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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
81/81

26 渦



被害者の共通点、それは今回の騒動の争点となる"マグメル"についての関係者。

事故では無い、殺されている。一体誰が?


目的は隠蔽?それとも隠し持っている"マグメル"の略奪?何かしら裏があるのは間違いない。



「ウサン!ヤマナさんはどこにいるの?」



彼はそれでも答えない。この部屋から漏れ聞こえる会話に何かしら思う所はあるに違いないはず、それでも答えてはくれない。


私は改めてロロイに質問をする。



「荷物はどうやって運んでくるの?リュックやカバンなんかに入れているとか?」



「器具を使って幾つか分けた箱にいれ荷物を重ねて背負う。帰りに荷物の依頼が無ければリュックに器具をまとめ下山する」



「それはヤマナさんも?」



その問いに彼は頷き答えた。


2つのリュックの内の1つがほぼ少ない携帯食料だけの何も無い物だった。

その1つをヤマナさんの物だと仮定するなら中に器具は入っていなかった。



中身を盗まれたのか?実際に遺体を確認した訳では無いけれど、今回の一件に無関係では無い事を考えるとシメオンが見た遺体の1つはそのヤマナという人のものだと思うが、いまいち確信は持てない。



憶測が飛び交う脳内で勝手にぐちゃぐちゃと混乱している最中の事だった。

誰かが外から歩いてくる音が聞こえる。

ウサンに何か語りかけているのか直ぐにその場から離れたと同時にウサンは扉越しに私を名指しで語りかける。



「カペラ、お前の連れて来た女だがこの牢に入れる。外から来たやつだ、今は信用できんからな」



「そんな・・・彼女は具合が良くないの!こんな寒い場所に閉じ込められたら死んでしまう!」



「弱っていたが多少の呪いは解けて、ある程度の回復出来ているだろ。この中で過ごしてもらう」



呪い。



普通では無いと思っていたがやはりその類いの物だった。



「その中で大人しくしてろ」


そんな話をしてまもなくの事、暖かく毛布で包まれながら彼女がこの部屋へやって来る。

抵抗をせず震える彼女はペタリと力無く座り込んだ後、再び部屋は閉ざされる。



キョロキョロと見渡すグラシーは私の顔を見て震えた唇をギュッと閉め寒さに耐えていた。



「まだ寒いですか?良ければ私の服1枚貸しますよ?」



上着の1枚を彼女に手渡すと何も言わず受け取り毛布の上から纏う。


とりあえずやり取りが出来るほどには回復出来たらしいが完全では無いらしい。

視線は移り、その先はロロイへと向く。


彼女は震えた声でロロイへ問いかけた。



「あなた、"歩荷(ぼっか)"の一人?」


彼女の問いにロロイは頷くと不敵な笑みを浮かべ彼女は言う。


「あなたの相方死んだよ」


彼女の一言に私は確信を獲た、あの荷物はやはりそのヤマナという人の物だったのだと。

その問いに対しロロイは微動だにせず彼女の目を見て「そうか」と一言で済ます。



それが気に食わなかったのか、彼女は眉をひそめて俯きそれ以上何も言わなかった。



「あの、ここへは何しに?」



私の問いかけにグラシーはため息をつきこう言う。



「どちら様か知らないが、急にそんなプライベートな事を聞くとは随分育ちが悪いのね」



一瞬何故他人の振りをしたのか分からなかったが、どうやら話を合わせ他人のフリをしてくれているらしい事をすぐ察することが出来た。


部屋の中とは言え外にはウサンが一人、話を聞いていない訳では無い。



彼女は部屋の隅に転がっていた木炭を手に取り、毛布に何かを書き始めた。


音の無い筆談、私は彼女の書く文字を1つ1つ目で追う。



"私達はこの地より先にある国の大臣の護衛を頼むと命を受け来たが蓋を開けてみれば、この"オンブル"の市長の護衛だった。


問題があれば山中にて、先に向かわせた"歩荷"に市長を下山させ引き渡すという内容。

案の定街から離れて少しの場所でその"歩荷"と市長と思われる二人が青ざめた顔で走って私達の元へと駆け寄ってきた。


それから急に天候が荒れ始め猛吹雪が私達を襲い、何処からか無数の氷柱が私達を襲い、全滅した。"



彼女はそれを書き留めた後に一息つき私の顔を見て持っていた木炭を音が鳴らぬようゆっくりと半分に折り渡してきた。


恐らく質問があるか?という事なのだろうか、私は近付き彼女の毛布の端に書く。



"誰に襲われたんですか?"


