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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】金時山 その5

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「さすがは頼光様! まさかあのような勝ち方、大変勉強させていただきやした」


Amazing(凄い、デス)。丑御前Move、キレがいい」


「ふふん、そうでしょ? 青竜との闘いでめちゃくちゃ精度上がったのよね」


 ほんの少しでも対応を間違えたら万仙渦ばんせんかに呑まれて死ぬという環境が、着地に勢いをつける以外の『道』の作り方を体に叩きこんだのよねー。


 河太郎の頑丈さを越えるため、私が取った戦法は大きく円を描く様に闘気の道を作り、相手の起き上がりに合わせてたっぷり助走をつけて簡易的な頼光爆発脚ライコーキックエクスプロージョンを叩き込むというもの。


 正直言えば場外に叩きだすつもりだったのに、河太郎に踏ん張られてその場に崩れ落ちることになったのは予想外だけど、まあ勝ちは勝ちだし問題なし!


「ナ――――――」


 ようやく立会人が結果を呑み込めたのか言葉を発すると、それに続いて周りから一斉に怒号が響いた。


「何シテンダコラアー!」


「フザケヤガッテ! フザケヤガッテ!」


「呪ワレロ! 死ネッ!!」


「ええ……何これ」


 そりゃ贔屓が負けたら悔しいのは分かるわよ? でもだからと言って勝者に罵声ってどうなのよ……。


 困惑してると綱がおずおずと手を挙げる。嘘くさい笑いもなく、ただただ呆れた感じの無表情なのはどういうことなんだろ。


「あー……頼光」


「えーと、何? あんたはこの状況理解できるの?」


「うん。相撲、蹴り、反則」


「…………………………。えぇ~、だから後から後から規則付け足すの止めてくれない?」


「付け足すって……ああ、そっか。ここだけの追加規則は説明してたけど、相撲の基本は知ってる前提だったものね」


「下らない話でありやすね。そんなものに縛られない発想こそ、頼光様の才覚の証明でありやすが」


「お前は規則知ってただろー? 忠臣名乗るなら、褒めるだけじゃなくて正すとこは正せや」


 まあ…………うん、納得はいかないけど、向こうが何に怒ってるかは分かった。


 覇成死合はなしあいの時は禁止事項は闘う前に説明するし、それをうまいことと利用して規則を知らない弟くんを途中から連れてきて出し抜いたけど、それも立会人が来る前に始めたのが原因ってことでお咎めなしになったわよね。


 事前に説明する時間あったのに、やることをやらないで規則を知らない方が悪いってさすがに理不尽過ぎない?


「しっかしどうすんのこれー? 相撲関係なしに乱闘っていうならこっちとしても楽だけど」


「……なんとか穏便に済ませられるように、あんたの悪知恵で何とかして」


 知らなかったとはいえ、こっちが反則をしたっていうなら手荒な真似はしたくない。すでに得物に手を伸ばしてる綱と貞光を止めつつ、綱に任せる。


 こう言っちゃなんだけど、武闘派が増えてきてるから綱には知略の方で頑張ってもらいたいってのもあるし、これくらい何とかしてもらいという想いもあったりなかったり。


「うーん、力づくが1番早いんだけどなー」


「何ヲブツブツ言ッテル」


「許スナ、相撲ノ神様ヘノ冒涜!」


 相当怒り狂って騒いでるクソガキたちが、いつ暴れ出すか分からない中、何かを思いついたのか綱がポンと手を叩いた。


「そうそうそうそう、相撲の神様への冒涜。それをした結果が河太郎こいつで、次はキミたちの番だってのによく落ち着いてられるねー」


「何ダト、イツオレタチガ冒涜シタ!」


「反則シタノハソノ男ダ!」


 猛り狂うクソガキたちを鼻で笑うと、綱は私の事を指さす。


「いやいやいやいや。だって相撲の場は女人禁制だろ? さんざん煽って女の頼光を舞台に上がらせたのキミらじゃん」


 その言葉に騒いでた連中は嘘みたいに静まり返り、もともとギョロッとした目をさらに大きく見開いて私を見た。


「…………えぇと、女人禁制だったの?」


「少なくとも手前らの感覚ではそうではありやせん。何度も申し上げやすが、特定職に就くための試験でありやすし、女人でも受けられやすので。ただ火車殿への反応から綱が鎌を掛けたんでしょうが、あちらさんにとってはそうなんでありやしょうね」


