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クルシェは殺すことにした  作者: 小語
第2章 標的を暗殺しに行こう
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第6話 酔狂なり、ハチロウ

「さて、どうするか」


 リヒャルトを見送ったハチロウがクルシェに向き直る。

 黒い瞳が何かを思案するようにクルシェに据えられており、さしものクルシェもやや気圧されるように顔を俯けた。


「お嬢ちゃん、年齢(とし)は幾つかな」

「自分では分からないけれど、十七か十八」

「哀れだな。その若さで、俺の刃の露と消えるとは」


 ハチロウは左手の親指で長脇差の柄を押し上げる。


 それが抜刀の予備動作だと見て取ったクルシェは、バックステップしつつ左掌からナイフを取り出す。

 ハチロウの手から光芒となって刃が放たれた。危ういところでクルシェがナイフで防ぐも、その衝撃で体勢を崩す。


 ハチロウが間合いを詰めながら刃を斬り下げ、咄嗟にクルシェは顔の前にナイフを掲げて防御。互いの刃が激突した瞬間、凄まじい圧力がクルシェの全身を襲う。


 動きの止まったクルシェへとハチロウが右足を突き出し、腹部を蹴られたクルシェが後方に弾け飛んだ。


 一瞬のできごとに後れを取ったソナマナンが、拳銃を取ろうと胸元に手を伸ばす。横目でその挙動を捉えたハチロウが長脇差を一振り。


 首筋に当てられた刃に恐れをなしたソナマナンは、両手を上げて愛想笑いしつつ後退する。ソウイチもソナマナンの後ろに隠れたままで役に立ちそうもない。


 ようやく体勢を整えたクルシェへとハチロウが肉薄する。ハチロウが斬撃を放つために両手を上げたのを見て、クルシェは防ぐのではなく避ける姿勢を取った。


 ハチロウの剣先が霞んだ瞬間、激烈な斬撃が降り注ぐ。何とか横にステップして回避したクルシェはハチロウの懐へと踏み込んだ。


 そこへハチロウの斬り下げが反転、横薙ぎと変化した太刀筋がクルシェの首に走った。クルシェは視野にその一撃を捉えたが、反応できずに両目を見開く。


「そう怖がるな。本当に斬りはしないさ」


 笑いを含んだハチロウの声が酒場に満ちた。


 ハチロウが握る刃はクルシェの首筋に当てられている。クルシェはナイフを振るおうとした姿勢のまま停止し、ハチロウを見つめていた。


「若いお嬢ちゃんが、俺たちを相手に妙なことを考えないように教えてあげたくてな」


 ハチロウは自ら長脇差を引くと、ゆっくりと刃を納めて踵を返す。それまでの緊張が解かれたようにクルシェが荒い息を吐いた。


 ハチロウはカウンター席に腰かけ、数秒前までクルシェと戦っていたとは思えない穏やかな顔を店主に向ける。


「バーボンをくれないか」

「は、はい。かしこまりました。おい、酒を用意してくれないか」


 店主が声をかけると、奥の扉から少女が顔を出した。見たところ十七歳前後に見え、服装から店員らしい。

 先ほどまでの物音を聞いていたのか、少女は恐々と注文を作り始める。


「若い娘だな。あんな子いたか?」

「はい。最近新しく入ってもらった子です。マジメで助かっていますよ」


 ハチロウが頷いていると、少女が琥珀色の液体で満たされた酒杯を運んできた。


「ど、どうぞ」

「お、ありがとう」


 ハチロウが酒杯を掴むとき、少女のしなやかな手が指先に触れていた。

 少女はそのままカウンターのなかで営業の準備を始める。


 酒杯(グラス)に満たされた琥珀色の液体を口に含んだハチロウが声を発する。


「俺はここで酒を飲んでから帰るが、そちらはどうする」

「……わたしたちの用は済んだから、もう帰らせてもらうわ」


 クルシェは目でソナマナンとソウイチを促し、先に出口に向かわせる。

 自身はハチロウから視線を外さず、後ずさりしながら距離を開けた。十分な余裕を持ってからクルシェも背を向けた。


「用心深いお嬢ちゃんだ」


 クルシェが酒場を出る寸前、その声だけが背中を追いかけてきた。


〈別離にさよなら亭〉を出たクルシェたちの纏う空気は重い。

 王国の暴力機関である〈巡回裁判所〉が〈月猟会〉を調査しており、リヒャルトたちと競合しなければならない恐れがあった。


 しかも、〈月猟会〉の客分であるハチロウと出会ったが、僅かなたりとりだけで非凡な人物であると思い知らされた。


「クルシェ、何よあれ? あのハチロウという男、化け物じゃないの」

「うん。ハチロウが本気なら、わたしはあのまま死んでいた。あの男ならフリードも……」


 養父の名を出したクルシェの表情が沈むのを、ソウイチが痛ましげに見やる。


「とにかく〈月猟会〉の幹部みたいな人物に顔は知られたわ。これからどうするの」

「先方が私たちを邪魔だと思うなら、きっと排除しに来るわ。フリードを殺した人物が現れる蓋然性も高い」

「もしハチロウが送られてきたら? まあ、彼がフリードを害したのかもしれないけれど」


 自分でそう言ってから、ハチロウと争闘になる想像をしたのか、ソナマナンが自身を抱き締めるように両手を回して身震いした。


「誰が目の前に現れても、力ずくで情報を聞き出すまでよ」


 クルシェは決然と言った。

ハチロウが強いということを表すシーンです。

ハチロウはクオンに直接雇われている護衛なので、クオンを狙うならば必ず戦う必要がある強敵。

クルシェちゃんはどのように戦うのでしょうか。すみません、メッチャ先の話です。

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