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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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24 閉ざされた部屋




リフレシアがこの古家から離れてから少し経ち、再び何重にも重ねた服や布で包まったグラシーを背負い、リーヴと共に私達もその場から離れた。




夜になりつつある中、微かに光が差す空を頼りに雪道を歩く、次第に足を重くなっていき雪が吹雪積もる感覚を足で感じ始めながら森を抜けオンブルへと向かう。



手を繋ぎながらも先導するように並んで歩いているとリーヴは前を向いたまま私に何度も尋ねてくる。




「お姉ちゃん達は本当に悪い事をしに来てないんだよね?」と。


その度に私は「うん」と一言返事をする事しか出来なかった。



空が完全に暗く夜へと姿を変えた頃。オンブルへと辿り着くと街の中心には人々がそれぞれ明かりを灯し集い。

私達が明るみに現れた時全員に注目され、突き刺さる視線の中ゆっくりと近付いた。




緊迫した状況に怯え怖がりながら震えるリーヴの背中を軽く押して皆の元へと帰るよう促すもギュッと私の手を両手で掴み小声で言う。




「みんな・・・怖い・・・」



「ごめんね」と私は小声でリーヴに伝え、私はリーヴと共に彼等の元へと行く。



一定の距離をお互いに取り立ち止まると、集団の先頭に出てきたのは"海氷壊(コールドフレイム)"のウサンだ。




「まさか何も知らねえって訳でも無いよな?リーヴを連れてどういうつもりだ?」



とても威圧的に彼は前へと出て来ては早々に言う。

ビリビリとした空気は夜の雪山の冷たさも相まって鋭く突き刺さる様に肌に伝わる。



怖がるリーヴを背に私は怖気ず答えた。




「丁度ここへと戻る時にリーヴに聞きました。ですが、私はあなた達の期待に応えられる様な答えを持ち合わせていません」



「あんたの連れはどうした?」



「リフレシアの事も聞きましたがここへ戻る道中出会ってません。どこへ逃げたのかも検討つかない」



彼はため息をつき頭をかいた。まるで惚けている私に呆れている様な、面倒くさそうな仕草。



「それで何も知りませんは通らないよな?あんた達"カラット"から来たんだろ?」



「それが理由ですか?」



彼は背に携えた自身の大きさ程の金槌を大振りし目の前に叩きつけ、威圧的に見せる。

厚い雪を貫き地面に着く金槌から鳴る鈍く重い音。彼の目は本気だ。



「私は戦う意思も争う理由もありません。何があったのか教えて貰えませんか?」



「理由なら逃げた連れに聞けばいいんじゃないか?」




彼の声はどんどんと怒りが顕になる。一触即発のその場に私は言葉が出なかった。

これ以上刺激すれば戦いになってしまう程に彼は冷静では無い。



沈黙はしばらく続く中、集団の中から二人、イコライとルメが前に出てきた。



「リーヴ!ダメでしょ!!勝手に外に出ないでって言ったのに!!」




大声で怒鳴るイコライの声にポロポロと涙を零すリーヴ。


私は体を屈めリーヴの目線に合わし彼女の背を押し、街の人々の元へと帰るよう言うと、彼女は小さく頷きゆっくりと皆の元へと歩いて戻っていく。



そして私は意を決し背に担いでいるグラシーが落ちぬ様気を使いながら両手を軽く上げ、ウサンの元へと近付く。




「私は抵抗しない。知っている事なら答えるけど、恐らく私はあなた達が求めている答えは出ないと思う」



彼は片手に大きな金槌を引き摺りながら私の近くまで歩みを進め始めた時、リーヴはイコライの元へと戻りそれと同時に彼女は私に向け言った。




「本当に何も知らない・・・信じられると思う?」



イコライのその問いにピタリと足を止めるウサン。

私はその問いに対して答えた。



「私達は本当に何も知りません。・・・けど口では言えます。証明する事は出来ません」




「私が依頼をした・・・それをいい事に利用してた・・・って言われても?」



「私達の仕事は依頼主の大切な人の残した遺品を探す事です。私達は当初から依頼の物を探しに来ただけです、信じて下さい」




その言葉に彼女は何とも言えない表情だった。

悔しい、そんな風に見える。溢れ出したかの様に彼女は大声で怒鳴るとも違う怒りをぶつける様に私に向け言った。



「4年・・・、あなた方に頼んだのは行方不明の夫がつけていた指輪なんです。

諦め切れずいた私に何度も諦めない様に言ったのは前任のリオラさんでした・・・。



最初は諦めようとしていましたが彼の言葉に私は諦めずあなた方を信じ頼む事を選びました、勿論依頼期間の延長は安いものではありません。


けど見つかるのならどんな対価も払える。そう思っていました。




本当の目的はあなた方がこの街にやって来て市長と兵器のやり取りを円滑にする為だったんですか?

