表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
126/175

【源頼光】出立

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 播磨国の国府・姫路で道満さまの目代を務める氷沙瑪ひさめの親父さんに水の事を伝えた私は、芦屋のことでの疲れから部屋を借りて1泊させてもらった。


 あの時は外壁までしか立ち寄らなかったけど、中の壊れ方もなかなかのものだったみたいで立て直されたばかりに見える家が目立つ。


 そんな中、1番目立つのは中心に鋭意建造中の城。設計図ってのは見せてもらったけど、今はまだ土台となる大きな石を積み上げてる段階で、完成までは相当かかりそう。来年の農耕の時期までの雑徭ぞうようかと思ってたけど、半年でどうにかなるような作業には見えなかった。



 そんな播磨国を後にして京に戻り、親父たちに東国へ行くため数日戻らないことを告げて、準備を整えて、約束の日になった。


「頼光様、準備はすっかり整っておりやすが……どうしやすかい?」


「うーん……どうしようかしらね」


 貞光の発言はまだ到着してない酒呑たちのことよね。確かに時間までは決めてなかったけど、お天道様はすでに西の空に傾き始めてた。


 酒呑たちなら大江山まで2日とかからない。だから余裕をもって5日後を出発としたのに、ほんとなら昨日の夕方くらいにはついて拠点ここに泊まると思ってたんだけど。


 大江山で何かあったなら茨木ちゃんが残して来た鳥で連絡くれそうなもんだけど……さてどうしたものか。


 床に地図を広げ、そこに描かれた1本の道を指す。


「えーと……今回通る道はとりあえず東に進んで海に出てからそのまま海沿いに整備されてるこれでいいのよね?」


「ええ。こちらの道に沿って進めば町も多いでありやすし、なにより町と町を繋ぐ道として自由武士が整備していやすため分かりやすいですからね。ただし、人の行き来が多い道でありやすから、行き倒れやなんやで穢れが残りやすいため穢物けがれものは多く出やすため、手前らからしたら危険は多いかもしれやせん」


It's weird(どういう理屈デスか)。普通、整備された道、危険少ない、デス」


「穢物は本能で襲ってきやすが、野生動物なら手前らを見たら逃げ出しやすんで」


「あははー、とはいえボクらからしたら穢物も野生動物も大して怖がるもんでもなし。なら、道迷いの心配がない方が良いよねー。それに後から追ってきても見つけやすいだろうしー」


「そう、ね。やっぱり先に出立して追いかけてもらう方がいいかしらね。例の猪苗代湖に近づかないようにって意味だろうけど、金時山の調査は道満さまからの指示。道満さまたちが戻った時、『行ったけど分かりませんでした』ならともかく『行ってません』はまずいし」


 大江山から何の音沙汰もないのは気になるとはいえ、この前の青竜たちとの闘いみたいに本気でヤバそうなことなんてそうそう起きるはずもない。


「それなら~、わたくしがここに残って頼光ちゃんたちが通る道を伝えますわ。うふふ、帰る場所を綺麗に待つことも必要ですともね」


「たしかに、この前の長旅から帰った時も結構荒れとったからな~。なら今回はいまいち銭の匂いせんしウチも残るわ」


「あらあらまあまあ! わたくしのことを1人にしないようにしてくれるのね~。優しい子ね~いい子いい子~」


 後ろから抱きかかえられながら頭を撫でられるのを、目を細めて気持ちよさそうに受け入れる茨木ちゃん。確かに茨木ちゃんにとっては、摂津みたいに異国と交易してるような場所に行くわけじゃなければ、京にいる方が勉強になるし楽しいか。


「なら、一応護衛として季武すえたけも残していくから、何かあったらたたき起こして使って。京に行く時も早朝ならちゃんと送ってくれるから」


 壁を背に寝息を立ててる季武を指さしながら言うと、頼りになるのか疑問に思う眼差しで冷たく茨木ちゃんが見つめる。まあ、そこは呪いの影響らしいから勘弁してあげて……耐性あるって言っても本来生きてるのがそもそもおかしいものを軽減して今があるわけで……。


「それじゃ出立しようと思うけど、火車は来るってことでいいのよね?」


Of course(もちのろん、デス)、行き倒れ多い道、放置された死体多い。Burn them all、主の定めを果たす旅、デス」


 と、いうことなら綱、貞光、火車、私の4人での旅になるかー。あとから酒呑たちが追いついてくるかもだけど、初めの予定と違って大分寂しい旅になっちゃうわね。


 特に久しぶりに丑御前に会いたかったのよね。道満さまたちから地味に信頼されてないこととか、全面的に肯定して騒いでくれる丑御前成分を体が求めてる状態。貞光も私のなにもかもを肯定してくれるけど、重いというかなんというか……とにかく気楽な感じで騒いでほしい気分。


