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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】金時山 その3

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「グワッパパパパ、ほいじゃあ始めるじゃが、ここん相撲はちくと他と違うば規則があるたい。下に紐で四角ば仕切っとるのが見えるとね? 相手ば転がすだけじゃなく、これを出ても負けたい」


「へー。ボクとしては全然いいけど――……」


 こっちにもそれでいいかと視線を送ってくる綱。そもそも相撲がどういうものかよく分かってないから、貞光の意見も聞いてみたい。


「相手を投げ倒すにしても、向こうは服を着ていない上、体の表面にぬめりがある様子。むしろこちらにとっては有利な条件かと思いやす」


Too() lackad(ぬるい)aisical(ですね)。ルチャとえらい違い、デス」


「きゅー」


「そりゃ宮中警護だ健児こんでいだに向いてるかの試験に過ぎやせんからね。大怪我するような真似はしやせんよ」


 なんとも平和な闘いになりそうな気配に少し拍子抜けしてると、綱は得物こそ持ってないものの、いつも通り腰を落として手を少し地面に付ける。


 ふむ……? なんか違和感があると思ったら腕を交差させてないからか。すると相手も同じように腰を落として両手を地面に付けた。どっちかっていうと一気に距離を詰めるための構えなのに、狭い中でお互いがそんな構えを取るものだから、オデコがくっつきそうになってる。これって意味あるの?


「ほいじゃ待ったは無したい。見合って見合ってー」


「あばばばばば……始まるクマ、始まってしまうクマ」


「何よ大きな図体してるのに……」


 後に続く2柱ならわかるけど、相手の先鋒はせいぜい100㎝あるかないか。摂津源氏うちの中でも小さい綱よりも40㎝は小さい。綱より小さくて力があると言ったら丑御前くらいで、その腕は綱より太いのに対して、こっちのクソガキの腕は綱の半分くらいの太さ。どう考えても負ける要素は無いように見えるんだけど。


「――のこった!」


「カパー!」


「うおッ!?」


 立会人の掛け声と同時に綱とクソガキが真正面からぶつかると、意外なことに押し込まれたのは体の大きな綱の方だった。あっという間に紐の端に追い込まれた綱が懸命に挽回しようとするけど、肘を絞るように抑えたクソガキに腰布をがっちりつかまれて思うように腕を動かせないみたい。


 それでも何とかしようと、なかなか力の込められない体勢から相手を押すけど、ヌメッとした体に阻まれて空しく腕が滑るばかり。


「ったく、まともに相撲取る気ねえなコレ。ならこういうのはどうだ――――よッ!」


 そう叫んだ綱はクソガキが背負ってる甲羅の縁を掴むと、普段の要領で手を滑らせて勢いよくクソガキの腋の下を痛打した。


「ギャ!」


 痛みに耐えきれず短い悲鳴を上げて手を離したクソガキ。その隙を見逃さず綱は首に腕を回してそのままぶん投げた。


「人間~人間~。ただいまん決まり手は首投げたい。首投げで人間の勝ちたい」


 河太郎が綱に向かって手を挙げて勝ちを宣言すると、周りで見てたクソガキたちからワッと歓声が上がった。


「あはは、ちょっと休憩もらっていいかい?」


「構わんばい。そん手も治療ばしちょけ」


 綱が舞台から降りると、クソガキたちが大急ぎで箒を持って場を清める。


 ぶらぶらと振って両手から血を垂れ流しながら綱が笑う。


「あははー、いやー参った参った。丸みを帯びてるように見えて、結構ごつごつしてんだねあの甲羅。滑らせた結果がこれだよー」


「勝ち抜き戦っていっても自分で次の人間に交代する分には文句言われないでしょ。貞光に代わったら?」


 今の闘いを見る限り、この種族ヒトたちは見た目じゃ分らないくらい力があるみたいなのよね。それでいて次の相手は親父まんじゅうとほぼ同じような体格と考えたら、貞光に任せちゃった方が良いと思う。


