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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
135/175

【雄谷氷沙瑪】阿弖流為の行方

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 荒脛巾アラハバキ様――古より蝦夷の生活を見そなわされた守護神。姫巫女様が祈りをささげることで数多の奇跡をもたらして下さったことに、特に先の大戦を経験した羅刹は感謝してるっす。


「「アッララララララーイッ!!!!」」


「はっはっはっは!! よいぞよいぞ! もっと讃えてくれてよいぞ!!」


「うわー……それでもこの狂喜っぷりは見てて引くっすねー……こんな臆面もなく騒げるって見てるこっちが恥ずかしくなるっす」


「は?」


 主様がなんで貴様がドン引きしてるんだと言わんばかりにジトーッとした目で見られるけど、ちょっと意味が分からねっすね? 主様にしても荒脛巾様には感謝してるけど、狂信的に讃えるわけでもないっすのに。


「さて、ここまでにしておこうか。狩武呂と刃俱呂は知っておろうが、今の我は神格を剝奪された身。気楽に接してくれて構わぬぞ」


「神格を剥奪、ですか。なぜそのようなことに?」


 いくらご自身がそうおっしゃられても、そういうわけにはいかねっすよねー。主様も同じ思いのようで畏まった言い方でお問いになったっす。


「ヒトに肩入れをし過ぎ、ということだ。ヒトの心が分からぬ他の神からしたら、神と人は厳密に住み分けすべしということなんだろう。その結果住む社もなくなりこうして我が巫女の体を借りることになった」


「それは……お労しい限りです」


 主様がどうお慰めしたらよいか分からないって顔をするも、とうの荒脛巾様は気にも留めない様子でからからと笑う。


「はっはっは! 別に我、不便を感じておらぬ。なんなら巫女の体を使い力を振るうことができるようになってヒトの世界に更なる貢献ができるようになったからな。我が奇跡に巫女の精神の負担が増えてあっぱらぱーになってしまうが、1番眠れば治るし記憶にも残らんから全く問題はない!」


「ヒトの心とかないんすか?」


 姫巫女様の記憶には残んなくても周りはそうはいかねえんすよね? もしかしてここの作物って姫巫女様の尊厳でできてるっすか?


 なんか微妙な気分になる中、そんなことはお構いなしに荒脛巾様が続ける。


「さて、そんな話は後でよいな。亀姫が治める猪苗代城周辺の結界の強化が必要なのだろう? ならばすぐに出ようではないか!」


「話が早くて助かります。それでは荒脛巾様は私の馬にお乗りください」


「いやいや、早すぎねっすか? なんも説明してねっすよ?」


「はっはっは! 我、ヒトと寄り添う神ぞ! 何を望んでいるのかウヌらの脳に触れ、記憶を読み取っておるわ! はっはっは!」


「寄り添うとか距離が近いってそういうことじゃねっすよね!?」


「「アッララララララーイ! さすがは荒脛巾様、アッララララララーイ!!」」


 ドヤと胸を張る荒脛巾様とそれを讃える2柱。人間臭いようでどこか人間離れした荒脛巾様にうっすら背筋が冷え、こっそり主様に耳打ちする。


「……なんかこの神様怖いんすけど? 狩武呂たちの騒ぎっぷりも何か怖いっす」


「神をヒトの理で論じるのは不遜というものだろう。狩武呂たちの事がおかしいというなら鏡を見ろ」


 なんかよく分かんねえこと言われて釈然としないながら、入ったばかりの小屋を出て繋がれてた馬に乗る。ずっと乗りっぱなしでようやく休めると思ってたのにきついっすわ……。


 そんな気持ちも読まれたのか、狩武呂の前に乗った荒脛巾様から握り飯を投げ渡されたから口に運ぶ。おおう……これ、マジでうまいっすね。


「はっはっは! うまかろう。ところでどうだ? 亀姫はここの作物を食べることで、我への気持ちがよい方向にむかっておらぬか?」


「申し訳ございません。亀姫様には津軽から運んでいるという風に伝えております故……」


「そうか……我、蝦夷の守護神なのに嫌われるはしょんぼりぞ」


 言葉通りしょんぼりと肩を落とす荒脛巾様を見かねて、元気づけるように主様が声をおかけになる。


「亀につきましては私もどうにかしたいと思っている所存。京にて富と親友という源頼光なるものと知り合いまして、彼の者ならば亀ともうまくやれるのではと思っているですが」


「源? それは確か倭の朝廷に連なる者の姓ではなかったか――……ふむ、陸奥の生まれではあるのか。たしかに可能性はあるかもしれないが、そんなことより父親を見つけてやる方が早いではないか」


「そりゃ確かにそうですが、それが出来れば苦労はしませんぜ」


黄泉比良坂よもつひらさかっすか? 恐山っすか?」


 当たり前のことを言い出す荒脛巾様に若干呆れつつ、刃倶呂とアタイとで弱弱しいツッコミを入れると心底不思議そうに首を傾げた。


「そんな場所にいるなら母禮なりコロポックルが何とかしてると我思うよ? 母禮とて大体の見当はついてるはずぞ?」


 は?


 アタイたち全員が勢いよく主様の方に目をやると、困ったように頭を掻く。捜索を諦めるみたいに言ってたはずなのに、居場所は分かってるってどういうことなんすか!?


