22 ストレンジャーズ
「容疑って・・・そんな、私達何も悪いことなんか・・・。ロロイは!ロロイは無事なの!?」
急な出来事に動揺と焦りが隠せず急かす様に彼女を問いただすもリフレシアは対称的に「知らん」と冷たくあしらうように答える。
彼女の態度に私は少し冷静をかいてしまいながら投げ付けるように言葉を吐いてしまった。
「それに何も逃げなくてもいいじゃ無い!ちゃんと説明すれば分かって貰える人達でしょ!?」
「事が事だからな。奴らにそんな余裕は無さそうだった。数日経てば頭を冷やすだろうがな。
この事を早く帰って伝える事の方が先決だと思うが」
彼女の箇条書きの様な話に全く話が見えない。
依頼においての行動の最終決断は常に私が決めている。
その上で彼女はそう提案しているのだろう、要は自分で決めろと言いたいのだろうか。
時間が惜しい今だからこそ焦ってはいけない、私は深呼吸をし改めて彼女に問う。
「・・・。リフレシア、何があったのか全部聞かせて」
「はぁ・・・」とめんどくさそうにため息をつき、彼女は言う。
「それはいいがここでは無い方がいいかもしれんな」
「え?なんで?」
「このボロい家だが、リーヴに教えられた隠れ家だ。いつアイツが街の連中に吐くか分からんからな」
「リーヴ?あんな子供がこんな森の奥を?」
「怪しいだろ?大人の指示の可能性がある。所詮あいつも街の人間だ、その可能性を考慮するならばここから離れて山を降りるのも手だな」
あの子に限ってそんな事するとは思えない。
かといってこの家を出て山を今すぐ降りようにも時間が掛かる上に山を降り切るのにも時間が掛かる。
ロロイの無事も気になる。
そして自分達はともかくとしてグラシーの体がもつかも分からない。
「誤解を解きにまたオンブルへ戻る・・・はどうかな?」
私の提案に対し彼女は即答する。否定を覚悟していたが以外な返答がかえってきた。
「1周回ってありかもな、だがもし危機に瀕する事があろうものなら俺も容赦せず街の奴らを殺すぞ」
いつもの様な軽口にも聞こえなくもない彼女の言葉だが、その口調は明らかに本気にも見て捉えられる。
しかしそこまで言わせる状況なのかは私には理解し得ずハッキリと彼女に言う。
「さっきから状況が飲み込めないんだけど・・・。そこまで疑われる理由もわからないし」
コンコン。
突然、扉を叩く音が聞こえる。
最初は雹か何かが叩く音かと思ったが、その音はリズム良く刻んで二回叩く。人為的な物だ。
誰かの手によるノック、私達は会話を止め息を殺す。
リフレシアは静かに顎で扉を指しながら簡単なハンドサインを見せる。
『殺すか?』そう彼女は合図する。
私は首を横に振り音を立てず忍び足で扉の前まで足を進め、取手に手をかける。
戦闘態勢に入るリフレシアを片目に扉を勢い良く開けると目の前に立っていたのは真っ白に雪に晒され肩や頭に雪を乗せ小さなカバンを背負ったリーヴ、1人だけ。
「リーヴ!?どうしたの?」
「意外な来客だな」
外を見回すも誰か他に人がいる気配も無い。
本当にリーヴ1人だ。
私は家の中へと入れ、すぐ様扉を閉めて彼女の服についた雪を払う。
「どうしたの?なんでここが分かったの?」
私達の顔を見るやいなやリーヴは涙目で答えてくれた。
「お姉ちゃん達が悪い人達だって・・・皆こわい顔して探し回ってて・・・。
私怖くてお姉ちゃん達探してたの・・・。もしかしたら本当に秘密基地にいるかもって・・・」
「ごめんね、でも信じて欲しい。私達も何が何だかよく分かってないの」
私の言葉を真摯に受け止めてくれたのかリーヴは強く頷く。
「それよりつけられてないよな?」
「つけられる?」
「誰もついてきて無いかって事だよ」
「うん。ここね、街の人達も知らないんだよ。私だけの秘密基地」
「ほ・・・ほんと?」
私の言葉にリーヴはこれでもかと首を縦にする。
疑う訳では無いけど、子供の言う事。
