表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
141/179

【源頼光】金時山 その6

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「まるで丑御前ね――――!」


 どことなく覚えがあるような突進からの斧の振り下ろし。それを左足を軸にして回転して躱すと、腰の血吸に手を伸ばしてがら空きの脇腹めがけて……そう思ってたところ地面が大きく揺れた。


 いやいや、そんな小屋の脇に立てかけてあった小さな斧を地面に叩きつけるとか!? 丑御前の鍛え上げた大斧ならともかく、あっという間に壊れるとか思わないわけ!?


 弾けた土と一緒に空中に投げ出されて呆気に取られてると、もう下には斧が迫って来てる!


 巻き上げられた小さな土を蹴って後ろに体をひねりつつ、斧を空振って無防備な体を蹴る。全然体重が乗ってない、攻撃でなく距離を取るための蹴り。10mほど離れた場所に着地した後、そのまま後ろに跳んでさらに距離を取る。


「アッララララララーイ!!」


「ほんッとに似てるわねッ――――と!」


 距離を取ったところですぐさま詰めて来る動き、違うのは一足飛びで詰めて来る丑御前と比べれば速さでやや劣るってところかしら。……ただ、地面を駆ける分こっちが動くことにはすぐに反応するから、どっちが厄介かって言われたらこっち。とにかく反応が人のそれじゃないのよねッ!


 それに――足の動きは遅いとはいえ……手の速さは断然こっちの方が上。斧の大きさが違うんだしそりゃそうなんだけど、虎熊の槍と相手してなかったらとっくによけきれずに殺されてる自信がある――! 直線的な槍と違う、まるで嵐のような連撃に、躱し切れなかった体から血と薄皮が飛び散った。


「頼光! まずは得物を壊せ!」


「んなこと分かって――わぷ!」


 んもう! 土が目に入った! ありがたい助言が飛んでくるけど……それが出来たら苦労しないってのは、見りゃ分かるでしょ!!


 私の頭を狙った右上段蹴りをのけぞって躱したところに、足の指で掴んでた土を顔にぶちまけられる!


 斧に限らず拳に蹴りに、あげくは土にと相手さえ倒せれば別に得物に頼る必要がないと言わんばかりに何でもしてくるのよ……っと!!


 目をこすりながら殺気を頼りに斧を避けると、ほんとは嫌だけど記憶を頼りにクソガキたちが入ってった水たまりに向かい、走りながら水を掬い顔を洗う。うう……ちゃんとした水で洗いたい……。


「今まで闘った誰よりも……実戦たたかい慣れてる、って感じよね……!」


 綱や貞光、虎熊たちにはなんていうの、鍛錬を重ねた行儀のよさ? 鍛錬で鍛えて鍛えて、ようやく実戦に入ったから実戦じゃ周りが格下ばかりになったモノたちと、始めから同等以上の相手と実戦を重ねて来た差っていうのを感じるわ!


 強いて比べるなら道満さまと氷沙瑪ひさめの2人がかりの時もうっすら感じたことだけど、あの2人は捕縛を目的にしてたから、殺気にあふれるこの鬼とは比べようがないのよね

 

「アッララララララーイ!!」


「! 調子に乗るのも――――がはッ!」


 顔を拭うと、もうそこには突進して来た鬼の姿。


 振り下ろして来た斧を避けずに真正面から血吸で打ち合おうとすると、そこからさらに1歩踏み込んでの体重を乗せた体当たりに吹き飛ばされて地面を転がる! その上から、私の首に太い腕を差し込んでさらに体重をかけて来る!


「――――――ッ!!」


 飛んでいきそうな意識を手放さないよう必死に歯を食いしばりつつ、下半身を勢いよく引き寄せて下から鬼の顎を真っすぐに蹴り上げる!


 よし、大きくのけぞった隙に立ち上がって――!


