16 深夜の一瞬
「久しぶりだね、ロロイ」
寡黙な彼は頷き簡単な動きで返事を返してくれる。
あの騒動からしばらく夜も更け私とロロイは酒場を離れ、誰もいない天体観察の施設から一部屋を借り、改めてゆっくりと会話が出来る場を設けた。
雲一つ無い夜空に煌びやかにハッキリと映し出される世闇の中の星々は天井の無いこの部屋を星の光だけで薄暗くもハッキリと照らしてくれていた。
リフレシアが居ると話は進まなくなる為、彼女には申し訳ないが酒場でしばらく大人しくする様街の人を見張りに留守番をして貰う。
部屋の明かりは薄暗く、しんみりとした雰囲気はあまり好ましい物では無い。
寂し紛れに2つの大瓶に入ったお酒とグラスを用意した。
酒をつぎロロイに差し出し私は言う。
「再会を祝して」
注がれたお酒を交わした。
相変わらず美味しそうには飲まず顔にも出さないロロイに対して私はというと昼間のお酒が抜けてからは控え目にちびちびと舐めるようにお酒を飲む。
いつもの事だけど、彼からは何も話さない。
話す事は多いけれど彼にとってそれらは気にする事でも無い。
「ラックね、今も元気だよ。弟子も出来てね、ローライっていうんだ」
ロロイは表情一つ変えずただ酒を飲みながら空を仰ぐ。
私の言葉を聞いているのかどうかは怪しいがそれでも彼は聞いているものだという認識で会話という名の一人語りを延々と続けた。
ラックの事や、ロロイが居なくなってからのこと。
[スターキャリアー]の仕事にセラムのした事、リフレシア。
振り返りながら4年もの長い時間はまるで嘘のように語るには短かく、すんなりと私のここ数年の一人語りは合図地の無い彼に向けては簡単に話終えてしまった。
そして話はつい最近の事になる頃。
一段落ついでに彼に問いかけてみた。
「ロロイはどうしてたの?昔の仲間とは出会った?」
私は初めて彼自身の事に触れるも、丁度お酒の瓶が一つ空になり彼はその時初めて口を開く。
「ハウト・・・、スミレにあった」
「いつ?」
「去年」
自ら多くを語る事は無いが親しい中なら聞けば話してくれる。
しかしそれについて深く聞く理由も無い、彼も多く語る事を得意としない事もあるが、それにしても意外な2人の名前が出た。
両人ともかつて私達のパーティの仲間である2人。
どちらもラックとは連絡が取れず、私も各地を回る身でありながらその影すら見つからない程だ。
そんな2人の所在が彼の口から出るとは思いもしなかった為気になる所ではあった。
「そっか・・・、ハウトは"龍殲滅作戦"入る前に別れてから会ってないな・・・。
スミレも・・・あれ以来かな・・・。
元気なら良いな・・・。思えばあの日から皆バラバラになったよね」
やはり彼は何も答えずただ空を見ていた。
話は聞いてくれていると思う、それは確証があっての事ではなく、長く共に旅をしたからこその何となくの感覚。
彼に聞きたいことは沢山ある。
シメオンや前任の運び屋の事や亡くなる前に持っていた荷物の事、色々あるしどれも彼が知るかも分からないものだけど。
焦る事は無い、ゆっくりと話そう。
長い時間をかけながらの彼との会話、とても久しぶりで懐かしくもあった。
しばしの沈黙が続くと思った矢先、彼は口を開く。
「あの娘。龍だ」
「え?」
思わず言葉を失う。彼から口を開いた事、彼が会話を始めた事。
私に?いや、そもそも彼がリフレシアの正体に気がついている。はぐらかす余裕すら無く私は突然の彼の発言に驚きながらも尋ねた。
「何を言ってるの?」
「あれは龍だ」
「まさかリフレシアのこと?」
彼はまっすぐと視線を外さず空に映る星を眺めながら私に向け言った。
冗談を言う人では無い。彼にそんな感情は無いのだから。
確信を持って彼は言っている、私は隠すか悩んだ。
しかし私が彼に嘘を付く理由も無い。何故なら彼に話して欲しくないと言えば他言する事は絶対無いという信頼がある。
それに今私が嘘をついた所で嘘だとバレる。
それでも彼に話すべきなのか私は迷ってしまった。
その迷いに要した沈黙は答え合わせの様になり、彼は察してそれ以上追求をしなかった。
「なんでそう思ったの?」
つい私は"そうです"とも取られてしまう質問の仕方をしてしまう。もうバレていると踏んでの質問だった。
「体が自然と動いた」
「え?・・・どういう事?」
「触れた時、体が反応した。拳に勝手に力を加わり、いつの間に闘いの姿勢になっていた」
意味が分からなかった、当てずっぽうの発言だったのか?彼女が龍である理由にはならない。
「それとリフレシアが龍であるっていう話とどう関係があるの?」
私は彼に質問を返したと同時にふとリフレシアとの会話が頭を過ぎった。
「あの時と同じ、あの時以来。腕が震えた。"最厄の龍"を目にした時」
彼の答えに私は黙ってしまう。納得してしまった。
リフレシアが特別な様に彼、ロロイ・トゥエルブもまた特別な存在である。
彼こそは人間であり、人工的に造られた兵器でもある。
体に埋め込まれた心臓、心臓の半分は"マグ・メル"で出来ている。
人智を越えた力と体力を手にした代償は感情が乏しくし、ただただ戦いの為に動く兵器として生きている。
非人道的実験から造られた悲しき生物兵器。
喜怒哀楽も恐れも知らぬまま、無鉄砲に先陣を切り戦いの場を制圧してきた、そんな彼が無表情ながらも唯一戸惑いを見せながら戦う場面があった。
それが"支配の龍、ピリオド"との戦いの時だ。
忘れもしない彼が足を留まらせ、冷や汗をかいていたあの時を。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu