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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
107/175

【渡辺綱】宇治橋の戦い その7

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/2/10 修正

 ・宇治と京の位置関係から明らかにおかしい京から武士が見てる等の記述を全て消しました。次話を描いてる中で、どんなに季武のように超人的に視力が良くとも、桃山丘陵により物理的に視認は不可能との判断です。そのため季武の射撃も桃山丘陵からと変更しております。申し訳ありません。

 ――頼光は治ったか。


 橋のたもとまで離れた頼光たちを見てとりあえずは安心した。だけど治ったら治ったで、あのでかい水たまりみたいな奴に突っ込んでいきそうなのに、わざわざ距離を取ったところに違和感はあるな。


 そういえば火車の姿が見えない。これはあれか? 頼光を完治させる前に逆に火車の方が限界来たとか。そうなると、今回の戦いの中じゃもう治療はできないとみてよさそうだ。


「さて、さっさと仕留めてしまいたいところなんだけど」


 始めに膝丸をぶん投げたせいで決定打に欠けるんだよな。さてどうしたもんか。


「ニャッニャニャニャッ!!」


 痛い痛い騒いではいるものの、膝丸が刺さってるにもかかわらず全く動きが鈍らない琵琶ネコ。幻体だったか、実体のないものが相手だと相当にやりづらいもんだね。琵琶ほんたいを守ることだけに集中してるせいで、はっきり優勢なのに仕留め切れないのがな。


 つーか刀をさばいて、琵琶を斬ったと思ったら、腕で防ぐのなんだよ――っといけないいけない。幻と分かってるなら生き物の考え方は捨てないといけないね。ネコ耳の体の方は得物と考えて動かないとダメだ。


 10mほど距離を取ってちらりと目をデカブツの方に向けると、虎熊がどんなに体を引きちぎっても体が小さくなってる様子はない。道満がいれば凍らせて砕いてで、一瞬で終わりそうな相手だけど物理的な攻撃じゃまず効果はないようだね。そうなると倒せそうなのはやっぱり――――……。


「……よし、だいたい動きは把握した。悪いけど決めさせてもらうよ? 仏でも神でも好きな方に祈りを済ませてくれ」


「ニャッ!? ニャにおう、タマちゃんがそんなあっさりやられると思わないことニャ!」


 さすがに距離をとっても、鸞刀を放して琵琶に持ち替えるようなバカな真似はしないか。左手をブラブラと振りながら一息入れたあと、上半身を前かがみにして足に力をためる。あからさまに今までと違う動きに、琵琶ネコの方も一層警戒心を高めたご様子。


 地面を強く踏み切り一気に距離を詰めようとしたその時――――! 体の横から飛んできた渦を巻いた水流がかすって、転ばずには済んだものの大きく体制が崩れた。


「!!? ニャハハハハ! 馬鹿ニャ! ニャーに1対1で闘ってるつもりでいたかニャ? これでタマちゃんの勝ちニャ! 宝貝・影繍鸞刀えいしゅうらんとうッ!!」


「!?」


 てっきり体を狙ってくると思ってた1撃は、手の届く距離にいるボクじゃなく、その下の月明かりにうっすらと浮かぶ影に突き立てられた。


「! 動けない!?」


「ニャハハハハ! タマちゃんの影繍鸞刀は相手の影に突き立てると、まるで縫い付けたかのように相手の動きを止めることができるニャ! どんな気持ちニャ? 勝ったと思ったら負けるってどんな気持ちニャ?」


 へーそりゃ便利だ。勝ち誇りながら左肩に突き立った膝丸を抜き、高々と振り上げた琵琶ネコはベラベラと饒舌に語ってくれる。


「くそ! なんだよそれ! 1対1なら絶対ボクが勝ってたってのによ! この卑怯者が!!」


「ニャハハハハ! 体は動かせないけど言葉は喋れるからニャ~。タマちゃんは優しいから仏か神か好きな方に祈る時間を上げるニャ~」


 なんだろうね。実体がないという割に、感情表現の豊かさで負けてる気がするね。頼光に嘘くさいと言われるボクの笑い方より、よっぽど自然な笑い方に敗北感があるな。


「ちっくしょうが!! 呪われろ!!」


「ニャ~、最期の言葉がそれでいいニャ? 人として終わって――――」


 カキン、カキン――――と夜の闇に響くと、地面に刺さった鸞刀と琵琶ネコが握ってた膝丸が光の矢に弾かれて宙に舞う。


「にゃん?」


 すぐ目の前に跳んだ鸞刀を左手で掴みとり、何が起こったのか理解できず目をぱちくりとさせる琵琶ネコを体当たりして地面に抑え込む。


「あははー、こっちも初めから1対1なんか考えてないんだよねー。ちなみに隙を見せたのもワザとだよ――っと!」


「ぎにゃあああああーーーーー!!」


 琵琶に髭切を突き刺すと琵琶ネコの姿が消え去って、そこには琵琶だけが残った。それを拾って肩に担いだ後、宇治橋のところにいる頼光に向かいながら背中越しに京の方角にある丘陵に向かって親指を立てる。


