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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第1部 死神の白魔法
9/77

8 アウトサイド

15


彼の後をついて行くと、一つの二階建ての民家に着いた。そこは他の建物とは違い"砂上の夢"の被害は比較的受けていなかった様に見える。中へと入ると家具は荒らされた様子もなければ、机に無造作に置かれたノートやペンや紙の束さえ散らかった様子はなかった。まるでさっきまで人居たかの様に。

しかし、少し悪臭がする。腐った様な。


「この二階に遺体があった」


ローライは静かに少し青ざめながら言う。私はローライを近くにあった椅子に座らせ「私だけ見にいく」と言い残し、丁寧に作られた土の階段を登ると。

本を抱き抱えた血塗れだったのだろうか、腐敗の進んだ人の男性と思わしき遺体があった。殺傷、そして何度か固い物で頭を叩きつけた様な打撲痕が見られ、中々に無惨なものだった。


「酷い・・・」


彼はこれを見てしまったにも関わらず平然とした様に振る舞っていた事に強い子だなと感心する。

遺体に近付き、抱き抱えられた本を手に取り、遺体の様子をしばらく調べた。

この人が亡くなったのも二週間前位?じゃあ他の人の死体は?誰も死んでいない?こんなに綺麗に物だけを残して?

小さな町とは言え人はそれなりに居たはず。

遺体に手を組み膝をついて簡単な祈りを済ませた後、本を片手に一階にいるローライの元へと戻ると彼は机に置かれていた本を読んでいた。


「お前それあの死体の持ってた本」

「やっぱり見てたんだ、凄いねローライくん。あんなの見たら怖いでしょ」

「・・・まあ、びっくりはした。一応言うとこの町を見回ったけど死体があったのはこの家だけだった」

「あんなの見て良く他の建物も確認したね、偉いね・・・本当」

「ガキ扱いすんな」


先程手に入れた遺体の抱えていた本をパラパラと読むがほとんどが血の汚れで読むのが困難だった。開いた時やっと気がついた破かれたりクシャクシャにされた部分も多くとてもでは無いが修復は難しい。


「読めるのか?」

「無理だけど要所要所の単語に気になる部分があるくらいで・・・、恐らく何かの調査書だと思う」


血のついたその本を机に置くと、ローライは元々机に置かれていた本を私に差し出した。


「これ読んでみろ」


手渡された本を読んでいくと、その内容は日記の様な物だった。

娘の存在や”トリル・サンダラ”には調査の為に来た事。さして特に何か変わった話はなく、この日記を書いた人物はどこかの国の人間で、地質調査の為この砂漠地帯に訪れ、日記の最初のページとその内容から一年前からこの町で暮らしている事が書かれていた。

地質調査とは関係の無い、他愛のない話が終始書かれており最後のページの日付はやはり二週間前で途切れていた。


「これも二週間前で止まってる」

「そこよりもその更に二週間前見てみろ。最後のページの日の内容も」


最後に書かれた日、最初の方とは違い短文だった。


『今日の調査は中止だ、サニアがいない。帰ってこない。あの男のせいか?明日問い詰めてやる。』


「”あの男”?」

「それから更に二週間前に書かれた人の事だと思う、”サニア”って言うこの人の娘はその日から発言が目立って書かれてんだ。更に二ヶ月前から外へ出て遅く帰るなんて書かれてる」


本のページを二ヶ月前の日付を読む。

『サニアはあまり外に出ないのだがその日、とても嬉しそうにしていた。「何かいい事でもあったのかい?」と尋ねると「秘密」とだけ答えた。この町には同年代の子は居ないが友達でも出来たのだろうか?明るいが変わってはいるからあまり失礼をしていないか心配だ。』


そのページからは四週間前のページまでの内容は斜め読みで読み進めるが気になる所は無い。

だがそれも丁度今から四週間前の日付で状況は変わった。


『地質調査についての記録の回収という事で一人の男がやって来た。名前も名乗らず外部からの依頼だと言ってきた。怪しかったのでその日は追い返すが、私の名前と所属部隊を知っていた。本当に地質調査の報告書を取りに来たのだろうか?今日は娘が遅く帰ってきた。とても嬉しそうにしていた。塩と砂まみれ。海で遊んできたのだろうか?』


そこからは同じ内容が何度か続いていたが、更に翌週の日付では明らかに異変が見られた。


『ここ最近"砂上の夢"を良く見る。いくつかの建物からも砂が散り、別の形になり"砂上の夢"として姿を現す。こんな事が頻繁に起こればこの町は住めなくなる。この土地の魔力は不安定になって言っているが原因は不明、町の住人も活気が無い。最近サニアも明るく振舞ってはいるがどこか弱って見えていた。

風土病なのだろうか?その日もサニアは遅く返って来るやいなやこう話した。この町を救ってみせる、きっと凄い町にする。そう話していた。しばらくあの男を見ない事も気がかりだ。サニアの事も気になる』


「この"サニア"って子、何かに巻き込まれてるって感じだね」

「なあ、男ってさ。もしかしてその人が亡くなった"リオラ"って人じゃないか?」

「・・・多分、けどなんで地質調査書を?それにどこからの依頼だったんだろ?そんな荷物の引き受けなんか他の仕事に任せれば良いし、何より隠す程の内容でも無いはずの依頼・・・」

