19 ゆめのまにまに ②
それは私がラックに出会う前、ムジークという育ての親の下で暮らしていた時代のある日。
私が魔法を会得する修行を行っていた時まで遡る。
ムジークは魔法を語り私に教えてくれた。彼の言葉を私は思い出す。
それは私が伸び悩み彼に隠れこっそりと白魔法の練習をしていたあの日、彼は私に向け言った。
「カペラ、魔法に大切な事。昔教えた事を覚えてる?」
「魔法は”想像力”が大切って話?」
「そう、イメージが大切なんだ。白魔法なら”治す”イメージ、けどそれをイメージするにあたって必要なことがある」
「何が必要なの?」
「見ること」
「見る?」
「頭の中で想像するって言うのは大抵、過去に似た物を見たり経験した事から生み出される」
「経験?」
「だから、ただ只管試行錯誤して闇雲に試したりするんじゃなくて見る事も大切なんだ」
「でも・・・僕・・・、ちゃんとムジークの魔法見てるよ?」
彼は少し首を傾げながらしばらく考えたのちに言った。
「うーん、僕だけじゃダメなのかもしれないね。そろそろ色んな人や街を見て回らないとな〜」
「・・・色んな人や街・・・怖い」
不安になる私にいつだって彼はこう言ってくれた。
「僕がいるから大丈夫、どんな時でも僕はカペラの味方なんだから」
懐かしい言葉と思い出が蘇る。
そう、"想像力"。見て感じ、体験した事でしか想像し得れない。
リーヴとの"夢"の話で私は思い出した。
彼の大切な言葉を、教えを。
"想像力"、それは"夢"もそうなのではないだろうか?
"夢"
私は恐らく夢で見た言葉を何処かで見たのかも知れないと必死に思い出そうとする。
しかしそれでも私は"ツィツィリン"という言葉も"星視る瞳"もやはり思い当たる所は無い。
やはり忘れているだけかもしれない・・・。
悩む私にリーヴは手を引き1階へと連れ出そうとする。
「ねぇ、ご飯食べに行こう」とリーヴ。
「え?・・・そうだね・・・」
私は彼女の言うがままに1階へと下ると、食堂のテーブルには先にリフレシアが食事を済ませたており、丁度食べ終えられた食器を片付けるイコライの姿があった。
「おはよう、2人共」とにこやかに挨拶をするイコライ。
私達は挨拶を済ませると早速とテーブルには朝食が用意され、先に来たリフレシアは何も言わず食堂を去りそのまま外へと出掛けて行く。
いつもなら軽く一言位何か私に対して言うので、機嫌が悪いのか、私が起こした事がそんなに気に食わ無かったのか少し不安にさせられる。
「あの・・・イコライさん」
「どうしました?」
「リフレシア・・・怒ってました?」
「いいえ?ご飯を食べてる間は昨日と変わらずでしたよ?」
「そうですか」
「どうして?」と質問をするイコライに、少し不安そうに「喧嘩しちゃったの?」とリーヴは続く様に言う。
「う〜ん・・・起こしちゃったからかな?まあでもすぐ仲直りするね」
私は急いで食事を済ませ、食器を洗い場へと出しリフレシアを追うように外へと飛び出す。
思っていたより遠くにいた訳でもなく、探す手間もなく少し遠くにある街の中心に当たる場所に置かれたモニュメントの下で座り込む彼女の姿がそこにあった。
「リフレシア!」
駆け寄り、彼女の元へと行くと丁度そこにロロイも現れ合流したように自然に三人鉢合わせとなった。
「なんだ、何か用か?」と怪訝な顔のリフレシア。
「あの・・・朝あの事で起こして怒ってるのかなって。ごめんねリフレシア・・・」
「なんだそれは、そんなくだらん事言いにわざわざ来たのか。暇な奴だ」
一蹴しながらも呆れる様子を見せる彼女はロロイの方を向き言う。
「それで、お前はなんだ」
「カペラを呼んできてくれと頼まれた」
「え?」
「街の外れた場所、ここへ真っ直ぐ来た時の方角」
ロロイはそれだけを答えるとゆったりとその場を後に宿屋のある方を歩いていき私達の前から去っていった。
挨拶をする暇もなく彼が去るのはいつもの事だけど、他の用事があるのだろうか?少し急いでる様にも何となく見えた。
そんな様子にリフレシアは苦言を呈す。
「なんだあいつ」
「ロロイは基本的に必要以上に話さないから」
と簡単なフォローを返したつもりが彼女はそれを鼻で笑う。
「不器用とかいうレベルでは無いな、木偶の坊だ」
「そんな事言わない、とりあえず街の外れた場所って何処だろ?」
相当彼がお気に召さないのだろう。しかしながら彼女の一言に私はそれ以上にフォローのしようも無かった。
昔のパーティでも似たような事言われていたなと思いながら。
門の無いこの街において、入り口というには少し違うかもしれないが私達がこの街に訪れる際に来た方角。
ここへ真っ直ぐ来た時の方角。それはシメオンによって案内され辿り着いた時に来た道の事だろう。
恐らくロロイ率いる運び屋もそのルートから来ているから間違いない。
私は直ぐに私を呼んだであろう人のいる場所へと向かおうとするが、リフレシアはついてくる様子も見せず立ち止まったままじっと私の方を見つめている。
「どうしたの?行こうよ」と彼女を呼び掛けるも仁王立ちで彼女は言う。
「呼ばれたのはお前だけだ。俺は適当にあのイコライとかいう奴の失せ物を探しに行く」
「適当って・・・、一緒に行こうよ。探しに行くのも後で一緒に行けばいいし」
「時間の無駄だ」
彼女はそれだけを言い残し反対側の山奥の方へと足を進め、引き止めも虚しく背を向けそのまま去っていく。
「ああは言ったけど、やっぱり怒ってるかな?」
仕方が無い。と諦め私は街を外れ、この街へ来た道をなぞる様に下りテリトリーギリギリの人気の無い場所まで歩みを進めるとそこに現れた1人の影。
顔は隠れていてもその立ち姿と服装で彼女、シメオンだと直ぐに気がつくことが出来た。
「どうしたの?」
目の前まで近付き声を掛けるも彼女は視線を足元に向けたまま目を合わせず黙っていた。
私の声が届いていなかったのかもう一度声をかけようとしたその手前に彼女は口を開く。
「死体が3つ、1つはこの街の人間。もう1つが外部の人間、もう1つはエルフ」
「え?」
突然の彼女の言葉に私は聞き返す様な返事の仕方しか思い付かず咄嗟に口に出る。
私の返事を待たず続け様に彼女は言う。
「エルフのあと2人、ヘイルと共に山を下りもう1人はヘイルの家で待たせている」
「ちょっ・・・ちょっと待って?話が急過ぎて訳分からないんだけど・・・?どういう事?」
焦った様子というより訳が分からず混乱していた、そんな私の姿を見て彼女はしかめた顔をしながら私の顔を見ては確かめる様に答える。
「知り合いじゃないのか?」
「知り合い?その・・・状況が飲み込めないんだけど・・・」
「呼んだのはお前じゃないのか?」
益々訳が分からない、なんの事なのかはハッキリしないけど、恐らく私に用があるのはシメオンでは無く、その家に待たせているという人だろう。
シメオンも恐らく頼まれるがままここへ来たという所で事情もよく分かっていないはず。
直接私を呼んだ本人に話を聞く他無い。
「シメオン、ヘイルさんの家にいるその人の所までまた先導してくれない?」
リフレシアは1人、遺品を探してくれている。
申し訳無いが今日の所は彼女に任せる事にし独断で1匹、私を読んでいるという人の元へ行く事にした。
私があの街"オンブル"にいる事を知っている人物。
心当たりが無い、あったとしてもわざわざこの地まで出向いてヘイルの家で待つというのはどういう事なのか・・・?
そしてシメオンの言う3人の死体と、下山した2人のエルフ。
一体何がどうなっているのか、知る由もなくシメオンを先導に私は急遽ヘイルの家まで下山する事となった。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu