表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
139/175

【源頼光】金時山 その4

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 2人の大男による始まりのぶつかり合いを制したのは河太郎が制した。


 激しい接触で鈍い音を響かせた2人は額からは鮮血が飛ばしてのけぞったけど、大きくのけぞったのは貞光の方。その顔を目掛けて繰り出された河太郎の掌底をすんでで躱し、低い姿勢を取った貞光が肩からぶつかって中央まで押し返す。


 そこからは足を踏ん張っての掌底の打ち合いが始まった。


Good game(いい試合デス)、なかなかの迫力、デス」


「そうなんだけど、見てる方はハラハラさせられる闘い方ね」


「あははー、いつもボロボロになる頼光が言うー?」


 お互い避ける気がないのか、1発殴ったら1発殴り返される。交互に全力の攻撃を打ち合う様は確かに迫力あるんだけど、お互いの血が雨みたいに降り注いでるのは大怪我に繋がりそうで怖いのよね。


 しかもどっちもが足の指でがっちり土を掴むもんだから、地面に杭を打ち込んだかのように下半身が固定されて衝撃を逃がせない状態。


「これ……どっちかが失神するか、死ぬかじゃないと決着つかないんじゃない?」


「ほーんとイカれてんなー。まあ、体を押しても滑るだけだし、顔面ぶん殴り続けるのは勝ち筋ではあるけどー」


 どっちが勝つにしろ負けた方――もしくは勝った方も、無事にはすまなそうって空気の中、勝負の神様がそれを案じたのか予想外の事が起こった。


「ぬ!?」


 掌底を受けた貞光が踏ん張った地面に大きな亀裂が走ったかと思うと、度重なる不可に耐え切れなくなった舞台が割れて足を取られる。


「グワッパパパパ! もろたばい――――風握掌ッ!!」


 なかなか力を溜めに溜めた1撃を打ち出す隙が取れなかった中、ふいに訪れた千載一遇の好機に河太郎が動いた。指の間についた水かきがパンパンに膨れ上がるくらい空気を掴んだかと思うとそれを貞光に向けてぶちまけた。


「ぐッ……おおおおおおお!!」


 青竜が打ち出した水流みたいに渦を巻いた風が貞光を襲うと、それに抗うことができず紐の外へと飛ばされた。



「申し訳ございやせんッ!!」


「はあ~……使つっかえねえ~。あれだけかましといて負けるかね~?」


 自分も負けてるのに煽り散らすことを咎めて頭に軽く手刀を入れると、喜びの感情に満ち満ちた声で「あはー!」とか笑い出す綱。


 なるほど……貞光の言う通りこの時ばかりは滅茶苦茶感情だすのね……私自身が優しく叱るってのが好きじゃないから全然気づかなかったわ……ま、それは置いといてやたら責任を感じてる貞光にねぎらいの言葉をかけよう。


「私は火車が治せる怪我で済んでくれて良かったと思ってるわよ。播磨の権守みたいに脳みそが壊れて治せないとかが1番困るし」


「いえ、それでは手前の気持ちが収まりやせん! ここは指を詰めて――いえ、腹を捌いてこの体たらくのケジメとさせて頂けやしたら……!」


「うん? 話聞いてる?」


 参ったわ。それだけの覚悟で私に仕えてくれてるのはありがたいけど、こんな意味のない闘いで腹を切るとか言われても困るのよね。


「別に気にしないでいいわよ。あんなのただの運で貞光が劣ってたわけでもなし。それに河太郎にも興味出て来て闘いたいと思ってたから、むしろ都合がいいわ。それに2人の闘いを見て勝ち筋も見えたし、もし交代しないで出てきたら1撃で仕留めて見せるわ」


