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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】宇治橋の戦い その11

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「あらためて皆に知っておいてほしいんだけど、私の目標は陸奥守になること。子供のころ私が親友の富ちゃんに陸奥をすごい国にするって約束したとき、富ちゃんは皆が笑顔で暮らせる国にしたいって言ってた。正直、子供だった私は……ううん、つい今さっきまで仲間が笑顔でやれたらと思ってたけど、それじゃダメ」


 皆が笑顔で暮らせる国を作れなかったらお腹切るって約束したのを思い出して、そっとお腹を撫でる。


 今さらだけど富ちゃんが言ってたのは、顔も名前も知らないけど同じ国に住む人すべてがってことよね。それこそあの孤独な場所で暮らす富ちゃんさえ笑顔でいられる国、それこそを目標にしなければいけない。


「ここで作物を作ってた領民は、明日この惨状を見たら絶対悲しむ。てゆーか、これから食べてく物が無くなって、税も払えないっていうなら絶望するかも。今の日ノ本の常識として、権力ちからを持つ貴族に領民が振り回されるのは仕方がないというなら、それを私たちが変えていきたい」


 視線を向けられた橋姫さまは不思議そうに首をかしげるけど、橋を作るために理不尽に殺されたっていうのも、かなりひどい話。


 ……いや、さっきまでの濁流から橋を守り切ったのは普通にすごいし、それが人柱の意味なら、お偉いさんの正しさの証明になるのかもしれないけど、領民に無理やりその役を押し付けるのは違う。


「貴船大明神さまのお話の中で語られた橋姫さまの友達の話。あれは貴族に虐げられる領民の1つの本音。播磨では国司――というか、政務を代行してた権守かな、それについていけずに領民が蜂起したのも見て来た。摂津や播磨の人たちが、道満さまや大枝山の皆が鬼と知りながらも怖がらずに接してるのって、付き合うことが損どころか得になったからでしょ。なら私たちは領民に損害を与える存在になっちゃダメなのよ」


「山賊や盗賊に略奪されたってんなら、まーだ理解できるが、何も取らずに暴れたいからって田畑を荒らすとかやられた方にしたら、マジで意味分かんねえしな。大江山なら好きにやらせてもらうとして、みやこにおいては頼光の顔立てようぜ? そもそもあんな戦意のねえ奴、普段だったら絶対相手しねえだろ」


 私の味方をするように話に入ってきた酒呑と2人がかりで説得された虎熊は、力強く髪をかきむしると、目を閉じて息を吐いた。


「……分かった。ここは首領の言葉に従ってやる。確かに究道派を相手ってのは滾るが、あんなの相手してもしゃあねえわな。どうせなら金霊聖母とやりてえもんだぜ」


「うん、ありがと。別に誰にも迷惑のかからないとこでなら、あの青竜と闘うのも止める理由もないしね。というより、ここはお互い退くってことで終わりにするから、金霊聖母――今は朱雀さんって名乗ってるんだっけ? その方と虎熊の闘いの舞台のお膳立てをしてもらえません?」


「きゅ? ま~~そっすね~。大裳の独り言に応えて退くんだから、12天将も交換条件飲めやってことっすよね~。朱雀は修行になるからって喜んで受けると思うっすけど、今は天后と坂東の方に出張ってるから戻ってきたらって感じっすかね~」


 とりあえず12天将側で唯一動ける状態のミドモコの前脚と握手をすると、ふわりと空に浮かんで青竜に近づいて行った。さっきまでの風の術なのか、気を失った大裳と壊れた琵琶も手を触れずに後に続いて飛んで行った。


「なんか普通に空を飛ぶわね。ミドモコの主の大陰さんってのの力もあるのかな? 仙人が空を飛ぶのが当たり前っていうなら、虎熊も朱雀さんと闘うまでに飛べるようになっとかないと話にならなくない?」