どれだけ嘘をついていないとしても、嘘が無いとしても大人はよく見ている。
リーヴももしかすればつけられている可能性もある。
「一人でこんな森の中・・・危なくなかった?」
「うん、良く来てるから大丈夫。それにね、街の皆この森に入らないの」
「え?」
「お姉ちゃん達悪いことして無い?」
「してないよ」
「じゃあ教えて上げる。
あのね、ずーと前にこのお家エルフのお兄ちゃんに貰ったんだ。お兄ちゃんももう全然街に来てくれなくなっちゃったけど」
「エルフのお兄ちゃん?」
「たまーに、街に来て外国のお客様呼んでくる人だよ」
彼女の言うそのエルフ。"シメオン"に違いない。
それは私達を案内してくれた彼女では無い他の"シメオン"。
補足するようにリフレシアは語る。
「理由は分からんが恐らくここは元々テリトリーであり、エルフの住処の1つだったんだろう。
空き家になって誰も使わんからこのガキに渡したって所か?」
「この隠れ家の事街の人たちが本当に知らないにしてもリーヴが私達と行動を共にしているのは危険すぎる」
「なら帰ってもらうか」
彼女の一言に今にも泣きそうな顔でリーヴは私を見つめる。
「やっぱり、街に戻ろう。何があったのか事情が分からない今確かめる必要がある」
「そんな素直に聞いて貰える状況では無いぞ。このガキに聞いてみればいい」
リーヴは黙ったままゆっくりと俯いた。
やはり思っていた以上に穏やかでは無いということなのだろう。
「ねえ二人とも何があったの?」
「お姉ちゃんたちが・・・市長さんと逃げたって・・・」とリーヴが口にする。
それに続きリフレシアは言う。
「あの街の市長だが、どうやら”カラット”の上層と運び屋を通じて文通をしていた」
「そうなの?」
「市長の家に忍び込んでその手紙を何枚か見つけた。内容は”マグメル”についてだ」
「お姉ちゃん・・・悪い事だよ?」と口を挟むリーヴに大人気なく彼女は「黙れ」と一喝する。
さすがに不憫に思えるリーヴに変わり私は「ほんとにね」と一言添えた。
「で、内容だが。市長は”マグメル”の”鍵”を”カラット”に受け渡す手筈だった。との事だ」
「”マグメル”?”鍵”?”カラット”?・・・どう言う事?」
また、まさか”マグメル”の名を耳にするとは思わなかった。更にはカラットも関わっている事。
あの男の顔がチラつく。
「さあな、少なくともその言葉だけでも俺達は間違い無く標的だな。
手紙の日付も随分と前からだったことから恐らくあのクソ野郎が関わる前からの話だ。街の連中もそれに気がついて俺達を探している。
市長と共に悪策するカラットの国営機関との内通という具合か?
あとは運び屋も1枚噛んでそうって所だな」
つまり・・・市長は密かに戦争の準備を企てていた?もしくは協力関係にあったということ。
遠く無い海の向こうの隣国との長きに渡る冷戦状態がそこまで緊迫し他国の協力を有し戦争を起こそうとしてる程に切羽詰まっていたと言う事なのか。
そうでも無ければわざわざ"マグメル"への関与等といった重罪を行う理由も無い。
「1から10まで説明すれば長くなる。大体の筋書きはお前も気がついているだろう?」
「うん、いくつか気になる点はあるけど今それを追求したところで現状は打開出来ない・・・。今はとにかくどうするかだよね」
「一つ良い提案があるぞ。このガキを人質にとって話を聞いてもらうのはどうだ?」
「却下します。話を聞いて貰うんだよね?」
「ならさっさと追い払うか、お前の言う様にこいつと共に行動は出来んからな」
私達が話し合っている間、暇そうに歩き回るリーヴを指差すリフレシア。
彷徨く彼女はピタリと私がシメオンから買い取った荷物を前に不意に立ち止まる。
「どうしたのリーヴ?」
「お姉ちゃん、これ市長さんの鞄だよ?」
「え?」
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu