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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】金時山 その8

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 人数2倍で手数も2倍! もともと手数に苦労させられてた羅刹が相手なだけに、厄介さは2倍以上! 


「いや……動物は……人数に数えちゃだめか!」


 私が苦戦してる姿に介入しようとする綱と貞光を視線で咎めたものの、ならこっちは火車の腕の中で抱えられてるミドモコなら問題ないかな? いや、熊と比べたら強すぎるからなー。そういえば最近は必要な時しか呼び出すことが無くなった猫精霊ケットシーを呼ばないのはどういうこっちゃ。


 うん、冷静になってみると、激しさを増したと見せて、騎乗の羅刹から届く攻撃は斧だけ。他の蹴りや拳が熊の攻撃に置き換わったと考えればそこまでじゃない。ヒトの動きと違うからやりづらいだけよ、うん。


 とはいうものの強化された熊は私の足についてくる。避け続けるのが無理な以上、どうしても受けなきゃいけない場面が出て来るってのに血吸がコレじゃ足裏で――ってなるけど2人がかりじゃそれもきつい!


「あはははは! これが朝廷を震え上がらせて、田村将軍を苦戦させた蝦夷の武の真髄ってことね!? 鬼と似た種族なら寿命も長いだろうし、先の大戦にも参戦してたのかしら! そりゃ実戦慣れしてるはずだわ!」


 やっば、田村将軍はもちろん、陸奥に住んでた時に聞いた彼の地の主導者・阿弖流為あてるいさんや母禮もれさんの英雄譚に登場してる感じで気分が上がるわ!


「英雄と共に戦場を駆けたけど、英雄の死後も敗北を受け入れられず、失意で生きながらに精神こころを壊してしまったか。火車の言ってた生きてるけど死んでるってのはこういう意味だったのね!」


「アッララララララーイ!!」


 気分も上がれば動きも良くなる! 初めは面食らって結構かすめてた攻撃が届かなくなったことで、気合を入れなおした羅刹を真っすぐ見つめながら、私は高々と宣言してやる。


「あなたをそこまで思い詰めらせたのは、陸奥に住む同胞の平和と繁栄かしら? それを思って再び朝廷に背こうとしてるなら、いっそ私についてきなさい! 阿弖流為さんにしろ母禮さんにしろ、蝦夷の英雄はもういないけど、富ちゃんと陸奥守になった私が絶対陸奥を誰もが笑って暮らせる国にしてみせるから!」


「――――――ッ!!」


 羅刹がこめかみに青筋を浮かべて、強く歯ぎしりしたのが分かった。そりゃいきなりそんな宣言されたとて、信用なんかされないか。それなら私の意思と力を納得できるように、ありったけをぶつけてやるわ!


「……そうと決まれば、この防戦一方の状況をどうにかしないとね。方法は2つかな」


 熊を倒してしまうのが1つ。もう1つは唯一届く攻撃を封じるべく、綱が叫んでたように得物を壊してしまうこと。


 なおも激しく攻め立てられるのを避けつつ、どっちが簡単かを考える。


 いや、考えるまでもなく斧を壊す方が簡単なんだろうけど、めちゃくちゃ硬いのよねー……。金属の方はそういうものを使ってるからで納得できるけど、なんで木でできてる柄をへし折れないのかが分からないのよねー……これはもう、なんかズルしてる以外――――……!


「…………もしかして、熊と同じ?」


 確かに山を駆け下りて来た時の熊はここまで動ける能力はなかった。季武の話でも騎馬の限界を超えた力を引き出すってことだったから、てっきり触れてる「生き物」を強化するものだと思ったけど、道具なんかも強化できるとしたら?


 闘気を練る時は体の内に火を点けて、高めた肉体で攻撃する。外に出す場合は道術だったり丑御前の道だったりと、身につけてるものに纏わせる発想はないわけで……。


 いや、最近は私だってそういう使い方するときあるじゃん! なんでこの発想が思いつかなかったのか、()()()()()って考え方に固執してただけ!


「があああああああああああああッ!!」


「――ッ、馬鹿、頼光!!」


 気合一閃、騎乗から振り下ろされた斧の1撃を低く横に跳んで潜り抜け、ついた手を軸に側転する後ろから綱の罵声が飛んだ。


 それはそうよ。わざわざ熊の後ろじゃなく正面の方に跳びだしたら、慌てすぎて避ける方向を間違えたと誰でも思うもの。


 側転の途中逆立ちに近い状態の私に向かって熊の爪が迫る――――!


「おお……おおおおおお!?」


 空に伸びてた足裏に闘気を送り爆発させると、まるで重しを乗せられたかのようにかかった圧力で体が折りたたまれて、熊の前脚が空を切った。


 そのまま手で地面を弾く様に起き上がり、走りながら試せることを全部試す。爆発を使った急加速に急停止! 無茶な体勢からの方向転換!


「あはッ! やっば何コレ! めちゃくちゃ楽しい! ってかめちゃくちゃ疲れるし、お腹減る!!」


 ただ速く動き回るだけならついて来れてた熊も、動きに我ながら理不尽な緩急をつけてやると動きを捉えきれないみたいね。背中ががら空きになってるわよ!!


