23 手紙
行方不明の市長。
山中の遺体から手に入れたと言われた荷物。遺体の内の一つは市長の物・・・。
「おい、荷物の中は見たか?」
「み・・・見てない・・・そんな事態でも無かったし」
「なら今見るか」
「えぇ?!」
「何を驚いてる?状況証拠だろ」
「そうだけど・・・」
目を泳がせながらふと目に入ったリーヴは先程までの態度と変わり、ソワソワとし落ち着かない表情で目線を合わせず言う。
明らかに私達に対し怯えている。
「お・・・お姉ちゃん達やっぱり・・・市長さん」
最悪のタイミングで受け取ったこの荷物は間違いなく、今の状況と噛み合い私達に対する疑いは深くなる最悪の送り物となってしまった。
せっかく私達を信じ手助けをしてくれたリーヴにも怖い思いをさせる羽目となった。
「どうやらこれで言い訳も立たなくなるな」
まるで他人事の様に言う彼女とそれに怯えるリーヴ。
私は必死に言い訳を考えるも何も思い浮かばず考え無しに口にした言葉。
「リーヴ、違うの私達は本当に何も知らないの」
言い訳がましく聞こえたのか、やはり警戒を緩めぬ様子のリーヴに対しリフレシアは言う。
「まあこんな物お前が持ってたら街の連中の言う通りのシナリオだな。良かったな街へ入る前に俺と会えて」
彼女の軽口にさえ反応を示せない程の動揺。
私は咄嗟に言葉が出ず頭の中でとにかく何が起こっているのかを整理をする。
「・・・、じゃあシメオンが見つけた遭難者の一人は市長・・・さん」
「そのようだが、話の流れではあのエルフが俺達に罪を擦り付けるためにという見え方も出来無くもない。
あいつが街に寄り付かない理由は顔をバレたく無い中、密かに市長を殺す算段を立て外から待ち構えていたとも捉えれば辻褄は合う」
「シメオンが私達の事を?」
「ああ、そうだ。俺達は現状何も知らない」
彼女の言う事には一理あるがあくまで憶測である。
そしてこれはなんとなく、なんとなくではあるものの私は彼女が仕組んだ罠とは考えにくかった。
ただの勘でしかない。けれどそんな気がする。
私はその事を口にせず、彼女には申し訳ないがあくまでシメオンのせいでという想定で話を進めれば少しでもリーヴに疑いが逸れると信じリフレシアの話に合わせる。
「そうだね、確かに都合が良過ぎる」
「どの道これで街へ戻ると言う話は無くなったな」
「それでも、私は街へ戻る」
「気でも違えたか」
「1つだけ、思い付いたことあるの」
「話せ」
「私はリーヴを街へ送り届ける。ロロイの事も気になるし、何よりグラシーさんが下山してから近くの街までもつか分からない」
「馬鹿馬鹿しい」
「誤解が解ければ良いけど・・・とにかく今は街の人に説得する。ロロイの事もそうだけど流石にグラシーさんの事をそんな蔑ろにはしないはず」
「希望的観測だな」と呆れた様に笑うリフレシア。
何が何だか分からず震えるリーヴの手を握り私は言った。
「私達の事を信じなくても良い。私はしっかり街の人達の前で説明する。逃げも隠れもしない、だから一緒にオンブルへ帰ろう。
こんな立場で言える言葉じゃない事も分かってる。
お願い、リフレシアだけはどうか逃がさせて欲しい」
私の言葉が通じたのか私の目を見てゆっくりとリーヴは頷いて見せる。
肝心のリフレシアは何事も無かったかのように私がシメオンから買い取った市長の荷物に手を付け始めた。
「ちょ・・・リフレシア?!」
「言っただろ。これは証拠だ。何があったのか手掛かり程度は分かるだろ」
「だからって勝手に見るなんて」
「おかしいだろ。街から出るにしろ逃げるにしろ荷物が紙の束たったのこれだけ。
中を抜き取られて渡されたか相当急いでいたかだが、どうもあのエルフが怪しくてならん」
堂々とした言い分で彼女はまとめられた紙の束を1枚1枚見ながら私の問い掛けに「黙れ」と一喝する。
その間リーヴは私に恐る恐る、今の状況や"マグメル"の事や部屋の片隅で何枚もの厚着をするグラシーについて聞いてきた。
話さない理由も無いというのもあるが、そもそも私ですら状況を理解出来ていない情報が少ない上にどう伝えていいか分からず噛み砕く言葉も無くそのままを伝えても首を傾げられる。
そんな中背を向け紙の束を見る彼女は私に質問を投げかけた。
「それで?お前は何がしたいんだ」
「え?」
「俺だけを見逃せとガキにせっつく情けない言葉を吐いたんだ。このまま俺だけ引き下がれと?」
「・・・えっと、今大丈夫なんだよね?読み物してるから後で言おうと思ったんだけど」
「早く言え」
リフレシアは市長の荷物を漁り、紙の束に目を通しながらこちらに簡単に視線を送る。
その顔は少し怒って見えた。
「リフレシアには下山してそのままカラットへ帰って上層部・・・出来れば所長に状況を説明して欲しい」
「先にあの団扇耳の獣がこの情けないエルフの部下の生き残りを連れて街まで下山したんだろ?
