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クルシェは殺すことにした  作者: 小語
第1章 クルシェは殺すことにした
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第3話 雑用係ソウイチと〈毒婦〉ソナマナン

 ソウイチは慣れた様子で扉を開けて店内に入り、クルシェもその背に続く。店内は広くなく、鉤型に設けられた木製の座卓と、四人が座れる程度の円卓が三組置かれているだけだ。


 二十人が入れば満席になってしまう手狭な店であるが、この店の馴染客は数えるほどしかおらず、酒場として訪れる人間以外の方が多いため問題は無い。


 店内の照明は点けられている。クルシェは迷う様子も無く奥にあるテーブルに腰を下ろした。


 ソウイチはカウンターに入って手を洗うと、黒いエプロンを着けて仕事の準備にかかる。

 そのとき奥の一室に繋がる扉が開き、そこから一人の人物が現れた。


 妙齢の女性だった。肩ほどで切り揃えられた光沢のある髪は青みがかった鋼色をしている。水色の瞳は空のようにその奥底を見通すことができない。


 たおやかな笑みを浮かべる女性、スカイエはこの酒場の店主であり、この街でも有数の仲介人である『白鴉屋』の六代目当主だった。

 この女性からクルシェは仕事を紹介してもらっている。


「あら、クルシェ、来ていたのね。早いこと」

「うん。近くにいたから」

「何か飲む?」

「じゃあ、ウイスキーの牛乳割りがいい」

「分かったわ。ソウイチ、用意してあげてちょうだい」

「ういっす」


 ソウイチは調理場で酒杯(グラス)と酒を用意し始めた。クルシェやソナマナンのような仕事を紹介される人物と違い、ソウイチはスカイエに雇われている酒場の店員である。

 飲み物の準備をするソウイチを横目にスカイエが言う。


「ごめんなさいね。本当は私がお相手したいんだけれど、この後で寄り合いがあるのよ。今日はソウイチで我慢しといてちょうだい」

「うん。本当はスカイエの作ったお酒が飲みたいけれど、ソウイチで我慢するわ」

「け、好き勝手言いやがって」


 女性達のやりとりを背にソウイチが小声で毒づく。


「仕事の内容はソウイチに伝えてあるから、ソナマナンがここに来たら一緒に話を聞いてちょうだいね」

「分かった」


 そこでスカイエが心持ち目を細めてクルシェを正視した。


「今回の依頼は大変なの。かなりね。無理だと思ったら断ってもいいわよ」

「そんなに?」


 クルシェは驚いたようにスカイエを見返した。


 クルシェは経験こそ浅いものの、これまでに幾度もスカイエの依頼を遺漏無く遂行している。

 実力においてはクルシェのことをスカイエが過小評価している筈は無いし、クルシェの経験の浅さを考慮してソナマナンと組んで行える仕事を斡旋してくれているのである。


 そのスカイエが依頼の危険性について言及するということは、クルシェの実績を鑑みた彼女が一段上の仕事を斡旋する気になったのかもしれなかった。


「大丈夫。きっとやり遂げてみせるわ」

「期待しているわ。でも、決して無理はしないでね」


 スカイエは微笑むと、その優美な顔をソウイチへと向けた。


「それじゃあソウイチ、後は頼むわ。出るときに鍵だけかけておいてちょうだい」

「分かりました」


 ソウイチが頷くのを背にし、スカイエは外へと出て行った。


 クルシェがスカイエの消えた扉を見ていると、ガサツな足音が近づいてきた。卓上にクルシェの頼んだウイスキーの牛乳割りが置かれる。


「へい、お待ち」

「定食みたいに置くのね」


 クルシェの前の白い液体は内部に琥珀の光輝を含み、照明の光を映して揺れていた。


 クルシェは酒杯を手にとって酒を一口喉に流し込んだ。

 ウイスキーの匂いや刺激は牛乳によって打ち消されており、口当たりはまろやかになっている。その甘い味わいから酒のなかでは飲みやすい。


 酒を飲んでいるクルシェが一言も発さないのを気にしたのか、ソウイチが尋ねる。


「どう。美味いか?」

「確かにウイスキーの牛乳割りだわ」

「不味くはないってことだな。あっはっは」


 前向きなソウイチの言葉を浴びても、クルシェは冷めた眼差しを返すだけだった。