「さすがに無茶言うな。だがまあ、長年どうしても闘いてえと思ってた金霊聖母とやれるのはありがてえ。ま、ここは我慢してやんだから当然だな」


「あははー、嵯峨の爺様は飛べないから仙人が皆飛ぶわけじゃなと言いたいけど、嵯峨の爺様の場合飛べること隠してる可能性もあるからなー」


 遠い空の上でミドモコが青竜を起こして言葉をかけるのを見守ってると、寝ぼけまなこの青竜がこっちを向いた途端、口と目をあらんかぎりに開いたのが見えた。


「んー……? 今の青竜の口の動き、なんか物騒なこと言ってなかった……?」


「あははー……、口の動きまでは見えなかったから参考までに聞いていい? ボクとしてはアイツの表情かおが嵯峨の隠れ里でよく見た、とんでもないことしでかした子供のソレに見えたんだよねー……」


「…………よく見えんな。で、もったいつけずに早く言え」


 さっきの表情はそういう意味かー。そうなると言葉言葉とも一致するわね……。


「『やばい、師匠に怒られる。ごまかさないと、無かったことにしないと』ね」


「マジカヨ。急ニヤル気ダスジャン」


 乗ってた珠――定海珠っていう海と繋がってるものから降り、両手をかざしながら目を瞑って何か言ってる。詠唱しないでも私を思いっきり吹き飛ばした実績があるだけに、わざわざ詠唱してるのが季武みたいでイヤな予感しかしないんだけど……。


 同じことを感じたのかミドモコが大裳と同じように、ううん、播磨で権守の目玉から飛び出したウナギを割いた時みたいに長く伸びた爪で首を後ろから叩いた。


 ウナギを切り刻んだ余波で城壁まで斬りおとしたミドモコの爪は、青竜の首に傷1つつけるどころかパキンと音を立てて割れ、砕けた欠片が月明かりに照らされキラキラ輝きながら空から落ちた。


「全力で逃げるっす!!!!!」


「はッ! 誰が逃げるか。事ここに至ったら遠慮なんかしねえや、俺様が行ってぶちのめしてやらあ!!」


 止められないと判断して距離を取るミドモコの代わりに、そこまで跳び上がって直接殴り飛ばそうと右足に力をためる虎熊。


 虎熊の判断は正しいと思う。私だっていつもなら四の五の言わずに体が勝手に突っ込んでると思うのに、なぜか頭が完全にそれを拒否する。


 何をするかは分からない。でもほっといたら確実に被害は増えるし、さっきの謎クラゲの攻撃がより苛烈になると考えれば、今のうちに近づかないと後からだと手遅れになりかねない。


 それなのに私は虎熊の腕を掴んで飛び出そうとするのを邪魔してた。


「ダメ虎熊ッ! 綱、季武に合図を出して! 溜めはいらないから、出来る限り叩き込めって!」


「はいはいっ、とー!」


 綱の合図とともに無数の光の矢が丘から放たれ、その全てが定海珠に当たって消滅した。


「何やってんだアイツ。珠じゃなくて本体狙えっての」


 もう1度、今度はちゃんと本体を撃つように合図を送る綱だけど、そんな失策を長いこと連携してきたこの2人がするなんて思えない。


 意思疎通の失敗じゃないなら季武が外した? それも技量を考えたらあり得ない。絶対何かおかしなことが起きてる!


 光の矢が吸い込まれた定海珠を見ると、さっきまでは夜の星月に照らされた海面のように輝いてたそれは、まるで墨で塗りつぶしたように夜の暗闇の中で穴が開いたみたいに見える。


 ざわ、と今までなかった風が吹き、土ぼこりが空に向かって舞った。


「――外法」


 ずず、っと私の体が前にずれる。周りを見ると他の皆も驚いた様子で何とか踏ん張ろうと腰を落としてる。


「――万仙渦ばんせんか


 多分、術の名前。その名前を青竜が告げると、定海珠に向かって凄まじい勢いの突風が吹き荒れた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――大江山前首領にして最強の戦士。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【橋姫】――橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【富姫】――阿弖流為の長女。頼光の親友。

【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。余元。金霊聖母の一番弟子で怠惰のドラゴン。

【朱雀】――12天将の1柱。前2位。金霊聖母。余元・聞仲の師匠。截教のNo.2にしての求道派と呼ばれる派閥の長。

【玄武】――12天将の1柱。後3位。聞仲。金霊聖母の二番弟子で元・殷軍最高司令官。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。小動物の姿で頼光たちに協力中。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【坂東】――関東地方。

【定海珠】――余元の宝貝。海に繋がっており、自在に海水を操れる。

*【外法・万仙渦】――師匠から禁忌とされている青竜の奥義。

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