ただの言い訳作りの為に私を利用したんですか?」




彼女の言葉は私に重くのしかかる。

私や所長は何も知らない、けれど理由はどうあれ彼の事だ、ナインズと市長のパイプ役をし関わっているのは恐らく間違いない。




その事を踏まえると彼女の依頼を良い理由に使ったと見られても仕方が無い。真相は分からないが彼のとった行動の責任は[スターキャリアー]の私達にある。



だからといってリオラの行動やカラットの内情を外部に話す訳にもいかない。




「私達は本当にあなたの依頼を全うしようと動いていました。今私達があなた達の反感を買う様な理由が分かりません。



リフレシアは逃げてしまったかもしれませんが、私一匹でもあなた方の気の済むまま拘束して貰って問題ないです。それで皆さんの気持ちが少しでも楽になるのなら」




私の言葉にシンと静まり返る人々。群衆の中、一匹。グラードだけが私の前に出て来ては数メートルもしない距離まで近付いてくる。




「すまないけど、信用出来ない」



グラードの一言に私は抵抗の意志が無いことの証明として持っていた杖をその場に落とし、背中に抱えているグラシーを下ろし両腕を後ろに回し拘束しやすい体勢で立ち上がった。




「それで良いです。図々しいお願いかもしれませんが私を拘束した後、私の背に乗せていた彼女を助けてください。ここへ戻る道中に見つけた遭難者で、重症なんです」




グラードは無言のまま縄で私の両腕を拘束しそのままその場から離れる様にゆっくりと誘導する中、イコライの隣にいたリーヴとルメだけは毛布や服を厚く纏う彼女を保護する姿を横目に見る事が出来た。





「ありがとう・・・」と私は言うと、隣で並んで歩くグラードは答えてくれた。



「彼女達が勝手にやった事だから関係無い」




さっきまで集まっていた人々はそれぞれ散り散りになり、グラードとウサンの二人組によって人気が無く比較的民家から離れた場所へと私を誘動する。

方角的に展望台のある所だろう。




一度来たこの展望台、数ある部屋の中でも角にある一室。扉が開かれるとそこには数冊の本が並べられ、小さな電気一つ用意され、そこには大人しく座り同じくして拘束されているロロイの姿もあった。




「この街でまさか人を拘束して部屋に閉じ込めるなんざ初めてでな、丁度いい牢屋も無いからこの資料室を急遽空部屋にした、ここで二人しばらく過ごしてもらうぞ」とウサンは言う。




とりあえずロロイの無事が確認出来て安心はしたのもつかの間、ウサンは早々に部屋を出て行き続いてグラードも部屋を出ては扉を閉め施錠された音が静かな展望台の一室に響く。



「しばらく扉越しで見張ってるから抵抗しないで」



グラードのその言葉から私はしばらく黙ったまま牢屋で過ごす。


ロロイは元々口数も多くないし恐らく彼も何も知らないのだろうが私の知り合いという理由で同じく拘束されこの部屋に閉じ込められたのだろう。





これでもかと彼に付けられ、結ばれた縄。


正直彼程の力があれば簡単に解けてしまえば私がこの部屋に入る寸前に力任せに出る事だって出来た。

けれどそれをしないのは彼自身街の人間や魔物から悪意や敵意を感じていないからなのだろう。




固く閉ざされているであろう扉もやはり建物の一室を牢屋代わりに間借りした物でただの部屋に過ぎない。

扉越しからもグラードの声はこちらに届く。




「グラードさん、何があったのか教えて貰えませんか?」




彼はしばらく黙っていたが、長い沈黙を経て私の問いに丁寧に答えてはくれた。



おおよその内容はリフレシアに伝えられた内容と共に彼等はどうやらリフレシアの後に市長の家へ入り彼女と出会した事もあって疑いが深まったのだと。




「市長の家から何通かカラットとの関係性やマグメルを示唆する内容の手紙が出てきたんだ。彼女の行動や君達がカラットの人物である事が一番の要因ではある」



「じゃあロロイを拘束した理由は?」



「・・・本当に分からないの?」



彼は不思議そうに言う。勿論私は知らない、何しろ彼と会ったのも久しぶりなのだから。



「そこにいる彼はその内容の手紙を運んでいた運び屋だからだよ、それに君とも面識があったからね。


それにイコライさんからこの展望台で二人話していたらしいじゃ無いか。怪しまない方が無理がある」




「それもそうだね」



彼の事だ、必要以上に必要な事ですら自ら語らない彼はきっと幽閉された後もずっと何も話さなかっただろう。

彼もまた何も知らないという事も大いに考えうる。



「グラードさん、私はさっきも言ったけど私が知り得る事なら話す」



「交渉なら応じないよ」



「私はあの遭難者の人とロロイの無事さえ分かればそれでいい、それに私は別に敵対したい訳じゃない」



彼は黙った。きっと疑いは強い、嘘をつくかもしれない私との会話であちらの質問から情報を取られると言う心配もあるのだろう。

慎重になっているのも仕方がない。



「君達は”マグメル”がどういう物なのか知っているよね」


意味深な言葉を言った後、彼は直様訂正するように「やっぱりいい」と一言。



その日はロロイ含めそれ以上に言葉を交わすことはなかった。






読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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