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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
123/176

【源頼光】第1の家臣

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

 広げられた布に描かれてたのはどこかで見たことがあるようなないような……そんな図形と文字?


 茨木ちゃんが目を皿みたいに開いてかぶりつくように見てるだけで、なんかすごく貴重なものだってのは分かるし、道満さまと氷沙瑪ひさめも時々指を差しながらコソコソと何かを確認し合ってる。綱と季武すえたけは何か分かってるみたい。


 他の皆は何が何やらさっぱりって感じで……まあ私はこっち側ね。


『これと同じものだ』


「ああ、そうそうこれこ……れ?」


 道満さまに投げ渡された髪を束ねる紐をほどくと、そこに描いてあったのは確かに見覚えがあったもの。いや、これと同じだと言い張る人がいたら本気で言ってるのか疑いたくなるくらい違うんだけど……そこはまあ道満さまだしきっとそうなんだろう。


「……どれくらい正確に描かれてるんすか、この日ノ本の地図」


「季武と3人で近くで検証したけど、かなりの精度だよ。測天と量地のやり方を聞いた時も納得できるものだったし」


「綱たちはこれ見たことあるの?」


「ま、蛇丸ってのは見えないけど、色々情報交換したいときは空気を読んで離れてくれるようこともあってねー。そん時に見せてもらったりしたよー」


「信じていただけるかどうかしか正確性を主張できるものはありやせん。ですが手前が頼光様にお仕えして2年強、各国を回りその地の民話や伝承から最新の情報まで細部まで正確に覚えお伝えすることに全力を尽くして来やした。そのおかげか綱の言葉を借りるなら緻密な情報収集に芯が通りやして、地図の正確性には自信はありやす」


「なるほど……あとで書き写させてもらっていいっすかね?」


 氷沙瑪からのお願いに「どうしやす?」と視線で確認してくる貞光。なんか易々と渡すもんじゃないって空気を感じるけど、仲間どうしだし別にいいんじゃない?


 とはいえ、貞光からしたらせっかく作った貴重なものを、会ったばかりの相手にほいほい渡されるのは気分は悪いかな? なら私がこの機会を有効活用してるって姿を見せた方が、納得いくかも。


 なんか道満さまたちに頼みたいことって――――あ。


 隣の部屋から桐箱を持ってきて、中に入ってた紙を広げ氷沙瑪に見せる。


「それなら質のいい紙をたくさんもらえない? なんでも、そのままそっくり書き写す呪道具はあるらしいから、職人さんに頼めば楽にできると思う。その代わり、この甘美絵あまびえっていうのを流行らせたいらしくて、紙が安くたくさん欲しいんだけど」


「せや! 銭の匂いがすんねん」


「なるほど。手書きよりそっくり書き写せるならそっちの方がいいな。主様、いっそ播磨で大々的に作らせねっすか? 紙ならどこでも需要ありそうっすし、稼いだ銭で食べもん買う感じで」


『ただでさえ城作りをさせている中、製紙もとなると来年以降の作物の収穫量確保は難しくなる。今は良いが、私が転任したら干上がるだろうに』


「そんなん後釜がどうにかするだけの話っすよね?」


「無茶苦茶言ってるわね……」


「つーか商売ならこの地図を複製して売ればひと財産なんじゃねえの? 俺様にゃその価値が良く分かんねえが貴重なんだろ?」


 確かに。それこそいろんな国に国司として赴任する人なんか、移動に便利だし絶対欲しがる。それなのにあの茨木ちゃんが売りさばこうとしてないのは逆に違和感があるくらいだわ。


「ま、めっちゃくちゃに便利過ぎるからねー。例えばー……ここ宇治川だけど、見て気づくことない?」


「んー?」


 ここんとこ何度も足を運んでたところだけど……んー……何が言いたいんだろ?


 私が答えに困ってると横からのぞき込んできた橋姫さまが声を上げる。


「あらあら。もしかして線の太さで川幅も正確に表してるのかしら~? すごいわね~」


「そそ。移動にはもちろん便利だけど、何より戦争の時あったら便利ってこと。大軍を動かせる道とか、渡河に使えそうな場所とか見るだけでおおよそ見当ついちゃうからねー。だからこそ、正確な地図は身内で独占しといた方がいいんだよー」


「……物騒な話ね」


 つい最近じゃ摂津国と播磨国も争ったわけだし、もしかしたら陸奥と坂東の戦争云々以前に、坂東の諸国の間でも争いが起きてても不思議じゃない。こんなご時世じゃ、こっちの似ても似つかないずんぐりした地図の方が都合がいいって事かしら。


