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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】好転

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「わーたーしーがー……」


 東の山から朝日が顔を出し、朝もやの立ち込める山道を駆け上がって中腹にある拠点の木戸に手をかける。


「来たーーーーーーーーー!」


 スパーンと勢いよく木戸を開け放つと、土間で朝食の準備をしてた茨木ちゃんと橋姫さまが目を丸くした。


「あらあらまあまあ。今日も元気ねえ頼光ちゃん」


「はい! いつにも増して!」


 結局ここに住み続けることにした橋姫さまに、額に右手を上げて満面の笑顔で挨拶する。結局宇治橋のたもとじゃなく、こっちに住むことにしてくれた橋姫さまはクスクス笑うけど、茨木ちゃんの方はジト~とした目で軽くため息を吐く。


「中も喧しいのに、外からも喧しいのに来られると適わんわ。朝餉の準備中やからほこりはたてんといてな」


「中?」


 土間から板間を覗き込むと、そこでは火車が後ろから氷沙瑪ひさめに羽交い絞めにされて転がってるのを、他の皆で遠巻きに眺めてるところだった。


「シャーーーーッ! フシャーッ! がーるるーーー!!」


「だーかーらー! 主様を燃やそうとすんのは止めろと何度言わせんすかこのネコ娘は! いい加減きちんと躾をしといて欲しいっすよ」


「あら、帰って来てたのね。いつのまに」


『昨日の夕方にな。貴様とは入れ違いだったようだ―――が……』


 つい昨日自由に動け回れるようになったばかりなのに、まさか時を同じくして道満さまも戻られるなんて1つの物事がうまく行けば、連鎖していいことが起こるものね。


「で、えらい早いけど飯は食べたん? 皆よう食べるし多めに作っとるけど、頼光はどうする?」


「ありがとう、それじゃ2人分よそってもらえるかな」


「朝から良く食うな。片付けるのも大変だし、椀に特盛にしてもらえや」


 火車に絡まりながら呆れた声を上げる氷沙瑪。その言葉に対して逆に道満さまが呆れたように肩をすくめた。


『修行が足らん。氷沙瑪、後ろのアレが敵なら、貴様の首が飛んでいるぞ』


「は? 後ろのアレ?」


 道満さまの声が聞こえないけど、氷沙瑪の反応に察した綱と季武すえたけは目を軽く見開き納得の表情に変わる。比べて酒呑と虎熊は何のことが分からず首をかしげてる……のはいいんだけど、ずっといるわねこの2人。別にいてもいいんだけど、丑御前にあれだけみやこについていくなと言ってたのにこれじゃ帰った時相当文句言われそう。


「それにしても……道満さま、貞光のこと気づいてるんですね。2度見した気がしたから、もしかしたらとは思ったんですけど」


 相変わらず表情が変わらないから今1つ確信がなかったけど、本当に見えてるみたい。貞光本人もまさか私の他に見える人がいるとは思ってなかったのか、びっくりしてる。


「いやいや……いやいやいやいや、変な冗談は止せ。さすがに誰もいねえだろ? なんだ? 貞光ってのは霊の類か?」


「くくく……中らずといえども遠からず。己の目に映らざるを全て夢幻とするは生あるモノの性質さが也」


 朝日が昇ったせいで少し眠そうな季武の言葉を聞き流し、土間に降りた虎熊は拳に力を込めて辺りに手あたり次第殴りつけた。


「あの~、虎熊童子さん……ほこりたてんで欲しいんやけど……」


「あ? まあ、朝からわけ分かんねえこと言って、からかってきた頼光が悪い」


 私が悪いと言いながらも、恐る恐る抗議する茨木ちゃんの頭を撫でて態度では謝る虎熊を微笑ましくは思うけど、別にからかったわけじゃないのよね。


「ちゃんと拳も当たってたし、本人の迷惑そうな顔してるわよ。蛇丸、貞光をぺッしてこっちおいで」


「「「うおッ!!??」」」


 声をかけると貞光を飲み込んでた蛇丸の巨体が音もなく動き、私の体に巻き付くようにとぐろを巻いた。蛇丸に吐き出されたことで急に見えるようになった(らしい)貞光の姿に初見組が驚きの声を上げて後ずさる中、橋姫さまだけが1柱、あらあらだけで済んでるのが凄く()()()


「Oh……Death、デス」


 氷沙瑪が驚いて手を放した火車がうっかり道満さまの方に向かわないように、土間から上がって抱きかかえると、彼女も相当驚いたのか道満さまに襲い掛かるどころか「です」しか言えなくなってる。


