幕間 その後の金時山 その2
*人物紹介、用語説明は後書きを参照
*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています
「そのあたしたちを4凶っていう物言いと、大陰って名前。あんた昔からちょくちょく絡んで来る連中の仲間よね? なに馴れ馴れしく混沌に絡んでくるわけ?」
「んなもんパイセンの人間を繁栄させるっていう任務の後釜を、女媧に任された後輩だからに決まってるじゃねっすか。御2柱もパイセンとつるんでるってことは人間の、ひいてはこの世界の滅亡を防ぐために動いてるんすよね?」
「あら、そこまで分かってるのね。そうよ、世界の終焉を防ぐのは偉大なるオーディン様から与えられた使命ですもの。その割には失礼な呼び名を付けてるみたいだけど」
「殷を滅ぼしたんだから仕方なくね? 12天将の貴人・天空・六合・朱雀・玄武・青竜・白虎・勾陳は殷の関係者だし、騰虵も殷滅亡のどさくさで窮奇をぶっ殺してるらしいんで関係者に含めていいっぽいし」
「しれっと、友人の仇が判明したのはどうしたらいいのかねえ……」
世界のバランス調整を行っていた友の仇。その死によって本来排除されていたはずの妖怪たちが蔓延り、人間も合わせて強くなったのがこの世界というのが混沌たちの結論ではあったが、それでも混沌は複雑な気持ちになった。
それを感じ取った大陰は混沌に騰虵について語る。
「騰虵――空高く上る蛇って意味っすけど、本名の鳥の如き蛇って言うのをウチらの地域の言葉に直しただけっす。その正体は東の果てにあるマヤー文化国って言う国の創造神で、いわば女媧と同格の存在なんで仇討ちならマジで覚悟決めてかからないとダメっすよ」
「……なんでそんなのが混ざってるのかねえ」
「なんかルチャって格闘技をこよなく愛してる奴でー。パイセンは知らないと思うっすけど、窮奇って顔が整いすぎてて迫力がないのを、闘うときは虎の覆面つけて補ってたんす。神異経で『翼を持つ虎』の姿をしてると書かれてる通り、覆面付けて素手でやたら飛び跳ねて闘ってたらしいんすよ。それがルチャの戦士だとマヤーに伝わったらしくて、わざわざ海を渡って来たとかなんとか」
「ひどいとばっちりだ。そもそもなんで窮奇は戦争なんかに参加してたんだい? この世界を観測してたヤツと記憶を統合しても、理由がはっきり分からなかったんだが」
「ええ~……パイセンの影が女媧に封印されてた檮杌を連れ出して、そのころには女媧とうまく行ってなかった饕餮も下界に降りたのを見て、4柱のまとめ役として何とか仲を取りなすためにパイセンたちの行動を近くで見守ろうとしてたってのに、ひどくないっすか?」
「ああ~……私のせいなのか」
目を瞑りしばしの間、友の冥福を祈った混沌が目を開けると、大陰に向き直る。
「そうやってベラベラ仲間の事を話してくれるのは、とどのつまりあれかい? そっちとしても情報をよこすから、こっちの持っている情報も寄こせと。そういうことかな?」
「そっすね~本当のとこ言うとパイセンと一緒にいた方が楽しそうだから、鞍替えも考えてたんすけど――――」
「我は一向に構わん!」
明らかに下心ありな様子で鼻息の荒いアラクシュミを冷たい視線で一瞥すると、大陰は大きなため息を吐く。
「ぶっちゃけ、この女神がきついっす。身の危険を感じるっす」
「がーん!」
「……普段は1番まともなんだけどねえ」
「まあ、パイセンの役に立ちたいって気持ちはマジの奴っす。それでどうします? 12天将が封印してる檮杌の封印でも解いてきましょうか?」
「「絶対に止めろ!」」
微妙な空気の漂う中、努めて明るい口調でされた大陰の提案を、アラクシュミとスクルドの2柱が全力で止める。
「アレを封印してもらうのにどんだけ苦労したと思ってんのよ! そもそもあんな制御不能の化け物生み出すとか、あんたらんとこの主神頭おかしいんじゃないの!?」
「素直に天界で封じ込めてくれていた方が良かったな。連れ出してしまった以上放っておけなかったから面倒を見ていたが、正直我らの手にも余る」
「どこぞの全知と違って、能力を生かせる機会は必ずありそうなんだけどねえ。……そういえば饕餮が女媧と揉めたって?」
「そっす。時間が経てば経つほど、使えないって分かって来る奴っすもん。そんで頼りにされなくなって力を示すために自分の勢力を持ってパイセンと競ってたんす。そういえば最近パイセンがこの国に顕現したのを感じ取ったのか、なんかちょっかい出し始めた感じっすね。でかいやらかしでもしそうな勢いっすけど、どうします?」
「その饕餮というのはどういう奴なんだ? 一応ゲームやらの創作物で存在だけは知ってるのだが」
「どうって……バカ以外の言葉が出ないねえ」
「うむ」
「そ、そうか……」
