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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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幕間 その後の金時山 その1

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「ふう……まったくあの頼光は心臓に悪いねえ……。とはいえこれで1段落だ……けど、これからアラクシュミのケアも残ってるんだよねえ……本当に気が重いねえ」


「んふふ~、苦労人体質は相変わらずっすね~。しっかしパイセ~ン、こんな結界張られたら気づけねっすよ~、マジで引きこもり生活も大概にして欲しいっす~」


「誰だい!?」


 頼光たちに阿弖流為アテルイと河童たち、その全てをまとめて転移させたはずなのに聞こえてきた声に、混沌は1瞬混乱しかけたが自分の頭になお重さが残ってることに気づいて手を伸ばす。


 さっきは頭から背中と駆け回り、捕まえることのできなかった小動物だったが、今度はあっさりと摘まみあげられて目の前まで持ってこられると、笑顔で短い前脚を挙げて挨拶をした。


「どもっす~私のこと覚えてるっすか~~? 全く、パイセンが急に消えた後は女媧じょかにパイセンの後釜押し付けられて滅茶苦茶――――ひゃあ!?」


 そのモフモフの毛並みを見た混沌は大陰を小脇に抱えると、拠点としているログハウスの中へと飛び込んだ。入ってすぐのダイニングを抜けてリビングの端にある階段を駆け上がり、2階のベッドが3つ並んだ寝室に入る。


 いきなり飛び込んできた混沌の姿を目にした呆れ顔のスクルドが、床には丸まって号泣するアラクシュミを顎でしゃくって言う。


「やっと終わったわけ? オーガやマーマンに説教もいいけど、まずはコレをどうにかしてくれない?」


「分かっているともさ! 見たまえアラクシュミ! モキュラン! リアルモキュラン!」


 泣き喚くアラクシュミの後ろから聞こえるように大声で叫びながら、モキュラン――アラクシュミお気に入りの『ポケクリ』とよく似た動物を突き出す。


 すると後ろを1瞥したアラクシュミがひったくる様に混沌から大陰を奪い、抱きしめながら号泣した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、モキュラーーーン!! モキュラーーーン!!」


「ぎゅーーーーーーーーーーーーー!!」


 先ほどの頼光が阿弖流為を攻撃した2度にわたる衝撃によってもたらされた悲劇。


 1度目の小屋の揺れでゲーム機を落としてしまったアラクシュミが急いで拾おうとしたところに、立て続けにもたらされた揺れでバランスを崩して踏み砕いた携帯ゲーム機。その残骸を前に、世界に絶望したヒンドゥーの神がようやく元気になった様を見て、混沌は安堵のため息を吐いた。


「やれやれ……どうにかなったかな? 全く、地獄に仏とはこのことだよ」


「別にアラクシュミの趣味にケチをつけるつもりはないけど、たかが子供向けの玩具が壊れただけでここまで大騒ぎするなんてどうかしてるわ! 混沌、あんたの術でこの程度直せないわけ?」


「ガワだけなら問題なく直せるともさ」


 イラつくスクルドに簡単に答えた混沌。それに対して自分の命とも言うべき未来のアーティファクトが手元に戻るかもしれないと、アラクシュミは大陰を抱いたまま期待の眼差しを向ける。


「ああ、そんな目で見ないでくれたまえ。アラクシュミ、キミなら分かるだろう? ゲームの中身はプログラム言語という人間の生み出した術式がつづられていて、それを元通り動かすには1文字も間違えずに術式を刻まなければならない。私の術とは形式が違うし、そもそも詠唱なんて省いてなんぼの術師からしたら畑違いもいいところなんだよ」


 宝貝を作り上げた混沌からすれば、同じ未来のものであっても自動車や電化製品、ゲーム機だって作ろうと思えば作ることはできる。だがアーティスティックな面を持つソフトを作り出すことはできない。


 なるほど、アラクシュミが人間を滅びから救おうとする理由がしっかり理解できたと納得して、混沌は続ける。


「ともあれ、後1000年だ。いや、この世界の人間は優秀だからもっと早まるかもしれないねえ。それまでの辛抱じゃないか。それまではその代替品で、なんとか我慢してくれたまえ」


「ちょ――代替品って私の事っすか!? 久しぶりに会ったのに扱いひどいっすよ! こっちは何1000年もパイセンの事探し続けてたんすよ!」


 アラクシュミの腕の中からするりと抜け出すと、大陰は片足立ちの後ろ脚を軸に回転して人型へと姿を変える。


「どうも4凶の皆様方。私は昔、パイセンから良くしてもらった神獣モノで名前を大陰って言うっす。以後お見知りおきを――――」


「(動物の姿に)チェンジだ」


「あの腹ペコ畜生が変化の術を使えるようになったんだねえ。でも人の姿か……どうにも慣れないねえ」


「ひっど!? それが数1000年ぶりに会った寵物への態度っすか!?」


「そう言われても、私からしたら半年ぶりなんだよねえ」


「少しいいかしら?」


 大陰と混沌たちがなんとも緊張感のない言葉を交わす中、スクルドは腕を組みながら訝し気に大陰を睨みつけた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【混沌】――4凶の1柱。人々の繁栄を目指すのが仕事。様々な術が使えるが、不幸な事故により未来をシミュレートする術は使えなくなった。現代知識が豊富。

【アラクシュミ】――4凶の1柱。ヒンドゥーの神。現在地点より昔のパラレルワールドの自分と融合することで、過去に飛ぶことが可能。幸福の神だが人類の滅亡に何度も立ち会っているため、不幸の神と自虐気味。混沌同様に現代知識が豊富。ゲームが大好きで創作活動を保護するため人類救済に動いている。殷と周の戦争では陸圧道人の名で周に加担した。

【スクルド】――4凶の1柱。北欧神話に出てくる3姉妹神の末っ子。未来を司る。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。

【女媧】――中国のおいて人間を生み出した最高神。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【ポケクリ】――ポケットクリーチャー。可愛いクリーチャーを召喚して闘わせるRPG。アラクシュミの1番好きなゲーム。

*【モキュラン】――ポケクリの1種。アラクシュミの推しの1匹。シェイミとイーブイを足して2で割った感じ。

宝貝ぱおぺえ】――仙道が扱う不思議アイテム。

*【4凶】――世界をめちゃくちゃにしたとして、指名手配中の大戦犯。鴻鈞道人(混沌)・陸圧道人(アラクシュミ)・スクルド・檮杌の4柱を指す。

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