってるのかな? いやそうか先に死んでた相手に化けウナギが入り込めるなら、水を沸騰させるだけじゃ完全に防げないどころか、むしろ焼け石に水って感じ?


「ふーん。じゃあ医術に詳しい火車の見解かなー。権守のときみたいに水で飲み込んだのか、それとも死体に憑りついたりもできるのかどっちだと思うー?」


Who knows(さあ)? それこそ調べないと、デス」


「じゃあ調べてー。火車としても物理的にか霊的にかの違いはあっても、道満みたいに死体に憑りつくのが増えるのは嫌だろー?」


I told you(だから言ってるデス)、あらゆる死体、Burn them all」


 ブツブツと文句を言いながら茨木ちゃんのお父さんの遺体に近づくと、火車は懐から小刀を取り出した。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

【藤原保昌】――藤原道長配下。摂津守。異国かぶれの異名を持つ。

【和泉式部】――藤原保昌の妻。とある茶会で頼光に救われて以来、頼光に近づくために全力のガチ勢。

【源経房】――源高明の五男。元播磨権守。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【国衙】――国府にある役所。

【権守・権官】――定員に達してる職に定員を超えて任官するもの。

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