 いざ出立と木戸を開けると、横から小さな影が飛び出して私の頭に乗った。


「きゅー!」


「あらかわいい。なんか久しぶりな気がするわね」


 占い師さんを探してる間は頭の上に乗せてたけど、宇治橋の再建とかには興味がないのかついてこなかったミドモコが、私の頭の形に添うように腹ばいになってくつろぐ。


「あらあら? そういえばここのところ頼光ちゃんとは入れ違いだったわねー」


「腹減るとしょっちゅう来とるでこいつ」


「なんだとー? 悪いのはこのお腹かー? んー?」


 横から腹をつまんでふにふにするけど、なんだかんだ無駄な肉がついてる様子はない。走り回ったり運動はしてるからかな。


「んー、酒呑たちの代わりにそいつもつれてったらー? 12天将つきの使い魔だってのなら、こっそり天后たちと連絡とらせて正確な場所を確認できるし。何より大江山の連中がいないと戦力も半分だしねー」


「ふむ、ついこの間までは頼光様に綱に自分となれば昼の最大戦力だったといいやすのに。そこに医学を究めたような英才を加えてなお戦力半減とは、いつの間にか贅沢な組織になったもんでありやすね」


「たしかに」


「きゅー?」


 話が分からず不思議そうな鳴き声をあげるミドモコにふかした里芋を食べさせながら事情を伝えると、一緒に連れてけとばかりに外を前脚で指した。



 こうして始まった4人と1匹による珍道中……というほどの何かが起こることもなく、普段と違う景色を楽しみ、普段と同じように穢物を倒し、行き倒れの遺体を燃やして供養しての数日の工程の末、私たちは足柄坂までたどり着いていた。


「ふう、結局酒呑たちは追いついてこなかったわね。ここから先が坂東ってことだけど、私たちの目的地はそこの山ってことで良いのよね?」


 坂の頂上、その南に連なる1つの山を指さして尋ねると、貞光が大きく頷いた。


「はい。東に進めば文字通り坂東でありやすが、手前らの目指すは金時山。山姥の噂もあり、ろくに近づく者もいないためここより先は道の整備はされておりやせん。どうぞ手前に続いて下せえ」


 秋も深まり落ちた葉を踏みしめながら道なき道を進む。1㎞くらいは歩いたかな? んー……確かに。陸奥の山を歩き回って来た私からすると、何とも言えない不自然な感じを覚える。


「待って貞光。このまま真っすぐ行ってもダメ」


 頂上に向かう方向から東にはずれて斜面を下り、川の音が聞こえるとそれに沿うように回り込むような形で進む。


「Wow、なかなかにwildな道、進みますね」


「あははー、これで迷ったら悲惨だよねー」


「ふん、頼光様のことを信用できねえとは憐れなもんで」


「んー……」


 後ろで綱と貞光がまた喧嘩を始めたみたいだけど、気にしないで金時山の方角を見上げる。ここがああで……あれがそうで……よし!


 そこから何度か上り下りを繰り返すと、富ちゃんの屋敷に向かうときの、そして占い師さんにあった時の不思議な感覚を体が感じる。


 きっとこれが結界に入り込んだ時の感覚ってヤツなのよね。本当に結界があったなんて――……。


「――って臭っさ!? なにこれ、夏場に釣り上げた魚を陸に放置したみたいな生臭さ!?」


「? 何か匂うかい貞光」


「いえ、すいやせん手前も綱と同じで何も感じやせん」


「うぎゅ~~~……」


 火車も少し顔をしかめてるけど、はっきりと異臭を感じてるのは他にはミドモコだけみたい。山の上から降りてくる生臭さに心が折れそうになるけど、何かあるとしたらこの匂いの方角よね……。


 気合を入れるため思いっきり頬を叩いて、私たちは山を登り始めた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【天后】――12天将の1柱。後1位。天狐。狐耳1尾の麗人。貴人と違い大物感が漂う。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。ミドモコ。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の1番弟子で怠惰のドラゴン。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【目代】――遙任国司の代わりに政務をとる代官。

【雑徭】――国司が領民に与える肉体労働という名の税の一種。

【東国】――関東方面。

【坂東】――関東地方。

*【自由武士】――主を持たない武士。穢物退治や物資輸送の護衛などで生計を立てる。俗に言う冒険者てきな方々

*【穢物】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