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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】帰京

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「日の位置と不尽の高峰から推察しますに、ここは恐らく金時山から南西に30㎞ほど。駿河国の海岸線かと思われやす」


「うわあ……これって多分占い師さんがやったのよね? 時間は経ってないみたいだし、一瞬でこんなとこまで移動させられるってめちゃくちゃ便利な術ねえ」


「あははー、吞気だねー……こんな術を使える奴が、こっちに害をなす術を使ったらと思うとぞっとしないよー」


 大げさねえ。さて、砂浜に地図を広げた貞光の説明を聞いて大体の場所は分かったけど、これからどうしたものか。


「ゲゲゲ、オレ達、帰ル。モウココニ相撲ノ気配シナイ。イル意味ネエ」


 そう言い残すとクソガキたちは未だに気を失ったままの河太郎を担いでさぶんと海に飛び込むと、そのままどっかに消えてった。


「貞光と公時の傷を治したことで火車に頼めなかったのよね。大丈夫かしら?」


「つーか死んでんじゃない? 山の中にあった沼に飛び込んだ時点で、普通目を覚ますでしょ」


「え?」


 言われてみれば確かに……。喉の奥にこみあげて来た酸味を吐き出しそうになったとこで、火車からポンポン背中を叩かれた。


「No problem。死んでたら、燃やしてる、デス。そこの鬼違って、あのハゲ、確実に生きてる、デス」


「あははー、てかさーいちいちそうやって殺した殺してないでオロオロするならさー? 普通その履物の裏で全力の蹴りとかしないよね? 爆発までさせてたし。殺意否定するにも無理があるよ」


「それはそうなんだけど……初めて闘う種族だとどれくらい加減すればいいのか分かんないし……あの時は1撃で仕留めないと、闘いの場が狭すぎて負けそうだったし……」


 最近は人間じゃない相手と闘うことの方が多いせいか、力加減ってほんとに難しいのよね……。


 でも実際結果オーライって奴だし、綱の言い分も分かる。反省はしなきゃと思うんだけど、貞光との相撲を基準に考えれば、本気で蹴らないと失神させるなんて無理だもの。


 でも良かった……そう安心したとこで、ぐう~と盛大に腹が鳴った。


「……そういえばめちゃくちゃお腹減ってるんだった。この辺に人の住んでる場所あるんだっけ?」


「そうでありやすね、北に行けば富士郡衙を伴う町、少し歩きやすが東に行けば伊豆の国府がありやす。そこまで腹が持たないのであれば熊を捌きやしょうか? 確か肉はお好きでありやしたよね」


「クマ!?」


「いやいや、河太郎が生きててよかったねってなったのに、人語を解す動物を食べようとか思わないわよ――――……ってミドモコは?」


「Woops。占い師の頭乗ってた、だから飛ばされない、デス?」


 あらら、参ったわね……、ここで待ってれば送られてくるのかしら? 大陰さんのお付きの動物だってんなら心配はいらないと思うけど……そうだ!


「もう1度金時山に向かって回収しましょうか。そのついでに猪苗代湖まで足を延ばして軽く様子だけ見て来るのはどう? 金時山の結界については道満さまに胸張って報告できる成果を出せたんだし、それくらい許されるでしょ?」


「ああ……まあいいんじゃないー? せっかく東国くんだりまで来たんだし、それくらいの寄り道なら」


「で、ありやすね。では手前がご案内させていただきやす」


「あ、クマはここらでお暇するクマー……いい旅をー……」


 そそくさと抜ける熊を見送り、いざ再びの金時山へ。派手に主張するお腹の虫は、途中の伊豆の国府で

何か食べよう。


「よっし決まり、それじゃ行こう―――……」


 そう言っていざ歩き出そうとしたとき、空を飛んでる鳥がピィと鳴いたかと思ったら、急降下してきて私の肩に止まった。


「え、なになに?」


「あれじゃない? 茨木が伝達用にと鍛えてた鳥」


「そういえば私のことも覚えさせるとかなんとか」


 確かに右足に布が巻き付けられてるわね。解くと茨木ちゃん特有の丸みを帯びた字で簡潔な文が書かれてる。


「……ッ! 緊急事態だわ、すぐに京に戻るわよ」


「失礼いたしやす。『虎熊重傷、丑失踪。すぐ帰れ』でありやすか」


「綱、私たちは海岸線の街道を進むから北にあるっていう町に向かって食べものを調達してきて。今の状況だとあんたが1番速く動けるからお願い」


「あははー、了解っと」


 言うが早いが駆け出した綱を見送り、京への道を急ごうとすると火車が久しぶりに猫精霊ケットシーさんの退く手押し車を準備してた。猫精霊さんたちがどこかで拾ってきて車の上に乗せてた死体を手早く燃やしたかと思えば、荷台に乗れと指で示す。


