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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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21 凍る花




”オンブル”を前にシメオンは肩に背負わせたグラシーを外し私に彼女の体をそのまま預け、彼女は1人その場を離れた。




「待ってシメオン!あなたはどうするの?」

「予定通り、お前達が帰る二日後に再び来る」



「あなた1人で降りたらまた襲われる!とにかく今は街へ避難しよ?」




その提案は受け入れられず彼女は静かに首を横に振り、私の声も届かず再び来た道を帰っていく。



そこまでしてこの街、"オンブル"へと立ち入らない理由が分からない、本当にリフレシアの言う"本能"的な物なのか・・・。




私はせめて彼女の姿が見えなくなるまでその背中を目で追い続けた。



「大丈夫かな・・・」



自然と心配の言葉が漏れたその背後に「大丈夫だろ」と聞き慣れた声がその問いに答える。

振り向き確認するまでもない、リフレシアだ。



「リフレシアどうしたの?」



「どうしたの?じゃない、何だその背に乗せてる奴とやたら多く背負った荷物は」



「あ・・・いや何から話せば良いんだろ・・・。とりあえず宿に帰ろ。そこで話すから」



「無理だな」


「え?」



彼女は怪訝な表情で腰に手をつきながらため息を1つ吐く。

彼女の姿をよく見ると宿に置いていた私の分を含めた荷物を背負っていた。



その事に状況が飲み込めず、私が問い掛ける間を与えてもらえずリフレシアは背負った荷物を指差す。




「あの宿にはもう戻らん」

「え?どういう事?滞在日数分の宿代は払ったよ?」

「金の問題ではない」

「・・・、なんかやっちゃった?」

「ふざけてるのか?」

「え?」

「・・・・、お前・・・」

「ところで見つかったの遺品?」



「違う、説明する時間も惜しい。今はここから離れるぞ」




せっかく戻ってきた早々、自体を飲み込む暇も与えられず、リフレシアの言う通りに彼女を先頭に街から離れては来た方向から大きくそれた所へと足を進めた。




街の反対側に近く逸れ、離れてそう間も無い場所へ行くと人気の無い暗い森の中が見える。



リフレシアは躊躇無くその森へと入っていき、彼女は何かを辿るように歩いていく。

私からすれば闇雲に森の奥へと進んでいる様にしか見えず不安は積もるばかりでしか無い。



心配はつい口から漏れ出る。



「ねえリフレシア。こんな森の中へ入って大丈夫?」

「まあ街にいるよりはな」



彼女は意味深にそう答える。



奥へ奥へと森の中に入って行くと、突如として目の前に見えたのは明らかに随分と使われていない一件の家。

リフレシアはそこを指差し迷い無く私達と共に中へと入る。



ボロボロに見えるその家は外観はともかく吹き抜けが無いくらいにはしっかりと家としての機能は果たしている。

一種の隠れ家の様だった。




「こんな家あったんだ・・・。よく見つけたね」

「まあな、それにしても厄介な事になった」

「どういう事?」

「それより、お前のその背負ってるやつはなんだ」




彼女は腰を落ち着かせるでもなく、警戒をしながら私の背に担がれているグラシーを指差す。




私は今知り得るだけの状況と彼女について、山へ降りシメオンと共に話した事を簡潔に全て伝える事となった。



それを聞いた彼女は少し考えた素振りを見せる。

彼女もまた自体を飲み込めていないのだろうか?

という事はきっと彼女が急に取った行動や発言とは繋がりが無いのだろうか?


私は改めて彼女に問う。



「ねぇ、一体どういう事なの?」

「何がだ?」


「急に宿を離れるって・・・。街から離れる必要まであったの?」



「・・・、まずお前の背負っているその女。

何しにこんな山へ来たのかが気になる。


"特殊対策討伐隊(ポエトプログレ)"の生き残りだったか?それによっては俺も返答する事が出来ない」




それでもグラシーは話さない。背中の上でガタガタと震える彼女。



彼女に肩を貸した時から気がついた事、それは重くのしかかる程に着込ませた衣服や毛布を通して伝わる冷たさ。

まるで氷の塊を背負っているのでは無いかと言う程にその冷たさは文字通り背筋を凍らせる。



私は彼女を下ろし部屋にあった暖炉らしき物に少しばかり持っていた木を加え火をつけようとするとリフレシアはすかさずそれを止めてくる。



「止めろ、火をつけるな」

「でも・・・グラシーさんこのままじゃ・・・」

「グラシー?」



リフレシアは何重にも着込んだ服や毛布をひっぺがし、包まれ見えていなかった彼女のやつれ青白く痩せ細った顔を見て笑う。



「あははは、お前か!成程わざわざこんな場所へやってきて仲間を見殺しに生き残ったのか?