「いやー場所は分かってないなー? でも誰が晒されていた死体を持ち去ったかは分かってるなー? 例の第6天魔王の娘につられて、異国の神々がたくさんこの島国に入って来たからなー」


「……別に隠していたわけではありません。居場所も分からなければ、名も知らん。実際そのモノが持ち去ったかも分からない。そんな憶測で語っても意味がないと思っていただけです」


「それでも話せば何かの切っ掛けになるかもわからねえじゃねえですかい! 荒脛巾様もいらっしゃることですし」


「はっはっは! 異国の神であることは間違いないと思うんだがなー。とはいえ、神の国に連れて行ったのかもしれんし、輪廻の中に戻されたのかもしれん。でも、現世に迷っていると我の直感そう言っている」


「胡散臭いことこの上ない感じっすけど、取っ掛かりは欲しいっすね。何でもいいので話してみてくださいっす。誰か心当たりがあるかもっす!」


「それを期待して話したことはあるんだがな……」


 ため息を吐いた主様は肩越しにアタイの事を見つめて来た。


「髪を後ろに束ねておでこを出したヒンディーア風の背の高い女。あの日貴様を殺したイカレ女と一緒にいた奴だ。覚えていないか?」


「イカレ女……? そう主様が呼ぶのって火乃兎ひのとすか? ん? ん~……? アタイを殺したって……田村麻呂は女だった!?」


「そんなわけあるか。あの爆発娘でも田村麻呂でもない。覚えてるとしたら貴様しかいないのだが、背後からの1撃に顔も見ていないのだろう」


 ……たしかに、あの晩、主様を救いに乗り込む前にアタイは清水寺の門前に晒されていた王の亡骸を確認したっすね。その後、主様がアタイの死体に入って京を脱出したにしても、王の死体を放置したままってのは考えづらいっす。


 王の遺体の行方、その答えはあの晩にある。今さらながらそれを痛感したことで必死にあの日の記憶を呼び起こそうとしても、結局途中で死んじまったアタイに何かできることはなかった。



「んもー! 外にいる奴らいい加減なんとかしなさいよ!! うるさいわ匂うわ――――」


「へっくちッッッ!!!!」


「ちょ!? くしゃみするなら手で塞ぎなさい!!」


「冬も近いから風邪には気をつけないとねえ。あと食事の時くらいはゲーム機を置いてほしいものだねえ」


 ずびっと鼻をすするアラクシュミに呆れつつ、混沌は2つに割った肉まんを頬張った。


「混沌を同志にしたはいいが、この世界はいい具合に穢物モンスターや魑魅魍魎が溢れているからな。中国にいた時はあまり見なかったから人同士を争わせたが、日本だと適当に生存競争をさせておけばいい具合にレベリングになるだろう」


窮奇きゅうきが死んだことでここまでシミュレーションと差が出るとは思わなかったねえ」


 未来をよく知る2柱の神がしみじみとする中、スクルドは怒りをあらわにして机をバンバンと叩いた。


「それなら外にいるオーガとマーマンたちはなんなのよ! ほっとけばいいならあんな奴らもいらないでしょ!」


「いつか人間がある程度育ってきたときに、壁になるような存在はいくらいてもいいだろう。中ボスだ中ボス」


「……まあ確かにこの匂いと音はどうにかなってしまいそうだ。この家にも結界を張ろうじゃないか」


「外の様子が分からなくなるが……まあ問題ないか。山を覆う結界のため外の奴らが山から出ることは叶わんし」


 人間の繁栄を望むなら過保護になりすぎるのは良くない。そう言い聞かせた神々はのんべんだらりとした生活を送っていた。


 混沌というあらゆる存在の中でも5指に入る術師の張った結界を過信するのも無理もない。ただ、1度その結界に入り込んだ人間が再び入り込んだのに気づかないくらいには油断しきっていた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【母禮】――芦屋道満の中の人。阿弖流為とともに大和朝廷に反旗を翻した大逆罪人。

【亀姫】――阿弖流為の次女。猪苗代城城主。

*【雄谷(吉弥侯部)氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【コロポックル】――母禮の弟子のネクロマンサー。コロだのコロ助だの呼ばれる。

*【邑良志部狩武呂】――羅刹の男。刃倶呂の兄。

*【邑良志部刃倶呂】――羅刹の男。氷沙瑪とは昔馴染み。

*【阿陀多羅】――荒脛巾に仕える神官。姫巫女様とも。荒脛巾をその身に降ろすことが可能。

【阿弖流為】――羅刹の王。母禮とともに大和朝廷に反旗を翻した大逆罪人。

*【火乃兎】――羅刹の女。氷沙瑪と仲が良かったが、陸軍にも水軍にも居場所が作れず土蜘蛛に弟子入りした。

【混沌】――4凶の1柱。人々の繁栄を目指すのが仕事。様々な術が使えるが、不幸な事故により未来をシミュレートする術は使えなくなった。現代知識が豊富。

【アラクシュミ】――4凶の1柱。ヒンドゥーの神。現在地点より昔のパラレルワールドの自分と融合することで、過去に飛ぶことが可能。幸福の神だが人類の滅亡に何度も立ち会っているため、不幸の神と自虐気味。混沌同様に現代知識が豊富。ゲームが大好きで創作活動を保護するため人類救済に動いている。殷と周の戦争では陸圧道人の名で周に加担した。

【スクルド】――4凶の1柱。北欧神話に出てくる3姉妹神の末っ子。未来を司る。

【窮奇】――故神。世界のバランス調整を行っていた。



【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【穢物けがれもの】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

【蝦夷】――陸奥や出羽にあたる地域に土着してた先住民。

*【荒脛巾】――蝦夷の間で信仰される神様。

【黄泉比良坂】――現世とあの世の間にあるとされる場所のこと。

*【ヒンディーア】――インドの統一王朝。

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