応援の要請位はそいつらが出していずれ伝えられるだろ」
「そうだけど、内容が内容だから出来れば早めに直接所長に伝えて欲しいの。リオラの残した依頼から"マグメル"の話がまた出た以上関わりが無いとも思えない」
「あのデブにか?あのデブに伝えた所でいけ好かない白髪ロン毛に伝わるだけだろ?それに今から帰っても早くても5日はかかる」
「分かってる、恐らくこの話自体主導はナインズ。だけど今この状況を上手くまとめられるのは実権をもった最高主導者あいつだけ・・・」
それもそうかとため息をつく彼女だが私だって本当なら丸く収められるなら自身の手でどうにかしたい。
あれが絡むと絶対にいい方向には結果は行かないのだから。
それに彼女の力さえあれば本気を出せば、先に下りたエルフ達が近くの街からカラットへ伝令を早急に送ろうと、それより遥かに早い。
「まあそうだな今テリトリーがある分一人で下山出来るのも力がある俺だけだしな。街へ行くよりかは暇ではなさそうだな」
「ねえリフレシア、本気を出したらどれくらいで戻れる?」
「元の姿というなら2日位だな。人の目を気にせずならの話だがな。
俺が早くカラットへと戻って要請を出したからといってその助けが来るのは6日以上、解決する期間が極端に早まるとも思えんが」
「分かってる」
彼女の言う通り、けれど彼女と共にオンブルへと戻っても意味は無い。
ロロイ、グラシーを見捨てる訳にもいけない。
今彼女にして貰える最大の仕事はこの状況を少しでも早く伝えてくれる事。
薄々彼女自身も私の意図には気付いているだろう、
しばらく考えた後に言う。
「なら俺の方から分かった情報を共有だけする」
そう言いながら先程見ていた紙の束から数枚取り除き私に手渡して見せてくる。
目立つ様に一番上に見せられたその紙に書かれていた内容は緊急と大きく赤赤と書かれ、それに連なり書かれた一言。
『至急、応援求む』
忙しくも急ぎ足の直筆、追われるように書かれたそれにはカラット上層部で扱われる重要資料や緊急時に押される割印。
「応援・・・それにこの割印」
「その印自体の重要性は知らん。だがその半分の印が書かれた何かはこの女、もしくはその仲間の誰かが持っているんじゃないか?」
「じゃあ・・・グラシーさん達は市長が呼んだ応援って言いたいの?」
「でなければこいつらが来る理由が分からんだろ、それがほぼ全滅だ。安っぽい奴らを派遣させられた挙句殺されたこいつが惨めで仕方が無いな」
グラシーが率いる戦闘経験も豊富な"特殊対策討伐隊"、それを動かせるのも上層部。
恐らくはナインズによる差し金に違いない。
だが全貌がまるで見えない、そんな私を見兼ねる様にリフレシアは近づいて来て渡してきた紙の束を捲り2枚3枚と目を通させ指を指す。
「まだある、読め」
言われるがまま読み進めるがそこに記述されていたのは恐らく彼女が口頭で簡単に私に伝えてくれた市長とマグメルにカラットの名が記された内容の物だった。
「"マグメルの鍵であるこれをあなたにお渡し致します。現在カラットでのマグメルの処置については概ね知らされております、先述して頂いたお話快くお願い致します"・・・。
これってリフレシアが市長の家で見たっていう内容?話の前後が分からないけど明らかにカラットと市長が関係してる事は明記されてるね」
私は続いて渡された紙の束を捲ると同じ内容の物がそこから続いて数枚。
それらどれも1文1句違わない物、しかしそれらどれもが筆跡が違う。
日付、宛名や届け先もバラバラ。
奇妙なそれらの手紙をよく見るとそれはオンブルの市長から始まり、あらゆる街や国の誰かを宛名に遠回りしながらもその宛先はカラットへと続くリレー形式。
「これ・・・どういう・・・」
「細かい事は分からんが恐らく、この手紙の内容を関係者以外の奴に何らかの形で見られた時に発信先や到着先を錯乱させる為の物だろう。
・・・という事は容易に想像がつくが、随分と人手に時間を掛けていて御苦労な事だ。」
"マグメル"の所持や使用を実際に仄めかす内容。
こんな物が事実であろうと無かろうと第三者に見つかれば幾多の国から狙われる。
きっとカラットの一部上層の中でも秘密保持に徹底した人間が仕組んでいる事。
「秘密裏で動く程重要だって事だよね?そうなるとこの最初のオンブルの市長からカラットの上層部への宛名の紙は?
それに最初にあなたが見たっていう市長の家で見た同じ内容の紙があったって話も」
「知るか」と一蹴する彼女、しかしこれを手渡した理由。何も無く渡す訳など無い。
「リフレシア、あなたが街で見た同様の物と筆跡が違うかったの?」
「ああ、全くな。だが問題はそこでは無い、俺が見たのも差出人も宛名もその市長からカラットへ直接だったんだ」
「え?」
「言っただろ、カラットに直接という内容だったと。つまり同じ様な物が2枚存在する」
じゃあこの態々遠回しに送った内容の一緒の物は?
そう思う間も無くして、その理由を一つだけ私は思いつく。
その場で言うにもあまりにも突拍子であまりにも理由が無い、私は心の内にしまい込んだ。
「さて、大体の情報共有はこの位か。とりあえずこの市長の荷物も紙の束も持っていくからな」
彼女はさっさと手渡した紙を奪い取り元の鞄に締まってはそれを担ぎ扉に手をかけ警戒すること無く外へと出て行く。
「ありがとう、気をつけてね」と一言彼女に言うとそれを鼻で笑いこう返された。
「次に同じ様な事を口にしてみろ、本当に容赦無く顔面を殴るからな。後、ありがとうございます。だ」
彼女なりの"心配するな"と言う事だろうか。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu