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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】宇治橋の戦い その9

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「あっははははー! そら急げ急げ! さっさと掘らないと巻き込まれるよー」


「土塁なんて作ってる場合か!? あんなヤバそうなもん、こんなんで防げねえだろうし、射線に入らねえように退避だろ!」


 綱の掛け声に対して悲鳴に近い声で疑問をぶつける酒呑、綱の指示に疑問を持ちながらも文句を言いながら手を動かし続けてるのは偉い。


 季武すえたけが相当張り切ってるのか、見たこともないくらいビカビカ輝いてるのが気になるとこだけど、まずは酒呑の不安を取り除いてあげないとダメね。


「力を溜めた兵破ひょうはは危ないから水平に打つなって常々言ってるから大丈夫! 目標の真上の空めがけて撃つと、そこから目標に向かって雷が落ちる感じ。その落雷の衝撃だけ防げればいいから、変に逃げるより土塁の裏でやり過ごした方が安全よ。…………多分」


「最後の1言が余計なんだよなあ!?」


「雷ッテ――海ニ落チタラ海面ヲ広ガル気ガスルンダケドヨ。海水デ水浸シナコノ環境、大丈夫カ?」


「?? そうなの? 難しいこと分かんないけど、大丈夫じゃない? …………多分」


「だから多分を止めろ!!」


 わいわいと騒がしくも作業を続け、急ごしらえながら土塁が完成した。


「それじゃ季武に合図を――……て虎熊ー! 危ないから戻ってこーーーーーい!!」


 大声をかけてるのに一切気づく気配がなく闘い続ける虎熊。巻き込むわけにはいかないし困ったわね。


「琵琶ノ影響ハ1度デカイ衝撃ヲ与エナキャ解ケネエ。直接行ッテ頭ブン殴ルシカネエカモナ」


「あははー……アレの闘い邪魔するとか、わりと度胸試しに近いものあるよねー」


 綱の言葉に同意とばかりに頷く酒呑。ここは私が行くしかないわね。


 土塁から身を乗り出し、虎熊のところに駆け寄ろうとしたとき、着物の裾を引っ張られて振り向くと橋姫さまが藁人形を持ってニコニコしてる。


「あのー頼光ちゃん。さっきみたいにコレでいいんじゃないかしら?」


 さっき、っていうのがいつの事か分からないけど、綱を呪うのに使った人形は謎クラゲに踏まれて行方不明だし、私が回収した2つのうちの1つかな? これでいったい何をすれば?


「ナルホド。確カニ気付ケニャコレ以上ノ物ハネエヤナ。1度頼光デ効果ヲ試シテルシナ」


 言うが早いか外道丸が木槌を握って振りかぶると、その人形に刺さった釘めがけて振り下ろす。


 コーン! と小気味のいい音がしたと同時に、遠くで虎熊の「痛ってえええええええー!」という声が響いた。


「後ろー! 後ろの丘を見ろーーー!」


 怒りと戸惑いがない交ぜになった虎熊の後ろを指さしながら酒呑が叫ぶ。その声に振り向き状況を確認した虎熊がこちらに全力で走って土塁を飛び越えたのを確認すると、光が集まる丘に向かって頭上で丸を作る。


「に゛ょい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ッッッッッ!!」


 真っ白に染まった世界に響く断末魔の叫び。直後に起こった爆風が1瞬で土塁を薙ぎ払うのを、後ろに掘ってた穴に身をかがめてやり過ごす。


「――――やったか?」


 酒呑のつぶやきに、どことなーく胸がざわつくのを感じながら必死に目を凝らす。凄いまぶしさの中から真っ暗な夜の闇に戻ったのと、地面をえぐり飛ばした土煙のせいでなかなか確認が取れない。


 ようやく慣れてきた目で辺りを見渡しても、そこにさっきの謎クラゲの姿はなく、宇治に平穏が戻ったように見える。


「……終わった、かな? ふう~~~、話し合いで済んだはずの綱の解呪だったのに、どっと疲れたわね。橋姫さま、今日は本当にご迷惑をおかけしました、ほら、あんたも謝りなさい」


 綱の頭を掴んで無理やり下げさせると、橋姫さまは口元を隠しながらクスクスと上品に笑った。


「いえいえ、わたくしの方こそ、そちらの方をびっくりさせてしまったわけですから。それに橋も川に棲むお魚さんたちも被害はありませんでしたし、何も問題ありませんとも」


「あーーー……なんつーか納得いかねえ結果だ。酒でも飲まねえとやってらんねえし、朝まで付き合えや頼光」


「そりゃそうしたいのは山々なんだけど、ボチボチ屋敷に戻らないとまーた親父まんじゅうがめんどくさそうなのよね。拠点のお酒は自由に飲んでいいから、良かったら季武たちと親睦を深めておいて」


「あははー、じゃあボクが屋敷まで送るよ。ついでに指月の丘にいる季武と茨木の2人も回収していかないとね」


「茨木も来てんのか? まあ、拠点に1人だけ残しとくってのも危険だしな。アイツじゃ穢物けがれものが入り込んできたらどうしようもねえし」


「とにかく今日はもう遅いし、酒呑たちは拠点に泊まっていって。それじゃ橋姫さま、これで失礼いたしますけど、今度私たちの拠点なり、みやこにも入れるなら私の屋敷なりに遊びに来てください。その時は歓迎させていただきますので」


「ちょいと待つ出やんす」


 挨拶も終わったし、さあ帰ろうかとなった時、ミドモコを頭に乗せたままぐったりしてる大裳に呼び止められる。たしかにこいつが残ってたわね。仲間が倒されたとこで今度は私が相手だーって感じ? てか語尾こんな感じだったっけ……?


