表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
1章 摂津源氏結成
11/175

【源頼光】東市

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

2025/1/02 修正

 ・一部加筆・修正

 ・段落の設定

 屋敷を出て目の前にある一条戻橋の手前を左手に折れ、堀川に沿って進むと東市と呼ばれる場所に出た。片手で数えるしかなかったみやこでの外出はいつも牛車に乗せられてたし、こうして自分の足で歩けるってほんとに気持ちがいいわ。


「それにしても東市か。人でいっぱいねー」


「あははー、なんか感動薄くない? もう少し大騒ぎするもんだと思ってたよー」


 いや、もちろん気分的には走り回りたいくらいなんだけどさあ……。


「……お腹が減りすぎて、はしゃぐ気になれないのよ」


 ぐぅぅぅぅ――……と盛大に腹が鳴り、綱が呆れたように苦笑する。


「あははー、何? 覇成死合はなしあいでお腹痛くならないように食事でも抜いてたのー? だめだよ食事はしっかり摂らないと」


「いや、むしろたくさん食べたんだけどねー。履物替えて本気で動けるようになったから?」


「あー、ボクが着いた時もすごい動いてたねー」


 綱から長椅子で待ってるように言われてしばらく、戻ってきた綱から差し出された団子を口に運ぶ。

食べては差し出されを繰り返すこと27回、さすがに腹の虫も満足したのか、ぐーぐー文句言うのをやめた。まあ念の為、後5本くらいは買っておいてもらおうかな。


「あはは、ほんとよく食べるね。それでこれからどうするー?」


「当然、陸奥守むつのかみになるため全速前進! 何をすればいいのかは分からないけど、とにかく動きましょ!」


 ぺろりと指先を舐めて席を立つと、気合を入れ直すため頬を張る。


「あはは、ほんとこだわるよねー。富ちゃんだっけ? 友達が大事なら陸奥守にこだわらず会いに行けばいいのに」


「何度も言ってるけどそれはダメ! 1度口にした以上、国司――陸奥守にならず会いに行くなんてカッコ悪いじゃない! 富ちゃんにはかっこいいとこ見せたいのよ。分かるでしょ?」


 そりゃ今すぐでも会いたいけど、夢が叶わなかった奴って失望されるのは嫌。もちろん富ちゃんなら優しく慰めてくれると思うけど、友達だからこそ格好つけたいじゃん!


「ま、頼信も次の河内守に決まったわけだし、可能性はあるだろうけどねー。やっぱり今1番権力のあ

る藤原道長に付くのが早いかなー?」


「権力者ねー…………って待って。あの弟くん河内守になったの?」


「うん。頼親よりちかが大和守になった時も挨拶にきたし、向こうの家は受領した時おっさんに挨拶にこさせるんだよねー。頼信利用することこそ今回の勝ち筋だったわけだから、頼光ガチ勢の工作員を通じて頼信にどこでもいいから受領させようってことで――」


「陸奥は!? 次の陸奥守も今決めてるとこなの!?」


「さー? でも頼光がおっさんが陸奥赴任直後に生まれたのなら、年齢的にぼちぼちじゃないのー? ……って、もしかして次の陸奥守を狙ってるの? 流石に今からじゃどうしようもなくない?」


「いやいや、さらに次となったら最低4年でしょ!? 外出許された意味ないじゃん!」


「えー……その4年で手柄たてて出世するための外出許可でしょーよ」


「それをどうにかする策とかないの!? そうだ、その弟くんを河内守にしたっていう工作員とやらに相談できないかな!?」


「だーかーらー頼光ガチ勢なんだっての。頼光の外出許可を勝ち取るためならいくらでも協力してくれるけど、陸奥に限らず遠方に赴任することはむしろ全力で邪魔してくるよ」


 えーなにそれ怖くない? そもそも私の味方なんて綱以外じゃ貞光と季武だけのはずなのに、なんか知らないうちになんか敵なのか味方なのか分からない人までいるの何で?


「………………ごめん、迷惑。他所でやって」


 下の方から声をかけられ目を向けると、地べたに座って店が広がっていた。確かに立ち止まって言い争ってたら迷惑以外の何物でもないわね。


 店主を見ると、なんかぶかっとした烏帽子? にはなんか金属のマルが付いてるし、服も肩から紐の下がった硬そうな生地で上着と袴がつながってる――とにかく見たこともない服装をした、浅黒い肌で眠たげな緑色の目をした男性。その脇にはこれまた見たことのない箱やら円柱が並べてあった。


「あ、ごめんなさい。商売の邪魔……だったよね」


「………………ん」


 商売をしてるって割には物凄く口下手な感じ。吃りながらも会話しようとする満頼と違って、そもそも会話をしたくない雰囲気が伝わってくる。こんな感じで商売できるのかしら?


