表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クルシェは殺すことにした  作者: 小語
第5章 夜はかなし
33/39

第2話 決戦へと

「九紫美、どうかしたのかい」


 クオンが呼びかけると、九紫美は放心したように窓に向けていた瞳を彼に向けた。


「ごめんなさい。昔のことを思い出していたの」

「昔か。あのときから、俺たちは何も変わっていない気がするな」

「そう、ね」


 繁華街が夜空に放つ光の余波を受け、星は闇のなかに溶け込んで見えない。その希薄な夜の景色にあっても、存在を主張する半月が天空の暗幕に寄りかかっていた。


〈月猟会〉支部、若頭クオンの執務室。そこには三人の人影がある。


 執務机の席にいるのは、〈月猟会〉若頭のクオン。


 部屋の中央に据えられた客人用の長椅子に腰かけているのは、非凡な剣の使い手である〈花散らしのハチロウ〉だ。

 愛用の長脇差は邪魔にならぬように腰から外して胸に抱いている。


 クオンの影のように背後に佇むのは、クルシェにとって大事な三人の人物を害した女性。〈影踏み〉の二つ名を持つ九紫美であった。


「さて、こちらの要求通りに来るかな、クルシェは」


 話題の口火を切ったのはクオンだ。


「来ると思うわ。あの娘が、昨夜は身を呈して逃がそうとした男ですもの」


 応じる九紫美の声音は常の如く静かだ。クルシェを相手に気負った様子が無いのは、自身の優位を確信しているのだ。


「才媛とは言っても、未だ少女の身。臆して現れないことも有り得ると思うが」


 ハチロウにしては、やや暗い声が放たれる。


「別に来なくてもいいのよ。ソウイチを殺すだけ。そうなれば、あの小娘は業界では死んだも同然。恐れることもないわ」

「どちらにしろ、クルシェの敗北は決まったようなものか。ソウイチは、まだエンパに見張らせているのか?」

「ええ、あの小娘が監禁場所を特定して、直接助けに行くとも限らないから」


 口を閉ざした九紫美に代わって言葉を紡ぐのはハチロウだった。


「エンパの奴、ウィロウとコホシュが殺されたもので呪詛ばかり喚いているからな。いなくて丁度いいくらいだ」

「エンパも叔父の配下だし、遠ざけるに越したことはないな。あの二人が死んでは利用価値もないのだから」

「結局、俺と影嬢しか残らんか」


 ハチロウの一言でその場に沈黙が落ちる。


 クルシェに対する優位は揺るがないが、さよなら亭に詰めていたクオンの数少ない手勢を失ったのは痛手だった。


 ウィロウとコホシュが敗死したことで価値の無くなったエンパを切り捨てるとすれば、クオンに残された戦力は九紫美とハチロウしかいない。

 若頭と呼ばれる地位に就いているだけあってクオンの部下も少ないわけではないが、急激に広がった縄張りを維持するために人員を割く必要がある。


 クルシェたちが与えた損害は、クオンにとって大きなものだった。その分、九紫美のクルシェに対する憎悪も深い。


「何のこともないわ。私と旦那が揃えば、この街で負けることもないもの。そうでしょう?」


 九紫美の言葉を請け負うようにハチロウは立ち上がった。


「そうだな。……それでは、俺は少々出てくる」

「旦那、どこへ?」

「先ほども言ったが、あのお嬢ちゃんが逃げたり、小僧の監禁場所に向かったりすることも考えられるからな。俺としてはここで待つよりも、こちらから出向いて殺す方が得策と思っているだけだ」


 ハチロウが背を見せて扉に向かうと、クオンが呼び止めた。


「ハチロウ、できればここにいてほしいのだが」


 歩みを止めて半面を振り向かせたハチロウの瞳に凄味があった。意外な思いで九紫美がクオンに取り成す。


「クオン、旦那ならクルシェに万が一だって後れをとるはずないわ」

「……分かった。だが、俺の部下を五人連れていってくれ。足や連絡用にな」


 普段ならばそのような要請をしないクオンが見張りを意図しているのは明らかであった。


「連れて行くのは断るが、勝手についてくるなら気に留めん」


 そう言ってハチロウは退室していった。一時、険悪になりかけた空気に驚いたようだった九紫美がクオンに顔を向ける。


「旦那の身を案じているの? あんな小娘に負けるわけないわよ」

「いや……。俺の勘でしかないが、もしかしたら、ハチロウは……」


 その先は口中で噛み潰したクオンが押し黙る。九紫美はその背中に怪訝な視線を注いでいた。


「まあいい。ハチロウの様子を見てみるか」


 クオンは立ち上がると、部屋の壁面に備え付けてある液晶画面に近寄った。画面の一つに五人の配下を連れたハチロウの姿が映っている。


「いた。やはり、路地裏の広場にクルシェを誘き出すつもりだな」


 経路上に位置する監視映像でハチロウの動きを追って行くと、配下を分散させてクルシェを追いこもうとしているようだ。


 ハチロウは広場に陣取ってクルシェの到着を待つことにしたらしい。広場の光源は古びて点滅を繰り返す電灯のみであり、映像を見るには心許ない。


 しばらくすると、クルシェらしき少女が広場に追い詰められていた。


「これで終わりだな。クルシェ」


 クオンは呟いて、監視映像に見入っていた。

決戦の始まりはハチロウ戦からです。

いつもと様子の違うハチロウですが、クルシェと決着をつけたがっているようです?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