彼女は直ぐに私の書いた場所のその下に書き始める。

このやり取りの往復はしばらく続く事となった。



"吹雪で視界は完全にやられていた。気付けば断末魔と倒れる仲間と男達がいた"


"その後の事も微かに覚えていたりしませんか?"


"私が倒れ、気絶する少し前に隣りで殺される市長の断末魔と共に私達と違う誰かのハッキリとした言語での声がした"


"それはあなたを助けたエルフでは無いですか?"


"違う"


つまりシメオンでは無い。

ハッキリとした言語・・・となると知性のある魔獣、もしくは人。

シメオン達と共に生きるテリトリーに住まう魔獣の中にも公用語を使う魔獣がいるということなのか・・・。



私は借りた木炭の手を止め考えているとグラシーはすかさず再び何かを書き始めた。



"私はこれ以上何も知らない。何が起こっていて何故襲われたのかも。だけど、市長が咄嗟に私に手渡してきた物が関係しているに違いない"



手渡してきた?



彼女は書き終えて直ぐに口を大きく開け口内にある奥歯の方から挟まった何かを取り出し床に置く。


紙に包まれた小さな円形の物、もしやと思いそれを手にし包みを剥がすと1つの指輪が出てくる。



雪の様な白と藍色、そしてほんの少し翠が薄く混ざる透明の指輪。


指輪を見て最初に思い浮かんだ事、イコライの旦那さんの遺品。

どんなものか聞かされてはいないが未だ見つからず申し訳ないな・・・。



・・・これがその遺品?ありえない。


市長が危機に瀕する最中に彼女に託す程の物となれば・・・、市長のカバンにあったやり取りの内容がそうであれば、これは"マグメル"?



恐る恐る指輪を見るが、以前手にした"フィアー・スター"とは違う特別な魔力を感じない。

微力に感じられるそれは異質なものでも特別変わったものでも無い。


という事はこれは手紙に書かれていたマグメルの"鍵"

なら本体があるはず、しかしそれを知る市長ももういない。



私はその指輪をポケットにしまうとグラシーは再び何かを毛布に書いていた。

私が読もうとする間に彼女は貸した上着を私に返し、突然咳き込み苦しみ始める。



「え?!ちょっと大丈夫ですか!!」


彼女は薄く開く瞳で毛布をチラチラと見る。

視線の先、私は彼女の心配を他所に新たに書き記したその文字へと目とやるとこう書かれていた。



"あなたにこれを託す、私は確かめたい事がある。今から苦しむ演技をしてここから出る。あなた達もそのタイミングで出なさい"



突然の作戦実行、戸惑う間もなく彼女の苦しむ声に外にいたウサンも思わず扉を開けると同時に彼女は立ち上がり油断した彼の首を締め上げ落とした。



「大層な力自慢なのだろうけど、戦闘においては素人ね。不意打ちなら弱った私でも簡単に倒せるわ」



「グラシーさん?」


「強引だけどこうでもしないといつまでもこの中にいる事になるわよ?」



「もっと話し合いでなんとか和解を・・・」



「甘い」と一言呆れた様子で私に言った後、彼女はこうも言う。


「あなた処刑される寸前までそんな事言ってるつもり?どう考えてもこの問題は私達の手に余るわ」



半ば強引なやり方はリフレシアに似ている、似たもの同士なのだなとこの時感じた。



「こんな事してまで確かめたい事ってなんですか?」



少し反抗的な物言いでの質問に対してグラシーは息を飲み答えた。



「私達を襲ったやつがこの近くにいる」



「なんでそんな事分かるんですか?」



彼女は着込んだ服や毛布を脱ぎ、上着をはだけさせると小さな氷の花が未だに着いたまま顕になる。

それを見せながら彼女は言う。



「この街に訪れた時からこの胸のこれがビリビリと痛むのよ、それに私がこの呪いを解く魔術と治療を受けていた時に微かに記憶の片隅で聞いたあの声に似た声を聞いた」



「じゃあ、この街にその襲って来たやつがいるって事ですか」



その問いに彼女は重く息を吐きながら、覚悟を決めた様な表情で言う。



「分からないから確かめるのよ・・・、だからわざわざここへ来てあなたにそれを渡した。


何かは分からないけど多分それが大切な物なんでしょ、あの市長の必死さを見ればそれがなんなのか分かるわ。

あなた達の話は俄かに信じがたいけど・・・。あなたはあなたのすべき事をしなさい」




彼女はそう言って立ち去ろうとするが私は彼女を呼び止めようとする前に小さくこう呟く。



「仮は返したから、これでイーブンよ」





読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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