「おー、なんだ今日は東市こっちなんだ」


 気さくに話しかける綱に気づくと、男は私の履物を見てなんか頷いてる。


「………………西市あっちは湿地、雨降りそうな日は東市こっち


 話に入れないでいると綱は男の隣に座り肩に腕を回す。あははと笑う綱と、面倒くさそうに離れようとする温度差がひどい。


「あははー、紹介するよ。頼光が今履いてる履物を手掛けた職人。多分平安京であの金属を加工できるの彼だけだと思うよー」


「まさかの大恩人だった!? 今までの履物はすぐ燃えるし、履かなきゃ履かないで足の裏焼けるしで困ってたの! ほんとにありがとね!」


「………………見せて」


 全力で感謝を伝えるも全く意に介さず、静かに履物を指差す職人さん。


 脱いで渡すと、しげしげと底を見つめて状態を確認する。腕の良い職人さんって自分の仕事以外は興味がないって、どこかで見たか聞いたかしたような。


「………………大分削れてる。また、同じ場所で使う?」


「あははー、取り敢えずは外を歩くだけになりそうだよー。それでも修理必要?」


「………………外なら問題ない。これより硬い地面、存在しない」


 返された履物を履き直すために座ると、職人さんのそばに置いてある箱が目がいく。何だろこれ? 箱の片面が開くようになってて、妙なでっぱりがあるし、脇には細い穴も空いてたりする。


「これは何?」


「………………発熱器っていう呪道具じゅどうぐ。団子入れてみて」


 言われたとおりに開いた面から団子をいれて箱を閉じる。


 職人さんが穴になんか紙を入れて出っ張りを押すとブーンと音を立てること数10秒、再び箱を開けると中から湯気を立てる団子が出てきた。


「凄ッ!? え、なんで!? できたてみたいに熱々!」


「おー! 他のはどんな感じー?」


「………………氷作ったり、風を出したり、火を起こしたり」


「なにそれ、こんな暑い時期に氷!? 風のやつは涼しそう! 綱、これ欲しい! 生活変わる!」


「でもお高いんでしょ―?」


 私と綱のはしゃぎっぷりに興味を覚えたのか、一気に人だかりができる。みんな私の持つ熱々の団子を見て興味津々といった感じ。さっき邪魔をしちゃったし5本の団子を集まった人で回してもらって宣伝に協力しとこ。


「………………値段はこれくらい。あと動かすのに呪符必要」


 それを聞いて集まった人の波はすぐに引いていった。綱も「あー……」と微妙な顔。


「あははー、穴に入れてたの呪符かー。そうなると宝の持ち腐れになりそうだねー」


「………………呪符で動く道具、だから呪道具」


「いやいや、そもそも呪符って何よ? そこから説明して」


「あははー、呪符ってのは修行を積んだ陰陽師とか坊主に書いてもらうものなんだよー。結構な金額要求されるー」


「例えば【芯】から筆に力を通して書くとかじゃダメなの?」


「あははー、ボクらみたいのには無理無理。頼光はただ速く動くだけに特化だし、ボクのも相手の懐に飛び込むだけだし。呪符を書くってなると修行で芯を通したやつの領分かなー」


「………………呪道具は万人向け。呪符を使わず力流せる人には、専用の改造もできる。その靴に爆発させる機能つけたり」


「なにそれかっこいい! 今すぐにでも改造して欲しい!」


「あははー、うちの頼光しゅじんの足を吹っ飛ばそうとするの止めてくれない?」


「………………緋緋色金ひひいろかねなら、安全。それより頼んでたもの」


「んー、貴重なものだからねー。そんなには渡せないんだよねー」


 そう言って懐から小袋を取り出した綱。入ってるのは覇成死合の時削れた壁とか天井? 別に大恩人相手なんだし、ケチケチせず全部渡しちゃっていいのに。


 すっかり交渉の態勢に入ったし少し長くなりそうね……。私がここにいても仕方ないしなにか面白いものでも見えないか――――な?


 何だろ? 路地から輪郭だけで全身真っ黒、それこそ日の当たらない路地の影よりも黒い人がこっち見てる。


 当然表情なんか見えないはずなのに、何故かずっと目が合ってるような……。


 するとその黒い人の肩から一本の腕が延びてこっちを手招きした。両腕はだらりと下げられてるから腕が3本ある? それとも後ろに誰かいるのかな? うーん、めちゃくちゃ気になる!


「綱、ちょっとそこを見てきていい?」


「んー? 別にいいんじゃない? あんまり遠くへは行かないでねー」


 よし、ちょっとついて行ってみよう。軽い冒険のノリで私は路地に足を踏み入れた。

【人物紹介】

【源頼光】――源満仲の長女。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――源頼光の配下。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【碓井貞光】――源頼光の配下。平安4強の1人。

【卜部季武】――源頼光の配下。

【源満仲】――源頼光、頼信の父。平安4強の1人にして最強。

【源頼親】――源満仲の長男。頼光とは異母姉弟。大和守。

【源頼信】――源満仲の次男。頼光とは異母姉弟。河内守内定。

【藤原道長】――右大臣。頼親と頼信の主君。平安京1の権力者。

【職人さん】――とんでもない技術力を持つ。キャスケット+オーバーオールという服装。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

【堀川】――平安京を流れる用水路。満仲邸の脇を流れる。

【河内国】――現在の大阪の東側あたり。

【大和国】――現在の奈良県全域あたり。

【陸奥国】――現在の青森県、岩手県、宮城県、福島県あたり。

*【発熱器】――電子レンジみたいなもの。電力ではなく呪符の力で動く。

*【呪道具】――一品物である宝貝を再現しようとして作られた歴史を持つ。宝貝は仙人や道士といった修行を積んだ人にしか扱えないが、一般人でも扱えるように魔力を込めた呪符を差し込み動かすことを想定している。のろいの道具ではなく、まじない=魔法の道具。

*【芯】――通力芯。生物の体内にある気力や魔力といったものを通すために張り巡らされたパス。

*【緋緋色金】――西洋のオリハルコンと似た性質を持つ希少金属。硬い・軽い・熱に強いと武器や防具に最高の素材だが、それ故に加工が難しい。覇成死合の闘技場やそこにつながる通路に敷き詰められている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