 穢物けがれものもうろついてるし、正確な地図を広めるのは安心安全に旅ができる世の中になってから、か。


「しかしまあ、かなり出来る奴って感じだな。それなりの付き合いになるオレからしたら、頼光の第1の部下といや綱なんだが、そう自称するだけはあるか」


「ありがとうございやす。この忠誠誰にも負けないと自負しておりやすが、そもそも季武はともかく綱に忠誠心なんてありゃしやせんよ」


「お? なんだぁてめえ?」


「事実でありやしょう? お前の忠誠は今も昔も源(とおる)にあるでやしょうに。2番目に頼光様を置いてはいるもののムカつくんですよね」


「え? え?」


 なんか急に一触即発の空気に変わるの何で? てか仲良くやってんじゃないのこの2人?


「ちょちょ、ちょっと待って? どういうこと?」


「あははー、本当だよ。嵯峨から切り捨てられたボクが、なんで嵯峨の爺様に忠誠誓ってるってなるわけ? マジで意味分かんないんだけど?」


「爺様、という呼び方に全てが詰まってるように思いやすけど? 頼光様は気軽に接して欲しいとおっしゃられてるからともかく、こいつが他人に敬称をつけるのは源融殿だけでありやすし、いつか戻って来いと言われるのを待っているようにしか見えやせんがね」


「そういや主様のことも呼び捨てっすよね」


 誰かと話す時、私の事を姫様呼びすることあるけど、それはそれで含みがあるからたしかにそうかも。


「頼光様はご存じの通り綱は喜び以外の感情を持たぬ者。怒ったり悲しんだり笑ったりは他人に言われた通り取り繕ってるだけです。そして大半は嵯峨源氏にいた時に仕込まれた基準に沿ったもので自分がない」


「まぁ……播磨と争った時やたら声荒げてたりしたけど……あれもそういうこと? 確かに叔父上も清和源氏の感覚じゃないって言ってたような」


「え? 怒ってなかったのか? 分かりづれえなコイツ……」


「相棒ガ敗北シテヤガルゼ」


 んー、やっと綱にも感情が芽生えた? みたいに喜ばしく思ってたけど、違和感はずっとあったのよね。でも先日の六合りくごう戦でやっぱり感情が乏しいのは分かったし、納得せざるを……。


「あれ? 喜びってどんなことで喜んでくれるの? 知っておきたいんだけど」


「ふう……。最近こいつのこと優しく叱ってやってやすかい? 頼光様にしたらあまり好ましく思ってないことは存じてやすが、こいつは嵯峨での折檻がきつかったせいで優しく叱られることのに衝撃を受けて癖になってる奴ですぜ? ただ、そうされたいからとわざと小さな失敗を繰り返すのが、またムカつくんでありやすが」


「あ~………………」


 あれね~……たしかにあれは本気の感情……何の感情もこもってなかったら逆に気軽にしてあげれたかもしれないけど、本気だからこそこっちも引いちゃってると言われたらなんも言い返せないわ。


「やれやれ、イラつくなー。頼光にとって有用だから手を出さないでやってるけど、あんまり人のこと分かったようなこと抜かしてると殺すぞ貞光」


「はッ、それはこちらも同じ思いでありやすよ。まあ少しでもイラついてるというなら、頼光様にも喜んでいただけやすので重畳ですがね」


「待った待った! え~と……そうそう! 話を戻そ。その亡霊に襲われた猪苗代湖とか、結界が張ってあると感じたって場所はどこなの?」


「すいやせん。確かに随分と話が逸れてしやいやしたね。それでは手前が知る限りの坂東から陸奥にかけての話をさせていただきやす」


 この2人私の前では仲良くやってるように見えたけど、それ以外だとこんな感じなの……? 正直人が増えれば火車と道満さま、火車と酒呑みたいに相性悪いのも増えて来るのは覚悟してたけど、まさかこの2人が仲悪いとか思ってなかったんだけど……。


 なんともモヤモヤした気分になりつつ、貞光の説明を待った。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。影が薄い。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【甘美絵】――漫画。現在のところジャンルはラブコメのみ。

*【呪道具】――一品物である宝貝を再現しようとして作られた歴史を持つ。宝貝は仙道士にしか扱えないが、一般人でも扱えるように魔力を込めた呪符を差し込み動かすことを想定している。のろいの道具ではなく、まじない=魔法の道具。

*【穢物けがれもの】――穢を浴びて変質した生物。俗に言うところのモンスター。

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