 後ろに弾かれた顔が正面を向くまでの間に生じた死角をついて脇を抜け、肩車をするように鬼の後ろから首の上に乗った。


「ゴホッ……! やってくれたわね……お返し――よ!」


「うがッ…………!!!!」


 挟み込んだ両足で思いっきり首を絞め上げながら、血吸を逆さに持ってかしらの部分で後頭部をめっためたに殴りつける、ゴンゴンという鈍い音が山に響き渡った。


 こういう使い方するためじゃなくて、暗闇でも光って見つけやすいってだけのつもりで、職人さんに頼んで緋緋色金ヒヒイロカネをはめ込んでもらってたのが、まさかこんな形で役に立つなんて……。ほんと、職人さんには足を向けて寝れないわ。


「ぐ……ぬううううううう!!」


「!!」


 絡めた足に手を伸ばしてきたのを見て、すぐに足を放して血吸を後ろに投げる。そこから鬼の後ろ髪を広げるように引っ張りながらそのド真ん中――後頭部めがけて両足を叩き込んだ!


 その勢いのまま宙を進んで投げた血吸を回収して離れた場所に立つ。さすがに鬼の方も受けた傷を無視できないのかすぐに追ってこない。


「ゴホッ……! ゲホッ……!」


 息も入れずに繰り出し続けた攻撃。ようやく一息入れると締め付けられてた喉から咳と一緒に少し血が混じってる。鬼の方は……向こうもダラダラと頭から流れてた血を手で拭い、真っ赤に染まった手を確認してる。


「ふふ……」


「ハハハ……」


「「ハハハハハハハハッッッッ!!!!」」


 ひっさしぶりの熱ね。こんなにひりついた闘いは虎熊と初めて会った時以来かな。思わず漏れ出た笑い声が偶然にも向こうのそれと重なった。


 そうよね。本当に楽しいわ。



「Oh……、なんか頼光の闘い方、いつになく、殺意高い、デスね」


満仲おっさんと闘うときはいつもこんな感じだから、ボクとしては見慣れたもんだけどね。だからこそ道満と闘った時殺した殺してないでオロオロしだしたのは驚いたけどー」


「It’s nonsense。死体相手に、殺すも、殺さないも、ない、デス。燃やす、一択。But、あの鬼、意味分からない、血が出る、やはり生きてる、デス?」


 意味が分からず、火車が再び宇宙ネコのような顔になる横で、貞光は腕を組み感慨深そうに頷いた。


「しかしお強くなられたものでありやすね。手前としては頼光様が武人として成熟していく様をこの目で見ていたかったものでありやすが」


「お前が見てたら卒倒もんの闘いもあったから良し悪しだねー。ところで貞光、お前あの斧をどう見る?」


「どうも何も、ただの鉄の斧にしか見えやせんよ」


「だよねー」


 大いに笑い合った後は、互いに離れず近い距離でぶつかり合い始めた2人を見ながら綱は思案に耽る。拳も蹴りも1撃必殺の威力はあれど、頼光ならばうまいこといなして致命傷を避けられるという信頼がある。だが斧だけは刃を体に打ち込まれたら軽傷じゃすまない。


 ならばこそまずは得物を破壊してしまうべしと考えるが、鬼が力任せに地面に叩きつけるばかりか、頼光の足裏――日ノ本最硬の金属である緋緋色金とぶつかっても刃こぼれ1つしない。


「鉄に見えるだけで知らない鉱石なのか。はたまた虎熊の槍先の銀みたいに、呪力を込めて丁寧に丁寧に鍛え上げた鉄なのか」


 不自然なまでの頑丈さに舌打ちしつつ、金属と金属がぶつかる火花を見つめていると、辺りに金属の砕ける甲高い音が響き渡った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。獣の姿が本来の姿で頼光に緑のモコモコでミドモコと呼ばれている。

【金時山の鬼】――死んでるけど生きてるらしい。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【血吸】――頼光の愛刀。3明の剣の1振り顕明連。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ緋色の希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