25 対話
光の入らない一室に閉じ込められて、いつの間にか眠りについていた。
起きたと同時に扉越しから物音が聞こえる。
「グラード、交代だ」
ウサンの声、彼と見張りを入れ替わるタイミングなのだろう。
ふと隣を見るとロロイは目を開けたままじっと地面に俯いている。寝てるのだろうか?
こんな状況で人の体調の心配をしている場合でもないが、外傷が無い所を見るとなにか酷い目にあったと言うわけでもなさそうだ。
「今何時ですか?」
扉越しにいるであろうウサンに問いかけるも返答は無い。質問を変える。
「遭難していた彼女は無事でしたか?」
これにも答えて貰えない。それもそうか、これが普通だ。
暇になったと言えば少し不真面目だがここで何もなくただ時間を過ごしていても仕方がない、出来れば情報収集がしたい所。
「ねえ、ロロイ。あなたはこの街にどうやって来たの」
ロロイもまた黙ったままで視線は私の目に行く。分かっている、扉越しにいる彼に聞かれる事を警戒している。
寡黙な彼が唯一自身の事を開示するのは信頼している人や魔獣のみ、きっと扉越しにいるウサンにも何も話していないことは多いだろう。
「突然こんな目に遭ってあなたも納得いっていないんでしょ?けどそれはこの街の人たちも同じ」
そう説得するも彼は黙ったまま話す気配すら見せない。実際彼も何らかの形で関わっているのだろう。
しかし私達以上に何も知らない街の住民は私達以上に混乱しているはず。
情報を少しでも共有出来れば良いのだが・・・。
思えば私自身昨日のタイミングで下山し戻ってきたらこの状況、怪しまない訳もない。
今一度整理しよう。あのタイミングでしっかりと考える時間はそれ程多くなかったが、考えれば考える程にシメオンが怪しく見える。
リフレシアの言った通りであまりにも都合が良過ぎる。しかし私が彼女と出会い話をした感じでは怪しく映らなかった。
それはただの直感に過ぎず、状況や疑問点だけを抽出し考える程にシメオンが怪しく映る。
私がこの仕事を請負、シメオンと出会い彼女の生業を聞いた時に思った事。
"彼女こそ、イコライの遺品を手に入れ何処かへと売ってしまったのではないか"。
本人に確認をしたかったものの"シメオン"は彼女以外にも他にその名を名乗り生きているエルフがこの地に生きていたなら正直に答える訳も無い。
彼女達のその名はそれこそ遺品を盗んだ際に撹乱される為のコードネームに違いない。
良くある盗賊のやり方でもある。
そしてこのタイミングでの市長の死とマグメルの関係性、手紙。
[スターキャリアー]である私達が"カラット"の住民である事は言っていないのにそれを加味して計画していたという事になる。
もしそうなら彼女は一度[スターキャリアー]の誰かに出会っている。恐らくそれはリオラだろう。
そう推測出来れば話の流れの大体は辻褄が合う。
全貌が不透明なまでもここまで分かりやすく彼女が仕組んだ事なのかと疑問に思う。
何より目的が見えないから。
上手く表現は出来ないこのきみの悪さ、私にはまるで彼女が悪者に見える様に仕立て上げて見えなくもなかった。
それは同様に私達にも向けられているような。
「ロロイ、4年前からこの仕事してるんだよね?リオラっていう同じく外国の人がこの地に来てたと思うんだけど、会ってない?」
「会った。が話していない」
一言それだけを言うがやはり詳細は語らず、もどかしさもあるが恐らく会っただけなのも事実。
それ以上に何かあった訳でもないのだろうと彼の性格も踏まえそんな所だろうか。
「ウサン、私達は何も知らない。このままずっと拘束しても何もならない」
扉越しにいる彼に言うも答えは返らず徹底して無視をする。
こうなればグラードと変わった時に話す他無い。
彼ならまだ話し合いはしてくれるだろうと考えたつかの間、彼は静かに言う。
「俺、その後はミレザ、ダカル、イワ。