「では、頼光様と火車殿は荷台にお乗り下さい。公時、手前が引きやすんでお前は後ろから押してくれやすか」


「があ?」


 不服な顔をする公時だったけど、占い師さんが何かしたのか、なんだかんだ大人しく貞光の言うことを聞いて後ろについて車を押し始めた。


「しばらく頼むわね。食事を取ったら代わりに引くから」


「急ぎでありやしたら、どうぞ頼光様は先行していただければと思いやすが」


「虎熊が重傷なら火車は必要よ。それより公時の熊を強化したあれは、人には通用しないのかしら? 荷台に乗った公時が私の肩に手をかけて強化する感じで」


「It's too early。頼光、自分の体、雑に扱いすぎ、デス」


「火車殿のおっしゃる通りで。公時を叩き落したときの熊も、それまでの記憶を失っていた様子。我を忘れた状態になり荷車を引くのも危険ですしどうぞご自愛を」


「ぬう……」


 割と私の言うことはすんなり聞き入れてくれる貞光に窘められるとまずい気がするわね。とにかく今は荷台の上で休ませてもらいましょ。



 その後、綱が調達して来た食べ物を食べて走り続けること数日。行きの4分の1の日程で拠点に辿り着いた。


「ああ、頼光帰ったんか。早速で悪いんやけど、火車に虎熊さんのこと治してもらってええ?」


「こっちに来てる、デス? O.K. すぐ診ます」


 戻ったことに気づいた茨木ちゃんに続いて部屋に入ると、「おお」と微妙に元気のない声で向こう側を向いて横になってる虎熊が右手を振った。


 ん? 右手? 右半身を下にして寝てるような……。


 よく見たら肩の下から切断された右手を左手で持ってひらひら振ってるみたい。何やってのよこいつは……。


「アンタらしくもないわね。何があったの?」


「ああ、ちいとばっかし厄介なヤツが大江山に紛れ込んでやがってこの様だ。どうにも俺様たちがあの青竜たちと闘う前には、丑御前がそいつに出会ってたみたいでよ。命は取ってねえらしいんだが、相当一方的にやられちまったようだ」


 腕の治療を受けながら、左手で以前は付けたなかった旗袍ちーぱおの腰紐についた袋から、忘れるはずもない丑御前の角を取り出した虎熊。それを部屋の端で見てた酒呑が頭を下げて来た。


「悪いな。完全にオレたちの判断が悪かった。こっちに連れてこないことで拗ねていなくなったもんだと思ってたらこの有り様だ」


「ツーカ、アレニ1人デ挑ムトカ、サスガニ頭イカレテルゼ……」


「それじゃもう1ヶ月は行方不明ってこと!? 無事でいてくれればいいんだけど……。ともあれ大江山の他の鬼たちはもう大丈夫ってことでいいのよね?」


「ああ……なんとか説得して客として引き入れた。お前の方もなんか鬼が増えてるみてえだが、こっちも1柱増えてる。異国の鬼……じゃねえな、ネコ娘の言うとこのドラゴンだ」


 ドラゴンと聞いて虎熊の腕を付けるべく、治療に専念してる火車の眉毛がピクリと動いた。


「それでだな。勝手で悪いんだが、お前の緋緋色金ヒヒイロカネを工面してくれないか? とんでもねえ金属気違いでこの国には緋緋色金を求めて来たんだとよ」


「Oh……強欲、デスね。日ノ本、世界の敵、多すぎ、デス」


「金属気違い……もしかし金熊童子って名前じゃないわよね?」


「……よく分かったな。好きに呼べと言われたから、そうつけたわけだけど、さすがに安直過ぎたか? なんか異国では神に命を狙われてるらしくて本名は捨てたんだとよ。あと、くれぐれも闘おうとか思うなよ? 冗談でもなんでもなく、殺されるぞ」


「物騒ね……とにかく最優先は丑御前の確保。鬼が行方不明となると騒ぎになるだろうし、晴明さんたちにも話を通しておいた方がよさそうね。人探しの術とか使えるかもしれないし」


「それなんやけど頼光。例の人の頭ん中入って暴れるっちゅう虫おったやろ? あれが色んなとこで湧いてるらしゅうてな、京の民草の間でも噂になっとるんや。晴明さんらも忙しいみたいやで」 


「うわ、ほんの半月離れただけなのに、えらいことになってるわね。そうなるとますます丑御前が心配だわ」


 くっ付いた腕の感触を確かめる虎熊を始め、皆が口を噤んで空気が重々しくなる。


 これまでは厄介ごとなんて私……というか清和源氏が逆恨みされたくらいで、あとは自分から首を突っ込んでった感じなだけに、京に立ち込める暗雲は規模が違う話だわ。


「あははー、でも好機じゃない? 京が荒れるならそれを解決すれば手柄も大きい。丑御前のこともあるけど、派手に解決して見せて頼光を陸奥守にーってね」


「なるほど、賢い! そうは言っても京を荒らすわけにはいかないから、混乱は未然に防ぐ感じで、いっちょやってやろうじゃないの!」


 私が高々と拳を突き上げると、熱意はそれぞれ違うけど後に続いて皆が拳を突き上げてくれる。ある意味摂津源氏の初陣と言っていいような舞台に、不謹慎ながらも私の心は躍った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。獣の姿が本来の姿で頼光に緑のモコモコでミドモコと呼ばれている。

【坂田公時】――頼光が命名。阿弖流為。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【金熊童子】――大江山の客人。強欲のドラゴン。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【不尽の高峰】――富士山。

郡衙ぐんが】――郡をおさめるための役所。

旗袍ちーぱお】――チャイナドレス。本来は満州人の衣装で、中国に入るのは清の時代以降。

*【ドラゴン】――『心を見透かす者』の名を冠する悪魔王(第6天魔王と同一存在)、またはその眷属(天狗と同一存在)を指す言葉。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。


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