「アレを見るでやんす! 空でやんす!」


 その言葉に全員が空を見上げる。


 それは謎クラゲがいたあたりの上空、例の海水を垂れ流してた球体に腹から覆いかぶさる形で、角と尻尾の生えた例のドラゴンと思しき女の子が浮かんでた。


「……また寝てるし」


 てっきり私が起こしちゃったせいで、中に取り込んでた謎クラゲが暴走してたのかと思ったのに、なんと気持ちよさそうにまあ……。


「アレがお前の言ってたドラゴンか? 確かに火車が言ってた特徴に当てはまるな」


「おいおい、何の話だ?」


 さっきちらっと口に出したのを聞いてなかった綱と虎熊に、私が謎クラゲの中にいた時の話をすると、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた虎熊がガンと両手のこぶしをぶつけあった。


「おいおいおい、おもしれえ奴が残ってんじゃねえか。じゃあアイツは俺様がもらうけど文句ねえよな?」


「待て待て! 寝てる相手をわざわざ起こすこたねえだろ!? 火車の言うとこの化け物の肉体と人の知性を併せ持つ、ある意味最高に力を出せる状態なわけだ。大江山での頼光より強え可能性があるヤツにあえて喧嘩売る意味が分からねえ」


「馬鹿か首領。だからこそやる価値があるんじゃねえか」


「でも、火車も撤退した後だし治療はできないのよ? 今から強敵を相手するのは――」


「頼光よぉ、1回でも2回でも治せる状況の方がおかしいだろ? そんな甘えたこと抜かせんのこの世界でテメエだけだぞ?」


 ……………………うわ~確かに。火車の能力に頼りすぎて武士として相当腑抜けてる感じがするわね。


 にしても、大江山で闘った時は周りに気を配ってわざわざ危険を冒すことは避けてたってのに、酒呑に首領を譲り渡したからってそんなに変わるもの?


「……済まねえ。表情見るに気づいたら何もかも終わってたってのと、活躍のほぼ全てを後からやってきたはずの綱と季武ってのに持ってかれたことに思うところがあるらしい。大江山の面子ってのがあるらしいわ」


「あははー、これだから武人って奴は。面倒、面倒」


 なるほどね。綱と酒呑は面子なんかにこだわらなそうだし、私としても武士としての鍛錬は積んでも心構えってのは今ひとつってところだからなー。


 活躍できなかったら私だったら次こそは~! って感じだけど、多分虎熊にはその考えは通じない。ただ闘いたいだけっていうならともかく、虎熊が大切にしてるものを守るためには戦わざるを得ないって言うなら、それを止めることなんてできない。


「んーーーーーー……ねえ、大裳。あれってあなたの仲間なの? 闘っちゃっていい相手?」


 とりあえず今日の戦いは大裳たちと私たちの間での戦い。あの女の子が単に力を吸い出されてたみたいな被害者なら、既に戦いは終わってるってことで納得してもらえるかもしれない。


 そんな私の問いかけに、項垂うなだれたまま目を開けた大裳が口を開いて答えた。


「そうでやんす。アイツは青竜の―――」

「は? あれ、なんだここ。あっしは今まで何をって、何であっしの声が―――!?」


 同じ声が重なりながら他の事を話し始めたと思ったら、頭に乗ってたミドモコが大裳の首をトンと叩いてもう1度気絶させた。


 ……うん、普通の武士だときっと見逃しちゃうくらいの速さの手刀なんだけど、残念ながらここにいる皆なら多分見逃さない。


「きゅ~~~~?」


 あ、可愛い―――。


「いやいやいやいや! ごまかせねえから!? さっきから話してたのはお前だったのかよ!! 何ものだお前!!」


 いけないいけない。目を潤ませながら小首をかしげる仕草に思わずごまかされそうになったけど、酒呑のツッコミで我に返る。


 皆から疑念でいっぱいの視線を浴びせられると、ついに諦めたのかミドモコは大きくため息を吐くと、短い脚で大裳の頭の上に胡坐をかいた。うーん可愛い。


「やれやれ、こうなっちゃ仕方ねっすねえ。私は12天将の大陰―――の式神っす」


 言葉遣いは氷沙瑪ひさめに近いけど、距離感のある相手に使う氷沙瑪の「っす」とは違い、やたらとなれなれしい響きの語尾でミドモコは自己紹介をした。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――大江山前首領にして最強の戦士。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【橋姫】――橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。スライム状の何か。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。小動物の姿で頼光たちに協力中。ミドモコ。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【兵破】――雷上動の基本攻撃。物理的な矢と違いトリッキーな運用が可能。

【指月の丘】――現在の桃山丘陵。

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