俺達仲間それぞれ交代する。グラードはどうやら話過ぎたらしいからな、これ以上の会話はもう無いぞ」
冷たく突き放すような口調でそう言った。
対話はもう出来ない。いつまでここへ閉じ込められるのかも分からない。
リフレシアがカラットへ伝える方が早い可能性すらある。
八方塞がり。黙ったまま何の情報も進捗も無くこの牢屋で過ごせばきっと彼女も呆れ果てる事だろう。
ロロイの力さえ借りられれば無理矢理にもこの場を突破するのは簡単、けどそれではダメ。
あくまで私達は敵対したい訳では無いのだから、今すべき事、それは情報を得ること。
「ロロイ、もう一度言う。この街の人達は敵じゃない。ただ今の平穏が崩される事が嫌なだけ、だから私達が敵意を持って警戒しても仕方が無い。
勿論、誰これ構わず自分の情報を落とすべきではないけど、今あなたが疑われているのであれば潔白する必要もある。
あなたが本当にこの1件を知らないのであれば。
私はあなたを信じてる、誰にも信じて貰えずとも絶対。
だから教えて欲しい」
私の拙い想いをそのまま口にした。すると彼は私の方に目をやり、固く結ばれた口は少し開き彼は一言ゆっくりと呟いた。
「何が知りたい?」
どうやら通じたらしい、"思い"というより"合理性"で
なのだらうけど、何だっていい。
彼に伝えられたのだから。
「ありがとう、ロロイ」
彼が目で訴えかけて来た時の事、もしかしたら彼はこの一件の中核であるものに加担しているのでは無いかと少し疑ってしまった。
私の説得を素直に受け止めてくれた所から考えるにただ彼は警戒しただけで、こうもあっさりと話してくれるということは同じく特にこれといった関わりが無いと推測が出来る。
逆に言えばあまりこの件に関する重要な話は期待出来ないにしても、何もせず何の情報も得られないのは街の人々の不安要素にもなれば私にとっても都合は良くない。
「じゃあ、ロロイ。何を運びにこの街に訪れたの?」
「荷物。"カレント"から食べ物とその他を運びに来た」
"カレント"とは、この地"オンブル"を下り南側にある少し大きな街。
輸出と輸入が盛んな街で色んな物が集まる場所。
ロロイはそこの配達を請負う運び屋なのだろう。
「・・・手紙については?」
「知らない」
「運ぶ物はリストにある。無くしたり盗られたらダメだ。そのリストに無ければ無い」
「え?確かここには市長に特殊対策討伐隊が来る事を伝えに来たんじゃないの?」
「何の話だ?」
外から少し動く音がする。ウサンが動いたのだろう。
関心を示したと言う事だろうか?
この話はリフレシアから聞いた話、恐らく以前ロロイが話していたここへ運び屋としてやってきた相方の"ヤマナ"から聞いた話なのだろう。
共有がされていない?
「ヤマナさんが言ってたらしいけど・・・」
「知らないな」
「共有は受けてないって事?おかしくない?」
誰にも話していない内容を何故ヤマナはリフレシアに話したのかは謎だ。
「特殊対策討伐隊が来る事とそれについての封書を持ってるとかだったらしいけど」
「知らないな」
どうやら本当に知らなさそうだった。
恐らくその封書というのはシメオンから買い取ったカバンの1つにあった物で間違いない。
「ところでそのヤマナさんは今どこにいるの?」
「さあ」
「パーティなんだよね?」
ロロイは頷く、本当に知らないのだろう。
もし街の人々に捕まっているのなら同じ場所に押し込まれているに違いないが居ない。
ここに居ない。
同業でありパーティであるロロイを置いて?
不穏なシメオンの言葉が脳裏に過ぎる。
『死体が3つ、1つはこの街の人間。もう1つが外部の人間、もう1つはエルフ』
特殊対策討伐隊のエルフ、街の人間である市長。
外部の人間、それは"ヤマナ"。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu