表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
122/175

【源頼光】碓井貞光 その3

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


他の人の作品を読んで、今更ルビに英語や漢字を使えることを知りました……。

今までの火車の台詞をちょこちょこ直していくかもしれません。

「――はッ!?」


「えーうっそ、早。いい角度で入ったと思ったけど、やっぱ体格がたいかなー?」


「綱なんて1晩中目を覚まさなかったってのにね」


 どうせしばらく目を覚まさないと思って蛇丸と遊ぼうとしてたら、ほんの数分で貞光殿が目を覚ます。


「――――なるほど。どうやら手前は、最高の主君に巡り合えたというわけですな」


「おー? 打ち所悪かったかなー? それとも被虐趣味?」


 顎をさすりながら周囲を確認した貞光殿は、闘いに敗れたことを理解したみたい。そのうえでもう1度跪いて頭を下げる。


「このような無様を晒しておいて恐縮でありやすが、今まで以上に研鑽を重ね、頼光様のお役に立つことをお約束いたしやす。何卒なにとぞッ、何卒この未熟者を頼光様の末席に置いて下せえ!」


「それはもちろん。こっちからお願いしたいと思ってたし、あなたの心が挫けてないなら喜んで。蛇丸も――――」


 いや、待って? これってあれじゃない?


「ねえ蛇丸! 貞光殿みたいに私の事をパクーッていってくれない? パクーッて!!」


 ちょいちょいと手招きして近寄って来た蛇丸にお願いすると、蛇丸は大きな口を開けて頭から私をひと飲みにした。


「どうよ! これなら誰にも気づかれずに外に出れるってわけ! ……っと、声も聞こえなくなるんだっけ」


 んー? 私の姿が見えなくなってもっと驚くと思ってたのに、ちょっと困った感じにお互い視線を交わすだけで反応が薄い。


 ちょっと間を置いた後、目を閉じてため息を吐いた綱が私の肩に手を置いた。


「まああれだね。人生ってそううまく行かないって」


「何で!?」


「どういうことでやすかね。相性とか、それとも同じ地方の育ちというのが関わっているのか」


 私の反応を見て無駄なことをしてると思ったのか蛇丸は私から離れると貞光殿を再び飲み込んだ。


「お、消えた」


「あーあ、せっかくこれからは堂々と抜け出せると思ったのになー」


「手前としても言うことを聞かせられる頼光様が引き取って来れればと思ったんでありやすが。これからもこうして腹の中の生活になりやしょうか」


 貞光殿はがっくりと肩を落とし暗い顔をする。蛇丸は貞光の言うことは聞かないのかしら。


「私は何も感じなかったけど、相性がいいと中にいる感じとかも違うの? ぬるぬるして不快とか」


「そんなことはありやせんが、常に口の中にいると思えば気は滅入りやすね」


「ふむ……それじゃ……気休めにこれでも被ってみる?」


 以前闇に乗じて抜け出そうとしたとき以来、部屋の隅に放っておいた漆黒の布を蛇丸の口に放り込むと、貞光殿は頭からそれを被って手を前に組んだ。


「ありがたき幸せ。お心遣い、大切にさせていただきやす」


 言葉の端に少し元気が戻ったかな。とりあえず今は仲間が1人増えたことを喜ぶとしましょうか。


 その夜、私は貞光殿を交えて改めてこの屋敷を出て陸奥守になるという夢を日が昇るまで語り明かした。



「と、まあ。このようにして手前は頼光様の第1の家臣としての日々を送るようになったんでありやす」


「めっちゃ喋るじゃんこいつ。少し意外だな」


 山盛りによそわれた米を頬張りながら得意げに私との出会いを語る貞光。すっかり貞光の独演会となった朝食の席で、他の皆は呆れてる感じだわ。


「蛇丸は私がお願いしないと貞光から離れようとしないからねー。なんだかんだ人と話せない日がずっと続くと、どうしても人恋しくなっちゃうのは仕方ないわよ」


I think so(同感デス)猫精霊ケットシーいない、私もきつかった、デス」


「まさに。煩わしいと思うこともありやすが、人というものは1人では生きていけないと実感しておりやすぜ。もっとも手前には最高の主がおります故、みやこに戻ればどうとでもなるという気持ちから気楽なものでありやすが」


 貞光からは出会った頃の悲壮感はもはや感じない。ちょっと恥ずかしいけど、私がいるから何の憂いもなく生きていけてるなら、頼ってくれていい。


『ならばいっそのこと蛇を祓ってしまってはどうか。もちろん力づくではなく、穏便な方法でだ』


 食事を取らずに壁に寄りかかる道満さまの思わぬ言葉に、うっかり後ろから抱え込んでる火車を逃がさないように気をつけながら顔を向ける。


「それはさすがに蛇丸が可愛そ―――」


 ……いや、貞光も今は落ち着いてるとはいえ苦労してきたのは間違いない。蛇丸にしても輪廻の輪の中に戻りたいと思ってるかもしれない。これに関しては本人の意思が1番重要だわ。


