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クルシェは殺すことにした  作者: 小語
第2章 標的を暗殺しに行こう
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第11話 ハチロウは獲物を欲す

 刃を振るって血糊を払ったハチロウが口を開く。


「残ったお三方のうちで、一番の剣の使い手は誰だ?」


 目前で繰り広げられた惨事に顔を青ざめさせていたリヒャルトと中年男の目が、もう一人の男に向けられる。


「俺が相手になろう」

「頼みますよ。ギアーツ」

「ああ」


 ギアーツが立って腰の刀を抜いた。


「ギアーツを見くびらない方がいいですよ。私の配下に限らず、ギアーツは〈巡回裁判所〉屈指の剣技を誇る剣士です」


 ギアーツはリヒャルトの信頼が厚いらしく、その声音には窮状を打開する自信が含まれている。

 ギアーツは刀を中段にし、右手首が上になるように寝かせる独特の構えを取った。


 その構えを見やったハチロウが初めて長脇差を中段に構える。


「貴君、その構えはハクランの〈裏現刀(りげんとう)〉だな。水華王国でそれを知るには、恐らくは首都〈メレオリア〉で道場を開いていた、タダシゲ・ナルコ・クガ先生に習ったのだろう。違うか?」


 ハチロウの問いかけに、ギアーツが間合いを計りながら応じる。


「慧眼だな。先生の道場でも三番手に数えられたこともある」

「ハクラン本国までお名前が響いていた方だが、お亡くなりになられたな。確か三年前の春、石橋の下の川に面した小道で、左肩から胸を斬られて倒れていたはず」


 ハチロウの静かに流れる言葉を受けるギアーツの手が小刻みに揺れる。その反応がハチロウの発言を事実だと印象づけた。


 ハチロウの口唇が開かれ、決定的な一言が放たれる。


「腕試しのために、俺が斬ったからな」


 怒りよりも、目前の剣士が師を上回る技量を持ち合わせるという畏怖が、ギアーツの胸腔を支配したようだ。


「うおおおッ!」


 挫けそうになった心を奮い起こすためか、雄叫びを上げたギアーツが刀を懸河の勢いで振り下ろす。

 同時にハチロウが前進しながら長脇差に一条の光芒を描かせた。


 銀光が走る軌道上にギアーツの肉体が交わったとき、深紅の血潮が天井まで弾けて斑に染め上げた。

 声もなくギアーツがうつ伏せに倒れ伏すのを目の当たりにし、さすがにリヒャルトが顔色を変える。


 隊で随一の剣士であるギアーツが敗死したということは、少なくともハチロウには勝てないことが明白となったのだ。リヒャルトたちは数の上でも優位を失い、すでにその敗北は決まっている。


「影嬢、礼を言う。俺の楽しみはこれで終わりだ」

「まだ二人残っているけれど、よくて?」

「一番強いのがこれでは、な」

「そう」


 九紫美は冷淡に返答し、引き金にかけた指先に力を加える。

 その瞬間、中年男が鞘を腰から外しざまハチロウに投げつけ、上着に隠された拳銃を引き抜いて九紫美を照準。瞬く間に銃口が三度火を噴いた。


 亜音速で殺到する三本の朱線に肉体を貫かれたが九紫美は微動だにせず、その後ろの壁に三つの穴が開いただけだった。


 銃撃が通用せずに息を呑んだ中年男に向け、九紫美が返礼の発砲。右胸を撃ち抜かれて苦悶の顔をした中年男が寝台の横に倒れる。


 リヒャルトが九紫美の魔力の特性を看取したのか、座ったまま床を蹴って九紫美に背を預けるように倒れこんだ。


 リヒャルトの身体が九紫美を擦り抜け、その背後に降り立つ。


「しまっ……!」


 九紫美が振り向きながら銃を構えるが、リヒャルトは一拍早く窓を突き破って屋外に躍り出ていた。

 九紫美が窓枠から外を窺うと、エンパの怒号と銃声が闇に響いているが、彼女の腕では仕留めることはできないだろうと九紫美は見極めをつける。


「すまなかった。俺が斬ればよかったのだが」


 九紫美はハチロウの謝意を受け流すように、首を横に振る。


「さすがに〈巡回裁判所〉だけあるわ。私の魔力を逆用するなんて」

「闇のなかであの男を追うのは難しかろう。ここで始末しておきたかったな」

「明日、私が探しに行くわ。でも、〈月猟会〉のことを王国に報告されでもしたら……」


 そのとき、クオンが部屋のなかに入ってきた


「九紫美、ご苦労だったね」

「ごめんなさい。逃げられてしまったわ」

「君とハチロウがいて逃したのなら仕方がない」

「私から言いだしたことなのに……」

「気にするな。少なくともウチの実力は示したのだし、奴らが報復を考えるにしても、大規模に攻めてくることなんてできないだろう」


 そこまで言われて九紫美はやっと心の整理がつき、俯きながらもクオンの顔を見つめた。クオンが近寄ると、九紫美の肩に手をかける。


「若頭、そろそろここから去るべきでは」


 気を使って二人に背中を向けていたハチロウが、ついに耐え切れなくなったようでクオンを急き立てた。


 クオンが我に返ったように周囲を見渡すと、窓の外からエンパが冷めた目で室内を眺めており、ハチロウは褐色の頭髪を気恥ずかしそうに掻いていた。


「ははは、みんなご苦労だったな。騒ぎにならないうちに撤収しよう」


 そそくさとクオンが扉から出て行き、九紫美もそれを追って足早に去る。


 残されたハチロウとエンパの会話が背後から聞こえてきた。


「エンパ、あの男はどの方角に逃げた」


「森の方に逃げられました。遮蔽物が多いもんで銃を撃っても当たらなくって」


「もはや〈巡回裁判所〉は脅威ではないし、ゆっくりと追い詰めればよかろう」

「しっかし、九紫美の姐さんも詰めが甘いっつうか、あの状況で敵を逃がしますかね?」

「言うな。あの男がそれだけの機転を利かせる実力を持っていたということだ」


 九紫美は闇のなかで、取り逃がした男を睨むように両目を細めていた。

ハチロウ無双その2です。

ギアーツは強い剣士という設定ですが、それをも一撃で切り捨てるハチロウ。

ギアーツのお師匠様を腕試しで斬ったという、やはりアブナイ人でもありました。

屋内戦なのでギアーツは中段に構えていますが、最初は上段に構えるという時代劇好きの作者としてダメダメミスがあったので、ギアーツには演技指導して中段にさせました。


ここは九紫美が少し残念な子になっていますね。

それだけリヒャルトが凄いとクオンやハチロウがフォローしていますが、ストーリーの犠牲になって可哀そうな九紫美さんでした。

これからもときどき残念な部分が見え隠れしますが、ドジっ子ということでご容赦願います(迫真)

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