 ここからが正念場と考えたら火車の治療は温存したいし、怪我したまま挑ませるのどうかと思って声をかけたけど、意外にも首を横に振られた。


「いやー、まだ前座も前座を倒しただけだからねー。鬼とまではいかないけど相当な膂力を持ってるし、とりあえず貞光が心構え出来るように闘うだけ闘ってみるよー」


 布を巻くだけの簡単な治療だけして、綱は掃き清められた舞台に戻った。そこにはすでに腕を組んだ河太郎と立会人のクソガキが待ってる。


「良か良か! まさか負けんとは思うとったが、おん見事だったばい。じゃっどん先鋒はただん当て馬、大将ばただん数合わせ、おいだけで全部抜くが覚悟ばせい」


 そう言って腰を落として地面に手を着くと、途端に全身から闘気をみなぎらせて、それが山を覆う。


「Wow、頼光、嬉しそう、デスね」


「あ、笑ってた?」


 いけないいけない。さんざん丑御前の笑い方を例えに出すけど、皆から見たら私も同じように笑ってるらしいからね。でも、こんな力があるの闘う直前まで隠してる河太郎が悪い。大将の鬼も気になるけどこっちも興味出て来たし、熊が怖がるのも無理ないわ。


「見合ッテ! 見合ッテ! ハッケヨーイ、ノコッタ!」


「グワパパパパーーーー!!」


 大きな爆発音を響かせて河太郎が足元をえぐって突進する。


 だけど綱もその動きを読んだのか、さっきのクソガキの時とは違い横に跳ぶと、脇から河太郎の頭と背中に手をかけて地面にはたきこむように力を込めた――――ように見えた。


「せからしか! そげな小細工効かんたい!」


「――! マジかコイツ」


 綱が渾身の力を込めてるのは見ててすぐわかる。なのに河太郎は微動だにしないで、水かきのついた手で綱の顔を鷲掴みにするとそのまま勢い任せに地面に叩きつけた。


「河太~郎~~、河太~郎~~~~」


 間延びした調子で河太郎の勝利を告げると、もんどりうって転がりまわる綱を回収する。うん、綺麗に整えられた土に叩きつけられてるから、痛いだろうけど特に怪我はなさそうね。


「さて、それでは手前の出番でありやすね。行ってまいりやす」


「……貞光、ありゃ無理だ。頼光じゃ絶対勝てないから、お前が何としても止めろ」


「言われるまでもありやせん。元よりそのつもりでありやす」


「ん、期待してるから頑張って」


 1度大きく頭を下げた後、肩を回しながら舞台に上がる貞光を見送ると、痛みが治まって座り込んだ綱をじとーっと見つめる。


「そりゃ体格も違うし、得物を使わない闘いだし、不利なのは分かるわよ? でも絶対勝てないとか言われるのは腹立つんだけど?」


「あーー……そうねー。といってもさ、地の利が全くないわけでしょ? 頼光って広い場所を縦横無尽に駆けまわったり、四方を壁に囲まれた場所で闘ってこそじゃん」


 なんかなー。そこまで言われると実際闘って勝てるってことを証明したくなるんだけど、そのために貞光にわざと負けろと言うわけにもいかない。てか、そんなことせずとも貞光だって負ける可能性が十分すぎるくらいあると言えるくらい、河太郎も強い。


 なら私にできることは貞光が負けた時に備えて相手の闘い方を分析しておくこと。その時は綱が言ってたことが間違ってたと証明するためにもね。


「ソイジャ、次ノ取リ組ミ始メルゾ」


 立ち合いの声を聴いて貞光と河太郎が舞台に近づき互いににらみ合い、傍を這ってた蛇丸は貞光から離れて私の横に来た。


「ほお、なかなかん面魂ばい。せいぜいおいのこと楽しませてくれ」


「ええ、主君の手前、情けない姿はさらさないつもりでありやすよ」


 お互い言葉を交わすと貞光もまた、綱や河太郎みたいに腰を落として地面に手を着くように構える。普段の貞光は高い身長を生かして、両手で扱う大鎌を上段に構えるのが定石。得物なしってのと、相手の方が大きいからかしら?


「見合ッテ! 見合ッテ! ハッケヨーイ、ノコッタ!」


 なんとも見慣れない構えの貞光にすごく違和感があるけど、この闘い、一挙手一投足まで見逃さないように私は全神経を集中させた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。獣の姿が本来の姿で頼光に緑のモコモコでミドモコと呼ばれている。

【河太郎】――河童の横綱。えせ九州弁。

【金時山の鬼】――死んでるけど生きてるらしい。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【健児】――諸国に配置された職業軍人。税の1部が免除された。

【ルチャ】――プロレス。


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