 体の緑色がより青みを増してる中、綱がここぞとばかりに言葉を続けた。


「キミたちが! いいかい? キミたちが神の意向を無視して女に相撲を取らせたから、激怒した神が頼光の体に宿って罰を下したんだ! 反則とされる蹴りをかましたってのは『我を冒涜したこの者に相撲を取る資格なし』っていう明確な神の意志だ!!」


「カパー!!!!」


 綱の言い分が相当怖かったのね、倒れてる河太郎を担ぎ上げると端に見えてた池に次々と飛び込んでいくクソガキたち。


Yuckうわ、澱んだ水、流れない、デス。匂いのもと、アレ、デスね。実に不衛生」


「あははー、水かきついてたり普段あの中で暮らしてるのかねー。とにかく無事うやむやに出来たし、頼光の反則も神のせいにできたし、めでたしめでたし」


「まあ、神様に怒られるってのは少し灸をすえ過ぎた気もするけど、助かったわ――――」


「ハッ!!」


 掃き清められてた舞台から誰もいなくなって、クソガキたちは濁った水から顔の上半分を出して様子を窺ってるだけだし、これで終わりかな。


 そんなふうに考えてると、丸太を重ねた小屋の脇にある薪割り用の斧を持った鬼が不敵に笑った。そうねこっちが本命なだけに終わりなはずがなかったわ。


「得物を手に取ったってことは、あなたとの闘いは相撲じゃなくていい、そういうことよね? じゃあ改めて――私の名は源頼光、あなたは?」


「フハッ! ハハハハハハハハッ!!」


 む、名乗りはなしか。大江山での経験上、鬼は名前を人間以上に大事にする。だから尋ねられたら喜んで答えるはずなんだけど……まだ、名前はないみたいね。


 見かけも身長は大江山にも10柱いるかいないかくらい大きいし、何よりも熊童子の料理が美味しすぎるせいか、だらしない身体が多い大江山の鬼とは比較にならないくらい筋肉が多くて贅肉が少ない。


 腰に動物の毛皮を巻いてるだけで他は何も身に着けず、振り乱したボサボサ髪が肩にかかって……ああそっか。この髪の色、何か好きだと思ったら富ちゃんと同じ色なのね。


 そして何より特徴的なのが、真っ赤な瞳はともかく、白目の部分が真っ黒なのは初めて見るわ。火車が生きてるのに死んでるとか、死んでるのに生きてるっていうのとなんか関係あるのかしら?


 ……まあ、その辺のことは今はどうでもいいわね。大切なのはこんな田舎に住んでる無名の鬼が、虎熊と同等近い強者の雰囲気を纏ってるって所だわ。明らかに河太郎と相撲をしてた時よりも、斧を突きつけてる今の方が迫力が上。


「綱、貞光。これは1対1の尋常な勝負。手出し無用でお願いね?」


「御意。ご武運を」


「ほらそこの熊も邪魔だからあっちの池に入るなり離れなー」


 足を引っ掻けそうな紐をつまみ上げて貞光に投げ渡し、皆が十分距離を取ったところで血吸ちすいを抜いて鬼に向かって突きつけると、なぜか周囲の温度が下がった気がする。


「お待たせ、それじゃあ始めましょうか――」


「グゥ……ッ!! オオオ――ア! アッララララララーイ!!!!」


 さっきまでは落ち着いた様子だったのに、意気なり闘志に火が点いたかのように、山全体を震わせる叫び声を上げて一直線に鬼が向かってきた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。獣の姿が本来の姿で頼光に緑のモコモコでミドモコと呼ばれている。

【河太郎】――河童の横綱。えせ九州弁。

【金時山の鬼】――死んでるけど生きてるらしい。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の1番弟子で怠惰のドラゴン。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【富姫】――阿弖流為の長女。頼光の親友。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【外法・万仙渦】――師匠から禁忌とされている青竜の奥義。小さな珠に圧倒的な質量を持たせることでブラックホールを作り出す術。

*【頼光爆発脚ライコーキックエクスプロージョン】――頼光の必殺技。崩しの蹴り連打からの1連の動作含めての必殺技。ライダーキッ―――ではなくイメージ的にはVPヴァルキリープロファイルのニーベルン・ヴァレスティを超高速の蹴りだけでやる感じ。

*【覇成死合】――源氏間で行われる最も神聖な格闘イベント。

*【血吸】――頼光の愛刀。3明の剣の1振り顕明連。

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