あまりにもな言いように、思わず言葉を詰まらせるアラクシュミだったが、人に試練をもたらすにしてもその程度の相手のやらかしくらい対処してもらわないと困るということで、4凶としては放置ということで決まる。
ある程度の近況報告を済ませた後、名残惜しくもボチボチ暇しようと階段を下りる大陰に続き、玄関まで見送りに下りると、混沌が1つの宝貝を大陰に手渡した。
「これは?」
「通信手段さ。私の神力を辿ってパスをつなげば離れていても通話ができる。こっちとしても手を借りたいときは連絡するから失くさずにおいてくれたまえ」
「あざっす! 気軽にパイセンと連絡取れるとか最高っす!」
「ではなモキュランよ。寂しくなったら何時でも会いに来てくれ」
「大陰っす」
アラクシュミの態度に心底呆れながらも、扉を開けて外に出ようとした大陰だったが、何かを思い出したように立ち止まり混沌の方に振り返った。
「やばいやばい、すっかり忘れてたっす。会ったら聞こうと思ってたんすけど、1ついっすか?」
「ん? 何だい?」
「以前、空からの侵略者の掘り起こそうとしてる資源って何か分かったんすか? 昔は適当に聞き流してたんすけど、後釜になってからはそれが分かってた方が便利だなって思ったんで」
「そうね、あたしも気になってるとこではあったわ」
大陰とスクルドの疑問に、未来を知る混沌とアラクシュミは互いに顔を合わせて「おお」と驚きの声を上げた。
「言われてみればなんなんだろうねえ。窮奇にも先に掘り起こしちまえと言われた記憶があるけど、すっかり忘れていたねえ」
「マジっすか。本気で人の未来を守る気あるんすか?」
「耳が痛いな。すまんモキュラン」
「だから大陰っす。しつけえなコイツ」
「まあ大体の場所は分かっているし、こっちで確認してみて分かったら連絡するよ。大丈夫だと思うが、キミの方も饕餮如きにあまり好き勝手されないようにね」
「余裕っす。パイセンの方こそ頼むっすよ」
そう言って大陰が手を振って別れの挨拶をすると、山を下りていった。
【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)
【混沌】――4凶の1柱。人々の繁栄を目指すのが仕事。様々な術が使えるが、不幸な事故により未来をシミュレートする術は使えなくなった。現代知識が豊富。
【アラクシュミ】――4凶の1柱。ヒンドゥーの神。現在地点より昔のパラレルワールドの自分と融合することで、過去に飛ぶことが可能。幸福の神だが人類の滅亡に何度も立ち会っているため、不幸の神と自虐気味。混沌同様に現代知識が豊富。ゲームが大好きで創作活動を保護するため人類救済に動いている。殷と周の戦争では陸圧道人の名で周に加担した。
【スクルド】――4凶の1柱。北欧神話に出てくる3姉妹神の末っ子。未来を司る。
【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。
【貴人】――12天将の1柱。天1位。千年狐狸精。殷では蘇妲己を名乗った安倍晴明の母。ポンコツ疑惑あり。
【騰虵】――12天将の1柱。前1位。マヤー文化国の創造神ケツァルコアトル。
【朱雀】――12天将の1柱。前2位。金霊聖母。余元・聞仲の師匠。截教のNo.2にしての求道派と呼ばれる派閥の長。
【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。
【勾陳】――12天将の1柱。前4位。
【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の1番弟子で怠惰のドラゴン。
【玄武】――12天将の1柱。後3位。聞仲。金霊聖母の2番弟子で元・殷軍最高司令官。
【白虎】――12天将の1柱。後5位。元・殷の道士。過去に陸圧道人に1度殺されている。
【天空】――12天将の1柱。後6位。鶏のアクセサリと深紅の羽衣がトレードマーク。騰虵大好き。
【檮杌】――4凶の1柱。封印されている。
【女媧】――中国のおいて人間を生み出した最高神。
【饕餮】――女媧に生み出された神の1柱。女媧と同等の知識があり『全知』の異名を持つ。
【窮奇】――故神。他の3柱がやりすぎないように影から見守っていたが、騰虵に殺された。
【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)
*【マヤー文化国】――火と文化の神・ケツァルコアトルによって生み出された国。現在のメキシコ一帯に広がる大国。ルチャによる怪我の治療を重ねた結果、医術が異常に発展している。
【ルチャ】――プロレス。
*【モキュラン】――ポケクリの1種。アラクシュミの推しの1匹。シェイミとイーブイを足して2で割った感じ。
【宝貝】――仙道が扱う不思議アイテム。
*【4凶】――世界をめちゃくちゃにしたとして、指名手配中の大戦犯。鴻鈞道人(混沌)・陸圧道人(アラクシュミ)・スクルド・檮杌の4柱を指す。