「しっかし動きを止めるとか焦ったけど、季武キミが即興が得意で助かった。琵琶を直接狙うと逸らされるのは見てて分かっただろうけど、得物を2本とも弾いたのは好判断だと言わざるを得ないね。使える奴だよほんと」



「はい、お土産。一応そこの犬ころが言うには、後で復活するらしいから殺しちゃいないよ」


「お疲れさま。あんたも本調子じゃないだろうに、来てくれてほんとに助かったわ、ありがと」


「……結局1対1じゃねえなら、オレが共闘しに行っても良かったじゃねえか」


 頼光たちと合流して壊れた琵琶と使ってた鸞刀を渡すと、頼光からは労いの言葉を、酒吞からの文句の言葉をかけられた。いやいや、お前に割り込まれたところで―――。


「連携が取れない相手が入ったら邪魔になるだけって言ったじゃない。仮に綱とは連携とれても、あんなに分かりやすく左手で合図を出してた季武とは合わせられないでしょ?」


「いや、分かんねえから!!」


 さすがは頼光、よく見てるねー。屋敷の中での訓練だけじゃ実戦形式の連携なんてほとんど見れてないだろうに、よく分かるもんだわ。


「……それはそうと、やっぱりあんた、私との付き合いもそれなりに長くなったけど、まだ感情とか死んでる感じなの……?」


 恐る恐ると言った感じだけど、なんていうかド直球だなー。頼光らしいといえばそれまでだけどさ。


「あははー、どうだろうねー」


 いかんせん自分でもよく分かってないところだし、嘘くさいと言われる笑いでごまかしておく。


「で、残るあいつはどうすんだ? やってることは1番迷惑だから止めた方がいいんだろうが、頼光が言うにはアイツの中に火車が目の敵にしてる、ドラゴンがいるって話だろ? アイツを止めたら出て来て戦うことになるとかあんのか?」


「さー……そもそもどういう関係か分かんないから……。でも止めないと始まらないし……」


「あははー。そこんとこどうなのさ?」


 さっきべらべらと仲間の事を話してた犬ころに確認を取るも、欄干に背中を預けてぐったりしてる。頼光さえいなけりゃ無理やりでも吐かせるとこなんだけど。


「ま、藪蛇になるかもしれないけど、やるしかないってことで。綱、何かいい案はある?」


「あははー、物理でぶん殴っても効果なさそうだし、ここにいる面子じゃ無理じゃない? 頼光の爆発する蹴りとか、なんか風起こしてる畜生ならなんとかできるかもしれないけど」


 きゅ? とこっちを確認してくる毛玉と軽く目が合った。頼光は可愛い可愛い言ってるけど、気味が悪い以外の感想が沸かないや。


「このまま虎熊に時間稼がせときゃいいんじゃない? 5分もありゃアイツならいけるでしょ」


 京の方に視線をやると頼光も納得したように「なるほど」と呟いた。琵琶ネコ相手には助攻に回ってもらったけど、もともとボクたちの間じゃ火力だけならアイツが一番上だし。


「酒呑たちへの自己紹介代わりに丁度いいでしょ。ここは花を持たせることにするよ」


 両手を挙げて京の方に向かって何度か上下させる。その意味は全力でやれ。あとは巻き込まれないように気をつけないとねー。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【卜部季武】――摂津源氏。夜行性の弓使い。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――大江山前首領にして最強の戦士。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【橋姫】――橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【六合】――12天将の1柱。前3位。玉石琵琶精。2股の尾を持つネコ娘の幻体を操る琵琶の精霊。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。スライム状の何か。

【大陰】――12天将の1柱。後2位。女媧の配下。混沌のことをパイセンと呼ぶ。小動物の姿で頼光たちに協力中。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【幻体】――実体を持つ幻覚。仙人や道士が好んで使う術の1つで、自分の分身を作るのに利用することが多い。

【髭切・膝丸】――渡辺綱の愛刀。

【鸞刀】――古代中国で祭事の際に生贄を割くのに使われた刀。

*【影繍鸞刀】――王貴人(玉石琵琶精)が西岐軍と戦った時に繍鸞刀を使ったとアラクシュミが複製した封神演義に書かれていたのを、混沌(観測者)がノリと勢いでオリジナルの宝貝として仕上げたもの。影に突き刺すとその持ち主の動きを封じられる。

*【ドラゴン】――『心を見透かす者』の名を冠する悪魔王(第6天魔王と同一存在)、またはその眷属(天狗と同一存在)を指す言葉。

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