 私が1言1句違わずに貞光に道満さまの言葉を伝えると、驚いた顔で目を見開いたものの、軽く笑い飛ばされた。


「そうですね。以前の手前でしたら1も2もなく飛びついたであろう魅力的なお言葉でありやす。ですが、こうして頼光様の新しいお味方を目にいたしやすと、闘える人間が1人増えるよりどこにでも忍び込める密偵としての方が頼光様のためになると思いやすので」


「あははー! たしかにねー。実際マジでいるといないとじゃ大違いだからな貞光コイツ


「色んな場所に行って、色んなお話してくれるのは本当に嬉しいからね。そういうことですから道満さま、今回はそのお気持ちだけいただきます。貞光の事を気にかけて頂きありがとうございます」


『ふん』


 せっかくの提案を無視して気を悪くさせちゃったかな? とはいってもそこまで空気が悪くなったわけでもなし。まあ、それでも何か他の話題に切り替えたいところだけど……そういえば貞光が戻ってきたら例の陸奥の結界の話聞こうとしてたんだっけ。


「貞光、坂東と陸奥の境でおかしな感じがする場所なかった? 結界が張ってるとかそういう感覚を受ける場所」


「結界ですかい? そうですね、2か所ほど心当たりありやすが……どちらも坂東と陸奥の間ではありやせん。ただ……」


「ただ?」


 1度言葉を区切り、何かを思い出すかのように考え込んだ後、貞光は再び話し始めた。


「そうですね。陸奥の入り口と言っていい場所に猪苗代湖なる湖があるでやすが、そこで大量の亡者に襲われやしてね。亡者には手前の事が見えていたようで撤退を余儀なくされたんでやすが、一応特徴としては『もーれーやっさ』でしたか、そんな聞きなれない言葉だけを発し続けてやした」


「なんや、ウチらからしたら聞きなれた言葉やな……」


 皆の視線が氷沙瑪ひさめに移る。たしかに氷沙瑪が時々使ってるけど、掛け声自体は母上が暗い顔をしてた陸奥の人たちに、少しでも昔の活力を戻して欲しいって復活させた言葉。10年以上遠ざかってるとはいえ使われててもおかしくないはず。 


「ふーん、亡霊か。もしかしたら貞光みたいに他の人には見えなくて見逃してたってこともあるのかもだし、天后さんに結界ってのがどこのことなのか聞きに行くついでにそこも見に行こうか」


「待て頼光。話が見えねえんだけど結界って何のことだ?」


 真剣な顔の氷沙瑪に少し気後れさせられるも、確かに道満さまたちは先日のことを知らないんだし、話しておかないといけないわ。


「さっきも言った通り、12天将とひと悶着あったんだけど、その時天后さんから聞いたのよ。坂東と陸奥の境に結界があって調べてるって。それでことの次第によってはまた陸奥と戦争になるかもしれないって。陸奥守を目指すにも、そもそも戦争なんて起こっちゃったら元も子もないし、私たちも次はそこを調べに行きたいよねって」


「そのようなことが……。すいやせん、手前がしっかり調べておけば」


「ううん。貞光は結界を解除できたりしないでしょ? 確かに気にはなるけど、そこは天后さんが言ってた場所とは違うんじゃないかな」


「そもそもテメエは親父の説得がまだなんだろ? 情報を得たところでそもそも動くことができねえわけだからな」


「? いや、それはもう解決したわよ? だからこうして皆と朝ごはん食べれてるわけで」


 んー? なんかかみ合ってない? 皆が急に何言ってんだこいつって顔になってる中、私の腕の中の火車が腕をポンと叩いた。


I see(そりゃそうか)。貞光、パパさんにも、見えない。綱の代わり、じゃない、デスね」


 なるほど、確かにこの前綱の代わりに火車が迎えに来たように、貞光が一緒だったからこれたと思われてたわけか。綱も納得したように「ああ」と呟いた。


「それじゃあれか。全て準備は整ってんのか」


「遠征ってわけだな。どんなヤツらがいるのか今から楽しみだぜ」


「別にいいんだけど当たり前のようについてくるのね。てか、京で暴れられたら困るって丑御前を連れてきてないわけだし、東国に行くなら連れてきてあげたら?」


「ソレモソウダ。ツーカ相棒ヨオ、アレカラズットコッチニイルワケダシ、帰ッタラ丑御前に文句言ワレルゼ~?」


「は~……めんどくせえのは嫌だなあ。最悪頼光に全部丸投げするからいいけど」


「面倒見るのは問題ないけど、ちゃんと文句言われてあげてよね。なんか大江山を出るなって言われてるの、自分を見てるみたいで心がきゅってなるわ」


 大江山の2人とそんなやりとりをしてると、山盛りの米を全部かきこんだ貞光が咀嚼そしゃくしながら膳を片付け始める。長話のせいでまだ食べてるのは貞光だけだったわけだけど、場所を作った貞光は重ねて丸めた布を、描かれた線が繋がるように床に広げていく。


「……失礼いたしやした。坂東へ向かうというのであれば、手前の作ったこれも役に立つと思いやすんで」


 貞光はおもむろに大鎌の刃を外すと、長い柄で広げた布の上から床をトントンと叩き、皆の視線を布に集中させた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。影が薄い。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【東国】――関東方面。

【坂東】――関東地方。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