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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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18 ゆめのまにまに




"ツィツィリン"は神聖な地である。

絶え間ぬ程に自然に施される実りは数多ある財宝にも劣らぬ無限の宝庫。



自然由来のものだけではない、この地には多くの力も宿している。

誰かがそれに気がついた時、この地は何者かの手により侵されその富を我が物とし支配の連鎖が起こるだろう。



我らが民はこの地を守るべく生まれた、如何なる厄災をも払うその為にこの地の力を借りながら。



この地以外に我らに必要な物などありはしない。

それが例え"名"であろうとも、"命"であろうとも。




この肉と魂で繋ぎ止めてきた平安を絶たれようとしている。

”星視る瞳”を持つ旅人よ、どうか我らの願いを思いを忘れないで欲しい。






一言一句、はっきりと覚えている。

奇妙な体験だった。真っ暗な視界の中で一際目立つその声に私は悪夢を見て起き上がるかのように朝を迎えた。



聞こえてきた言葉はとても必死な思いが募る中で冷静に語ろうとしている。そんな感じがした。



夢の中の話なんて直ぐに忘れてしまい覚えていても曖昧なものを私は奇妙に感じる程にハッキリと、語る人物の口調や思い等を察せられる程に鮮明に覚えている。



"ツィツィリン"、”星視る瞳”、気になる単語がいくつかある。旅人は私の事なのか?



目を覚まし、考え、最初にした事は隣で眠るリフレシアを起こす。1匹で考え込むにはあまりにも心当たりの無い言葉。



勿論不機嫌そうに彼女は眠眼を擦り私の方を睨み言う。



「殺すぞ」

「おはよう」

「殺す」



彼女はふと隣を見ると私と更に並んで眠るリーヴを見てため息をつきながら静かに体を起こした。



「優しいね」

「起こしたら厄介だからだ」


「ねぇ、リフレシア。”星視る瞳”とか"ツィツィリン"って分かる?」



「なんだそれは?」と言葉に出すまでも無いほどに先行してその答えは顔で表され、眉をしかめられる。



「分かんないよね〜」



「知らん。城に居た頃は多少の文献は良く読む事はあれど御伽噺の類は読まなかったからな。それらの物なら聞く相手が悪かったな」



「そっか・・・」

「なんなんだそのよく分からん単語は」


「あのね、夢でそう私に語りかけられた時にその言葉が出てきて・・・」




そう言うと不意に彼女は私の頭を小突く。

半分予想通りではあるにしても、私の答えを聞いた瞬間に手が出るのは最初からこの質問に対して何かしら期待などしていなかったからなのだろう。



「痛い・・・」


「そんなくだらん事の為に叩き起したのか貴様。冗談じゃないぞ」



「いや・・・だってそんな鮮明に夢の内容覚えてるからきっと何かのお告げかなと思って」



「くだらん、夢の一つ覚えていた事がそんなに感動的か?呆れる」


「そこまで怒らなくても・・・」

「呆れてるんだ、愚か者。所詮夢の中の話だろう」




やれやれと言いたげに彼女は部屋を出ようとすると、ふと何かを思い出したかのように扉の前で立ち止まり振り返り私に告げた。




「"目"。昔母が御伽噺で私に言い聞かせていた話にそれらしき話があったな」



「それらしい?」


「"星視る瞳"では無いが、"夜を映す目"だったか。言葉は違えど近い表現だな」



「似てると言われれば・・・、そうだね。どんな内容だったの?」



「ハッキリとは覚えてないが・・・。



"夜闇さえも照らしてみせる星の輝きをその目に色濃く映し出し輝く・・・"



とかいう一節だったか?

探せばあるんじゃないか?興味も無いからどんな話でどんなタイトルかも忘れたがな」




関係が無いにしろあるにしろ、そんな興味が湧く話を中途半端に聞かされてはその話が気になって仕方が無い。



立ち止まっていたリフレシアはヒラヒラと手を挙げその場を後にした。



隣で眠るリーヴを横目に1匹その日に見た夢の詳細を考え考察を立てた。

考えた所で何を得て何になるかなんて分からない。



もしかすると意味なんか無いのかもしれないと思い始めるとたちまちその事が少しどうでも良く感じてしまう。


彼女の言う通り、所詮夢の中の話。こんな事に意味があるのか考えるのはどうなのかとも思わなくもない。




少しばかり考えを改めながら私はベットから腰を上げるとその動きのせいなのか、眠眼を擦り起き上がろうとするリーヴ、起こしてしまった。




「ごめんね、起こしちゃった」

「おはよう・・・お姉ちゃんは?」



起きて早々隣を見てリフレシアが居ないことを確認しキョロキョロと彼女を探すその姿が愛おしい。

部屋の扉を指差しながら1階に行ったことをリーヴに教えると少しガッカリした様子でこう言う。




「お姉ちゃん起こしてあげたかった」



そのセリフに私は苦笑いしながら、この子がリフレシアを起こさなくてよかったと思った。



「ねえリーヴ。リーヴは夢とか見る?」

「夢?おやすみの時?」

「そう、寝ている間に見るあれ」

「あるよ、前にね。森の中で色んな果物食べた」

「そっか〜」




何気無く聞いてみる他愛も無い話、子供であるリーヴにとってそれはとても楽しい話題なのだろう。


その後も夢について話は尽きること無く色々な話を聞く事となる。



うんうんと相槌をうっては、楽しく話す彼女。

その後に自慢げにまるで先生にでもなったかのようにこの様な話をした。




「あのね、夢っていうのはね。その日に見たものを見る事が多いんだよ!知ってた?」



「その日に見た?というとじゃあ、星を見たら星の夢を見るって事?」


「そうだよ!」

「へー・・・じゃあ・・・」




その時私は思い付いたまま、彼女にこう質問を続ける。




「寝る前に絵本を読んだら、その絵本のお話が見れるって事?」

「うん、見れない事があったり、次の日とか次の週に見れるかもしれないよ」



「それは・・・楽しいね」




思いがけない他愛も無い会話から得られた情報。



私は忘れていた事を思い出す。それは夢で見た言葉達の所在とまではいけないけれど、それに近く答えにも似た回答を得るヒント。






読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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