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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
3章 集結、頼光四天王
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【源頼光】宇治橋の戦い その2

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています

「にゃーははははは! タマちゃんの曲を聴くにゃー! 宴にゃ宴にゃー!」


 楽しそうに琵琶をかき鳴らす、唐国風の衣装で身を包んだネコ耳娘。その調べは激しい戦闘が繰り広げられてる戦場を、陽気な空気に変える、実に心が躍る力を持ってる。


「アノ琵琶ノ音色ハヤベエ! 聞イタソノ時ノ感情ヲ増幅スル手合ダ! 相棒タチハ怒リ、オ前ハ喜ビッテトコカ!? スッカリソレニ囚ワレチマッテル!」


「あはははは! ないない、考え過ぎだって! 火車の国の言葉を借りたらハッピー、ハッピー! 橋姫さまと出会えた今日この日をお祝いしましょうよ! あははははははははー!!」


「はっぴー、はっぴー♪」


「仲間ガ苦戦シテル時ニ、浮カレタ言葉吐クヨウナ奴ジャネエダロ! オカシクナッテル事ニ気付ケ!!」


「ああ!? 誰が苦戦してるってんだ!! オレは死んでも戦い続けるぞ、いつまでも大人しくしてたからこうやってクソどもをつけ上がらせたんだ!!」


「クソ、オレハ相棒ノ動キニ従ウ事シカデキネエンダ。頼ムカラ目ヲ覚マセ頼光」


 あらら、こんなお祭り騒ぎに乗れないもんだから、外道丸ったらすっかりしょんぼりしちゃってるわねー。なら私がもっと盛り上げて嫌でも楽しんでもらうしかないわね!


 そう考えて踊りでも踊ろうかとしたとき、後ろからぎゅっと抱きしめられ頭を撫でられた。


「うふふ、頼光ちゃんが楽しそうにしてると、わたくしも一緒に楽しくなりますけど、困ってる人の話は聞いてあげないとダメですよー?」


「ッ! オ前、マトモナ状態ダッタノカ!? 頼光ト、ハッピーハッピー言ッテルカラ駄目ダト思ッタゼ。一瞬デイイ、頼光ヲ平常ニ戻ス協力ヲ頼ム!!」


 欄干を握り潰さんばかりに、必死に酒呑の動きに抗う外道丸が叫ぶ。


 すると橋姫さまは私を回れ右させて、正面から抱きしめた。


「はい頼光ちゃんはいい子ですねー。いい子ですから、お話を聞きましょうねー」


 やわらかい胸に顔をうずめながら優しく諭される感覚は、遠い日の優しい記憶を呼び覚ます。あれはまだ母上がご健在だった時、私が何かしでかすたびに優しく叱ってくれた母上の姿そのもの。


「母上…………母上~~~~~~…………!!」


「あらあらまあまあ」


 ああ、そうか。綱がよく言う優しく叱ってほしいってこれのことね……。ずーっと忘れてた感覚だけど、確かにこれはくせになるわ……。


「…………ダメカ。頼光ミテエナ感情豊カナ奴ニャ、コノ琵琶ハ刺サルゼ」


 とめどなく溢れる涙を隠すように、母上はしひめさまの胸に顔を強く押し当てる。


 その時、握ってた手の力が緩んで、さっき回収した藁人形の1つが橋の上に滑り落ちた。


「! オイアンタ! ソノ人形ヲ頼光ノ意識ト繋イデ、コッチニクレ! 木槌ト釘モ一緒ニナ!」


「あらあら、お願いされては仕方ありません。どうぞこちらですー」


 呪いの道具一式が外道丸の近くに転がると、外道丸は橋の欄干に噛みつき、自由になった腕で木槌を握る。


ハヒヤハヘーーーー!!」


 辺りを支配する琵琶の音色を切り裂くように、コーーーンという小気味のいい音が夜空に響く。


「!? 痛ッッッッッッッたああああああああ~~~~~!?」


「ヨシ! ドウセスグ、オカシクナルダロウカラ、即覚エロ! アノ琵琶ハ人ノ精神ヲ支配スル! オレヤ橋姫ミテエニ神ト関ワリガアル奴ニャ、効果ガ薄イミテエダガ、アレヲドウニカシネエト勝チ目ネエゾ!!」


