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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
72/80

17 アンシュルス




ロロイ・トゥエルブに恐れ等無い。

何故なら彼にその様な感情を持ち合わせていないのだから。



龍により襲われた一つの名も無き村。

焼き尽くされ、荒らされ人が住んでいた痕跡等微塵も感じさせない程に跡形も無く潰され荒れ地と化したその場所の一件の建物の瓦礫の下から見つかった隠された地下室。



そこで見つかったのが"ロロイ・トゥエルブ"。




後々になって分かったのがそこは元々とある国の実験施設で人工的に"マグ・メル"の製造と研究を秘密裏にしており、"厄災の龍"に対抗すべく造られていた兵器のその一つとして本物の"マグ・メル"を使用した人体実験。




皮肉にもその実験の成功品である彼は成功か失敗か分からない段階で、"厄災の龍"の侵攻により施設は破壊され見捨てられる事となり、彼もまた放棄された物で施設の人間は全員逃げたとされている。




それを見つけたのは何を隠そう"ラック"だ。



旅の道中たまたま破壊された後のその場所に訪れた彼は地下室を見つけ餓死寸前のロロイを助け、旅の仲間へと引き入れたという話らしい。



私がラックに同行した時からいる彼、戦い方は無謀極まりない。

どんな相手であろうと敵だと認識した瞬間に先陣を切り戦いに臨み突っ走る。

それがどれだけ強い相手であろうと。




素手とその体一つで戦う姿は武闘家というには不細工で、力の限りを尽くし拳を振るうといった力任せの自由型。



しかしながらマグ・メルにより彼に宿るそのパワーは負け無しにも近く、同じく力でのみその拳1つで戦いをするセラムにも力では決して負けはしない。



無口で考え無しに戦っては力で捩じ伏せるその姿にラックは彼の事をこう呼んだ。



「世界最強の人間ゴーレム」




そんな彼が一度、戦う事に対して躊躇した場面がある。

その相手こそピリオドだった。


事細かに答えるに答えられるほど私にはあの時余裕は無かったがその場にいた誰もが感じた彼の異変。




いつだって表情一つ変えない彼から流れる嫌な汗と青ざめた顔。それを見た誰もが覚悟した事だろう。





そんな経緯がある彼であったが確かにリフレシアと戦うその姿はどこか慎重にも見えなくは無かった。


彼のその感覚はきっと間違いでは無い、現にリフレシアは厄災の龍であり、あのピリオドの娘だ。



はぐらかしやり過ごしても良かった。だけど私は彼に私の思いを伝える為素直に話す事を決めた。




「・・・ロロイの言う通り、リフレシアは"厄災の龍"だよ。"支配の龍(ピリオド)"の娘」




私のその告白に対し彼はいつも通りまるで無関心なのではないかと思ってしまう程になんの反応も見せず、空になった自分のグラスにお酒をついだ。


私もお構い無しに補足を加え説明を始める。




「けどね、別に世界をどうこうとかしたい訳じゃなくて世界を見て回りたいんだって。

だから今は私の仕事の手伝いをして貰ってる、

無害かどうかは分からないけど少なくとも私は大丈夫だと思ってるよ」




話をするも一向に反応を示さない彼に私は続けて彼に言った。




「だから安心して、彼女は敵じゃないから。それとね・・・この事は黙ってて欲しい。


もし彼女が龍である事がバレちゃったらもう彼女は世界を見られない。私と共に旅が出来ない、だからお願い」




私は頭を下げ彼に頼んだ。しかし彼はやはりこの部屋に入った時から微動だにしないまま星を眺めながらお酒を飲む。




私の願いが届かないとは思わない迄も彼に対して私の言葉がしっかりと伝わったか若干不安に思えた。

しかし彼のその言葉に対する返答はさっぱりとした物で。



「カペラがそう言うなら」



私の両手に持つ空のグラスにお酒を並々に注ぎながら、彼は答えた。




「ロロイ・・・。ありがとう」



静かな時間を楽しみながら私は注がれたお酒を飲み、彼と共に星を見た。



シメオンの事や運び屋の事はまた後日聞こう。

せっかくの再会なんだから。




「ロロイ、この街にはいつまで滞在してるの?」

「ヤマナは明日にでも下りると言った」

「ヤマナ?運び屋仲間の人?」




彼は頷く。リフレシアが言っていた一緒にここへ届けに来た運び屋の名前だろう。


そういえばその人を私が酒場にいた時には見ていない。どんな人だったのだろう・・・。




「じゃあ、この街から離れる前にまた話聞かせて、その人と一緒に」



彼は口に出さないまでも頷いてはくれ、約束を交わしてくれた。




本当なら一緒に山を下り、彼の姿をラックにも見せてあげたいのだが、私も彼も今は仕事の身。

もう会えない訳では無い、彼が生きていた。



私やラックにとってこれ以上無い情報だ。




きっとそれだけでもラックは喜んでくれるだろう。




私達は2本目のお酒を空にする迄、ただただ静かに酒を交わしながら空を眺め星をみつめた。



丁度お酒を飲み終えた頃、それは解散の合図。


簡単な別れを告げてはそれぞれ違う宿に帰り、酔いすら感じさせず何も無かったかのように帰っていくロロイに対し、私はと言うと思っていたより飲んでしまった為にまあまあフラフラと足は少しおぼつかないまま帰路につく。