「……お心遣いありがたく。頼光様の闘い、この目に焼き付けさせていただきやす」


「ええ~……相当傷ついてるとはいえ、それでも勝ち筋なんてあるかな……?」


「どうしても私には勝てないってしたいわけね。ま、見てなさい」


「キュー!」


 激励のつもりなのか前に出されたミドモコの前脚と拳を合わせて前に進む。


「何と頼もしいことですかい。わずか半年でここまでお変りになられるとは、傍でご成長を見ていられなかったことが悔やまれやす」


「んー……なんだろねー、あんだけ自信満々の時って、勝ちはするんだろうけど何かやらかしそうって不安もあるっていうか」


 なんか後ろから期待と不安の声が飛ぶ中舞台に上がると、貞光に殴られた血を拭っただけの河太郎と向かい合う。


「痛そうな顔してるわねー……交代するなら別に止めないわよ?」


「グワッパパパパ! おいの心配をばする前に自分の心配場せんね。相撲においておいが退くことなどなか」


 ま、それはそうよね。虎熊に丑御前、私だってそう言うし、その意気や嫌いじゃないわ。


 さて、そうなると河太郎の攻略ってわけだけど、とりあえずあっちの攻撃は1発も喰らうつもりないから防御に関しては置いといて、どう攻撃すればいいかが重要。


 攻撃すべき場所は粘膜が薄い顔1択として、なんとかしないといけないのは貞光の掌底を何発も耐えたその頑丈さ。


「確認しておきたいんだけど、この紐を越えたら負けっていうのは、空中で出ただけでも負け?」


「どういうこつばい?」


「だから――――こうして外から復帰できる場合でも負けかってこと」


 外に向かって高く跳び、体をひねらせて紐の中へと戻って見せると、河太郎とクソガキどもから、おお! と声が上がった。


「なるほど、そげんこつが出来るなら体が浮いても死に体とは言えんばい。なら紐ん外に体がついたら負け言うことでどげか?」


「了解。それじゃ危ないからその辺あけといてね」


「カーパパパパパパ。何ダ。吹キ飛バサレル準備カ」


 ほんとにムカつく笑い方するわね……無視無視――っと、どうやらこの構えに相当の自信があるようね。綱と貞光相手に見せてるから戦法を変えて来るかもと思ったのは杞憂だったみたい。腰を落として手を着いた低い構えを続けてくれるなら、私としても勝ち筋を見失わずに済むってものだわ。


 満頼もそうだけど愚直なまでに自分の型にこだわるのは、ハマればとことん強いけどその分、対策も取りやすいってことその身をもって教えてあげるわ。


 最初のぶつかり合いで全てを決める、開幕速攻のために膝を柔らかくしとかないとね。


「何シテル、仕切リチャントシロ。ツーカ履物脱ゲ。舐メテンノカ」


「??? 仕切るのはあなたの役目じゃないの? 立会人でしょ? あとごめんなさいだけど、履物履いてないと足の裏が火傷でベロベロになるから履かせて?」


「なんじゃ軟弱な男ばい。ばってん猫騙しばしっちょるくせに、仕切りを知らんとか何呆けたこと言っちょるか。相撲ん立ち合いの合図は仕切りに決まっちょろうが」


「??????」


「頼光ー、とにかく腰落として手を着いてー。互いの両手が地面に付いたら開始だからさー」


「えー……急に規則増やすじゃん……」


 相手を転がすか紐の外に出せばいいって話だったのに、構えまで指定されるとかこれ以上追加されたりしないよね?


「ジャア始メル! 見合ッテ! 見合ッテ! ハッキヨイ、残ッタ!」


 声に合わせて手を着いた瞬間、確かに相手が動いたのが見えた。なるほどこうやって始まるのね。刹那の遅れがあったけど私も思いっきり地面を蹴った――――。


 まだ爆発音が残る中、あっという間に勝負が決まり、見てたほとんどが息を呑んで静まり返る中、貞光と火車の拍手の音とミドモコの興奮した鳴き声だけが響き渡る。


 春の曙のように前のめりに倒れた河太郎の体が、やうやう白くなりゆく隣で高々と拳を突き上げて勝利を誇示した。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。獣の姿が本来の姿で頼光に緑のモコモコでミドモコと呼ばれている。

【河太郎】――河童の横綱。えせ九州弁。

【金時山の鬼】――死んでるけど生きてるらしい。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【風握掌】――水かきをパンパンに膨らませるほど、空気を鷲掴みにして相手にぶつける河太郎の奥義。イメージとしてはダイの大冒険・クロコダインの獣王痛恨撃。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