随分と顔色が良さそうじゃ無いか?元気そうで何よりだ!!」



「リフレシア!!!」



「うるさい、そう怒鳴るな。にしてもだ・・・」



彼女は震えるグラシーの頬を触りながら少し様子を見たのちに大きく振りかぶりおもいっきりの平手打ちをかます。

流石の私も不意に出るその行動に彼女を止める事が出来なかった。



「何するの!?」

「ただのビンタだ。殴っていない」



打たれた頬を庇い震えるグラシーに対し髪を引っ張り上げ立ち上がらせるリフレシア。

やりたい放題の彼女に私は間を割る様にリフレシアの前に立ち塞がる。




「ちょっと!!彼女凍える位寒がってるじゃ無い!!なんてことするの!!」



「あまりにも寡黙なもんでな、死んでいるんじゃ無いかと思ったがどうやら生きているらしいな」



「そんな・・・だからってぶつこと・・・」



「生きてはいるが、まるで死んでいるかの様だ。この冷たさ異常だと思わないのか?」




ヘイルの家で出会った時、シメオンから聞かされたあの話の時から感じていた違和感。

彼女がずっと凍え続けている理由。


普通では無い。




「痛みは感じ、寒いと言うことは揺れる体を見れば分かる。しかし口は一向に開かない、反撃もしてこない。何より氷を叩いたかの様なこの感覚。

まるで怯えているかの様にも見えなくは無いが・・・」



やはり彼女にもそう見えている。

直接触れた彼女も気付いたであろう異様な冷たさ。



「・・・うん、私がシメオンに連れられて山を降りてから”オンブル”に戻るまでも一言も発しさえしなかったんだ・・・」



「燃やすか?」

「止めて!」



リフレシアは強引に私を退けてはグラシーの服や身に纏っていた残りの毛布を引き剥がし始め、気が付けば彼女の背中からチラリと見える肌色。全裸になるまで身ぐるみを剥ぐリフレシアにそれを止める私。



止めに入るも力虚しく最後の一枚の毛布さえ引き剥がすと顕になった彼女の裸。



そして彼女の胸に咲く一輪の透明の花。私とリフレシアの手は止まる。



美しくもキラキラと透明なガラスの様に重なる花弁はその優雅な見た目に反し鋭いナイフの様に薄く冷気を発しっている。

植え付けられた様に咲く不気味に輝く氷の花。息を飲み黙る私にリフレシアは目を凝らしそれを見ている。




「何これ・・・」

「こいつが原因には間違いなさそうだな」

「何がどうなって・・・」

「とりあえず今の状況を察するに本当にお前は何も知らないんだな?」

「知らない・・・分からない・・・」




訳が分からないこの状況の中、そんな中冷静な彼女を見ていると不思議と冷静になれた。



「ねえリフレシア。聞かせてくれる?”オンブル”で何があったの?」



「お前に話した所でどうにかなるとも思えんが、お前があいつ(シメオン)と共に何を見て聞いてきたのか気にもなるからな、擦り合わせれば何か分かるかも知れんしな。


まあこの女を見て俺の方はいくつか分かった事がある訳ではあるからな」




勿体ぶった言い方をするリフレシア。何が起きたか分からない中何か大変な事態にあるなら時間も惜しい。

私の焦りからそわそわと忙しない様子にリフレシアはため息。




「そうだな、どう話したものかと言われればなんとやらだが、市長が行方不明になった。それに伴いお前と俺、あとはお前の旧友に容疑がかかっている。ロロイと言ったか?」



「え?え?」



彼女の言葉に受け止めるフェイズも無く真に受けるには唐突過ぎる言葉。

聞き返す間も与えて貰えず彼女は続ける。



「追われている身だ、暖炉に火をつければバレる。でもまさか元の姿()を見られる間もなく狙われの身になるとはな。最悪元の姿で追ってくる輩全員皆殺しにするまでだがな」




どこか楽しげにニヤリと笑うリフレシア。思ってもいなかった状況に私は話半分の情報に更に混乱した。


そして何故こうも彼女が余裕なのかも分からない。






読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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