「え……精神を支配って怖……やだ、ほんと無理」


 強烈な悪寒にさらされ、全身の震えがとまらない私の前を、力尽きた外道丸が酒呑に引きずられて遠ざかってく。


 その中で確かに「頼ンダ」という声が聞こえたけど、そんなこと言われても……。


「大丈夫、大丈夫ですとも。頼光ちゃんが怖くて震えてしまうなら、それが収まるまでこうして一緒にいてあげますからねー」


「う~……母上~……」


 背中から伝わる温もりが、私の恐怖を和らげてくれるにつれて、少しづつ考えが落ち着いてきた。幸いなことに、感情がぶれても外道丸から言われたことと、私のすべきことはしっかりと頭に残ってる。


 怖いなんて子供のころだけの感情で、大人になってからは、おどけて「うわぁ」とか「ひえぇ」ってことはあってもこんな風になるなんて思ってもみなかったわ。


 ようやく収まってきたとはいえ、逆に気持ちを高ぶらせるのも、まともな判断がつかなくなりそうだからまずいわね。心を乱さずにやるべきことをやるって、圧倒的に綱の得意分野なんだけど、出来ればアイツにはやらせたくない。そもそもここにいないからやらせるも何もないんだけど。


「ありがとうございます、橋姫さま。もう大丈夫です。平常心、平常心」


 耳から頭を揺さぶる琵琶の音に抗いながら、目標を真っすぐ見つめる。


 謎クラゲの肩の高さはおよそ40mくらいか。あれ、なんか大きくなってる? 体が海水で出来てるにしろ千切れたり、吐き出したりしてるから、小さくなるなら分かるんだけど?


 とにかく投擲で狙うのは厳しい。思いっきり突っ込んで直接叩くのが私にできる最善ね。またおかしくなる前に一気にけりをつける!


「ニャニャ!?」


 地面を思い切り踏み切った私が、いきなり目の前に現れたことに驚きの声を上げるネコ娘に向かって手を伸ばす。


 掴める―――! そう確信した私の目の前に薄い水の膜が現れた。


「にょーいにょいにょいにょい。六合を狙うのはええけど、まずはウチを通してなー」


「お誘いはうれしいけど、優先順位はそっちの六合さんとやらが上でね!」


 さっきから虎熊がちぎっては投げの謎クラゲの体。そんなの勢いがついてる私の体に対して何の障害にもならない! そのままの勢いで私は水の膜を破るために、体ごと突っ込む!


「ごぼぉお……!?」


 一瞬何が起こったのか分からなかった。口から空気が漏れると、代わりに海水のしょっぱさが口中に広がる。目が痛くてろくに開けることもできない。


 いくら大きな体とはいえ、謎クラゲの透けた体の裏側には、後ろの景色や星空がぼんやりと見えてた。当然膜を抜ければ後ろの景色の方に辿り着くはず―――だった。


 それなのに私は、明かりすら届かない水の中にいた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【酒呑童子】――大江山首領。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【虎熊童子】――大江山前首領にして最強の戦士。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【橋姫】――橋の守り神。元は橋建設のため人柱になった女性。

【六合】――12天将の1柱。前3位。琵琶を担いだ2股の尾を持つネコ娘。

【青竜】――12天将の1柱。前5位。スライム状の何か。

【大裳】――12天将の1柱。後4位。安倍晴明直属。陰ながら京の治安維持を務める。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【タマちゃんの曲を聞け!】――六合の通常技にして必殺技。完全耐性を持たない相手に恐怖、混乱、狂戦士化バーサークなど、精神に作用する状態異常のいずれか1つを100%の確率で付与する。解除可能だが、琵琶の音色を聞けば再び判定が行われるという半永続技。

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