 皆が驚く中、火車の着てるのとは違いネコさんの耳も尻尾もついてない全身を覆う黒い布を纏った貞光が、180㎝はある本人よりもさらに1mは長い柄に、弧を描いた大きな刃のついた大鎌を握りなおし、唯一布から見えてる口元を動かした。


「どうも、お初にお目にかかる方が多いので自己紹介をさせていただきやす。手前は碓井貞光、自由武士上がりのちんけなものでありやすが、どうぞお控えなすって下さい」


 頭に被ってた布を脱ぎ、あらわになった貞光の姿はこの前会った時に比べてだいぶ瘦せたみたい。両方のもみあげから上を外にはね上げ、前髪をすべて後ろに流してつむじのあたりで髷を結ってる赤い髪を見る限り、身だしなみには気をつけてるみたいだけど、ちゃんとご飯をたべてないのかな。


「体調に気を使ってる? しっかり食べないと倒れちゃうわよ?」


「これはお恥ずかしいことで。手前、蛇丸こいつが口に入れたものしか食べれないもので、満足な食事がとれておりやせんでした。蛇丸こいつの体内にいると時間の流れ方が違うのか、腹もなかなか減らないんでありやすが、それでも長いこと食べねえとこの有り様でして」


「……なんか微妙に親近感の湧くヤツだな」


「オ? ナンダ相棒、オレガ迷惑カケテルトデモ言イテエノカ? オ?」


 望んだわけじゃなく自分の体を他のモノに乗っ取られてる者同士でどこか感じるものがあるのか、酒呑が感極まった顔してるけど、今がうまくやれてるならそれでいいと思うけどなあ。というより、こうやってお互いの近くで憎まれ口叩けるのも仲いい証拠か。


 蛇丸から出たせいか、盛大に貞光の腹の虫が鳴くと、クスクスと笑いながら橋姫さまたちが朝食をよそい始める。


「あらあら、皆様積もる話もございましょうけど、先に朝餉にしましょうとも。ささ、お座敷の方へお持ちになってくださいな」


「ああ、すいやせん先に水を頂いてよろしいでしょうか? なにぶん水もろくに飲めねえ状況だったもんでありやして。庭先の井戸をお借りしやす」


 そう言って外に出ようとした貞光を、板間に座った綱が呼び止めた。


「あ、待った待った。貞光ーお前、京に着いたばかり? 水は1度煮沸してから飲めってことになってるから、土間のかめに入ってるヤツから飲みな」


「そうなんですかい? なんとも面倒なお触れが出たもんで」


「あたいも初耳なんだけど、なんかあったのか?」


「えーとね、つい先日12天将の青竜たちと戦った後に晴明さんからも注意されたことなんだけど……」


『また揉めたのか貴様……ヤツらとはやり合うつもりがないと言っているだろうに』


「いや、今回こそ私は悪くないですから! むしろ晴明さんたちとは仲良くなってますから!」


 何かあったらすぐこっちのせいにされるのは納得いかないけど、とにかく周知しないとダメね。


「氷沙瑪には播磨で見せたけど、青いウナギみたいなヤツ覚えてない? あれって人の脳みそ食べて操るやばい生き物らしくて、目に見えないくらい小さな幼生が水の中にいるかもしれないらしいの。1度水を熱してボコボコさせれば死ぬらしいから、問題が解決するまではそうするようにってさ。あ、始めに影響出たのって播磨権守だし、播磨国でこそ徹底した方が良いのかも―――」


『「播磨国に行く前に言えや」』


「えー……それは理不尽じゃない?」


 まあ帰ってきた直後に言われたらムカつくのは分かるけどさ~? そりゃ知ったら言ってたわよ? でも知らなかったんだから仕方ないじゃないの。なんとも納得いかない気持ちになりながら、久しぶりの皆での朝食を始めた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【碓井貞光】――摂津源氏。源頼光の配下。平安4強の1人。影が薄い。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【橋姫】――摂津源氏。橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【芦屋道満】――播磨の遙任国司。左大臣・藤原顕光に仕える陰陽師。

*【雄谷氷沙瑪】――前世は羅刹の転生者。生前も死後も母禮に仕える忠義者。道満の播磨守就任を機に京に移った。

【安倍晴明】――藤原道長配下の陰陽師。狐耳1尾の少女の姿。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【自由武士】――主を持たない武士。穢物退治や物資輸送の護衛などで生計を立てる。俗に言う冒険者てきな方々


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