 ソウイチは自身が飲むルイボスティを手にし、黙々と酒杯を口に運ぶクルシェの前に腰かけた。依頼の内容が書かれた数枚の書類を眺めている。


「ソナマナンはいつ来るの」


 珍しく自分から沈黙を破ったクルシェを見やり、ソウイチはルイボスティで口を湿らせてから応じた。


「そろそろ来るんじゃないか。もうすぐ約束の時間だしな」

「あの人がいなくても説明を始めてしまっていいのじゃない?」

「そういうわけにはいかないよ。スカイエさんからさっきも聞いたろ? 今回の依頼は面倒だからな。それに……」


 ソウイチはその先を言い淀んだ。


 その様子を見てクルシェは再び疑念を抱く。スカイエも依頼の難度については口にしていたが、どうもそれ以外の含みを感じた。


 それ以上の追及を諦めたクルシェは、別の疑問を口にする。


「ソウイチって何歳なの」


 露骨に暇潰しの話題を振られ、苦笑しながらもソウイチは応じる。


「まだ言ってなかったっけ。二十歳の大学生だよ」

「へえ。見えない」

「どっちにだよ。正式名がソウイチ・エアイ・カバシマってのも初めて聞くだろ? 水華王国北部に昔から住んでいるハクラン人の末裔で、名前はエアイ地方出身のカバシマ家という意味なんだと」

「お金が好きなのも、学費のため?」

「まあ、そこは色々あるというか。給料がいいから、この仕事を選んだのもあるんだけどさ」


 ソウイチは、クルシェやソナマナンなどに対する依頼の説明、依頼中の雑用全般、それと一応クルシェ達の仕事への取り組みを監視するお目付け役を兼ねている。


「そう」


 クルシェの酒杯の中身が減っていたことに気付き、ソウイチがクルシェと自身のお代わりを注ぎに調理場へ立つと、扉が開いて一人の人物が入室してきた。


 露出の多い黒の上衣とスカートに毛皮の外套を羽織る姿は、完全に夜の商売のネーチャンであった。


「はーい。よかった、間に合ったわ」

「二分遅刻だけれどね」

「あーん。クルシェちゃんってばイケズー!」


 そう言うと女性は笑いながら駆け寄り、クルシェの頬に自身のそれを擦りつけた。調理場からソウイチが声をかける。


「ソナマナン、何か飲みます?」

「ありがとう。それじゃあ、お茶をもらおうかしら」

「ちょっと、離れてちょうだい」


 クルシェから邪険に肘で押しのけられたソナマナンは、気にした様子も無く隣の席に腰かけた。


 光加減によっては緑にも映る濡れ羽色の黒髪を持ち、緩い巻き毛となって背中を流れる。瞳が珍しい薄紫色をしているのは、元は青い瞳に体質のせいで血管が透けており、その色が混ざり合って薄紫を成しているかららしい。


 大きな双眸と小振りな鼻を有し、どことなく猫を思わせる容姿をしている。化粧が薄いのに肌が白いのと口唇が紅いのは生来のものだからだ。均整の取れた体格をしており、無駄な肉はついていないが、充分に胸は膨らんでいる。


 外見だけを評すれば傾城と称しても誇張ではなく、他者が彼女の問題性を指摘するとすれば、それは内面に限られたものである。


毒婦(どくふ)〉の二つ名を持つ殺し屋としても高名な女性であった。


 ソウイチがソナマナンの好物のクコ茶を円卓に置いた。出すのが早いのはソナマナンの好みを知っていたので、あらかじめ用意していたのだ。


「ありがと」


 ソナマナンは礼を言って湯気の立つクコ茶を啜った。


「ソウイチ、ソナマナンも来たのだし、話を始めましょう」

「そうだな。ソナマナン、始めても?」


 どうぞ、というようにソナマナンが掌を上にしてみせた。


「それじゃ……」


 ソウイチは数枚の紙片をめくると、今回の依頼の概要を説明し始める。

味方側のメイン人物の紹介です。

ソウイチはどうでもいいですね。

ソナマナンという女性ですが、私が昔書いた作品に出した人物です。本作はこの人を出したいために書いたと言っても過言ではなく、魔女の設定もこの人に都合の良いものになっています。

主人公のクルシェとお気に入りソナマナンのやりとりをお楽しみいただければと思います。


あとクルシェちゃんがお酒を飲んでいますが、この世界は16歳からお酒を飲んでもオッケーです。

こうやって少しでも潰していかないとですね、このご時世。

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