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【源頼光】化けウナギ

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/5 修正

化けウナギの体の色が白になってたので青に修正

「ほぉ~、燃える水か。なるほど、よく燃える」


「感心してる場合じゃないでしょ!? 火車、あなたなんでこんなこと――――!」


 すっかり乾燥してるせいで、パチパチと音をたてて燃える家を遠い目で見つめる茨木ちゃん。それを尻目に家から離れた火車を問い質そうとすると、火車は1度唇に人差し指を当ててそれを家の入口に向けた。


 戸板に目を向けると、今にも外れそうな勢いでバンバン音を立てながら板がしなる。


 ……これって、誰か中から逃げ出そうとしてない!? あの日の母上みたいに火事の中、残ってる人がいる証拠じゃないの!!


Calm down(落ち着くデス)、頼光。生きてるモノ、あの中にいない、デス」


「何言ってんのよ! 今実際に内側から――――」


 バアン! と大きな音をたてて戸板が吹き飛ぶのと同時に、中から続く大勢の人影に虎熊と酒呑が錫杖を構えて戦闘態勢に入る。


「GASYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


「ンダア、コイツハ。気色悪イナ!!」


「気をつけろよ首領。頭ん中食い散らかして体を乗っ取るとかだったはずだ」


「お前らが播磨で見たっていうアレか」


 あの時の播磨権守よろしく、目玉があるはずの穴から青い身体に唇と歯だけの化けウナギを飛び出させた人影が数10人。


 肘や膝が折れ曲がってたり、足をピンと伸ばしたまま走ったりとなんとも不自然な動きに心がざわつくけど、これって晴明さんが言ってたように生水を飲んだ結果なのかしら。それにしてもなんで茨木ちゃんの家にこんな数……。


「なあ火車……。生きとる人間はおらん……確かにそう言うたよな……?」


「Yes。Burn them all!」


 声を震わせる茨木ちゃんにお決まりの合言葉で応える火車。茨木ちゃんの視線の先を見ると、そこには1度しか会ったことはないけど、しっかりと覚えてる顔が体に火をまといながらこっちに向かって走って来てる。


「何してんねん、おとん! 労役終えたら真っ当に働いて生きる言うとったやろが!!」


 茨木ちゃんの叫び声を気にも留めず、表情のひとつも変えずただ真っすぐに向かってくる茨木ちゃんのお父さん。残念だけど火車の言う通り――――……。


「危ねえから下がってろ」


 体が固まってるせいか、権守と比べるとぎこちない1撃。それでも茨木ちゃんが受けたらタダじゃすまないと思われるものを虎熊が軽々と受け止めた。


「もう死んでる。いいな?」


 目尻に涙を溜めながら唇を噛む茨木ちゃんが小さく頷くと、虎熊は受け止めてた錫杖の力を緩めた。


 それに支えられてた茨木ちゃんのお父さんだったモノが目につんのめったところに、虎熊が錫杖を振り下ろすと、ブチッと音を立てて千切れた頭が地面に転がる。


「オイコラ頼光! マダマダイルダカラヨ、テメエモ手伝エヤ!」


「え、ええ」


 加勢しなきゃいけないんだろうけど……どうにも体が上手く動かないわ。動く人間に止めをさすのは殺すのと同じこと? 権守のときは殺すとか意識してなかったのもあるけど、今は変に意識しちゃってなんかね……。


 いくら動いてるっていっても、相手は死体……。体から飛び出してる化けウナギを倒すだけで十分ってのも分かってるんだけど……。


「こっちはオレと虎熊童子と火車とで何とかするから大丈夫だ。お前は茨木の親父に点いた火を消しとけ! 向こう側湿田だっただろ」


Pardonあほか? せっかくの死体燃やす火、消すとか正気、デス?」


「うるせえネコ娘! なんでこんなことになってんのか、調べる必要あるだろうがよ!!」


 この化けウナギは無理やり芯を通すような性質だけど、播磨の時と違って使ってる体が不完全なせいか戦闘力も劣るみたいね。これなら酒呑たちどころか虎熊1柱で十分ではある。


 なら後でちゃんと茨木ちゃんがお別れを言う時間を取って荼毘だびに付すように、酒呑の意見に従おう。


「ごめん、そっちは任せたわ」


 私の言葉に酒呑が背中越しに親指を立てるのを見て、私は茨木ちゃんのお父さんの体の前面にもぐりこむようにして担ぐと、かつて道満さまたちにしたように道の脇の湿田に放り込んだ。


 しばらくの間喧騒が続いた後静かになると、燃えていた死体は全て燃え尽き残ってるのは千切られた化けウナギの頭だけ。


 うん、こっちも怪我してるのはいないわね。


「お疲れ様。茨木ちゃんのお父さんだけど、調べるならやっぱり晴明さんに頼むのがいいかしら?」


 火の消えた胴体を見つめながら皆に意見を求める。ちなみに千切れた頭の方は丁寧に布でくるんで茨木ちゃんが大切に抱きかかえてる。


「それが1番なんだろうが、急にきな臭くなってきたからな……。すでに死んでる人間の調査より、生きてるだろう丑御前の捜索を優先しようぜ。摂津源氏うちで1番頭が働く綱の意見も聞いてみりゃいい」


「……せやな。酒呑が正しい思う」


「茨木ちゃんがそう言うなら。火車も不満だろうけど、この死体だけはすぐに燃やさないようにね」


「O.K. 貸しひとつ、デス。やはり酒呑、主の教え、舐めてる、デス」


「舐めてねえよ!? 何でもかんでも突っかかってくんじゃねえ!」


 うん、頬を膨らませて抗議はするけど火車の了解も取れたし、このまま芦屋に向かいましょう。


 念のため千切れた化けウナギの頭を踏みつぶしつつ、茨木ちゃんのお父さんの遺体を手押し車に乗せると、私たちは芦屋に向かう道を急いだ。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷(吉弥侯部)氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

*【油澄ま師】――羅刹の女。本名・火乃兎。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。

【金熊童子】――大江山の客人。強欲のドラゴン。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【燃える水】――原油。

【権守・権官】――定員に達してる職に定員を超えて任官するもの。

【荼毘】――火葬。

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