 気配を感じたのか右後方から跳びかかった私めがけて、振り向きざまの羅刹の斧がせまるけど、ここで爆発を起こして2段跳び――からの~急降下ッ!!


 攻撃を空ぶって露になった胸板めがけて繰り出した右足に伝わった確かな手ごたえ。


「おまけよ! 吹っ飛べーーーー!!」


 さっきからずっと山に響き続ける爆発音に耳がおかしくなりそうだけど、動きを制御する時以上に闘気を込めた大爆発をくれてやると、さすがに踏ん張れなかったか羅刹が熊から転がり落ちる!


「――――は!? クマは何を……?」


「はいはい、続きは向こうで聞こうねー」


「頼光様が望んだ一騎打ちに水を差したことにつきやして、たっぷりとお話させていただきやしょうかね」


「ぎゃー!? 意味分かんねークマー!」


 目の端で普通に戻った熊が怖いお兄さん方に連れられて行くのが見えたけど、今は羅刹に集中しないと。うん、片膝をついて体勢を立て直そうとしてる途中みたいだけど、そうはいかないっての。


「あはははは! なんかもう自由! 空を飛んでる気分でずっと続けたい気分だけど、ここで決めさせてもらうわ!」


 ぶっつけ本番で体力がゴリゴリ削られてるのが分かるだけに、あとどれだけ動き回れるか分からない。立ち上がろうとする膝を蹴って前のめりに崩れそうになるところに、ありったけの速さで連続蹴りを放つんだけど、なかなかどうして大したものね。持ち前の手の速さでよく防ぐ!


「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


「私の体力が尽きるのが先か、あなたの防御が続けられなくなるのが先か、我慢比べよ!」


 緋緋色金で蹴りまくると言っても、助走を取らないと大江山の皆と鍛錬する時もいまいち決定打に欠けてたんだけど、腕で防がれる上から強引に爆発を重ねると、羅刹の腕が黒く焼け焦げて行くのが目で見える。


「! そこおおおおおおおおおお!!」


 防御が崩れた1瞬を見逃さずに伸ばした足が腹に届いたところに、今度は軸足を爆発させると片足を突き出した状態のまま押し出すように加速して、羅刹の体を小屋の壁に叩きつける!


 芦屋の地下室みたいに衝撃で崩れるかも思ってたのに、かなり頑丈ね。壁と足に挟まれて思いっきり「く」の字に羅刹の体が折れ曲がるも、小屋は激しく揺れただけでまだ建ってる。


「でもこれなら都合がいいわ! いくわよ、ライコオォォォォーーッキィィィィィーーック!!!」


 突き刺した足を引っ込めながら、後ろに離れながら空高く伸びる道を作り出し、まだ揺れる小屋にもたれながらにらみを利かせる羅刹めがけて急降下! こっちの動きを見逃すまいとしていた顔面に全身全霊の頼光爆発脚ライコーキックエクスプロージョンを叩き込んだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!」


 止めの1撃を受け、力尽きて前のめりに崩れ落ちた羅刹。その姿に勝ち名のりを上げるべく右手を空につき上げると、大きく揺れながらも2度目の衝撃にも耐えた小屋の中から、黄泉国から響くような女性の悲痛な慟哭が上がる。


「え……何この声……?」


「頼光様! お気を付けくださいやせ、ここは噂では山姥が妖怪を育てているという山。この声はその山姥かもしれやせん」


 まじか。正直私も力を使い果たしてもう1歩も動けない感じなんだけど?


 私をかばうように小屋と私の間に入った貞光の背中越しに小屋の様子を見てると、戸なのかな、壁の1部が勢いよく外に押し出されて半回転すると、中から真っ青な顔した白髪の女の子が顔を出して来た。


 んー……? 何かどこかで見たことがあるような……。顔もだけど、とにかく珍しい模様の入った変わった着物を頼りにに記憶を辿ってると、女の子は慌てた風に口を開いた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。獣の姿が本来の姿で頼光に緑のモコモコでミドモコと呼ばれている。

【金時山の鬼】――死んでるけど生きてるらしい。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【天后】――12天将の1柱。後1位。天狐。狐耳1尾の麗人。貴人と違い大物感が漂う。

【母禮】――芦屋道満の中の人。阿弖流為とともに大和朝廷に反旗を翻した大逆罪人。

【阿弖流為】――羅刹の王。母禮とともに大和朝廷に反旗を翻した大逆罪人。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【血吸】――頼光の愛刀。3明の剣の1振り顕明連。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

【蝦夷】――陸奥や出羽にあたる地域に土着してた先住民。

*【羅刹】――鬼と同義。陸奥に住む鬼をそう呼んでいるだけ。

*【神力】――生物が持つ超常を起こすための力。魔力・道力・気力・妖力と所属勢力によって呼び方は異なるが、全部同じもの。

*【頼光爆発脚ライコーキックエクスプロージョン】――頼光の必殺技。崩しの蹴り連打からの1連の動作含めての必殺技。ライダーキッ―――ではなくイメージ的にはVPヴァルキリープロファイルのニーベルン・ヴァレスティを超高速の蹴りだけでやる感じ。

【黄泉】――あの世のこと。


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