「知るかよんな事」


一通り読み終え、机に本を戻すと同時にローライは立ち上がり、家へと出て辺りを見渡しこちらを向いた。


「どうすんだ?」

「え?」

「なんだよその反応、他の家も見て回るか?」

「・・・、いやもう大丈夫」

「他の所見ればまだなんか分かるかも知んないぞ」

「かも知れないね・・・けど何よりもこの"トリル・サンダラ"を出よう」


イタズラに時間を使っても仕方が無い、これ以上状況をややこしくしたくないし情報を仕入れれば仕入れる程、何か嫌なことに首を突っ込んでいる様な気がする。

私一人の問題であればいいが、彼を連れてこれ以上詮索するのは危険だと判断した。


「だな、お前も手負いだしな」

「・・・ごめんね」

「何がだよ」

「まさかこの依頼がこんな事になるなんて・・・、それに初めての依頼がこんな形で破棄されるなんて」


それを聞いた彼は何も言わず背を向け言った。


「まあ仕方ねぇよ」


腑甲斐無い・・・。こんな時ラックならと思ってしまう。

どんな事にも折れず成し遂げる。そんなラックの姿にきっと彼も憧れたんだと思う。私もそうだった様に。

でも現実は違う、私にはこの子を生かして帰る事だけが最重要であり、どうする事も出来ないほどに非力だ。

痛い程に自身の未熟さを感じている。


2人外へと再び出て行き、町の外へと歩いていった。

町には特に入り口といった所は無いが、ささやかながらに花壇と花が植えられていた。

いくつか抜き取られていたのはローライが私に向けて供えてくれた花束のせいだろう。

あの花束も遺体のあった民家の近くに置いておく事にし。町を後にした。


周囲を警戒しつつ、二人”トリル・サンダラ”を出る為最短のルートとして出来るだけ砂山の傾斜を避ける様に歩いていく。


「そういえばローライくんあの花も二週間も管理されて無いのに枯れずに咲いてたよね」

「ああ、あれ"カスレミレ"っていう枯れにくい花で良く乾燥させて塗料に使われる花なんだよ。観葉にも良いし、塗料や食用、薬にも使える」

「へ〜」

「ただ結構前にあの花の種の売買禁止されたんだよな」

「そうなの?あんなに綺麗で色んな物に使えるんでしょ?」

「どの気候や環境でも育つから、環境とか生態系なんとかで種の取引は個人間では禁止になったんだよ。勿論、栽培もアウト。種の生成になるからな」

「でもそれって要するに、大きく市場を持つギルドや機関の独占って事だよね?」

「まあそれが狙いだろな、実際その花から取れる原料も高く値上がったし」

「ローライ君も育ててたの?」

「もう前の話だけどな、薬や料理にも使えるしな、捨てる所もないし安いのも理由の一つにある。それに師匠と住んでるあの森の一帯結構魔力が強いんだよ」

「そういえばそうだったね」

「さっきお前が言った、家の話あるだろ?外から取ってきた木より現地の物を使う方が良いって話。あれに似ていて、”カスレミレ”は魔力が強い土地では成長が早いし枯れずらくもなるんだよ」

「ねえ、その禁止になったのいつ?」

「一年位前じゃないか?」

「じゃあ、民間で種を所有してる人も相当少ないよね?」

「まあ恐らくな、そもそも個人での売買が禁止だったら横流しでもしない限り個人間で大量に種を持ってても廃棄するしかないし、花からタネを採取しても売れないなら捨てるだろ?そうなると個人で所有してる人間は今だともうほとんどいないだろな」


「土地の魔力の変化もその花で分かるなら、あの地質調査の人が植えた可能性がありそうじゃない?それだと”リオラ”さんが受けた依頼が所長にも共有出来ない程の依頼となると裏がありそう」


「それが本当なら"カスレミレ"のタネを独占してる機関のどこかに所属してる可能性が強いな。ただ製造の面であの町自体が機関の管理下ならそもそもあの町自体がって話にもなりそうだな。まあでもこの異常な状況だ、もしかしたら1年枯れていないなんてのもあったりしてな」


ローライの言う通りである。一重に怪しいと捉えるにも辻褄は合うが証拠が無ければただのこじつけにしかならない。

しかし、考えれば考えるほど何か嫌な予感がする。

”トリル・サンダラ”を出るまでまだ早くても半日は絶対にかかってしまう、しかし考察の域を超えない事も事実。これ以上深入りすることもないだろう、そう思っていた。


「ん?誰だ・・・」


ローライは進行方向とは真逆、つまり"トリル・サンダラ"の町があった方少し外れた場所を指差し、その方向を振り返り見るとかなり遠くの方で点ほどの人の姿があった。


「人?」

「・・・逃げるか?」

「恐らくこっちも気付かれてる。しばらく歩いて、相手の様子を見ながら襲ってくる素振りが見られるなら逃げよう。もしかしたらたまたま来た旅人か、逃げそびれた町の人・・・もしくは盗賊」

「あまり良いお客さんは望めそうに無いな」

「しばらくこのまま歩こう、あの遠くに見える人影がもし少しでもこちらを襲う素振りや走ってこちらに向かってくるようだったら逃げよう。だからそれまで少しの間、ローライくんの探知魔法であの人影を見張ってて貰える?」


ローライはため息をつきながらリュックの中から、封のされた魔力補給の飲料水を開け、一気に飲み干しいつもの様に集中し始める。


「大丈夫、範囲内だ。一点集中での探知は広範囲の探知よりは長く持つけど、動く対象をずっと追うのはかなり魔力を消耗するからせいぜい10分位が限界だ。その間に決断しろよ」

「お願い」


知れば知る程に、まるで流砂に入ってしまい巻き込まれていく。いつもの様に遺品を探すはずの依頼は、いつの間にか自体は大きくなっていく。

何事も無く、このまま街へと帰る。

それだけが望みだった。

読了ありがとうございました。

これからも続けて行きたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

宜しくお願い致します。


次回の更新は4/21(日)です。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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