夜もいい時間、酒場はもう閉まっているであろうと私は静かに入口の方へと入っていくとそこにはリーヴに膝枕をするリフレシアの姿とそれを笑うイコライともう一人の女性。



似合わぬ彼女のその姿に私は静かに笑うとリフレシアは不服そうに顔をしかめては私を睨んだ。




「解せん」


「すっかりリーヴに懐かれてるね」

「勘弁しろ」


怪訝な彼女を見て少し申し訳なさそうにしながら

厨房で仕込み作業をするイコライは私の方を向いて言う。




「リフレシアちゃん何度もリーヴを起こさない様に避けようとするんだけど、この子リフレシアちゃんが離れそうになると寝ながらもグズりだすもんだから」



「へ〜」



なんだかんだと優しいんだとリフレシアの一面に触れニヤニヤとした顔つきは相当気に食わなかったのかリフレシアはため息混じりに質問をせずとも自ら答えた。




「起きたらまた付き合わされる、静かに避ければグズる。どうしろと言うんだ」




殺しても構わんのだぞ?と言わんばかりの顔つきで睨まれてしまい、流石に苦笑いで答えているとどこからともなく私の前のテーブルに暖かいスープがひと皿差し出された。




それはイコライと並んで経つ少し歳のいった女性からの物だった。

彼女はすかさず私に向け言う。




「酒飲んだ後だろう?これ飲んで寝れば明日には酔いもマシになるよ」



「ありがとうございます・・・。えっと・・・」




名前も知らぬ彼女は私の戸惑う姿に笑みを浮かべる。




「私の名前はルメ。この酒場と上の宿場清掃とかやってるよ。そういえば直接会うのは初めましてだね」




「あぁ・・・いつもお夜食頂いてます。ご馳走様です」




そうか、彼女がいつも夜食を作り置きし私達の分用意していてくれている人なのか。

この街を去る前に会えて直接お礼が言えたのは幸運だと思った。




「良いよ別に、仕込みの時の余りもんだしね。お疲れだろうし腹も減るだろう?」



「いつも助かってます」


「随分丁寧な魔獣のお嬢さんで気分が良いよ。彼と話は出来たかい?」


「ロロイですか?」




「あの人不器用だけどいつも嫌な顔せずに運び屋やった直ぐに海氷割りも手伝ってくれててね。

あんたがあの人とどういう仲なのかは知らないけど親しい仲なんだよね?




助かってるんだけどなにぶん顔に出ないからさ、気の許したあんたに愚痴の一つでも零してくれてりゃ気が楽なんだけどね」




彼女の言葉に隣りで立つイコライも首を縦に振りながら同意の気持ちを込め頷いて見せる。

親しみやすいとは言い難いにせよ彼がこの街において少なからず好感を持たれている事に私は少し安心した。




「それで?あいつと何を話してきた?」




リフレシアは探る様子で聞くのも当然、私が彼にリフレシアの事を話す事は彼女にとって良しとしない事。

彼女の目はまるで何か察している、嘘をついても仕方がないにせよこの場でする話でもない。



濁しつつも彼女に伝わる様に答える。




「大丈夫、もう彼はあなたを攻撃しないから」

「俄に信じられんがな。あいつ本気だったろ?」



私は彼女の言葉に少し答えを詰まらせてしまうと彼女はいつもの様に呆れたため息をつく。




「まあ、お前が大丈夫と言うならそれでいいだろう。どうせ奴とまともに話し合う気もないからな、これ以上関わり用もない物として話は詰めん」



何とか彼女は私の言う事を飲み込んでくれ一安心した。出されたスープを飲もうとすると横からリフレシアはとりあげてはこれ見よがしに一気に飲み干して見せ、空の皿を逆さまにする。




「これで不問とする。有り難く思え」



彼女はリーヴを抱え、イコライに渡し2階の宿場の部屋へと階段を上がり姿を消した。




その場にいた皆は苦笑いで、リーヴは目を覚ましては寝起き早々に言った。



「お姉ちゃんは?」



私は2階を指差しリーヴに言う。


「ごめんね、もうリフレシア寝ちゃった」

「えー」




予想通りぐずり出すリーヴ、彼女の何がいいのか正直な所私には分からない。



乱暴で自分勝手、けれど頼れる。姉御肌?というのだろうか子供ながらに彼女の根本的な優しさを感じ取ってなのか。私の知らない彼女の一面をこの子は知って懐いているのか・・・。




しかし彼女が好かれていることに私は悪い気はしない。それはリフレシアだってそうだ。



本当にリーヴが邪魔ならもっと手荒な事は出来るのだから。




「ねえ、リーヴ。良かったら私達と一緒に寝ようか?それならリフレシアも一緒だよ」

「良いの!?」




私からの提案に目をキラキラとさせるリーヴが可愛くて仕方なく見えた。

彼女の反応とは対照的にイコライは申し訳なさそうな

顔でリーヴに諭す様に言う。



「お姉さん達疲れてるだろうから、リーヴ今日はやめとこ」


「えー」


「大丈夫ですよ、イコライさん。どうせもう寝るだけですしそんな短い時間もリフレシアと居たいだなんて可愛いじゃないですか」




「カペラさんがそう言うなら」とイコライは折れ、リーヴはとても嬉しそうな表情。

今でも忘れられない屈託の無いその笑顔に私もついその笑顔に釣られ少しデレてしまう。



「じゃあ今日はもう寝ます。イコライさんにルメさん遅い時間まですみません」


「はいよ、おやすみ」

「リーヴ早く寝なさいよ」




私達もリフレシアの後追いで部屋へと帰り。

眠るリフレシアのベッドの中にこっそりと忍び寄り、狭いベッドを二人と一匹でぎゅうぎゅうに身を寄せ合いその日は眠りについた。




とても暖かかった。





読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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